ソフト音源とは

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ソフト音源とは、パソコンの中で動く楽器のことです。DTMでピアノやドラムの音が鳴るのは、本物の楽器を録音しているからではなく、このソフト音源が演奏情報を受け取って音を出しているからです。
楽器を1つも持っていなくても、DAWを入れた時点でピアノもドラムもベースも手元にあります。
ソフト音源という言葉の中身と、エフェクトとの区別、追加購入を考える時の見方までを順番に説明します。
先に押さえること
ソフト音源はパソコンの中の楽器です。買い足す前に付属で1曲作ります。
- MIDIの演奏情報を受け取り、楽器の音に変えて鳴らす
- 音を出すのが音源、出た音を加工するのがエフェクト
- 主要なDAWには基本の楽器がひと通り付属している
- 選ぶ基準は音色の良さより、止まらずに動くこと
パソコンの中の楽器
まず、何をしてくれる道具なのかをつかみます。
ソフト音源は、パソコンの中に入れた楽器です。本物のピアノは鍵盤を押すとハンマーが弦を叩いて音が出ます。
ソフト音源は、MIDIキーボードやマウスで入力した「どの高さの音を、いつ、どのくらいの強さで」という情報を受け取り、それをピアノやドラムの音にして返してくれます。
DAWで使う時は、インストゥルメントトラックという楽器用のトラックを作り、そこにソフト音源を1つ立ち上げます。
トラックが体、音源が楽器、打ち込んだMIDIが楽譜、という関係です。楽譜を書き換えれば同じ楽器で違う演奏になり、楽器を差し替えれば同じ楽譜が違う音で鳴ります。
この「演奏の情報」と「音を出す係」が分かれていることが、ソフト音源のいちばん便利なところです。ピアノで打ち込んだフレーズを、後からエレピやストリングスに差し替えても、音の高さやタイミングはそのまま残ります。
録音した歌やギターにはこの差し替えができません。オーディオはすでに完成した音、ソフト音源はこれから音になる楽器、と分けて覚えておくと混乱しにくくなります。
ハード音源との違い
昔は箱、今はソフト。役割は同じです。
ソフト音源に対して、ハード音源という言葉もあります。ハード音源は、音を出す機能を専用の機械に収めたものです。
かつての制作では、ラックに積んだ音源モジュールやシンセの実機をMIDIケーブルでつなぎ、そこから音を出していました。
ソフト音源は、その機械の中身をパソコンのプログラムにしたものです。役割は同じで、置き場所が変わったと考えれば十分です。
機械の数だけ場所とお金が必要だったものが、今は1台のパソコンの中にピアノもドラムもオーケストラも入ります。
初心者にとって大事なのは、ハード音源を買う必要はないという点です。現在のDTMはソフト音源が中心で、DAWを入れれば音を出す環境はそろいます。中古の音源モジュールを先に探すような回り道はいりません。
ソフト音源側の弱点は、パソコンの力を借りることです。重い音源をたくさん立ち上げると、動作が遅くなったり音が途切れたりします。この性質は後の「選び方」に関わってくるので、頭の隅に置いておいてください。
音源とエフェクトの区別
音を出す係と、音を変える係を分けます。
DAWに追加できるものには、音源のほかにエフェクトがあります。見た目はどちらも「あとから足すソフト」なので、初心者はここでよく混ざります。
区別はひとつだけです。音を出すのが音源、出た音を加工するのがエフェクトです。
料理にたとえると、音源は食材で、エフェクトは調味料です。リバーブやEQといったエフェクトは、すでにある音に響きを足したり、こもりを取ったりします。
食材がないのに調味料だけ振っても料理にならないのと同じで、音源のないトラックにエフェクトを挿しても何も鳴りません。
「トラックを作ってプラグインを入れたのに無音」という相談は、レッスンでもよくある停止点です。開いてみると、音源を立ち上げるつもりでエフェクトを挿していた、というケースが目立ちます。
鳴らない時は、そのトラックに音を出す係がいるかを最初に確認してください。
DAWのメニューでも、音源とエフェクトは別の一覧に分かれていることがほとんどです。楽器の名前が並ぶ側が音源、リバーブやコンプレッサーが並ぶ側がエフェクト。この見分けができれば、用語の半分は片づいています。
付属音源でまず十分
最初の1曲に、追加購入はいりません。
主要なDAWには、ピアノ、ドラム、ベース、シンセ、ストリングスといった基本の楽器がはじめから付属しています。無料のDAWでも、最低限の楽器は用意されています。
つまりDAWを入れた時点で、1曲分の編成はもう手元にあります。
それでも「付属はしょぼいのでは」と不安になり、先に追加の音源を探し始める人が多くいます。ここが最初の分かれ道です。
付属音源で困るのは、特定のジャンルでリアルさを突き詰めたくなった段階で、コードとドラムとメロディを形にする段階では、ほとんど困りません。
むしろ付属音源には、はじめから動作が安定していて、探す時間がゼロという強みがあります。音色を選ぶ画面で1時間迷うより、付属のピアノで4小節打ち込むほうが、曲は確実に進みます。
順番としては、付属音源で1曲完成させて、その過程で「ドラムだけ物足りない」のような具体的な不満を見つけてから、その1点だけ追加を検討します。不満が言葉にできない段階の買い物は、たいてい使わないまま終わります。
付属と追加購入の比べ方
何が変わり、何が変わらないかを分けます。
| 見る点 | DAW付属の音源 | 追加で買う音源 |
|---|---|---|
| 費用 | DAW代に含まれる | 1つ数千円から数万円 |
| 導入の手間 | なし。すぐ使える | 購入、インストール、認証が必要 |
| 音の傾向 | 広く浅く、ひと通りそろう | 特定の楽器やジャンルに深い |
| 動作の安定 | DAWと一緒に検証済みで安定しやすい | 環境によっては重い、相性問題もある |
| 向いている段階 | 1曲目から数曲目まで | 足りない音が具体的に言えるようになってから |
選ぶ基準は止まらないこと
音色の良さは、動いてはじめて意味を持ちます。
いずれ音源を買い足す時のために、選び方の軸を1つだけ渡しておきます。音色の良さより、制作が止まらないことを優先する、という軸です。
機材をそろえる場面でレッスンでも伝えているのは、買い物を増やす前に、音が鳴る、録音できる、再生できる、保存できる状態を先に作ることです。音源選びもこの延長にあります。
どれだけ音が良くても、読み込みに数分かかる、鳴らすたびに動作が重くなる、認証エラーで開かない、という音源は制作を止めます。
止まるたびに集中が切れ、DAWを開くこと自体が億劫になります。初心者にとっての最大の敵は音の質ではなく、手が止まることです。
だから確認する順番は、自分のパソコンの性能で動くか、容量は足りるか、体験版で試せるか、が先です。音のデモを聞き比べるのはその後で構いません。
プロ用の巨大な音源ほど要求スペックが高く、環境が追いつかないと宝の持ち腐れになります。
この軸で見ると、付属音源が最初の1本として優秀な理由もはっきりします。すでに動いていて、止まる要素が最も少ないからです。音色の追求は、曲が完成する習慣がついてからで遅くありません。
最後に小さな整理術をひとつ。付属音源を眺めていて気に入った楽器を見つけたら、お気に入り登録やメモで印をつけておきましょう。
次の曲で音を探す時間が一気に減り、手持ちの楽器の顔ぶれが頭に入ります。持っている音を把握していることは、たくさん持っていることより制作を速くします。
よくある疑問
ソフト音源とは何ですか
パソコンの中で動く楽器のことです。DAWのトラックに立ち上げると、MIDIで打ち込んだ演奏情報をピアノやドラムの音に変えて鳴らしてくれます。
ソフト音源とエフェクトはどう違いますか
音源は音を出す側、エフェクトは出た音を加工する側です。音源がないトラックにエフェクトだけ挿しても、加工する材料がないので何も鳴りません。
DAW付属の音源だけで曲は作れますか
作れます。主要なDAWにはピアノ、ドラム、ベースなど基本の楽器が最初から入っています。1曲目はまず付属音源で完成させるのがおすすめです。
追加の音源はいつ買えばいいですか
付属音源で1曲作り、足りない音がはっきりしてからで十分です。買う時も音色の良さだけでなく、自分のパソコンで止まらず動くかを確認します。
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