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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

リズムにノリが出ない時の直し方

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

コードも音色も悪くないのに、打ち込んだリズムがなぜか楽しくない。行進のように固くて、体が動かない。ノリが出ないという悩みは、打ち込みで最も多いつまずきの1つです。

幸い、原因はだいたい決まっています。全部の音が同じ強さ、タイミングが正確すぎる、ハイハットが平坦、休符がない。この4つです。この記事では、まったく同じ8ビートをベタ打ち・強弱だけ・仕上げ・やりすぎの4段階で用意しました。実際に聞き比べながら、効く順番にほどいていきます。

先に見ること

ノリは足すものではなく、4つの原因で失われているものです。

  • 原因は、強弱ゼロ・ジャストすぎ・平坦なハット・休符なしの4つ
  • 直す前に、そのリズムを口で歌ってお手本を作る
  • 直す順番は、強弱、休符、タイミングの微調整
  • 揺らしすぎは逆効果。ずらすのは最後に少しだけ

まず、同じ8ビートを4つ聞いてください

音色もパターンも同じです。変えたのは強さと位置だけ。

説明の前に、耳で確かめるのが早いです。下の4つは、キック・スネア・ハイハットの配置がまったく同じ2小節です。 音源も同じ。違うのはベロシティ(強さ)とタイミング(位置)だけです。

※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したものです。Cubase付属音源の音でも、講師の演奏の録音でもありません。比べてほしいのは音色ではなく、変えた1点だけです。

① ベタ打ち全ノート velocity 88・すべてグリッド上
① ベタ打ちのピアノロール。全ノート velocity 88・すべてグリッド上

マウスで置いたままの状態です。正確なのに、行進のように固く聞こえます。

② 強弱だけ付けたタイミングはジャストのまま・裏ハットを弱く
② 強弱だけ付けたのピアノロール。タイミングはジャストのまま・裏ハットを弱く

位置は①と1ミリ秒も動かしていません。裏のハイハットを、鳴った音の大きさで基準比64%まで落とし、キックとスネアを少し強くしただけです。(MIDIのベロシティは音量そのものではなく、音源によって音色も一緒に変わります。ここでは分かりやすさのため、実際に鳴った音の大きさで比べています)それでも、もう別のリズムに聞こえます。

③ 仕上げにタイミングスネアを +22tick(実測 +23ms)後ろへ
③ 仕上げにタイミングのピアノロール。スネアを +22tick(実測 +23ms)後ろへ

②に、スネアだけをほんの少し後ろへずらしました。テンポ120で23ミリ秒。数字にすると小さいのに、腰の落ち方が変わります。

④ 揺らしすぎ(失敗例)スネア +80tick(実測 +84ms)・ハット ±40tick
④ 揺らしすぎ(失敗例)のピアノロール。スネア +80tick(実測 +84ms)・ハット ±40tick

よくある失敗です。「ノリを出そう」と大きく動かすと、ノリではなく下手な演奏になります。打点の間隔のばらつきは①の2.3ミリ秒に対して65.1ミリ秒。ここまで来ると、リズムが崩れたとしか聞こえません。

条件:BPM 120/2小節/このサイトで合成したドラム(キック・スネア・ハイハット)。4本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。

音源スネアの位置裏ハイハットの音量打点間隔のばらつき
① ベタ打ち499ms(グリッド上)基準2.3ms
② 強弱だけ499ms(変えていない)64%2.3ms
③ 仕上げ522ms(+23ms)64%—
④ 揺らしすぎ583ms(+84ms)ばらばら65.1ms

※ 表の数値は、書き出した音声を解析して測った値です(解析は44.1kHz・モノラルに変換して実施)。tickは4分音符=480tickとして計算しています。テンポ120では4分音符=500msなので、500÷480≒1.04ms。DAWによって1拍あたりのtick数は違うので、自分の環境の値で読み替えてください。

ここで言いたいのは1つだけです。①から②の変化がいちばん大きい、ということ。 このサンプルでは、①→②の差がいちばん大きく感じられます。だから直す順番は、強弱が先、タイミングは最後です。(どちらが大きく聞こえるかには個人差があります。上の4つを自分の耳で確かめてみてください)

原因は4つに分解できる

「なんか固い」を、直せる形に翻訳します。

打ち込みが機械的に聞こえる時、原因は音色ではなく、打ち込んだデータの形にあります。ピアノロールを開いて、4つの点を確かめてください。

1つ目は、全ノートのベロシティ、つまり音の強さが同じ値になっていないか。マウスで打ち込むと初期値のまま並びがちで、人間の演奏にはあり得ない均一さになります。

2つ目は、すべての音がグリッドの線にぴったり張り付いていないか。正確すぎる演奏は、その正確さのせいで冷たく聞こえます。

3つ目は、ハイハットなど細かく刻む音が一本調子になっていないか。刻みが平坦だと、曲全体が平坦に感じられます。

4つ目は、音がすき間なく敷き詰められていないか。休符のないリズムには、呼吸がありません。

大事なのは、ノリを何かで足そうとしないことです。

スウィング機能や新しい音源に手を伸ばす前に、この4つのうちどれが自分のデータで起きているかを特定する。それが最短の道です。

口で歌ってから打つ

お手本は機能の中ではなく、自分の口の中にあります。

直す作業に入る前に、一度マウスから手を離して、そのリズムを口で歌ってみてください。ドッ、タン、ドド、タン、と声に出す。

すると面白いことに、口は勝手にノリを付けます。強く言う所と軽く流す所が生まれ、息継ぎの間も自然に入る。機械のように均一には、そもそも発音できないのです。

たとえば8ビートなら、ドッ、ツ、タン、ツ、と口ずさむと、タンが一番強く、間のツは添える程度の軽さになるはずです。この発音の地図を、そのまま打ち込みへ写すのがこれからやる作業です。

レッスンで軸にしているのは、歌えるものは打てる、という考え方です。口に出せるフレーズには、すでにリズムのイメージが宿っています。

楽器が弾けなくても、口ずさめる形さえあれば、それを打ち込みに写し取れます。逆に、口で歌えないリズムは、頭の中にまだノリの設計図がないということです。

だから、修正のお手本は自分の口になります。歌った時に強く発音した音はベロシティを上げ、軽く流した音は下げる。息継ぎをした場所には休符を置く。

ドラムをゼロから作る場合も同じで、譜面や理屈からではなく、口で言えるリズムをキック、スネア、ハイハットへ置き換えていくと止まりません。

直す順番1:強弱の山と谷を作る

4つの原因のうち、効き目が一番大きいのはここです。

最初に直すのは強弱です。リズムには重心があります。

8ビートなら2拍目と4拍目のスネアが重く、その間を埋めるハイハットは軽い。この重い、軽いの差をベロシティで作ると、同じ配置のままでもリズムが揺れて聞こえ始めます。

特に効くのがハイハットです。8分音符で刻んでいるなら、表の音はそのまま、裏の音だけ2〜3割弱くしてみてください。

それだけで、平坦だった刻みに振り子のような往復運動が生まれます。全部同じ強さの刻みは、楽器ではなく機械の作動音に近づいてしまいます。

ドラム以外も考え方は同じです。ベースにも、コードを刻むギターやピアノにも、強く弾く音と流す音の差を付けます。

数値の正解を探す必要はありません。口で歌った時の強弱を、そのまま数字の高低に写すだけで十分です。

作業自体は見た目より軽いです。ベロシティは多くのDAWで、ノートの色の濃さや画面下の棒グラフとして表示されます。

1本ずつ描き直さなくても、裏拍の音だけをまとめて選択して一括で下げれば、数分で差が付きます。ループ再生を回しっぱなしにして、変えた瞬間の聞こえ方を耳で追いながら進めてください。

上の②が、この工程だけをやった音です。裏拍のハイハットを、鳴った音の大きさで基準比64%まで落とし、キックとスネアを少しだけ持ち上げました。 タイミングは1ミリ秒も動かしていません。それでも①とは別のリズムに聞こえます。数値の正解を探すより、 まず「表を強く、裏を弱く」を実行してみてください。

直す順番2:休符と音の長さ

ノリの半分は、鳴っていない時間が作ります。

次に見るのは休符です。リズムの弾みは、音と音の間の無音が生み出します。

たとえばベースのノートが小節いっぱいにベタッと伸びていると、フレーズは重く沈みます。ノートの端を少し切って、音の間にすき間を作ってみてください。

同じ音程、同じ位置のまま、フレーズが急に弾み出します。

音の数を減らす勇気も要ります。すべての拍が埋まったリズムは、どこにも重心を置けません。

8個並んだハイハットから1個だけ抜く、ベースを1拍分だけ休ませる。抜いた場所の静けさが、次に来る音を強く聞かせるバネになります。

どこを削るか迷ったら、ここでも口で歌って確かめます。歌った時に息継ぎをした場所や、発音を省いた場所が、削ってよい候補です。

この工程の良い所は、何も足さずにできることです。増やすのではなく削る。ノリ作りの作業は、半分くらいがこの引き算です。

※ 以下の音は、説明用にこのサイトで合成したものです。Cubase付属音源の音でも、講師の演奏の録音でもありません。

強弱とタイミングの話が続きましたが、休符も音で確かめられます。 下の3つは、ドラムがまったく同じで、ベースの音の長さと数だけを変えています。 音程も、置いた位置も、強さも同じです。

① ベタ伸ばしベース2音・1小節ずっと鳴りっぱなし(鳴っている時間 99%)
① ベタ伸ばしのピアノロール。ベース2音・1小節ずっと鳴りっぱなし(鳴っている時間 99%)

音が途切れないので、重く沈んで聞こえます。ピアノロールでは1本の長い棒になっています。

② 音を切るベース8音・長さを8分に(鳴っている時間 46%)
② 音を切るのピアノロール。ベース8音・長さを8分に(鳴っている時間 46%)

同じ音程、同じ位置のままです。音の後ろに隙間ができただけで、フレーズが弾み始めます。

③ さらに1音抜くベース6音・3拍目を休符に(鳴っている時間 34%)
③ さらに1音抜くのピアノロール。ベース6音・3拍目を休符に(鳴っている時間 34%)

抜いた場所の静けさが、次に来る音を強く聞かせます。ノリ作りの半分は、この引き算です。

条件:BPM 120/2小節/ベースとドラム。3本とも同じ音色・同じ音量で書き出しています。

鳴っている時間の割合は、置いた音の長さを合計して2小節ぶんで割った値です (99% → 46% → 34%)。音を足したのではなく、減らしただけで前へ進み始めます。

直す順番3:タイミングは最後に少し

揺らしは仕上げの一振りで、土台ではありません。

強弱と休符が整ったら、最後にタイミングです。グリッドにぴったりの音をほんのわずかに前後へ動かすと、突っ込む勢いや、タメの粘りが生まれます。

ハイハットの裏だけをごくわずかに遅らせる、スネアを気持ち後ろに置く、といった具合です。

ただし、ここには揺らしすぎという有名な落とし穴があります。動かす量が大きいと、ノリではなく、ただ下手な演奏に聞こえます。何種類もの楽器を同時に揺らすと、何が効いたのかも分からなくなります。

ずらすのは1種類の楽器から。量は、聞いてぎりぎり分かるかどうかの範囲から。気持ち悪くなったら、いつでもジャストへ戻せるのが打ち込みの強みです。

心地よい揺れの方向は曲調で変わります。ゆったりした曲なら後ろへ残す方向、前のめりの曲なら前へ突っ込む方向。手本にしたい曲を聞いて、どちらに寄っているかをまねるのが早道です。

タイミングを最後に回すのには理由があります。強弱と休符が整った時点で、ノリの大部分はすでに出ているからです。

ジャストのままでも、強弱がしっかりしたリズムは十分に躍動します。逆に、強弱が平坦なままタイミングだけ揺らすと、酔ったように頼りないリズムになります。

ここで1つ、ややこしい点を整理します。ランダムに揺らすのと、一定量だけ後ろへ置くのは別物です。ランダムな揺れはキックとスネアには使いません(土台がぶれます)。一方、上の③でやったようにスネア全体を一定量だけ後ろへ置くのは、方向のある操作なので土台は崩れません。迷ったら、まずハイハットなどの脇役から試してください。

ノリの直し方が身につくと、ドラムとベースを打つ作業そのものが楽しくなり、曲の土台が安定します。その土台の上に何をどの順で重ねるかは、制作工程マップで確認できます。

症状からの逆引き表

聞こえ方の違和感から、触る場所を探します。

聞こえ方原因直す場所
行進のように固い強弱がないスネアとハットにベロシティの山谷を作る
のっぺりして退屈刻みが一本調子ハイハットの表を強く、裏を弱く
重くて弾まない休符がないノートの端を切り、音を1つ抜く
正確なのに冷たいジャストすぎる仕上げに脇役1つだけ微妙にずらす
揺らしたら下手に聞こえる揺らしすぎジャストに戻し、強弱からやり直す

よくある疑問

スウィング機能を使えばノリは出ますか

跳ねたジャンルには有効ですが、強弱が平坦なままかけても効果は薄いです。スウィングはタイミングだけを動かす機能なので、先にベロシティの山と谷を作ってから試してください。

タイミングはどれくらいずらせばいいですか

数値の正解はありません。聞いてぎりぎり分かるかどうかの量から試します。はっきりズレて聞こえたら動かしすぎです。迷ったら一度ジャストへ戻して、強弱の調整からやり直します。

ヒューマナイズ機能でランダムに揺らすのはありですか

ランダムな揺れと、方向のあるノリは別物です。使うならハイハットなど脇役に薄くかける程度にして、キックとスネアの土台には使わないほうが安全です。

結局、何ミリ秒ずらすのが正解ですか

この記事の③はテンポ120でスネアを23ミリ秒後ろに置いています。人が「重い・軽い」と感じ始めるのは十数ミリ秒からで、④の84ミリ秒まで行くと崩れて聞こえます。目安は20ミリ秒前後、テンポが速い曲ではもっと小さく。数値を覚えるより、①から④を聞いて自分の耳の許容範囲を掴む方が早いです。

ドラム音源を変えればノリは出ますか

音色の質感は変わりますが、ノリはデータの形が作るものです。同じベロシティ、同じ位置のまま音源だけ替えても、固さはそのまま残ります。先にデータを直してください。

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ノリの直ったリズムを土台に、曲を組み立てる記事です。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。