リズムにノリが出ない時の直し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
コードも音色も悪くないのに、打ち込んだリズムがなぜか楽しくない。行進のように固くて、体が動かない。ノリが出ないという悩みは、打ち込みで最も多いつまずきの1つです。
幸い、原因はだいたい決まっています。全部の音が同じ強さ、タイミングが正確すぎる、ハイハットが平坦、休符がない。この4つです。この記事では、まったく同じ8ビートをベタ打ち・強弱だけ・仕上げ・やりすぎの4段階で用意しました。実際に聞き比べながら、効く順番にほどいていきます。
先に見ること
ノリは足すものではなく、4つの原因で失われているものです。
- 原因は、強弱ゼロ・ジャストすぎ・平坦なハット・休符なしの4つ
- 直す前に、そのリズムを口で歌ってお手本を作る
- 直す順番は、強弱、休符、タイミングの微調整
- 揺らしすぎは逆効果。ずらすのは最後に少しだけ
まず、同じ8ビートを4つ聞いてください
音色もパターンも同じです。変えたのは強さと位置だけ。
説明の前に、耳で確かめるのが早いです。下の4つは、キック・スネア・ハイハットの配置がまったく同じ2小節です。 音源も同じ。違うのはベロシティ(強さ)とタイミング(位置)だけです。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したものです。Cubase付属音源の音でも、講師の演奏の録音でもありません。比べてほしいのは音色ではなく、変えた1点だけです。
マウスで置いたままの状態です。正確なのに、行進のように固く聞こえます。
位置は①と1ミリ秒も動かしていません。裏のハイハットを、鳴った音の大きさで基準比64%まで落とし、キックとスネアを少し強くしただけです。(MIDIのベロシティは音量そのものではなく、音源によって音色も一緒に変わります。ここでは分かりやすさのため、実際に鳴った音の大きさで比べています)それでも、もう別のリズムに聞こえます。
②に、スネアだけをほんの少し後ろへずらしました。テンポ120で23ミリ秒。数字にすると小さいのに、腰の落ち方が変わります。
よくある失敗です。「ノリを出そう」と大きく動かすと、ノリではなく下手な演奏になります。打点の間隔のばらつきは①の2.3ミリ秒に対して65.1ミリ秒。ここまで来ると、リズムが崩れたとしか聞こえません。
条件:BPM 120/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。4本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
| 音源 | スネアの位置 | 裏ハイハットの音量 | 打点間隔のばらつき |
|---|---|---|---|
| ① ベタ打ち | 499ms(グリッド上) | 基準 | 2.3ms |
| ② 強弱だけ | 499ms(変えていない) | 64% | 2.3ms |
| ③ 仕上げ | 522ms(+23ms) | 64% | — |
| ④ 揺らしすぎ | 583ms(+84ms) | ばらばら | 65.1ms |
※ 表の数値は、書き出した音声を解析して測った値です(解析は44.1kHz・モノラルに変換して実施)。tickは4分音符=480tickとして計算しています。テンポ120では4分音符=500msなので、500÷480≒1.04ms。DAWによって1拍あたりのtick数は違うので、自分の環境の値で読み替えてください。
ここで言いたいのは1つだけです。①から②の変化がいちばん大きい、ということ。 このサンプルでは、①→②の差がいちばん大きく感じられます。だから直す順番は、強弱が先、タイミングは最後です。(どちらが大きく聞こえるかには個人差があります。上の4つを自分の耳で確かめてみてください)
原因は4つに分解できる
「なんか固い」を、直せる形に翻訳します。
打ち込みが機械的に聞こえる時、原因は音色ではなく、打ち込んだデータの形にあります。ピアノロールを開いて、4つの点を確かめてください。
1つ目は、全ノートのベロシティ、つまり音の強さが同じ値になっていないか。マウスで打ち込むと初期値のまま並びがちで、人間の演奏にはあり得ない均一さになります。
2つ目は、すべての音がグリッドの線にぴったり張り付いていないか。正確すぎる演奏は、その正確さのせいで冷たく聞こえます。
3つ目は、ハイハットなど細かく刻む音が一本調子になっていないか。刻みが平坦だと、曲全体が平坦に感じられます。
4つ目は、音がすき間なく敷き詰められていないか。休符のないリズムには、呼吸がありません。
大事なのは、ノリを何かで足そうとしないことです。
スウィング機能や新しい音源に手を伸ばす前に、この4つのうちどれが自分のデータで起きているかを特定する。それが最短の道です。
口で歌ってから打つ
お手本は機能の中ではなく、自分の口の中にあります。
直す作業に入る前に、一度マウスから手を離して、そのリズムを口で歌ってみてください。ドッ、タン、ドド、タン、と声に出す。
すると面白いことに、口は勝手にノリを付けます。強く言う所と軽く流す所が生まれ、息継ぎの間も自然に入る。機械のように均一には、そもそも発音できないのです。
たとえば8ビートなら、ドッ、ツ、タン、ツ、と口ずさむと、タンが一番強く、間のツは添える程度の軽さになるはずです。この発音の地図を、そのまま打ち込みへ写すのがこれからやる作業です。
レッスンで軸にしているのは、歌えるものは打てる、という考え方です。口に出せるフレーズには、すでにリズムのイメージが宿っています。
楽器が弾けなくても、口ずさめる形さえあれば、それを打ち込みに写し取れます。逆に、口で歌えないリズムは、頭の中にまだノリの設計図がないということです。
だから、修正のお手本は自分の口になります。歌った時に強く発音した音はベロシティを上げ、軽く流した音は下げる。息継ぎをした場所には休符を置く。
ドラムをゼロから作る場合も同じで、譜面や理屈からではなく、口で言えるリズムをキック、スネア、ハイハットへ置き換えていくと止まりません。
直す順番1:強弱の山と谷を作る
4つの原因のうち、効き目が一番大きいのはここです。
最初に直すのは強弱です。リズムには重心があります。
8ビートなら2拍目と4拍目のスネアが重く、その間を埋めるハイハットは軽い。この重い、軽いの差をベロシティで作ると、同じ配置のままでもリズムが揺れて聞こえ始めます。
特に効くのがハイハットです。8分音符で刻んでいるなら、表の音はそのまま、裏の音だけ2〜3割弱くしてみてください。
それだけで、平坦だった刻みに振り子のような往復運動が生まれます。全部同じ強さの刻みは、楽器ではなく機械の作動音に近づいてしまいます。
ドラム以外も考え方は同じです。ベースにも、コードを刻むギターやピアノにも、強く弾く音と流す音の差を付けます。
数値の正解を探す必要はありません。口で歌った時の強弱を、そのまま数字の高低に写すだけで十分です。
作業自体は見た目より軽いです。ベロシティは多くのDAWで、ノートの色の濃さや画面下の棒グラフとして表示されます。
1本ずつ描き直さなくても、裏拍の音だけをまとめて選択して一括で下げれば、数分で差が付きます。ループ再生を回しっぱなしにして、変えた瞬間の聞こえ方を耳で追いながら進めてください。
上の②が、この工程だけをやった音です。裏拍のハイハットを、鳴った音の大きさで基準比64%まで落とし、キックとスネアを少しだけ持ち上げました。 タイミングは1ミリ秒も動かしていません。それでも①とは別のリズムに聞こえます。数値の正解を探すより、 まず「表を強く、裏を弱く」を実行してみてください。
直す順番2:休符と音の長さ
ノリの半分は、鳴っていない時間が作ります。
次に見るのは休符です。リズムの弾みは、音と音の間の無音が生み出します。
たとえばベースのノートが小節いっぱいにベタッと伸びていると、フレーズは重く沈みます。ノートの端を少し切って、音の間にすき間を作ってみてください。
同じ音程、同じ位置のまま、フレーズが急に弾み出します。
音の数を減らす勇気も要ります。すべての拍が埋まったリズムは、どこにも重心を置けません。
8個並んだハイハットから1個だけ抜く、ベースを1拍分だけ休ませる。抜いた場所の静けさが、次に来る音を強く聞かせるバネになります。
どこを削るか迷ったら、ここでも口で歌って確かめます。歌った時に息継ぎをした場所や、発音を省いた場所が、削ってよい候補です。
この工程の良い所は、何も足さずにできることです。増やすのではなく削る。ノリ作りの作業は、半分くらいがこの引き算です。
※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したものです。Cubase付属音源の音でも、講師の演奏の録音でもありません。
強弱とタイミングの話が続きましたが、休符も音で確かめられます。 下の3つは、ドラムがまったく同じで、ベースの音の長さと数だけを変えています。 音程も、置いた位置も、強さも同じです。
音が途切れないので、重く沈んで聞こえます。ピアノロールでは1本の長い棒になっています。
同じ音程、同じ位置のままです。音の後ろに隙間ができただけで、フレーズが弾み始めます。
抜いた場所の静けさが、次に来る音を強く聞かせます。ノリ作りの半分は、この引き算です。
条件:BPM 120/2小節/ベースとドラム。3本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。
鳴っている時間の割合は、置いた音の長さを合計して2小節ぶんで割った値です (99% → 46% → 34%)。音を足したのではなく、減らしただけで前へ進み始めます。
直す順番3:タイミングは最後に少し
揺らしは仕上げの一振りで、土台ではありません。
強弱と休符が整ったら、最後にタイミングです。グリッドにぴったりの音をほんのわずかに前後へ動かすと、突っ込む勢いや、タメの粘りが生まれます。
ハイハットの裏だけをごくわずかに遅らせる、スネアを気持ち後ろに置く、といった具合です。
ただし、ここには揺らしすぎという有名な落とし穴があります。動かす量が大きいと、ノリではなく、ただ下手な演奏に聞こえます。何種類もの楽器を同時に揺らすと、何が効いたのかも分からなくなります。
ずらすのは1種類の楽器から。量は、聞いてぎりぎり分かるかどうかの範囲から。気持ち悪くなったら、いつでもジャストへ戻せるのが打ち込みの強みです。
心地よい揺れの方向は曲調で変わります。ゆったりした曲なら後ろへ残す方向、前のめりの曲なら前へ突っ込む方向。手本にしたい曲を聞いて、どちらに寄っているかをまねるのが早道です。
タイミングを最後に回すのには理由があります。強弱と休符が整った時点で、ノリの大部分はすでに出ているからです。
ジャストのままでも、強弱がしっかりしたリズムは十分に躍動します。逆に、強弱が平坦なままタイミングだけ揺らすと、酔ったように頼りないリズムになります。
ここで1つ、ややこしい点を整理します。ランダムに揺らすのと、一定量だけ後ろへ置くのは別物です。ランダムな揺れはキックとスネアには使いません(土台がぶれます)。一方、上の③でやったようにスネア全体を一定量だけ後ろへ置くのは、方向のある操作なので土台は崩れません。迷ったら、まずハイハットなどの脇役から試してください。
ノリの直し方が身につくと、ドラムとベースを打つ作業そのものが楽しくなり、曲の土台が安定します。その土台の上に何をどの順で重ねるかは、制作工程マップで確認できます。
症状からの逆引き表
聞こえ方の違和感から、触る場所を探します。
| 聞こえ方 | 原因 | 直す場所 |
|---|---|---|
| 行進のように固い | 強弱がない | スネアとハットにベロシティの山谷を作る |
| のっぺりして退屈 | 刻みが一本調子 | ハイハットの表を強く、裏を弱く |
| 重くて弾まない | 休符がない | ノートの端を切り、音を1つ抜く |
| 正確なのに冷たい | ジャストすぎる | 仕上げに脇役1つだけ微妙にずらす |
| 揺らしたら下手に聞こえる | 揺らしすぎ | ジャストに戻し、強弱からやり直す |
よくある疑問
スウィング機能を使えばノリは出ますか
跳ねたジャンルには有効ですが、強弱が平坦なままかけても効果は薄いです。スウィングはタイミングだけを動かす機能なので、先にベロシティの山と谷を作ってから試してください。
タイミングはどれくらいずらせばいいですか
数値の正解はありません。聞いてぎりぎり分かるかどうかの量から試します。はっきりズレて聞こえたら動かしすぎです。迷ったら一度ジャストへ戻して、強弱の調整からやり直します。
ヒューマナイズ機能でランダムに揺らすのはありですか
ランダムな揺れと、方向のあるノリは別物です。使うならハイハットなど脇役に薄くかける程度にして、キックとスネアの土台には使わないほうが安全です。
結局、何ミリ秒ずらすのが正解ですか
この記事の③はテンポ120でスネアを23ミリ秒後ろに置いています。人が「重い・軽い」と感じ始めるのは十数ミリ秒からで、④の84ミリ秒まで行くと崩れて聞こえます。目安は20ミリ秒前後、テンポが速い曲ではもっと小さく。数値を覚えるより、①から④を聞いて自分の耳の許容範囲を掴む方が早いです。
ドラム音源を変えればノリは出ますか
音色の質感は変わりますが、ノリはデータの形が作るものです。同じベロシティ、同じ位置のまま音源だけ替えても、固さはそのまま残ります。先にデータを直してください。
同じ8ビートを、3つの表情で比べる
ジャスト/後ノリ(スネア +22tick)/スウィングの8ビートMIDIを3つ、無料でお送りしています。音色は同じで、動かしたのはタイミングとベロシティだけ。実際の音の違いはこちらで聞き比べられます。
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ノリの直ったリズムを土台に、曲を組み立てる記事です。