オートメーションの基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
オートメーションの書き方は、実は2通りしかありません。マウスで線を描くか、フェーダーを動かしてその操作を記録するか。どちらも「つまみの動きをDAWに覚えさせる」という点は同じです。
覚える操作は少ないのに、曲の聞こえ方には大きく効きます。表示の出し方から、2通りの書き方、初心者がまず使う定番パターン3つ、書いた後の直し方まで、順番に手を動かせる形で並べます。
先に見ること
書く前の準備、2通りの書き方、定番3つ。この順で進めます。
- 書く前にフェーダーで基本バランスを作り、プロジェクトを別名保存する
- 書き方は「線を描く」と「フェーダー操作を記録する」の2通り。最初は線を描く
- 定番はサビ前の盛り上げ、間奏でオケを上げる、フィルターの開閉
- 変えた場所には必ず「戻す点」もセットで書く
書く前に基本バランスを作る
オートメーションは「基本からのズレ」を書く作業です。
線を書き始める前に、フェーダーで各トラックの基本バランスを決めておきます。オートメーションは「基本の位置からどれだけズラすか」を書く作業なので、基本が決まっていないと、変化させた後にどこへ戻ればいいのかも決まりません。
レッスンでは、歌ものならドラムとボーカルが聞こえる状態を先に作るよう伝えています。
コードやパッドを気持ちよく上げていくと主役が奥へ下がりやすいので、まずこの2つが最後まで通して聞こえるバランスを作る。オートメーションを書くのは、その後です。
次に、書く場所を決めます。曲を頭から通して聞き、「ここだけ物足りない」と感じた場所をメモしてください。
2、3カ所あれば、最初の曲の作業量としては十分です。全部の場所に書こうとしないことが、このあとの作業を軽くします。
最後に、書く前のプロジェクトを別名で保存します。オートメーションは細かい操作の積み重ねなので、やり直したくなった時に丸ごと戻れる保存が効きます。
オートメーションの表示を出す
線を書くレーンは、ふだん隠れています。
オートメーションは、トラックの下に出る専用のレーン(細長い帯)に書きます。ふだんは隠れているので、まず表示を出すところからです。
ここでつまずいて「自分のDAWにはない機能だ」と誤解する人が意外に多いのですが、主要なDAWにはほぼ必ずあります。
多くのDAWでは、トラックを右クリックするか、トラック端の小さなボタンから「オートメーションを表示」を選びます。Cubaseの場合は、トラックの左下あたりにマウスを近づけると表示用の矢印が現れ、クリックするとレーンが開きます。
レーンが開いたら、どのつまみを動かすかを選びます。レーンの左側に「Volume」のような選択欄があり、ここをパンやエフェクトのパラメーターに切り替えられます。
最初に選ぶのはボリューム、つまり音量で構いません。
この時点では、レーンに水平な直線が1本見えるはずです。これが今のフェーダー位置で、まだ何も書いていない状態を表します。
この直線を折り曲げていくのが、これからやる作業です。
書き方は2通り
線を描くか、動きを記録するか。
1つ目の書き方は、マウスで線を描く方法です。レーンの上をクリックするとポイント(点)が打たれ、点と点の間が自動で線になります。
「サビの頭で上げて、サビの終わりで戻す」という指示なら、点を4つ打つだけで書けます。
2つ目は、フェーダー操作をそのまま記録する方法です。トラックのW(Write=書き込み)ボタンを点灯させて再生し、曲を聞きながらフェーダーやつまみを動かすと、その動きが全部レーンに記録されます。
記録された動きは、R(Read=読み込み)ボタンが点いていれば、次の再生から自動で再現されます。
初心者には、線を描く方法から始めることを勧めます。狙った位置に狙った形を置けて、失敗しても点を消すだけで戻せるからです。
記録する方法は手の揺れまで細かく残るため、後から整理する手間が増えがちです。
記録が向いているのは、理屈より感覚で動かしたい場面です。歌の抑揚に合わせて音量を細かく追いかけるような操作は、点を打つより、実際に聞きながら動かした方が自然な線になります。
使い分ければよく、どちらかだけが正解ということはありません。
2通りの書き方の比較表
最初の1本は、左の列で書きます。
| 比べる点 | 線を描く | フェーダー操作を記録 |
|---|---|---|
| 操作 | レーンをクリックして点を打つ | Wボタンを点けて再生しながら動かす |
| 向く場面 | サビだけ上げるなど、区間が決まっている | 歌の抑揚を追うなど、感覚で動かしたい |
| 修正のしやすさ | 点を動かす、消すだけ | 細かい点が大量に残り、間引きが必要 |
| 初心者の順番 | まずこちらで1本書く | 線に慣れてから試す |
初心者の定番パターン3つ
迷ったら、この3つのどれかから書きます。
1つ目の定番は、サビ前の盛り上げです。サビ直前の1〜2小節で、ドラムやオケ全体の音量をじわっと上げていき、サビの頭で少しだけ戻す。
聞き手に「ここから来るぞ」と予告する書き方です。上げ幅は1〜2dBで足ります。
点は「上げ始め、頂点、戻し」の3つを打ちます。
2つ目は、間奏でオケを上げる書き方です。歌が鳴っている間は伴奏を控えめにしておき、歌が休む間奏でギターソロやシンセを持ち上げます。
主役の交代を音量で作ってあげると、間奏がただの「歌の休み時間」ではなく、聞かせ場に変わります。
3つ目は、フィルターの開閉です。ローパスフィルター(高い音を削るエフェクト)のつまみにオートメーションを書き、サビ前で閉じて音をこもらせ、サビの頭で一気に開きます。
EDMやポップスで頻繁に聞く演出で、線1本で曲の起伏が作れます。エフェクトのつまみも音量と同じ手順で書けることを覚える題材としても向いています。
3つに共通する約束はひとつ、「変える点」と「戻す点」をセットで書くことです。上げたまま戻し忘れると、そこから先のバランスが全部崩れます。
書き終わったら、変化させた区間の後ろまで再生して、ちゃんと元に戻っているかを耳で確認してください。
書いた後の修正
点を動かすだけ。書き直しは怖くありません。
書いたオートメーションは、聞き返しながら直していきます。折れ線の点はドラッグでそのまま動かせます。
変化のタイミングが早すぎたら点を右へ、効きが強すぎたら下へ。移動だけでほとんどの修正が終わります。
フェーダー操作を記録した線がガタガタしている時は、間引きます。多くのDAWには線を滑らかにならす機能があります。
見当たらなければ、不要な点を範囲選択して削除するだけでも、聞こえ方は十分に整います。
やり直しは3段階で考えます。点をひとつ消す。区間をまとめて消す。レーンごと削除して白紙に戻す。
どこまで戻るかを選べるので、思い切って書いて、聞いて、消す、を繰り返して構いません。
修正の判断は、必ず音でします。線の形がきれいかどうかは関係ありません。
変化の少し手前から再生して、不自然に飛び出す場所、戻り忘れている場所がないかだけを聞きます。
書きすぎに注意
線が増えるほど、後から全体を動かせなくなります。
使い方を覚えた直後は、全トラックに線を書きたくなります。ただ、オートメーションを書いたトラックは、フェーダーを手で動かしても再生のたびに線の位置へ引き戻されます。
線が増えるほど、ミックス全体をまとめて調整する自由が減っていきます。
目安として、最初の曲では「音量の線を2、3本と、フィルターを1本」くらいに絞ることを勧めます。それ以上足したくなったら、線ではなくアレンジで解決できないかを先に考えます。
サビで楽器を1つ増やす方が、線を10本書くより早くて自然なことがよくあります。
「書いたのに効いていない」と感じたら、R(Read)ボタンを見てください。Readが消えていると、書いた線は再生に反映されません。
逆にW(Write)を点けたまま作業すると、再生のたびに線が上書きされていきます。書き終わったらWを消す。この癖をつけると事故が減ります。
仕上げに一度書き出して、DAWの外で通して聞きます。線を書いた場所が「操作した跡」ではなく「曲の流れ」として聞こえていれば合格です。
この作業が曲作り全体のどの段階に来るのかは、制作工程マップで1枚にまとめてあります。
よくある疑問
線を描く方法とフェーダー操作を記録する方法、どちらで書けばいいですか
最初は線を描く方法をおすすめします。狙った場所に狙った形を置けて、失敗しても打った点を消すだけで戻せるからです。記録する方法は、歌の抑揚を追いかけるような感覚的な操作に慣れてから使えば十分です。
オートメーションの線が画面に見当たりません
ふだんは隠れています。多くのDAWではトラックの右クリックや専用ボタンから「オートメーションを表示」を選ぶとレーンが出ます。Cubaseならトラックの左下にマウスを近づけると、表示用の矢印が現れます。
書いたオートメーションを消してやり直せますか
やり直せます。点をひとつずつ削除する、区間を範囲選択してまとめて消す、レーンごと削除して白紙に戻す、の3段階があります。書く前のプロジェクトを別名保存しておくと、丸ごと戻ることもできます。
最初はどこに書けばいいですか
サビで主役の音量を少し上げる1本から始めてください。効果が分かりやすく、修正も簡単です。慣れたら、サビ前の盛り上げ、間奏でオケを上げる、フィルターの開閉という定番へ広げます。
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線を書く前の土台になる、バランスと各エフェクトの基本です。