トラックとは

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DAWの画面に並んでいる横長のレーン、あれがトラックです。
ボーカル用、ギター用、ドラム用と楽器ごとに1本ずつ用意して、それぞれの音を分けて置きます。
バンドの演奏を1本のマイクでまとめて録るのではなく、パートごとに別々に録って後から混ぜる。昔からある多重録音の仕組みを、画面の上に並べ直したものです。
分けて置く理由は単純で、後からパートごとにいじれるからです。歌だけ大きくする、ドラムだけ差し替える。
全部が1つに混ざっていたら、こうした調整はできません。
以下では、トラックの種類、1トラック1役割という使い方の原則、増えてきた時の整理までを順番に説明します。
先に見ること
トラックは「楽器ごとに音を分けて置くレーン」です。
- 分けて置くから、後からパートごとに直せる
- 種類は大きくオーディオ、インストゥルメント、整理用の3つ
- 使い方の原則は1トラック1役割
- 増えてきたら名前と色とフォルダーで整理する
トラックは楽器ごとのレーン
多重録音の仕組みが分かると、画面の見え方が変わります。
レコーディングスタジオでは昔から、ドラム、ベース、ギター、歌を同時に1本へ録るのではなく、テープの中の別々の帯に分けて録音してきました。
帯が分かれていれば、録り終わった後でも歌だけ録り直せますし、ギターだけ音量を下げられます。この帯の1本1本をトラックと呼びます。
DAWのトラックは、このテープの帯をそのまま画面に持ってきたものです。画面の左端にトラックの名前と音量つまみが縦に並び、右側へ向かって時間が流れます。
ドラムのトラックにはドラムの音だけ、歌のトラックには歌だけ。横に読むと1つの楽器の演奏、縦に読むとその瞬間に鳴っている全部の音、という見方になります。
料理に例えるなら、トラックは仕切りのあるお弁当箱です。ご飯とおかずが仕切りで分かれているから、後から唐揚げだけ足せます。
全部を混ぜて詰めてしまうと、1品だけ取り替えることはできません。曲作りで「後から直せる状態」を保つ仕組みが、トラックだと考えてください。
なお、トラック数に神経質になる必要はありません。最近のDAWは何十本並べても動くのが普通です。
まずは2〜3本から始めて、パートが増えるたびに1本足す。それで十分です。
トラックの種類は大きく3つ
置くものが違うと、トラックの種類も変わります。
1つ目はオーディオトラックです。マイクやギターから録音した音、パソコンに入っている音声ファイルを置きます。
中身は音そのものなので、画面には波形というギザギザの絵で表示されます。
2つ目はインストゥルメントトラックです。こちらに置くのは音ではなく、MIDIという演奏情報です。
「ドの音を1拍分、この強さで」というメモ書きだけを置いておき、再生の瞬間にソフト音源がそのメモを読んで演奏します。ピアノやドラムの打ち込みはこちらを使います。
3つ目は、音を置かない整理用・ミックス用のトラックです。
複数のトラックの音をまとめて受け取るグループトラック、リバーブなどの響きを複数のパートで共有するためのFXトラック、増えたトラックをたたんで束ねるフォルダートラックなどがあります。
名前はDAWによって少し違いますが、役割はどれも似ています。
| 種類 | 置くもの | 主な使いどころ |
|---|---|---|
| オーディオトラック | 録音した音・音声ファイル(波形) | 歌やギターの録音、ループ素材の読み込み |
| インストゥルメントトラック | MIDIの演奏情報 | ピアノ、ドラム、ベースの打ち込み |
| グループトラック | 他トラックのまとめ先 | ドラム一式の音量を1本で上げ下げ |
| FXトラック | エフェクトのかかり先 | 複数パートで同じ響きを共有 |
| フォルダートラック | トラックそのもの | 増えたトラックをたたんで整理 |
初心者のうちに使うのは、上の2つだけです。録った音はオーディオトラック、打ち込みはインストゥルメントトラック。
この対応さえ覚えれば、残りは必要になった時に足せば間に合います。
1トラック1役割の原則
迷ったら「1本に1つの仕事」に戻ります。
トラックの使い方には、シンプルな原則があります。1本のトラックには1つの役割だけを持たせる、というものです。
ピアノのトラックにはピアノだけ。ドラムと一緒に入れない。歌のトラックにコーラスを混ぜない。
理由は、音量、左右の位置、エフェクトといった調整が、すべてトラック単位でかかるからです。
ピアノとドラムを同じトラックに入れてしまうと、ピアノだけ小さくしたい時に手が出せません。分けてさえあれば、つまみを1つ動かすだけで済みます。
役割で分けると、名前も付けやすくなります。「ピアノ」「キック」「コーラス右」のように、聞けば中身が分かる名前を付けられるのは、1本の中身が1つだからです。
逆に「いろいろ入っているトラック」には名前の付けようがなく、1週間後の自分が開いた時に必ず迷子になります。
ただし、例外を怖がる必要はありません。鼻歌のメモを仮で置いておく、試しに置いた音を一時的に同居させる。
下書きの段階ならそれで構いません。曲の形が見えてきた段階で、役割ごとに分け直せば大丈夫です。
最初のトラックを作って鳴らす
手順は3ステップで足ります。
手を動かして確かめましょう。どのDAWでも、トラックを増やす操作はほぼ共通です。
トラックが並んでいる場所で右クリックするか、メニューから「トラックを追加」を選び、種類を選びます。
打ち込みで試すなら、インストゥルメントトラックを選んでピアノ系の音源を1つ立ち上げてください。
次に、鍵盤やマウスで音を1つ置いて再生します。音が鳴ったら、もう1本トラックを追加して、今度はドラムを置きます。
この時点で画面には2本のレーンが並び、ピアノとドラムを別々に音量調整できる状態ができています。トラックの意味は、この2本目を作った瞬間に体感できます。
制作の現場では、作業に入る前に使いそうなドラム、ベース、鍵盤の音源をトラックとして先に立ち上げておく、という判断をよく使います。
思いついたフレーズをすぐ置ける状態を作っておくと、音色探しで手が止まらないからです。トラックを並べる作業は、曲を作る前の机の準備でもあります。
最後に保存して閉じ、開き直してみてください。並べたトラックがそのまま残っていれば、トラックを作る・鳴らす・残すという一連の流れは通過です。
増えすぎた時の整理
整理の道具は、名前、色、フォルダーの3つです。
曲を作り進めると、トラックは自然に増えます。10本を超えたあたりから「あの音どこだっけ」が始まり、20本を超えると探す時間のほうが長くなりがちです。
ここで効くのが、名前、色、フォルダーの3点セットです。
まず名前です。DAWが自動で付ける「Audio 01」のような名前を放置しないでください。
録った直後、置いた直後に「リードボーカル」「アコギ左」のように付け直します。10秒の手間で、後日の捜索時間が消えます。
次に色です。多くのDAWはトラックに色を付けられます。
ドラム系は赤、ボーカル系は黄色、のようにパートの系統ごとに色をそろえると、画面を離れて見ただけで曲の構造がつかめます。色のルールは自分が覚えられれば何でも構いません。
最後にフォルダーです。コーラスが5本、ドラムが8本と増えたら、フォルダートラックにまとめて普段はたたんでおきます。
さらに、最後まで使わなかったトラックは思い切って削除します。もし消すのが不安なら、プロジェクトを別名で保存してから消せば、いつでも戻れます。
整理されたトラックの並びは、それ自体が曲の設計図になります。
よくある疑問
トラックとは何ですか
DAWの中で、音を楽器ごとに分けて置く横長のレーンです。ボーカル、ギター、ドラムを別々のトラックに置くと、それぞれを個別に調整できます。
オーディオトラックとインストゥルメントトラックはどう違いますか
オーディオトラックは録音した音や音声ファイルを置く場所、インストゥルメントトラックはMIDIで打ち込んだ演奏情報をソフト音源で鳴らす場所です。
1つのトラックに複数の楽器を入れてもいいですか
原則は1トラック1役割です。音量やエフェクトはトラック単位でかかるため、混ぜると片方だけ直すことができなくなります。
トラックはいくつまで増やせますか
多くのDAWでは本数の上限を気にする必要はありません。ただしパソコンの性能によって同時に処理できる量は変わるので、鳴っていないトラックは整理します。
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