DTMの勉強順番|理論・機材・作曲をどう学ぶか

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
理論、機材、作曲。DTMを始めると、この3つが同じ大きさで目の前に並びます。どれも必要そうに見えるので、3つを均等に勉強しようとして、どれも中途半端なまま月日が過ぎる。順番の相談でいちばん多いのがこの状態です。
3つは並列ではありません。作る作業が本線で、理論と機材は、その本線が詰まった時に入る側道です。だから決めるべきは「どれを先に勉強するか」ではなく、どの合図が出たら、どれを呼び出すか。呼び出しの合図と、何をいつ学ぶかの対応表までを扱います。理論そのものの中身と、毎日どう続けるかは、それぞれ別の記事に任せます。
先に決めること
迷ったら、次に学ぶものは「今日の曲が止まった場所」で選びます。
- 先に固定するのは科目ではなく、音を出す・録音する・保存する・書き出すというDAWの入口
- 止まる場所はだいたい3か所。ドラム、コード、メロディのどれかで、そこが次の学習範囲
- 理論は候補を減らしたい時、機材は今できない作業が出た時に呼び出す
- ミックスと録音は、鳴る音がそろってから学ぶと覚えた手順がその日に使える
先に全部を勉強しない理由
学ぶ量の問題ではなく、覚えた知識に使い道が来ないことが問題です。
DTMで扱う分野は、少なく数えても5つあります。DAWの操作、作曲、打ち込み、録音、ミックス。ここに機材の知識が加わります。この6つを同時に並べて勉強計画を作ると、今日どれをやるかが毎回決まらず、決まらない日は何もしない日になります。
もう1つの理由は、覚えた知識に使い道が来ないことです。コンプレッサーの仕組みを先に読んでも、圧縮したい音がまだ1つも鳴っていなければ、翌週には忘れます。知識は、使った瞬間に初めて自分のものになります。
だから、順番の先頭に置くのは科目ではなく、操作の入口です。レッスンでも、最初から全機能を覚える必要はない、音を出す、録音する、保存する、書き出す、この入口が動けば曲作りへ進める、という線を引いています。この4つは、合わせても数十分で通せます。
入口が動いた時点で、あなたは「勉強中の人」から「作りかけの曲を持っている人」に変わります。この差が大きい。作りかけの曲があると、次に学ぶものが自動的に決まるからです。何もない状態で学習計画を立てるのが、いちばん難しい作業でした。
言い換えると、勉強の順番とは、科目を並べる作業ではなく、質問が生まれる状態を先に作る作業です。質問のない勉強は、答えを覚えるだけになって残りません。
止まった場所から呼び出す
止まる場所は数えられるほど少ないので、名前が付けられます。
作り始めると、必ずどこかで手が止まります。この「止まった場所」が、次に学ぶものの名前です。そして止まる場所は、思っているより種類が少ない。
制作の現場での見立てでは、途中で止まる原因はほぼ3つに絞れます。ドラムで止まる、コードワークで止まる、メロディーが乗せられなくて終わる。今できているところまでを聞けば、欠けている1つが分かります。そこだけ埋めると、また進み続けます。
この見立てが便利なのは、学習範囲が勝手に狭くなるからです。「作曲を勉強する」だと範囲が広すぎて、何を読めばいいのか決まりません。「8小節目でドラムが同じ繰り返しに聞こえる」まで絞れていれば、調べる言葉も、読む記事も1本に決まります。
手順はこうです。今のプロジェクトを頭から再生し、いちばん最初に「ここが気になる」と感じた場所で止めます。その場所の名前を1つだけメモします。ドラム、コード、メロディ、音量、書き出し。その言葉で調べて、直して、また頭から再生する。これが1回の学習です。
気になる場所が複数あっても、1回に1つだけにします。2つ同時に直すと、どちらが効いたのか分からなくなり、次に同じ症状が出た時に再現できません。1回1つなら、直した経験がそのまま引き出しになります。
そして、止まる場所は人によって違います。だから世の中の学習ロードマップをそのまま使っても、自分の詰まりに当たらないことがあります。対応表は次に置きますが、使い方は「上から順に消化する」ではなく「自分の症状の行だけ引く」です。
何を、いつ学ぶかの対応表
左の症状が出た時だけ、真ん中を学びます。右が出たら、その学習は終わりです。
| 今出ている症状 | その時に学ぶもの | 学び終わりの合図 |
|---|---|---|
| 音が鳴らない、保存した場所が分からない | DAWの入口の操作 | 昨日のファイルを開いて同じ音が鳴る |
| コードを4つ置いた後が続かない | コードの選び方と、最小限の理論 | 4小節が一周して頭に戻れる |
| ドラムが同じ繰り返しに聞こえる | リズムの打ち込みと強弱 | 8小節の中に変化が1か所ある |
| コードの上にメロディが乗らない | メロディの作り方 | 鼻歌がノートとして画面に並んでいる |
| マウスで置くのが遅くて考えが逃げる | 入力の道具(鍵盤など) | 思いついた形をその場で置ける |
| 歌やギターを自分で録りたい | 録音の設定と機材 | 割れずに録れて、聞き返せる |
| 書き出した音を外で聞くと主役が埋もれる | ミックスの音量バランス | 気になった一点が気にならなくなる |
作曲が本線、理論と機材は側道
側道に入る条件と、戻り方を決めておきます。
理論と機材は、それ自体が目的地ではありません。どちらも、作る作業を先へ進めるための道具です。だから入る条件を決めておきます。
理論に入る条件は、置きたい音の候補が多すぎて選べない時です。次のコードとして12個も20個も候補が浮かぶなら、候補を7つに減らす道具が要ります。逆に、候補が浮かばずに固まっているなら、それは理論ではなく手が足りていない状態なので、定番の並びを1つ借りて鳴らすほうが早い。どこまで理論が要るかという線引きは最低限の音楽理論の記事にまとめてあります。
機材に入る条件は、今の道具では物理的にできない作業が出た時です。打ち込みだけなら、オーディオインターフェイスは必須ではありません。歌やギターを録るなら必要性が上がります。買うかどうかは、今すぐ録音するかで判断します。この線引きがあると、比較記事を読む時間が制作時間を食わずに済みます。
そして、機材まわりの学習で実際に時間を取るのは、選ぶことではなく入れることです。プラグインで止まる人の多くは、選び過ぎよりも「入れ方が分からない」でつまずきます。メーカーのアカウントを作り、専用のダウンローダーを入れ、インストールして、DAWで読み込んで認証する。認証まで終わっていないとデモ版のままです。買ったのに使えない時は、まずこの流れが最後まで済んでいるかを見ます。
つまり機材の勉強とは、スペック表を読むことではなく、この導入の流れを1回やり切ることです。1回通せば、2つ目からは同じ手順が使えます。
側道から戻る合図も決めておきます。調べたことを1つ曲に反映したら、その日は戻る。読み続けると、次の疑問が出る前に次の章に入ってしまい、また使い道のない知識が増えます。
順番を入れ替えると起きること
後ろの工程を先に学ぶと、覚えた手順が使えないまま消えます。
学ぶ順番を間違えても、罰があるわけではありません。ただ、効きが落ちます。いちばん分かりやすいのがミックスです。
仕上げの作業には決まった順番があります。まずフェーダーで音量を決め、次にEQとコンプ、最後にリミッターで音圧を上げる。コンプは出てくる音量に対してかけるので、フェーダーが決まらないうちにかけると、後でフェーダーを動かした瞬間に全部やり直しになります。順番を守らないとカオスになる、というのが制作現場の判断です。
これは作業の順番の話ですが、学習の順番でも同じことが起きます。鳴らす音がまだそろっていない段階でコンプの記事を読み込んでも、試す相手がいません。手を動かせないまま読んだ内容は、実際に必要になった頃には残っていません。
機材を先に学ぶ場合も似ています。使う場面が来ていない機材は、買っても箱から出す理由がありません。比較に使った何時間かは、そのまま制作に使えたはずの時間です。
順番が入れ替わっているサインは、はっきり出ます。知っている用語は増えているのに、書き出した音源のファイルが増えていない。この状態になっていたら、学ぶ量ではなく、学ぶきっかけの取り方を変える合図です。
直し方は簡単で、いま作りかけのものを1つ開いて、最後まで通します。途中で止まったら、その場所だけを調べる。ここに戻れば、順番は自然に整います。
今日やること
学ぶものを選ぶ前に、止まっている場所に名前を付けます。
教材を探すのは今日ではありません。DAWを開いて、いま一番進んでいるプロジェクトを頭から再生します。何も作りかけがなければ、付属音源でコードを4つ置いて、それを再生します。
そして、最初に「ここが気になる」と感じた場所で止めて、その名前を1つだけメモに書きます。ドラム、コード、メロディ、音が出ない、書き出し方。どれでも構いません。書けたら、今日はそこで終わりです。
そのメモが、次に読む記事の検索語になります。理論なのか機材なのか作曲なのかは、メモの言葉が決めてくれます。学ぶ順番を先に決める必要がなくなるのは、この一枚のメモがあるからです。音を出すところから書き出しまでの工程全体は、無料の制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
理論・機材・作曲のどれから手をつければいいですか
作曲、つまり作る作業からです。理論と機材は、作っていて手が止まった時に呼び出すものなので、止まる前に順番を争う必要がありません。最初に固定するのは、音を出す・録音する・保存する・書き出すというDAWの入口だけです。
次に何を学ぶかは、どうやって決めればいいですか
今できているところまでを頭から再生して、最初に手が止まる場所を1つ見つけます。止まるのはドラム、コード、メロディのどれかであることが多く、その1つの名前がそのまま次に学ぶものの名前になります。
機材の勉強はいつから始めればいいですか
打ち込みで手数が足りなくなった時か、歌やギターを録る日が決まった時です。買う前の比較より、買った後にインストールと認証を最後までやり切るほうが時間がかかるので、その1回を学習時間として見込んでおきます。
ミックスや録音を先に勉強してはいけませんか
禁止ではありませんが、効きが弱くなります。ミックスは鳴る音がそろってから効く作業で、フェーダーで音量が決まる前にコンプを覚えても、後から全部やり直しになります。書き出した音を外で聞いて気になった一点が出てから学ぶと、覚えた手順がその日に使えます。
1日1つだけ。7日で1曲書き出す
「最初の7日チェック表」(PDF)を無料でお送りしています。1日にやることを1つに絞って、7日目には音声ファイルが1つ完成する組み方です。MIDI素材一式も同梱しています。
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