DTM初心者は何から始めるべきか

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DAWは入れた。画面も開いた。でも何から触ればいいのか分からない。その状態への答えは一つで、始める順番は「音出し、コード、ドラム、ベース、メロディ」です。機材の買い足しも理論の勉強も、この一周を回した後で構いません。
今日やるのは最初の音出しだけでも十分です。スピーカーかイヤホンからDAWのピアノが1音鳴れば、そこがスタート地点になります。あとは順番どおりに、1段ずつ積むだけです。
先に見ること
始める順番は、音出し、コード、ドラム、ベース、メロディの5段です。
- ピアノでドを1回鳴らして保存する
- C-Am-Dm-Gを4小節並べる
- 口で言えるリズムをドラムに置き換える
- ベースはコードの一番下の音だけ
- メロディは最後。鼻歌から写す
なぜこの順番なのか
下の段ほど答えがはっきりしていて、失敗しにくいからです。
作曲のレッスンでは、初心者に「音出し、コード、ドラム、ベース、メロディ」という順番で案内します。この並びには理由があります。
前の段ほど正解がはっきりしていて、後の段ほど正解が曖昧になるのです。
音出しは「鳴ったか、鳴らなかったか」で判定できます。コードにはC-Am-Dm-Gのような型があり、並べれば必ずそれらしく響きます。
ドラムとベースにも定番の置き方があります。ところがメロディだけは型が薄く、良し悪しを判断する材料は「下で鳴っている伴奏に合うかどうか」しかありません。
つまり土台を先に作った人だけが、メロディを耳で確かめられます。
コードが音出しの次に来るのにも理由があります。コードは並べて鳴らしただけで曲のように聞こえるため、打ち込みを始めたその日に「作れた」という手応えが出ます。
最初の充実感が早い場所から入ると、翌日もDAWを開きたくなります。
慣れてくれば順番を入れ替えても構いません。ただ最初の一周は、この5段のとおりに進めてください。
1段ごとに音が増えて、伴奏の上にメロディを置く準備が自然に整います。
一手目は音出し
最初の一手は、ピアノでドを1回鳴らすことです。
DAWでインストゥルメントトラック(ソフト音源を鳴らすためのトラック)を1本作り、ピアノ音源を選びます。
画面上の鍵盤をクリックするか、ピアノロールに音符を1つ置いて再生し、ドが1回鳴れば一手目は完了です。
鳴らない場合は、DAWのオーディオ設定で出力先を確認します。パソコン本体のスピーカーなのか、挿しているイヤホンなのか、出力先の指定がずれているだけのことがよくあります。
地味な確認に見えますが、ここを飛ばすと後で必ず困ります。音が鳴らない環境のまま打ち込みを始めると、変な音になった時に「作り方が悪いのか、設定が悪いのか」を切り分けられないからです。
音が鳴ったら、何も作っていなくても一度保存します。曲ごとにフォルダを1つ作り、その中へプロジェクトを保存する癖を初日につけておくと、後でファイルが行方不明になる事故を防げます。
閉じて、開き直して、同じ場所から再開できたら一手目は合格です。
二手目はコード4小節
C-Am-Dm-Gを並べるだけで、曲の床ができます。
二手目の具体的な一手は、ピアノロールの1小節目にC(ド・ミ・ソ)、2小節目にAm(ラ・ド・ミ)、3小節目にDm(レ・ファ・ラ)、4小節目にG(ソ・シ・レ)を置くことです。
3つの音を縦に重ねて、小節いっぱいに伸ばすだけ。全部白鍵なので、鍵盤が分からなくても迷いません。
置けたらループ再生してください。たった4小節でも、はっきり「曲っぽい」響きがします。
これはCキーのダイアトニックコード(そのキーの中で自然に使える7つのコード)から選んだ王道の進行で、初心者が並べても外れた響きになりにくい組み合わせです。
ここで理論書を開く必要はありません。「なぜこの4つなのか」は、鳴らして気持ちよかった後に調べる方が頭に入ります。
今日の仕事は、この4小節が自分のパソコンから鳴っている状態を作ることだけです。
三手目と四手目はドラムとベース
口で言えるリズムと、コードの一番下の音を足します。
三手目はドラムです。ドラム音源のトラックを作り、キック(ドン、という低い太鼓)を1拍目と3拍目に、スネア(タン、という強い音)を2拍目と4拍目に置きます。
「ドン、タン、ドン、タン」と口で言えるなら、太鼓の名前を知らなくても置けます。レッスンでも、譜面より先に口で歌えるリズムから打ち込んでもらいます。
余裕があればハイハット(ツツツ、という細かい金物)を8分音符で刻んでください。コードだけの時には無かった「時間が前に進む感じ」が出ます。
ドラムは曲の時計です。これが入ると、4小節が急に音楽らしく流れ始めます。
四手目はベースです。難しく考えず、各小節のコードの一番下の音(Cならド、Amならラ、Dmならレ、Gならソ)を、低い音域で小節いっぱいに1音伸ばすだけにします。
たった1音ずつなのに、ベースが入った瞬間に響きの底が埋まり、バンドの演奏のような厚みが出ます。
ここまでで伴奏は完成です。メロディを乗せる床が、鳴る状態でそろいました。
五手目でメロディ
伴奏を流しながら鼻歌を歌い、それを写します。
最後がメロディです。4小節の伴奏をループ再生しながら、鼻歌を口ずさんでみてください。
うまく歌う必要はありません。スマホの録音アプリで残しておき、「上がった、下がった、伸ばした」という形だけをピアノロールに写します。
写した音が外れて聞こえたら、フレーズの最後の音をその小節のコードの中の音へ寄せます。Cの小節ならド・ミ・ソのどれかに着地させると、外れた感じが消えます。
土台が先にあるからこそ、この直し方ができます。合っているかどうかは理屈ではなく、再生して耳で確かめられるからです。
メロディが1本乗ったら、その4小節を書き出して(WAVやMP3にして)スマホで聞いてみてください。自分のパソコンから出てきた音源が、ちゃんと曲として聞こえるはずです。
これが最初の一周の完成です。
5段の順番と最初の一手
迷ったらこの表に戻り、止まっている段からやり直します。
| 順番 | 最初の一手 | この段を飛ばすと |
|---|---|---|
| 1 音出し | ピアノでドを1回鳴らして保存 | 不調の原因が設定か曲か切り分けられない |
| 2 コード | C-Am-Dm-Gを4小節置く | メロディの着地先がなく手探りになる |
| 3 ドラム | ドンとタンを交互に置く | 時間が流れず、曲が平坦なまま |
| 4 ベース | コードの一番下の音を伸ばす | 低音が空いて、薄く頼りない響きになる |
| 5 メロディ | 鼻歌を録ってピアノロールへ写す | 主役のいないBGMで止まる |
順番を飛ばすと起きること
一番多い事故は、メロディから作り始めることです。
頭の中に良いフレーズが浮かんでいる人ほど、いきなりメロディから打ち込みたくなります。ところがコードもリズムも無い場所に置いたメロディは、合っているのか外れているのかを確かめる手段がありません。
正解が分からないまま何日も置き直しを続け、1曲も完成しないうちに疲れてやめてしまう。入門期の挫折で、最も多い形です。
音出しの確認を飛ばすのも定番の事故です。打ち込んだのに音が鳴らない時、環境を確認していない人は「自分には向いていない」と感じて手が止まります。
実際はただの出力先設定であることがほとんどなのに、原因を切り分ける基準を持っていないため、そこで終わってしまうのです。
逆に、コードを飛ばしてドラムだけを延々と作り込むパターンもあります。リズムは良くなりますが、響きの流れが無いのでいつまでも曲になりません。
5段はどれも省略できない代わりに、1段ずつなら難しくないように並んでいます。飛ばさず順番に積むことが、結局いちばん速い道です。
機材を買うのは後でいい
5段は、今あるパソコンとイヤホンだけで全部できます。
ここまでの5段に、新しい買い物は一つも登場しませんでした。パソコン、DAW、いま使っているイヤホンかスピーカー。
それだけで音出しからメロディまで回せます。入力はマウスで足ります。
MIDIキーボードは、頭の中のフレーズを外へ出しやすくする道具です。マウス入力が遅くてもどかしいと感じ始めたら、その時が買い時です。
オーディオインターフェイス(マイクや楽器をパソコンにつなぐ機材)は、歌やギターを録音する段階になってから必要性が上がります。打ち込みだけの今は無くて困りません。
順番を逆にして先に買い物から入ると、機材はそろったのに1音も鳴らせていない、という状態になりがちです。
道具は制作が止まった場所を解消するために買うものです。止まった場所がまだ見えていない初日に、買うべきものは決められません。
最初の1週間の進め方
1日1段ずつ進めば、7日目に最初の音源が残ります。
- 1日目は音出しと保存
- 2日目はコードのC-Am-Dm-Gを4小節
- 3日目はドラムでドンとタンを置く
- 4日目はベースのルート音
- 5日目は鼻歌からメロディ
- 6日目は通して聞いて、気になった1カ所だけ直す
- 7日目に書き出して、スマホで聞く
これで一周です。
1日にかける時間は15分でも構いません。大事なのは長さより、毎日昨日のファイルを開くことです。
DTMはソフトを持っていれば自動的に曲ができるものではなく、楽器と同じで、触った時間のぶんだけ手が慣れていきます。短くても毎日続いた人が残ります。
7日目に書き出した4小節は、短くても間違いなく自分の作品です。そしてこの4小節は、8小節へ、ワンコーラスへ、1曲へと広げていく出発点になります。
ここから先の広げ方は1曲を作る順番で扱っているので、次はそちらへ進んでください。音出しから完成までの全体の流れを1枚で見たい人には、無料の制作工程マップも用意しています。
よくある疑問
楽器が弾けなくてもDTMを始められますか
始められます。コードもドラムもマウスで1音ずつ置けます。口ずさめるフレーズがあるなら、それを打ち込みで形にできます。
音楽理論を先に勉強すべきですか
先に全部を勉強する必要はありません。C-Am-Dm-Gを鳴らすところから始めて、コードの響きに興味が出た時に、その部分だけ調べる方が身につきます。
MIDIキーボードがなくても大丈夫ですか
大丈夫です。この記事の5ステップは全部マウス入力でできます。買うのは、マウス入力が遅くてつらいと感じてからで間に合います。
初日にどこまでできれば十分ですか
ピアノの音が1つ鳴って、プロジェクトを保存できれば十分です。コード4小節まで進めたら上出来です。1曲の完成は初日の目標にしません。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
次に進む記事
今の状態に近い記事へ進みます。