MIDIとは

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DTMを始めると、MIDIという言葉があちこちに出てきます。MIDIキーボード、MIDIファイル、MIDIトラック、MIDI打ち込み。同じ3文字なのに指しているものが違って見えて、結局MIDIが何なのか分からなくなる。入門期に多いつまずきです。
中身は1つです。MIDIは音そのものではなく、「どの音を、いつ、どれくらいの強さで鳴らすか」という演奏の指示を記録したデータ。楽譜に近いものだと考えると、ケーブルもファイルも打ち込みも、全部同じ地図の上に置けます。
先に押さえること
MIDIは「演奏の指示書」で、音を出すのは音源の仕事です。
- MIDIデータの中に音は入っていない。指示だけ
- オーディオは録れた音そのもの。MIDIは後から音程も音色も変えられる
- ケーブル・ファイル・打ち込みは、同じ規格の別の顔
- 音が出ない時は、指示を読む音源がいるかを見る
MIDIは音ではなく演奏の指示書
データの中に、音は1秒も入っていません。
MIDIデータに録音された音は含まれていません。入っているのは指示だけです。
「ドの音を、1小節目の頭から、1拍分、やや強めに鳴らす」。こうした指示が時間順に並んだものがMIDIです。楽譜と同じで、紙そのものは鳴りません。
音にするのは音源の仕事です。DAWの中では、ピアノやドラムの音色を持ったソフト音源がMIDIの指示を読み、その通りに演奏します。
スピーカーから聞こえているのはMIDIではなく、音源が指示を再現した音です。楽譜と演奏者、という分業がそのままソフトの中にあります。
この分業が分かると、ピアノロールの画面も読めるようになります。並んでいる横棒のノート1本1本が指示で、縦の位置が音の高さ、横の幅が長さ、色の濃さが強さ。
五線譜が読めない人でも書ける楽譜、と言ってもいいくらいです。
逆に言うと、指示を読む音源がいなければ、ノートをいくら並べても無音のままです。楽譜だけ置いて演奏者が席にいない状態。
この仕組みは、後半で扱う「音が出ない」トラブルの答えにそのままつながります。
オーディオとの違い
録れた音は変えにくく、指示はいくらでも書き直せます。
DAWのトラックには大きく2種類あります。オーディオトラックとMIDIトラックです。
オーディオは、マイクやギターから録った音の波形そのもの。歌を録音すれば、その日に歌った通りの声が、そのままの形で記録されます。
録れた音は本物の質感を持つ反面、後から大きく変えるのが苦手です。半音下げたい、テンポを変えたい、そもそも別の楽器の音にしたい。
オーディオでは加工に無理が出るか、録り直しになります。
MIDIは指示なので、打ち込んだ後の自由度がまるで違います。音程を変えたければノートを上下に動かすだけ。リズムのずれも位置をずらすだけ。
ピアノで打ち込んだメロディを、音源を差し替えてストリングスやシンセで鳴らし直すこともできます。指示は同じままで、演奏者だけ交代させるイメージです。
例えるなら、オーディオは焼き上がった料理で、MIDIはレシピです。料理は今すぐ食べられますが作り直せません。
レシピはそのままでは食べられませんが、材料も火加減も何度でも変えられます。曲作りの序盤ほど試行錯誤が多いので、レシピ側の便利さが効いてきます。
MIDIとオーディオの早見表
どちらを使うかは、この違いで判断できます。
| 比べる点 | MIDI | オーディオ |
|---|---|---|
| 中身 | 演奏の指示データ | 音の波形そのもの |
| 後から音程を変える | ノートを動かすだけ | 加工に限界がある |
| 後から音色を変える | 音源の差し替えで自由 | 原則できない(録り直し) |
| 作るのに必要なもの | DAWとソフト音源だけでよい | 演奏の腕と録音環境 |
| 向いている場面 | 打ち込み・試行錯誤の段階 | 歌や生楽器の質感を残す |
ケーブル・ファイル・打ち込みの言葉の整理
同じ名前が付くのは、MIDIが「共通の約束事」だからです。
MIDIという言葉が混乱を招くのは、これが規格の名前だからです。MIDIは、楽器とコンピューターが演奏情報をやり取りするための共通の約束事で、1980年代からメーカーを越えて使われ続けています。
約束事なので、それを運ぶ物にも、保存する形式にも、書く作業にも同じ名前が付きます。
MIDIケーブルやMIDI端子は、指示が通る道です。現在はUSBケーブル1本で代用されることが多く、MIDIキーボードもUSB接続の製品が主流です。
線の呼び名が違っても、中を流れているのは同じ演奏指示です。
MIDIファイル(.mid)は、指示を保存したファイルです。中身は楽譜なので、どのDAWでも開けて、開いた先の音源で鳴らせます。
ファイルサイズが極端に小さいのも、音ではなく指示の文字列だけが入っているからです。
打ち込みは、MIDIデータを入力する作業の呼び名です。MIDIキーボードを弾いて記録する方法と、マウスでピアノロールに置いていく方法があり、どちらも出来上がるものは同じMIDIデータです。
つまり、身の回りのMIDI用語は全部「指示を書く・運ぶ・保存する」のどれかに割り振れます。
初心者がMIDIから始めると楽な理由
失敗が、失敗として残らない仕組みだからです。
曲作りをMIDI中心で始めると、初心者ほど得をします。一番の理由は、ミスがやり直せることです。
演奏をオーディオで録るなら、うまく弾けるまで練習が要ります。MIDIならヨレた演奏も後からノート単位で直せますし、そもそも弾かずにマウスで1音ずつ置くこともできます。
楽器経験がなくても入口に立てるのも大きな利点です。レッスンでは、MIDIキーボードを上手に弾くための道具ではなく、頭の中のフレーズやコードを外へ出す道具として扱うよう伝えています。
鍵盤が苦手なら、マウス入力や鼻歌からの置き換えで始めても遠回りではありません。
もう1つは、決断を後回しにできることです。メロディをピアノで鳴らすかシンセにするか、キーを上げるか。
オーディオなら録る前に決めなければいけませんが、MIDIなら並べてから聞き比べて選べます。決められないから進まない、という停滞を仕組みの側が防いでくれます。
もちろん、最終的に歌や生ギターを入れるならオーディオ録音の出番が来ます。ただ、その土台になる伴奏をMIDIで組んでおけば、録音本番は「完成した伴奏に合わせて演奏するだけ」まで単純になります。
置いたのに音が出ない時
原因のほとんどは、仕組みの理解で説明できます。
MIDIまわりで一番多いつまずきが、ノートを置いたのに音が出ない、です。ここまで読んだ人なら原因の見当が付くはずです。
MIDI自体は音を持たないので、指示を読む音源がトラックに立ち上がっていなければ、何も鳴りません。
確認する場所は2つです。まず、そのトラックにソフト音源が割り当てられているか。空のMIDIトラックだけ作って満足しているケースが本当に多いです。
次に、音源の出力がスピーカーへ向かう経路(ステレオアウト)につながっているか。
MIDIキーボードを弾いても鳴らない場合は、トラックが入力を受け取る状態(録音待機やモニタリング)になっているかも見ます。鍵盤とパソコンの接続より先に、まずDAW内の受け取り側を疑う方が早く解決します。
MIDIが演奏の指示書だと分かれば、次はその指示でコードやドラムを実際に並べていく段階です。1曲がどんな順番で形になるかは、制作工程マップで全体を見わたせます。
よくある疑問
MIDIとオーディオはどちらで作ればいいですか
打ち込みで作る楽器はMIDI、歌や生楽器の録音はオーディオと使い分けます。試行錯誤の多い序盤は、後から何度でも直せるMIDI中心が進めやすいです。
MIDIキーボードがないとMIDIは使えませんか
使えます。マウスでピアノロールにノートを置く入力だけでも曲は作れます。鍵盤は頭の中のフレーズを外へ出す道具の1つで、必須ではありません。
MIDIファイルはどのDAWでも開けますか
開けます。メーカーを越えた共通規格の演奏指示データだからです。ただし実際に鳴る音色は、開いた環境に立ち上がっている音源によって変わります。
MIDIの音がしょぼく聞こえるのはなぜですか
MIDI自体には音質がありません。鳴らしている音源の質と、ベロシティなどの表情付けで印象が決まります。同じデータでも音源を差し替えるだけで大きく変わります。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
次に進む記事
MIDIが指示書だとつかめたら、実際に音を並べる工程へ進みます。