ギター録音の基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
エレキギターをパソコンで録音しようとして、最初に迷うのが「アンプの音をどう録るのか」です。実は、家のDTMではアンプを鳴らさない録り方が主流です。ギターをオーディオインターフェースへ直接つなぎ、アンプの音は後からソフトで作る。ライン録りと呼ばれる方法です。
マイクでアンプを録る方法との違い、ギターをつなぐ時だけ必要になる専用スイッチ、音を割らせない入力レベル、そして録り直しがラクになる録り方の設計まで、初めてのギター録音に必要なことを順番に見ていきます。
先に見ること
初心者のギター録音は、ライン録りで始めるのが近道です。
- 録り方は2つ。ライン録り(直接つなぐ)とマイク録り(アンプを録る)
- ライン録りは静かに録れて、音色を後から何度でも作り直せる
- INST(Hi-Z)スイッチを入れ、入力メーターは赤くしない
- 4〜8小節ずつ区切って録ると、録り直しが苦にならない
ギター録音の2つの道
アンプを録るか、アンプなしで録るか。分かれ道はここです。
ギターの録音方法は、大きく2つに分かれます。1つはライン録り。
ギターをシールドケーブルでオーディオインターフェースへ直接つなぎ、アンプを通さない素の音をDAWに録る方法です。歪みやアンプらしい響きは、録った後にアンプシミュレーターというソフトで加えます。
もう1つはマイク録り。ギターアンプから実際に音を出し、その前にマイクを立てて、空気の振動ごと録る方法です。
スタジオの録音はこちらが中心ですが、アンプを鳴らせる部屋と、マイクをどこに立てるかを決める経験が必要になります。
楽器によっても向きが変わります。アコースティックギターは箱の鳴りそのものが音なので、基本はマイク録りです。
一方エレキギターは、素の信号さえ録れていれば音色を後から作れるため、家のDTMではライン録りを標準と考えて大丈夫です。
初心者はライン録りから
静かに録れて、失敗をやり直せるのがライン録りの強みです。
初心者にライン録りをすすめる理由は3つあります。
まず、夜中でも録れること。部屋に出るのは生弦の小さな音だけで、アンプの音量に悩む必要がありません。
次に、部屋の響きや生活音が録音に入らないこと。マイク録りで頭を抱える冷蔵庫のうなりや外の車の音と、そもそも無縁です。
そして一番大きいのが、音を後から変えられることです。ライン録りで残るのは味付け前の素の演奏なので、録った後で「もっと歪ませたい」「やっぱりクリーンにしたい」と思ったら、アンプシミュレーターの設定を変えるだけで済みます。
演奏はそのままで、音色だけ何度でもやり直せる。マイク録りは録った瞬間に音が決まるので、これができません。
アンプシミュレーターは、実際のアンプの響きをソフトで再現する仕組みです。Cubaseを含めほとんどのDAWに最初から入っているので、追加の買い物は要りません。
まずは付属のもので、歪みの深さとアンプの種類を切り替えて遊んでみてください。
つなぎ方と専用スイッチ
ギターの信号は特殊です。専用の入り口で受けます。
つなぎ方自体は単純で、ギター、シールドケーブル、オーディオインターフェースの入力、という1本道です。ただし1つだけ、他の機材にはない約束があります。
入力端子のそばにあるINST、またはHi-Zと書かれたスイッチを入れることです。
エレキギターから出てくる信号は、マイクの信号ともスマホから出る音とも性質が違う、小さくて繊細な電気です。普通の入力のまま受けると、高音の輝きが失われて、毛布をかぶせたようなこもった音で録れてしまいます。
INSTスイッチは、この繊細な信号を崩さずに受け止めるための、ギター専用の入り口だと考えてください。スイッチ1つですが、入れ忘れは音の芯ごと変わる違いになります。
もう1つの録音前の習慣がチューニングです。ラインの音はごまかしが利かず、弦のわずかなずれもそのまま残ります。
特に後でテイクを重ねる時、テイクごとにチューニングが少しずつ違うと、1本ずつは平気でも重ねた瞬間に濁ります。録る直前にチューナーで合わせ直してください。
入力レベルはクリップさせない
歪ませたい音でも、録る段階では割らせません。
入力レベルは、オーディオインターフェースのゲインつまみで決めます。曲の中でいちばん強くかき鳴らす部分を実際に弾き、入力メーターが赤く点かない位置に合わせます。
赤く振り切った状態はクリップといい、バリバリと汚れた潰れ方をした音になります。
ここで紛らわしいのが、ロックの歪みとクリップの歪みは別物だということです。アンプシミュレーターで作る歪みは音楽的な味付けですが、入力段でのクリップはただの事故で、後からどんな処理をしても取り除けません。
レッスンでも、録音は大きく録ることより割れずに残すことを先に見る、という順番で伝えています。小さすぎた音は後から上げられますが、割れた音は戻せないからです。
目安は、強く弾いた時にメーターの頂点が半分から7割あたりで動くくらい。波形が細く見えても心配は要りません。
注意したいのは、確認を遠慮がちなピッキングでやってしまうことです。本番で力が入った一瞬だけ赤くなる事故が多いので、レベル合わせは必ず本気の強さで弾いて行います。
ライン録りとマイク録りの比較
どちらの道を選ぶか、判断材料を並べます。
| 項目 | ライン録り | マイク録り |
|---|---|---|
| 録れる音 | 味付け前の素の演奏 | アンプと部屋を通った完成した音 |
| 必要なもの | シールドとオーディオインターフェース | アンプ、マイク、音を出せる部屋 |
| 部屋と時間帯 | 夜中でも録れる | 響きと騒音の管理が必要 |
| 音色のやり直し | 後から何度でも変えられる | 録った時点で確定する |
| 向いている場面 | エレキ全般、初心者、宅録 | アコギ、アンプの鳴りへのこだわり |
録り直しやすい録り方
1本で完璧を狙わない設計が、結局いちばん速いです。
ギターの録音は、部分ごとの録り直しが多い作業です。だから最初から、録り直す前提で組み立てます。
基本は、曲を頭から一気に録ろうとせず、イントロ、Aメロ、サビのように区切って録ること。4〜8小節の単位なら、ミスしてもその区間だけ弾き直せば済み、集中力も持ちます。
クリックを鳴らしながら録ることも欠かせません。テンポが揺れたテイクは、部分的に差し替えた時につなぎ目が合わなくなります。
クリックに沿って録れていれば、昨日録ったAメロと今日録ったサビも自然につながります。
慣れてきたら、ダブルトラッキングの入口に立ってみてください。同じフレーズをもう一度弾いて録り、2本を左右に振り分けるだけで、バッキングのギターが急に分厚く、ステレオに広がります。
コピーして貼るのではなく、必ず弾き直すのがコツです。2回の演奏のわずかな違いこそが、厚みの正体だからです。
ダブルトラッキングには、もう1つうれしい効果があります。2本重なっていると、1本ずつの細かいミスやピッキングのムラが、ほとんど聞こえなくなるのです。
完璧な1本をねばるより、8割の出来の2本を録るほうが早く、良い音になります。
録れたギターが打ち込みのドラムやベースに混ざると、曲は一気に前へ進みます。録ったギターをどの工程で重ねていくかは、制作工程マップで全体像を確認してください。
よくある疑問
アンプシミュレーターは有料のものが必要ですか
最初はDAWに付属しているもので十分です。歪みの深さやアンプの種類を切り替えて音の傾向をつかんでから、足りないと感じた方向のものを検討すれば無駄がありません。
INSTやHi-Zのスイッチが見当たりません
入力端子そのものがギター対応になっている機種もあります。説明書で、その入力にギターを直接つないでよいかを確認してください。対応していない入力につなぐと、こもった細い音になります。
ジーというノイズが乗ります
パソコンの画面や電源アダプターから離れて、体の向きを変えてみてください。ピックアップが電気ノイズを拾っていることが多いです。シールドの差し込みの緩みも確認します。歪みを深くするほどノイズも一緒に大きくなります。
アコースティックギターもライン録りできますか
ピックアップ付きのエレアコならつなげます。ただし空気を通した生の鳴りとは質感が変わるので、アコギの自然な響きを録りたい場合はマイク録りが向いています。
マイク録りにはいつ挑戦すればいいですか
ライン録りで録音の手順とレベル合わせに慣れてからで遅くありません。マイク録りは、マイクの位置と部屋の響きという変数が加わるため、手順が体に入ってからのほうが失敗の原因を切り分けられます。
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