大人からDTMを始める時の進め方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
大人になってからDTMを始める人がまず感じるのは、時間の足りなさです。仕事や家のことがある中で、まとまった制作時間を取るのは簡単ではありません。だからこそ、長く座れる日を待つより、短い時間で進む形に変えるのが現実的です。
大人から始める強みは、集中の使い方や段取りに慣れていることです。15分あれば、音を1つ直す、コードを並べる、書き出して聞く、といった作業は十分にできます。少しずつ積み上げれば、曲は前に進みます。
先に見ること
大人のDTMは、長い時間より短い作業の積み重ねで進めます。
- 15分で終わる作業に区切る
- 保存名を細かく残す
- 1回に直す場所を一つにする
- 間が空いても戻れるメモを置く
大人の壁は才能でなく時間
大人がつまずくのは能力ではなく、時間の細切れさです。
大人からDTMを始める人の悩みは、才能や年齢よりも、時間が細切れになることに集中しています。30分続けて座れる日が週に何回あるか、という現実の前で、多くの入門書はまとまった練習を前提に書かれています。
ここがかみ合わないと、始める前から重く感じます。
けれど制作は、細かく分けられる作業の集まりです。音を出す、コードを置く、ドラムを足す、書き出して聞く。1つずつは短く終わります。
大人の限られた時間には、この分けやすさがむしろ合っています。まとまった時間がないことは、始めない理由にはなりません。
時間が細切れなこと自体は、悪いことばかりではありません。短い時間で区切ると、その日にやることが自然に1つに絞られます。
だらだら長く触って何も進まない、という状態になりにくいのです。大人の忙しさは、うまく使えば集中を生む枠にもなります。
15分を1単位にする
1回の作業を15分で終わる大きさにそろえます。
おすすめは、1回の作業を15分で終わる大きさにそろえることです。今日はドラムだけ、明日はコードだけ、と1回1テーマに絞ります。
全部を一度に進めようとすると、短い時間では中途半端に感じて手が止まります。時間が短いほど、やることは1つに減らします。
短く区切る時に効くのが、細かい保存です。作業を止める前に、次に何をするかを一言メモして名前を付けて保存しておきます。
数日空いても「次はドラムの音を直す」とだけ分かれば、開いた瞬間に再開できます。大人の制作は、この戻りやすさが続くかどうかを決めます。
15分という長さは、目安であって厳密なものではありません。電車の中の10分でメロディの案をスマホに録る、寝る前の5分で昨日の音を聞き返す。
そんな細切れの時間も、積み重なれば制作の一部になります。机に向かうまとまった時間だけが練習だ、と考えないほうが続きます。
毎日開くことが練習になる
触った時間のぶんだけ、確実に手は慣れます。
DTMは、ソフトを持っていれば自動で曲ができるものではありません。楽器と同じで、触った時間のぶんだけ手が慣れていきます。
逆に言えば、1日5分でもDAWを開いて昨日の音を聞き返せば、それは立派な練習になります。大人でも、続けた人から手が動くようになります。
毎日長時間やる必要はありません。むしろ短くても毎日開くほうが、制作の感覚を忘れずにすみます。
時間が取れない日は、書き出した音源をスマホで聞き返すだけでも構いません。制作から完全に離れない工夫が、忙しい大人には効きます。
手が慣れるというのは、操作を頭で考えなくてもできるようになることです。最初はトラックを1本作るだけでも手間取りますが、毎日触っていれば数日で指が覚えます。
ここを通り過ぎると、同じ15分でも作れる量が増えていきます。最初の数日が一番もどかしいですが、そこを越える価値があります。
楽器経験がなくても始められる
楽器がまったく弾けなくても入口はあります。
楽器の経験がなくても、DTMは始められます。コードもメロディも、画面上でマウスを使えば1音ずつ置けます。
鍵盤が弾けないことは、打ち込みでは大きな問題になりません。大人から始める人の多くは、ここでつまずくと思い込んで足踏みしています。
メロディが浮かんだら、上手に歌えなくても、鼻歌をスマホで録っておけば十分です。上がる、下がる、伸ばすという形だけを後から画面に写せば、弾けなくてもメロディは形になります。
弾く技術より、口ずさめるイメージがあるかどうかのほうが、最初は役に立ちます。
コードも、押さえ方を覚える必要はありません。画面上でC、Am、Dm、Gといった形をマウスで置くだけなら、指の練習は要らないのです。
楽器の演奏とDTMの打ち込みは、似ているようで入口が違います。弾けないことを理由にあきらめてきた人ほど、打ち込みの手軽さに驚くことが多いです。
若さや才能は関係ない
始めるのに、若さも特別な才能も要りません。
もう若くないから、昔から音楽をやっていないから、と足踏みする人は多いです。けれど入門期に必要なのは、才能や若さより、短くても続ける仕組みのほうです。
DAWは一気に上達する道具ではなく、少しずつ編集を積み上げる道具だからです。
大人から始める人には、仕事で培った段取りや、好きな曲を長く聞いてきた耳という強みがあります。これらは制作でそのまま役立ちます。
始めるのが遅いことを弱みだと考えすぎず、短い時間を積み重ねられるかどうかに目を向けるほうが前に進みます。
上達の速さも、若さより続けた期間で決まる部分が大きいです。半年でやめた若い人より、少しずつでも2年触った大人のほうが、作れる曲は増えています。
DTMは瞬発力より積み重ねが効く分野です。だからこそ、生活の中に小さく組み込める大人のやり方が向いています。
平日15分の分け方
平日と週末で役割を分けると、時間が細切れでも進みます。
| 曜日 | 15分でやること | 残すもの |
|---|---|---|
| 平日1 | 付属音源で音出しと保存 | 開けるプロジェクト |
| 平日2 | コードを4つ並べる | 4小節の土台 |
| 平日3 | ドラムでドンとタンを置く | 前へ進む感じ |
| 平日4 | 鼻歌を録って写す | 主役のメロディ |
| 週末 | 通して聞いて書き出す | 外で聞ける音源 |
忙しくても続けるために
完璧な時間割より、戻れる流れを大事にします。
忙しい時期は、進みが止まっても気にしすぎないことです。1週間開けなかったとしても、メモと保存が残っていれば、次に開いた日から再開できます。
ゼロに戻るわけではありません。積み上げた4小節は消えずに残っています。
大人の制作は、生活の中に小さく置き続けられるかで決まります。まとまった時間を確保する計画より、5分でも戻れる導線のほうが長続きします。
音出しから曲の完成までの流れを1枚にまとめた無料の制作工程マップも用意しているので、限られた時間の道しるべに使ってください。
比べる相手は、SNSで見かける上手な人ではなく、先週の自分にします。先週より1つ操作を覚えた、4小節が8小節になった。その小さな前進が見えると、忙しくても続ける気持ちが保てます。
大人の制作は、人との競争ではなく、自分の記録の更新だと考えると気が楽になります。
家族や仕事の事情で、数週間まったく触れない時期もあるでしょう。それでも、フォルダに残った曲は逃げません。落ち着いた時にまた開けば、当時の続きから再開できます。
大人のDTMは、一気に駆け上がるものではなく、生活の波に合わせて長く付き合っていくものです。止まった期間も、やめた時間ではなく、休んだ時間だと考えて構いません。
よくある疑問
大人からDTMを始めても遅くないですか
遅くありません。入門で要るのは若さより、短い時間を続ける仕組みです。段取りや聞いてきた耳という大人の強みは、そのまま制作に活きます。
毎日まとまった時間が取れなくても大丈夫ですか
大丈夫です。1回15分でも、テーマを1つに絞れば進みます。間が空いても戻れるように、次に直す場所をメモして保存しておきます。
楽器がまったくできなくても始められますか
始められます。コードもメロディもマウスで置け、鼻歌を録って写す方法もあります。弾く技術より、口ずさめるイメージのほうが役立ちます。
何から手をつければいいですか
まず15分で、無料の付属音源を鳴らして保存するだけで十分です。次の日にコードを4つ並べる、と1回1テーマで積み重ねます。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
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