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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

EQの基本

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

EQ(イコライザー)は、ミックスの説明に必ず出てくる言葉です。ただ、画面に表示される曲線とツマミを前にすると、どこをどう動かせば良くなるのか、最初は見当がつきません。実は、EQがやっていることは1つだけです。音を高さごとの層に分けて、層ごとに音量を上げ下げする。それだけです。

だから、EQを使えるようになる鍵は機能の暗記ではなく、「どの層に何の音がいるか」という地図を持つことです。低域・中域・高域の地図、カットから始める理由、邪魔な帯域を耳で探す手順、かけすぎに気づく方法まで、順番に見ていきます。

先に見ること

EQは帯域ごとの音量調整。地図と順番があれば怖くありません。

  • EQは音を帯域(音の高さの層)に分けて音量を整える道具
  • 低域は土台、中域は本体、高域は輝きと覚える
  • ブーストより先にカット。削って場所を空ける
  • オフと聞き比べて、元のほうが良ければかけすぎ

EQは何をする道具か

フェーダーとの違いが分かると、役割が見えてきます。

EQ(イコライザー)は、音を帯域ごとに分けて、それぞれの音量を調整するエフェクトです。帯域とは、音の高さの範囲のこと。

同じ1つのトラックの中にも、低くうなる成分、真ん中で鳴る本体、高くきらめく成分が同時に入っています。EQはその層を選んで、部分的に増やしたり減らしたりできます。

フェーダーとの違いで考えると分かりやすくなります。フェーダーはトラック全体の音量をまるごと上げ下げします。

一方のEQは、トラックの中の一部の帯域だけを狙って動かします。「ギター全体は今の大きさでいい。でも低い成分だけ減らしたい」。

この「だけ」を実現するのがEQです。

DAWに最初から入っているEQには、たいてい周波数(Hz=ヘルツ、音の高さを表す数字)、ゲイン(上げ下げの量)、効かせる幅の3つのツマミがあります。最初に覚えるのはこの3つで十分です。

どの高さを、どのくらい、どの幅で動かすか。曲線の画面は、この3つの設定を絵にしたものです。

触る前に1つだけ約束事があります。フェーダーでの音量バランスが先、EQは後です。

レッスンでも、EQやコンプを触る前にフェーダーで主役と支えを分けておくことを勧めています。バランスが崩れたままEQで直そうとすると、帯域をいくら削っても答えにたどり着けません。

低域・中域・高域には何がいるか

帯域ごとの住人を知ると、探し物が速くなります。

低域は、曲の重さと土台を支える層です。キックの「ドン」という重み、ベースのうなり、ピアノの左手の低い音がここにいます。

低域が多すぎると、部屋全体がぼわっと膨らんだような、こもった重たい響きになります。逆に少なすぎると、軽くて頼りない音になります。

中域は、ほとんどの楽器の「本体」がいる層です。歌の声そのもの、ギターのコード、ピアノの右手、スネアの胴鳴り。

曲の情報の大半は中域に集まっています。だから中域は一番混雑しやすく、音同士がぶつかって団子になるのも、たいてい中域で起きています。

高域は、音の輝きや空気感の層です。シンバルやハイハットのシャリッとした成分、歌の息づかい、アコースティックギターの弦が擦れる音。

高域が足りないと全体がくすんで古い印象になり、多すぎると耳に刺さる痛い音になります。

大事なのは、1つの楽器が1つの帯域だけにいるわけではない、という点です。歌の本体は中域でも、息は高域に、胸の響きは低域寄りにあります。

「ボーカルのトラックだから中域だけ触る」ではなく、そのトラックのどの成分を変えたいのかで、動かす帯域を選びます。

帯域の早見表

数字より先に、この3層のイメージを持ちます。

帯域主にいる音多すぎると少なすぎると
低域キック、ベース、ピアノの低い音こもって重い、ぼわつく軽くて土台がない
中域歌、ギター、ピアノ、スネア団子になってうるさい芯がなく遠い
高域シンバル、息づかい、弦の擦れ耳に刺さる、シャリつくくすんで古い印象

ブーストよりカットから

足すより削るほうが、失敗が少ない理由があります。

EQには増やす(ブースト)と減らす(カット)の両方向がありますが、先に覚えるのはカットです。理由は単純で、初心者のミックスで起きている問題の多くは「何かが足りない」ではなく「何かが多すぎる」だからです。

トラックを重ねるほど、各楽器の低い成分やこもる成分が積み重なって、全体を濁らせていきます。

例えば、打ち込んだピアノやシンセには、曲の中では役目のない低い成分も一緒に鳴っています。1本ずつでは気になりませんが、5本、10本と重なると、低域に「誰も聞いていない音」が溜まります。

ここを各トラックで少しずつカットすると、キックとベースのための場所が空いて、全体の見通しが良くなります。

ブーストで同じ問題を解決しようとすると、逆のことが起きます。歌が埋もれるから歌の中域を上げる。

ギターも聞こえないから上げる。足し算を続けると、混雑した帯域がさらに混雑して、全体の音量だけが膨らみます。

濁った音を大きくしても、濁ったまま大きくなるだけです。

ブーストが悪いという話ではなく、順番の話です。まず邪魔なものを削って場所を空ける。

それでも足りない時に、少しだけ足す。カットが先、ブーストは仕上げ

この順番を守るだけで、EQの失敗の多くは避けられます。

邪魔な帯域を耳で見つける

下から順に、症状を言葉にしてから探します。

「邪魔な帯域を削る」と言われても、最初はどこが邪魔なのか聞き取れません。そこで役立つのが、聞く順番を決めることです。

制作の現場では、ドラムやベースの低い音域から、鍵盤やギター、そしてボーカルへと、低いほうから高いほうへ順番に聞いていきます。全部を同時に聞いて問題を探すより、層を1つずつ点検するほうが、耳の負担がずっと軽くなります。

もう1つのコツは、気になったことを先に言葉にすることです。

  • 「こもる」なら低域か中域の下のほう。
  • 「耳が痛い」なら高域か中域の上のほう。
  • 「重い」なら低域。

正確な周波数の数字を知らなくても、症状の言葉と帯域はだいたい対応しています。言葉にしてから探すと、EQのどのあたりに手を置けばいいか、先に当たりがつきます。

補助として、細くブーストして動かす探し方もあります。狭い範囲をぐっと持ち上げて、その山を低いほうから高いほうへゆっくり滑らせると、嫌な響きが強調される場所で「ここだ」と分かる瞬間が来ます。

見つけたら持ち上げるのをやめて、その場所を軽くカットします。ブーストは探すためだけ、最後は削る。

この使い分けを忘れないでください。

そして判断は必ず、他のトラックと一緒に鳴らした状態で行います。ソロにすると探しやすい半面、ソロで気持ちいい音と曲の中で役に立つ音は別物です。

削った結果が正しかったかは、曲全体を再生して、歌やキックが前に出たかどうかで確かめます。

かけすぎのサイン

がんばった結果、元より悪くなっていないかを疑います。

EQは効果の分かりやすい道具なので、覚えたては削りすぎ、足しすぎになりがちです。かけすぎたトラックには共通のサインがあります。

音が細く、遠く、痩せて聞こえる。カットしすぎた音は、輪郭は見えるのに体温がないような、薄っぺらい鳴り方になります。

ブーストしすぎのサインは、そのトラックだけ質感が浮くことです。高域を上げすぎた歌はシャリシャリと耳につき、低域を上げすぎたベースは他の音を全部飲み込みます。

1トラック単体では「良い音」なのに、曲としてはバラバラ。これもかけすぎの典型です。

一番確実な確認方法は、EQを一度オフにして元の音と聞き比べることです。このとき、耳は大きい音を良い音だと感じやすいので、音量差に注意して比べます。

オフにした元の音のほうが自然で太いと感じたら、その設定は捨ててやり直してください。ゼロからやり直しても、2回目は1回目よりずっと速く終わります。

目安として、あちこちの帯域を大きく上げ下げした複雑な設定になっていたら、一度立ち止まります。EQの目的は音を作り変えることではなく、フェーダーで作ったバランスの邪魔者を取り除くことです。

1〜2か所を控えめに動かして解決しないなら、原因はEQではなく音色選びや音の重ね方にあることが多い。EQが曲作りのどの段階で登場するのかは、制作工程マップで全体の流れごと確認できます。

よくある疑問

EQはどのトラックにもかけるべきですか

全トラックに必ずかけるものではありません。聞いて気になる場所があるトラックだけで十分です。困っていない音にEQを挿しても、判断する材料がないまま操作だけが増えます。

カットとブーストはどちらから使いますか

先にカットです。邪魔な帯域を削ると他の音の場所が空き、全体がすっきりします。ブーストは、削っても足りない時に少しだけ使います。

何Hzを削ればいいか分かりません

数値から探すより、低い帯域から順に聞いて、こもり、重さ、痛さを感じた場所を耳で探します。周波数の数字は、見つけた後に覚えれば十分です。

EQのかけすぎはどうやって気づけますか

エフェクトを一度オフにして、元の音と同じ大きさで聞き比べます。オフのほうが太く自然に聞こえたら、かけすぎのサインです。

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帯域を整えたら、音量や空間など別の軸もそろえていきます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。