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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

DTM初心者に必要な音楽理論|最初はこれだけでいい

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

音楽理論と聞くと、分厚い本を1冊終える絵が浮かびます。ところがDTMで4小節を鳴らすために本当に使うのは、そのうちのごく一部です。使う部分と使わない部分の差が大きいので、頭から順に読むと、使う場所にたどり着く前に力尽きます。

最低限のラインは3つ。キー、ダイアトニックの範囲、終わる感じと続く感じです。この3つが何をしてくれるのかと、旋法や複雑なテンション、楽典の記号を当面飛ばしていい理由、そして3つを曲を作りながら覚える手順までを扱います。五線譜は出てきません。

先に決めること

先に決めるのは「どのキーで作るか」です。要る理論は、そこから数えて3つだけ。

  • 理論は正解を出す装置ではなく、置ける音の候補を減らす道具として使う
  • 要る3つは、キー/そのキーのダイアトニックコード7つ/終わる感じと続く感じ
  • 旋法、複雑なテンション、楽典の記号は当面不要。鳴っている曲に色を足す道具だから
  • 覚え方は暗記ではなく、4小節を作る間に3つとも通ること

理論の仕事は「候補を減らす」こと

選択肢が多すぎる状態を、選べる状態に変えるための道具です。

ピアノロールを開くと、縦に並ぶ音は88段あります。どれを置いてもエラーは出ません。自由なようでいて、実際には手が止まります。候補が多すぎると、人は選べなくなるからです。

音楽理論は、この状態を変えるためにあります。88段のうち使う音を7つに、無数にあるコードのうち使うものを7つに減らす。制作の現場でも、ダイアトニックコードは難しい理論として覚えるより、最初に使うコードを絞る道具として扱います。

この見方に立つと、必要な範囲がはっきりします。候補を減らしてくれる部分だけが最低限で、それ以外は、鳴らせるようになった後の話になります。

減らす仕事をしてくれるのが3つあります。使う音の集まりを決めるキー、使うコードを決めるダイアトニック、そして並べた4小節をどこで閉じるかを決める終止感。順に見ていきます。

要る1つ目:キー

使う音の集まりを1つに決めます。最初はCだけで足ります。

キーとは、その曲が主に使う音の集まりと、中心になる1音のことです。カラオケで上げ下げするキーと同じもので、上げ下げできるのは、曲全体が1つの集まりの上に乗っているからです。

最初に選ぶのはCキーで構いません。理由は単純で、Cキーで使う音がピアノの白鍵とぴったり重なるからです。黒鍵を使わないと決めるだけで、キーが決まります。ピアノロールなら、黒鍵の段には置かない、という一本の線が引けます。

キーが決まった時点で、候補は12音から7音に減ります。この7音を順に並べたものがスケールで、Cキーならドレミファソラシがそれにあたります。スケールという言葉は、ここでは「使っていい音のリスト」くらいの意味で受け取れば十分です。

他のスケールや、他のキーはまだ要りません。歌う人の声に合わなければ、DAWの移調機能で全体を上下にずらせます。作る時のキーと、歌う時のキーは別にできるので、最初のキー選びで悩む必要はありません。

キーを決めずに作り始めると、音を1つ置くたびに全88段が候補になります。決めるのは30秒で、効果はその後ずっと続きます。

要る2つ目:ダイアトニックの範囲

そのキーのコードを7つに絞る。中身を暗記する必要はありません。

キーが決まると、使う7音が決まります。その7音だけを積み上げて作ったコードが、同じく7つできます。これがダイアトニックコードです。

Cキーなら、C、Dm、Em、F、G、Am、そして少し特殊なBm(♭5)。この7つの中から選んでいる限り、選んだコードが曲から外れて聞こえることはまずありません。だから範囲として押さえます。

制作の現場での線引きははっきりしています。必要なのはダイアトニックコードと、少しのノンダイアトニックだけ。それで曲は成立します。理論書はダイアトニックにたどり着くまでの説明が長いので、そこは飛ばして構いません。まず7つのコードを並べて、度数で進行を作る体験から入ります。

度数というのは、7つに付いた1番目から7番目までの番号のことです。Cキーなら1番目がC、4番目がF、5番目がG。名前ではなく番号で覚えておくと、後でキーが変わっても同じ形がそのまま使えます。1番目から4番目へ、4番目から5番目へ、といった動きが、そのままコード進行の設計図になります。

7つを暗記する必要はありません。紙でも画面の端でもいいので、7つを書いた表を横に置いて、そこから選ぶ。覚えるのは「7つの中から選ぶ」というルールのほうで、中身は使っているうちに残ります。最初の1曲なら、C、Am、Dm、Gを4小節に並べるだけでも土台としては十分です。

要る3つ目:終わる感じと続く感じ

4小節を閉じるか、次へ転がすかを選べるようになります。

3つ目は、名前を知らなくても耳で分かるものです。ただ、知っていると4小節の作り方が変わります。コードには、落ち着いて終わる感じのものと、続きを呼ぶ感じのものがあります。

Cキーなら、中心のCに戻ると終わった感じになります。5番目のGで止めると、宙ぶらりんで次を待つ感じが残ります。試しに、C・Am・Dm・Gの4小節を鳴らして、最後のGで止めてみてください。もう一周したくなるはずです。最後をCに変えると、そこで止まってよい感じに変わります。

この差が使えるのは、曲の切れ目を自分で作れるようになるからです。Aメロの4小節はGで終わって次へ転がし、サビの最後はCで閉じる。同じ7つのコードを使っていても、どこで閉じるかを決めるだけで、曲らしい段落ができます。

正式には終止と呼ばれる考え方で、種類の名前もありますが、今は不要です。判断は耳でできます。理論の理解が浅くても、短いコードを鳴らして良し悪しは分かります。最初から正解を探すより、鳴らした音を聞いて進めるほうが曲になりやすいというのが、レッスンでも制作でも同じ判断です。

迷ったら、4小節を2回続けて鳴らしてみます。つながって聞こえるなら続く形、そこで切っても気持ち悪くないなら終わる形です。この2択が分かれば、3つ目は足りています。

要る3つと、当面要らないもの

今の判断は右の列だけで決まります。要らない側は消すのではなく、脇に置きます。

項目今要るかそう決める理由と、学びどき
キーを1つ決める要る使う音が12から7に減る。Cなら白鍵だけで済む
ダイアトニックコード7つ要るコードの候補が7つに絞られ、外れた響きになりにくい
終わる感じ・続く感じ要る4小節を閉じるか転がすかを選べ、曲に段落ができる
旋法(モードなど)当面不要同じ7音の出発点を変えたもの。ジャンル特有の色が欲しくなってから
複雑なテンション・代理コード当面不要3つの音のコードで曲は成立する。定番の響きに飽きてから
楽典の記号(音価・調号・拍子記号)当面不要ピアノロールは長さも高さも見た目で分かる。譜面でやり取りする時に
12キーの暗記・移調の理屈当面不要Cキーで数曲作れる。歌の音域はDAWの移調機能で合わせられる
対位法・和声法当面不要クラシックの書法で、打ち込みのポップスでは出番が来ない

旋法・テンション・楽典の記号を飛ばす理由

3つとも、鳴っている曲に色を足す道具だからです。

旋法は、同じ7音の中でどこを中心にするかを変えたものです。Cキーの白鍵のまま、レから始めれば少し翳った感じ、ミから始めればまた別の色になります。音そのものは同じなので、コードの中心が定まっていない段階で持ち出すと、狙った色ではなく、ただキーがぼやけた曲になります。中心を決める練習が先です。

複雑なテンションは、3つの音でできたコードに、さらに音を足して響きを濃くする考え方です。足す価値が出るのは、足す前の骨格がすでに動いている時だけです。4小節が一周して戻ってこない段階で音を足しても、濁った理由が骨格なのか足した音なのか分かりません。

楽典の記号は、五線譜の上で音の長さや調を伝えるための書き方です。DTMではピアノロールを使います。高さは縦の位置、長さは横の長さで、見た目がそのまま音になります。記号に置き換える必要がないので、読めなくても止まりません。必要になるのは、演奏者に譜面を渡す日です。

3つに共通するのは、すでに鳴っている曲を良くする道具だという点です。まだ鳴っていない曲を鳴らす道具ではありません。順番が来る前に手を出すと、覚える量だけが増えて、曲の小節は1つも増えません。

用語のメモだけが増えて、書き出した音源が1つも増えていない。もしそうなっているなら、脇に置いた側に時間を使いすぎているサインです。要る3つに戻します。

覚え方は、曲を作りながら

3つとも、4小節を1回作る間に全部通ります。

この3つは、読んで覚えるものではありません。順番に使えば、1回の制作で3つとも通ります。手順は4つです。キーをCに決める。7つの表から4つ選ぶ。4小節に並べて鳴らす。最後のコードをCにするかGにするかだけ、耳で決める。

1周するたびに、7つのうち実際に触ったコードが増えます。EmとFを使った日は、その2つの響きが体に残ります。暗記の時間を取らなくても、使った分だけ覚えている状態になります。これが理論の最短ルートです。

途中で分からない言葉が出てきたら、読む作業をやめて鳴らす作業に切り替えます。言葉の定義を追うより、その言葉が指している音を1回鳴らすほうが早い。鳴らした瞬間に、理論は覚える科目から、必要な時に引く道具に変わります。

コード進行そのものの組み立て方はコード進行の作り方に、その先の曲全体の流れは無料の制作工程マップにまとめています。

今日やることは1つだけです。Cキーのダイアトニックコード7つの中から4つ選んで、4小節に並べて鳴らす。最後のコードをCにするかGにするか、耳で決めて保存する。ここまでで、要る3つは全部使い終わっています。

よくある疑問

DTMで音楽理論は最低限どこまで必要ですか

キーを1つ決めること、そのキーのダイアトニックコード7つ、終わる感じと続く感じの区別。この3つで最初の曲は成立します。3つとも音を減らすための道具なので、暗記ではなく画面の横に表を置いて使う形で足ります。

旋法や複雑なテンションは勉強しなくていいのですか

当面は不要です。どちらも、鳴っている曲に色を付ける道具で、まだ鳴っていない曲を鳴らす道具ではありません。定番の響きに飽きた、ジャンル特有の色が出ないと感じた時に、その項目だけ調べれば間に合います。

楽譜が読めなくても作れますか

作れます。ピアノロールは、音の高さを縦、長さを横の長さで表す画面なので、音価や調号といった楽典の記号を読む場面がありません。記号が必要になるのは、譜面で誰かとやり取りする時です。

理論書は買ったほうがいいですか

最初から通読する必要はありません。理論書はダイアトニックコードにたどり着くまでの説明が長く、そこは飛ばして構いません。手元に置くなら、詰まった項目を引く辞書として使うのが向いています。

コードの「床」を、先に用意しておく

C・Am・Dm・G の4小節ループMIDIと、90秒ワンコーラスの下地を無料でお送りしています。鳴らしながら鼻歌を乗せていけば、メロディを探す作業がぐっと楽になります。

次に進む記事

要る3つが手元にそろったら、それを使ってコードを並べ、ドラムとメロディを乗せる記事へ進みます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。