DTM独学ロードマップ|初心者が1曲へ進む順番

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DTMを独学で始めた人が最初にぶつかるのは、操作の難しさより道筋の見えなさです。
機材、DAWの使い方、音楽理論、ミックス。調べるほどやることが増えて、どれから手を付ければ作曲にたどり着くのか分からなくなります。
この記事は、独学で1曲作れるようになるまでの道を5つの段階に割ったロードマップです。各段階に「ここができたら次へ進む」という卒業条件を付けました。
今の自分がどの段階にいるか、止まったらどこへ戻ればいいかを、この1本で確認できるようにしています。
5つの段階
DTM独学は、この順で1段ずつ卒業していきます。
- 第1段階:環境を作って音を出す
- 第2段階:コードとドラムで8小節
- 第3段階:メロディを乗せて90秒のワンコーラス
- 第4段階:アレンジしてフルコーラス
- 第5段階:ミックスして公開する
独学で道筋が消える理由
学習項目を集めるほど、作る順番は見えなくなります。
独学のロードマップを検索すると、機材、DAW、理論、作曲、ミックス、マスタリングと学習項目を並べた一覧がよく出てきます。
一覧としては正しいのですが、これを上から順に勉強しようとすると、曲を作る前に理論とミックスの入口で力尽きます。
実際に必要なのは、勉強の一覧ではなく制作の順番です。曲は「環境を作る、土台を鳴らす、主役を乗せる、広げる、整えて出す」という順でしか形になりません。
理論もミックスも、この流れの中で必要になった時に少しずつ拾えば足ります。
そこでこのロードマップでは、段階ごとに作るものと卒業条件を決めます。卒業条件があると、今の段階を終えていいか自分で判定できます。
逆に途中で苦しくなったら、それは段階を飛ばしたサインです。一つ前へ戻れば、たいてい進み直せます。
第1段階:環境と音出し
卒業条件は、鳴らして、保存して、翌日開き直せることです。
最初の段階でやることは3つだけです。DAWを用意する、音を1つ鳴らす、保存して閉じる。
DAWは無料のものでも、体験版でも構いません。ここで機材やソフトの比較に何週間もかけるより、どれか1つ入れて鳴らすほうが先です。
音出しは、ピアノ音源でドを1音置いて再生できれば合格です。ここでつまずく人は珍しくありません。
出力先の設定やドライバーが原因のことが多いので、鳴らない時は故障や才能を疑う前に設定を1つずつ見ます。
もう1つ、この段階で保存の習慣を作ります。曲ごとにフォルダを作り、プロジェクトを名前を付けて保存し、翌日そのファイルを開いて続きから再生する。
この往復ができると、独学の練習は「毎回ゼロから」ではなく「昨日の続きから」に変わります。
卒業条件は、音を鳴らしたプロジェクトを保存し、次の日に開き直して同じ音を再生できることです。
地味ですが、ここから先の全段階がこの往復の上に乗ります。
ロードマップ全体表
迷ったら、この表で現在地を確認します。
| 段階 | 作るもの | 卒業条件 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 環境と音出し | 保存したプロジェクトを翌日開き、同じ音を再生できる |
| 第2段階 | コード+ドラムの8小節 | 8小節のループを書き出して、DAWの外で聞ける |
| 第3段階 | メロディ入り90秒 | Aメロからサビまでを通しで再生できる |
| 第4段階 | フルコーラス | 2番と終わり方まで、止まらず最後まで聞ける |
| 第5段階 | ミックスと公開 | 書き出した曲を自分以外の誰かに聞いてもらう |
第2段階:コードとドラムで8小節
理論はダイアトニックだけ。ここで初めて「曲っぽさ」が出ます。
音が出たら、曲の土台を作ります。使う理論は、当面ダイアトニックコードだけで足ります。
ダイアトニックコードとは、キー(曲の中心になる音の世界)の中で自然に使えるコードのセットのことです。Cキーなら、C、Dm、Em、F、G、Amが主なメンバーで、鍵盤の白鍵だけで押さえられます。
レッスンでも、独学者の相談でも、入口はこのダイアトニックからにしています。理論書を1冊読み切るより、この中からコードを4つ選んで並べるほうが、はるかに早く「曲になった」という手応えが出るからです。
迷うなら、CからAm、Dm、Gと並べる王道の流れで十分です。1小節に1つずつ置いて、4小節をループ再生します。
次にドラムです。ドラムは譜面から入らず、口で言えるリズムから入ります。
「ドン、ツッ、タン、ツッ」と口に出して、低いドンをキック、軽いツッをハイハット、強いタンをスネアに置き換えます。まずは8ビート1小節で構いません。
コードの上にドラムが乗ると、ただの和音だった4小節が急に前へ進み始めます。
1小節のドラムをそのまま繰り返すと機械的に聞こえるので、8小節にする時は最後の小節だけ少し変えます。スネアを1つ足す、ハイハットを一瞬細かくする、その程度で十分です。
卒業条件は、コードとドラムが鳴る8小節をWAVやMP3に書き出して、スマホなどDAWの外で聞けることです。
第3段階:メロディと90秒のワンコーラス
鼻歌が使えます。耳コピは必須ではありません。
土台の上に主役を乗せます。メロディが浮かばない時は、8小節を再生しながら鼻歌を歌い、スマホで録音してください。
音程が正確でなくても、上がる、下がる、伸ばす、休むという形が残っていれば、それを聞きながらピアノロールに写せます。頭の中のイメージは、一度外に出すと急に扱いやすくなります。
ここで多くの独学者が気にするのが耳コピです。好きな曲を耳だけで再現できないと作曲に進めない、と思い込んで止まる人がいますが、耳コピはやらなくて構いません。
参考にしたい曲があるなら、楽譜やネット上のコード譜を見て、コードの並びやメロディの動きを真似すればいいのです。耳で全部取る訓練は、やりたくなった人が後からやれば足ります。
メロディができたら、Aメロ、Bメロ、サビが一度ずつ出てくる90秒前後のワンコーラスに組みます。Aメロは音数を控えめに、サビでメロディをはっきり聞かせる。
役割を分けるだけで流れは作れます。同じコード進行を使い回しても問題ありません。
注意したいのは、90秒はゴールではなく確認地点だということです。入口、展開、盛り上がり、区切りが小さく揃っているかをここで確かめて、次の段階でフルコーラスへ広げます。
卒業条件は、Aメロからサビまでを通しで再生できることです。
第4段階:アレンジとフルコーラス
貼り付けて伸ばすのではなく、場面の役割を増やします。
ワンコーラスができたら、2番、間奏、最後のサビ、終わり方まで含めたフルコーラスへ広げます。
ここでの失敗は、1番をコピーして貼り付けただけで完成にしてしまうことです。長さは足りても、聞いた人には同じ場面の繰り返しにしか聞こえません。
広げる時の考え方は、残すものと変えるものを分けることです。
2番はメロディを残してドラムの刻みを変える。間奏では歌の代わりに別の楽器を主役にする。最後のサビの手前で一瞬音を減らして、そこから一番厚くする。
素材は1番の使い回しでよく、変えるのは場面の役割です。
アレンジで音を足す時は、増やすほど良くなるわけではない点に気を付けます。楽器が増えるたびに主役のメロディが埋もれやすくなるので、1つ足したら1度通して聞き、メロディがまだ前に居るかを確認します。
足すことと同じくらい、抜くこともアレンジです。
卒業条件は、イントロから終わりまで止まらずに通して聞けることです。
細部の完成度はまだ問いません。最後まで鳴る形が1本あることが、次の段階の材料になります。
第5段階:ミックスと公開
整える作業は最後。仕上げたら外に出します。
ミックスをこの段階まで後回しにしたのは、順番として正しいからです。土台と主役が決まっていない曲は、EQやコンプレッサーをいくら触っても判断のしようがありません。
逆に、フルコーラスまで作った耳なら、どこが気になるかは自分で聞き取れるようになっています。
最初のミックスは、エフェクトより先にフェーダー、つまり各トラックの音量つまみだけで整えます。主役のメロディと歌がいちばん前、次にドラムとベース、コードや飾りはその後ろ。
全部を大きくするのではなく、主役以外を少し下げるのがコツです。これだけで見違える曲は多いです。
整えたら書き出して、公開まで進めてください。公開といっても大げさなものでなくてよく、SNSに上げる、友人に送る、家族に聞かせる、どれでも構いません。
DTMは一人で完結できてしまう趣味なので、意識しないと自分の耳だけで何年も回ってしまいます。外の耳が入ると、自分では気づかない癖が一度で見つかることがあります。
卒業条件は、書き出した曲を自分以外の誰かに聞いてもらうことです。
ここまで来たら、1曲を独学で完成させたと言えます。2曲目は、同じロードマップを一回り速く歩けるはずです。
独学で折れやすい場所と対策
才能ではなく、間隔と段階の取り方で決まります。
独学の挫折は、第2段階と第3段階の間で起きやすいです。8小節はできたのに曲にならない、メロディが浮かばない、といった停滞です。
ここで機材や教材を買い足したくなりますが、原因はたいてい道具ではなく、段階を飛ばしていることにあります。うまくいかない時は、表の1つ前の卒業条件に戻って確かめてください。
もう1つの折れやすい場所は、間隔の空きすぎです。週末にまとめて触る計画は、平日のうちに操作もやりかけの曲の記憶も薄れて、毎回思い出し作業から始まります。
DTMは楽器と同じで、触る時間の積み重ねで慣れていくものです。1日5分でも、DAWを開いて昨日の続きを聞くだけでも練習になります。
毎日短く触るほうが、週1回長く触るより続きます。
期間の目安を知りたくなりますが、何ヶ月で作れるようになるとは断定しません。触る頻度、1回の長さ、楽器経験の有無で人によって大きく変わるからです。
期間の代わりに、卒業条件を1つずつ満たしていくことを進み具合の物差しにしてください。他人と比べずに済み、確実に前へ進めます。
また、作業を始める前に、今日はどこまで作るかを小さく決めておくと迷いが減ります。8小節までなのか、鼻歌を録るだけなのか。
完成形の見えないまま細部を触ると、作業は増えても曲は進みません。今の段階の卒業条件が、そのまま今日のゴールの候補になります。
道筋さえ見えていれば、独学は十分に現実的な選択です。この5段階を手元に置いて、今日の1音から始めてください。
全体の流れを1枚で見たい人のために、音出しからフルコーラス完成までをまとめた制作工程マップも用意しています。
よくある疑問
DTMは独学だけでできるようになりますか
段階を分けて進めれば、独学でも1曲は作れます。ただしDTMは一人で完結しやすいので、書き出した曲を外の人に聞いてもらう機会を意識して作ると上達が速くなります。
どのくらいの期間で作曲できるようになりますか
触る頻度で大きく変わるため、何ヶ月と断定はできません。毎日短く触るほうが操作を忘れにくく、結果として早く進む傾向があります。
音楽理論はどこまで勉強すればいいですか
最初はダイアトニックコードだけで十分です。Cキーで使いやすいコードを知っていれば土台は作れます。それ以上は、作っていて必要になった時に足します。
耳コピができないと作曲は無理ですか
耳コピは必須ではありません。参考にしたい曲は、楽譜やネット上のコード譜を見て構造を真似すれば、耳で全部取れなくても始められます。
途中でやる気が続かなくなったらどうすればいいですか
今の段階が大きすぎるサインなので、一つ前の段階に戻ります。何も作れない日は、DAWを開いて昨日の続きを聞くだけでも練習になります。
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