DTMに才能がないかもと感じた時の考え方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
作った曲がどうしても納得できない。何度やり直しても途中で手が止まる。そんな時、原因を才能に求めたくなります。でも、その言葉で片づける前に、一度だけ見てほしいものがあります。あなたが今、曲作りのどの工程で止まっているか、です。
ここで扱うのは、DAWの操作方法ではありません。止まっている場所を工程で切り分けること。そうすると、才能という大きな不安が、直せる小さな作業に姿を変えます。直せる課題と、まだ手をつけていないだけの部分が、はっきり分かれてきます。
先に見ること
才能の有無を判断する前に、止まっている工程を一つずつに分けて見ます。
- 曲が完成しないのは、才能ではなく作る順番を知らないだけのことが多い
- コード、ドラム、メロディのどこで止まったかを切り分ける
- 4小節でいいので、小さく完成させて書き出す
- 短くても毎日触り、続けた時間を味方にする
才能のせいに見える正体
同じ悩みでも、才能で止まると次の一手が消えます。
曲がうまく作れないと、まず才能を疑いたくなります。でも、初心者がつまずく場所は驚くほど共通しています。音が思ったより小さい、コードが4小節でぶつ切りに聞こえる、ドラムが軽い、メロディが浮かばない。
これらは生まれ持った才能の差ではなく、まだ手順を知らないか、単純に作った回数が足りないだけの症状です。
才能という言葉の困ったところは、原因の場所を教えてくれないことです。「才能がない」で立ち止まると、次に何を直せばいいのか分かりません。
一方、「サビのメロディが同じ高さで平坦だ」なら、直す場所がはっきりします。悩みの中身は同じでも、後者に言い換えられた瞬間、必ず前へ進めます。
だから最初にやるのは、才能があるかを占うことではなく、悩みを工程の言葉に翻訳することです。「なんとなくダサい」を、どの工程の何が引っかかっているのかに置き換える。
その翻訳ができれば、才能の話はいったん脇に置けます。
止まるのは順番を知らないだけ
全部を同時に見るから、原因が見えなくなります。
DTMは、操作、音作り、作曲、録音、ミックスが一つの画面に同居しています。この全部を同時に良くしようとすると、どこが原因で曲が伸びないのか分からなくなります。
そこで、作業を工程に分けます。コードを置く、リズムを作る、メロディを乗せる、音量を整える、書き出す。この並びのどこで手が止まったのかを一つに絞ります。
たとえば「曲がダサい」と感じた時。コードはちゃんと鳴っていて、ドラムが同じパターンの繰り返しで単調なだけかもしれません。ドラムは動いているのに、メロディがコードの音に埋もれて主役になっていないだけかもしれません。
工程に切り分けると、「才能がない」という漠然とした不安が、「2小節目のスネアが弱い」「サビの入りが埋もれている」という具体的な作業に変わります。
作曲のレッスンでも、初心者が止まる場所はよく似ています。才能の差ではなく、今見ている画面で何を判断すればよいか分からない、という一点で止まっています。
判断する対象を工程ごとに一つへ減らすと、手が動き出します。
小さく完成させて不安を減らす
手元に何もないと、不安だけが積み上がります。
次にやることは、小さく完成させることです。完成といっても、フルコーラスである必要はありません。4小節のコードに簡単なドラムを重ね、鼻歌のメロディを乗せて、WAVで書き出す。
ここまでで一つの完成です。上手か下手かは問いません。
なぜ小さく完成させるかというと、才能への不安は、手元に何も残っていない時に一番強くなるからです。作りかけのプロジェクトばかりが増えると、「自分は何も作れない」という感覚だけが積み上がります。
逆に、下手でも書き出した音源が5個フォルダに並んでいれば、それは気分では動かせない事実です。不安は、事実の前で少しおとなしくなります。
小さく完成させるもう一つの効果は、工程を一度ぐるっと回れることです。一周すると、自分がどの工程で時間を食うのかが分かります。
コード決めで悩むのか、ドラムで止まるのか。それが分かれば、次に練習する場所も自然に決まります。
ここで大事なのは、4小節を「上手に」作ろうとしないことです。仮のピアノの音、仮のドラムで構いません。良い音色を探し始めると、それだけで時間が溶け、また完成から遠ざかります。
今の段階の目的は、良い音を出すことではなく、最後まで通して書き出す経験を一つ手に入れることです。出来栄えの心配は、書き出した後にすればいい話です。
続けた時間が才能の代わりになる
才能に見えるものの正体は、たいてい積み上げた時間です。
ここで、レッスンでよく伝えている考え方を一つ紹介します。DTMは、ソフトを持っていれば自動で曲ができる道具ではなく、ギターやピアノと同じで、触った時間で慣れていく楽器だということです。
1日5分でも、DAWを開いて昨日の続きを聞き返すだけで、それは立派な練習になります。
才能があるように見える人の多くは、この継続を人より長く重ねてきた人です。毎日触る人と、思い出した時に数時間だけ触る人では、DAWの操作で迷う回数がまるで違います。
操作に迷わなくなると、頭は曲の中身に集中できます。続けた時間は、才能の代わりに使える数少ないものの一つです。
続けるコツは、一回を軽くすることです。今日はドラムを一つ足すだけ、昨日の音源を聞くだけ、と決めておく。
重い目標を毎回課すと、開くのがおっくうになり、間隔が空き、やがて止まります。軽い一回を毎日、が結局いちばん遠くまで運んでくれます。
比べる相手を間違えない
比べていいのは、先週の自分だけです。
配信で流れるプロの曲と、自分の作りかけを聞き比べると、ほぼ確実に落ち込みます。でも、この比較は最初からフェアではありません。
向こうは何十曲も作ってきた人の完成品、こちらは数曲目の途中経過です。走り始めた人がゴールの写真と自分を見比べているようなもので、才能のあるなしとは関係なく落ち込みます。
比べていい相手は一つだけです。先週の自分が書き出した音源。条件がそろっているので、進歩も課題も正しく見えます。
1か月前のドラムと今日のドラムを並べて、少しでもマシになっていれば、それは才能ではなく積み上げの結果です。
ではプロの曲は聞かないほうがいいのかというと、逆です。聞き方を変えます。比較の材料ではなく、観察の資料として聞く。イントロは何秒あるか、サビはどの楽器で厚くなるか、同時に鳴っている音は何本か。
数えるように聞くと、落ち込む暇が減り、代わりに自分の曲へ持ち帰れる発見が増えます。止まっている場所さえ分かれば、次に触る工程は順番が教えてくれます。音出しからフルコーラスまでの流れを1枚で見たい時は、下の制作工程マップを開いてください。
才能で止まる時と工程で進む時
左の考えが浮かんだら、右へ言い換えます。
| 場面 | 才能のせいにする見方 | 工程で見る見方 |
|---|---|---|
| 曲がダサい | センスがないと感じる | ドラムが単調か、メロディが平坦かを探す |
| 完成しない | 根気がないと責める | ゴールを4小節に下げて書き出す |
| 音がプロっぽくない | 耳が悪いと諦める | 音量バランスと音域の重なりを一つ直す |
| 続かない | 向いていないと考える | 1日5分でも同じファイルを開く |
| 人と差を感じる | 才能の差だと結論する | 先週の自分の書き出しと比べる |
よくある疑問
才能がないとDTMは向いていないですか
最初の段階では、才能よりも手順の理解と練習の回数の影響がずっと大きいです。うまく作れない原因の多くは、才能ではなく、まだ順番を知らないか回数が足りないだけです。まず4小節を完成させて書き出すところから始めてください。
何度作ってもダサく聞こえます
全部を一度に直そうとせず、ドラム、コード、メロディ、音量のどれか一つに絞って見てください。「全部だめ」を「2小節目のスネアが弱い」まで小さくすると、直せる課題に変わります。
毎日は時間が取れません
毎日でなくても、短くても構いません。1日5分でもDAWを開いて昨日の続きを聞くだけで、操作の記憶が保てます。続けた時間そのものが、才能の代わりになります。
人と比べて落ち込みます
比べる相手を、プロの完成曲から先週の自分の書き出しに変えてください。条件がそろっている分、成長も課題も正しく見えます。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
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