リバーブの基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
打ち込んだピアノも、マイクで録った歌も、そのままではCDで聞く音より乾いて素っ気なく聞こえます。足りないのは腕前ではなく、部屋の響きです。リバーブは、その響きを後から足すためのエフェクトです。
たとえるなら、音を鳴らす部屋を選ぶ道具です。お風呂で歌うと声が豊かに聞こえるように、響きが変わるだけで同じ演奏が別物に聞こえます。種類ごとの性格、耳でかけ具合を決める基準、ボーカルとドラムでの使い分けまでを順番に見ていきます。
先に見ること
リバーブは「部屋の響き」を足すエフェクトです。
- 音に残響を足して、素材に居場所を与える道具
- 種類はルーム・ホール・プレートの性格から覚える
- 量はドライとウェットのバランスを耳で決める
- 足した後にドラムとボーカルの輪郭が残っているかで合否を判定
リバーブは「部屋の響き」を足す道具
仕組みは、比喩で押さえれば十分です。
手をパンと叩くと、体育館なら数秒間ワーンと音が残り、布団の中ならすぐ消えます。
この、音が壁や天井に反射して残る成分が残響です。リバーブは、この残響を人工的に作って元の音に混ぜるエフェクトです。
DTMの素材には、この響きがほとんど入っていません。ソフト音源は響きのないスタジオで収録されていますし、自宅で録る歌も響きの少ない環境で録るのが基本だからです。
つまり素材は「どの部屋で鳴らすかが未定」の状態で手元に届きます。
リバーブをかけるとは、その未定だった部屋を決めてあげる作業です。ライブハウスなのか、教会なのか、狭いスタジオなのか。
効果を狙って派手にかける使い方もありますが、初心者が先に覚えるのは、この「居場所を与える」使い方です。
どの工程で、どの音に使うか
出番はミックスの後半です。
使う場所はほぼ決まっています。作曲やアレンジが終わり、音量バランスやEQでの整理が済んだ後、仕上げとして音を馴染ませる段階です。
曲を作っている途中で響きを細かく作り込んでも、後の工程でバランスが変われば結局やり直しになります。
かける対象の定番はボーカル、スネア、ピアノやストリングスなどの生っぽい楽器です。
逆に、キックやベースのような低い音に深くかけるのは避けます。低音の残響同士は濁りやすく、曲の土台がぼやけるからです。低音は乾いたままにしておくのが基本です。
ミックスの後半に置くのには、もうひとつ理由があります。響きは、良いところも粗も等しく増幅するからです。音程のずれた歌、ノイズの残った録音に残響を足せば、その欠点ごと部屋いっぱいに広がります。
素材を整える処理が先、部屋を決めるのは後。この順番は覚えておいて損がありません。
ルーム・ホール・プレートの性格
プリセット名の意味が分かると迷いが減ります。
リバーブのプリセットを開くと、ルーム、ホール、プレートといった名前が並びます。再現している部屋や機材の種類のことで、それぞれ性格が違います。
| 種類 | イメージ | 響きの性格 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| ルーム | 練習室くらいの小部屋 | 短く控えめで自然 | ドラムやギターに生っぽさを足す |
| ホール | コンサートホール | 長く豊かに広がる | バラードのボーカル、ストリングス |
| プレート | 鉄板を鳴らす往年のスタジオ機材 | 密度が高く明るい | ボーカルやスネアを華やかにする |
名前で選んだ後の判断は耳です。テンポの速い曲に長い響きを合わせると、残響が次の音にかぶって濁ります。ゆったりした曲に短い響きだと、間が寂しく感じます。
曲を再生しながら、響きの尻尾が次の音を邪魔していないかを聞いて選びます。
ドライとウェット、耳での決め方
数値ではなく、聞こえ方の基準で覚えます。
最初に触るつまみは2系統で足ります。ひとつは響きの長さで、TimeやDecayと表示されます。
もうひとつが、元の音と響きの混ぜ具合です。エフェクトを通っていない元の音をドライ、リバーブを通った響きの音をウェットと呼びます。
トラックに直接挿して使う場合は、MixやDry/Wetというつまみでこの割合を決めます。ウェット全開にすると響きだけになり、声は洞窟の奥へ消えます。
適量は数値では決められません。基準はふたつ。
かかっているのがはっきり分かる状態はすでに多すぎること。そして、一度オフにした時に「少し寂しい」と感じる量がちょうどいいことです。
「もう少し欲しい」で手を止める習慣をつけると、かけすぎはかなり防げます。耳は響きにすぐ慣れてしまい、作業を続けるほど足したくなるからです。
ボーカルとドラムでの使い分け
同じリバーブでも、役割がまったく違います。
ボーカルへの定番は、ホール系やプレート系を薄くかけて、乾いた声をオケの空間に置いてあげる使い方です。歌詞が聞き取れることが最優先なので、響きの長さは控えめから始めます。
響かせたいのに歌詞が濁る時は、量より先に長さを疑ってください。
ドラムで主役になるのはスネアです。スネアに短めのルームやプレートを足すと、打ち込み特有の素っ気なさが減り、演奏している場所の空気が出ます。
一方でキックとハイハットはほぼドライのままが扱いやすい。リズムの輪郭を保つ係だからです。
つまり、ボーカルには奥行きを、ドラムには空気感を、と目的が分かれます。ひとつの設定を全部に使い回すのではなく、目的ごとに種類と深さを変えるのが使い分けの中身です。
慣れてきたら、ボーカル用とドラム用でリバーブを2種類に分けてみてください。歌は長めのプレート、ドラムは短いルーム、というように役割で分けると、それぞれの主張がぶつからず、曲の空間に前後の層ができます。
逆に、迷っている段階なら1種類に絞ったほうが判断は簡単です。
よくある失敗は、足しすぎて霧になること
気持ちいい方向に回すほど、曲は曇ります。
リバーブの失敗はほぼ一種類で、かけすぎです。
単体で聞くと、響きは深いほど気持ちよく聞こえます。その気持ちよさに合わせて各トラックへ足していくと、曲全体に霧がかかったようにぼやけ、どの音も遠くなります。
レッスンでも軸にされている判断基準があります。歌ものは、ドラムとボーカルが聞こえる状態を先に作るという考え方です。
リバーブを足した後にこの2つの輪郭が曇っていたら、その響きは曲の主役を削っています。気持ちよさではなく、主役が立っているかどうかで合否を決めます。
もうひとつの失敗は、迷った時に別のリバーブを追加してしまうことです。種類を増やすほど響き同士がぶつかり、原因が追えなくなります。
直す時は足すのではなく、今かかっている量を減らす方向から試します。
今日できる試し方
比べる形を作ると、耳の判断が速く育ちます。
手持ちの曲のボーカルか、打ち込んだスネアを1つ選び、DAW付属のリバーブを挿します。プリセットからホールとルームを選び、同じフレーズで聞き比べてください。
長い響きと短い響きで曲の景色がどう変わるかを、一度で体感できます。
次に、量の判断を練習します。少し深めにかけた状態から、オンとオフを何度か切り替えます。
オフの瞬間に寂しいと感じ、オンの瞬間に「かかってる」とは気づかない。その間へ落とし込めたら適量です。
最後に、その状態で曲全体を再生し、ドラムとボーカルがはっきり聞こえているかを確認します。ここまでがリバーブの基本の一周です。
この作業が曲作り全体のどの位置にあるのかは、制作工程マップで確認できます。
よくある疑問
リバーブとエコーは同じものですか
音楽制作では区別します。リバーブは無数の反射が混ざり合った残響で、輪郭のない広がりになります。音がはっきり遅れて繰り返されるものはディレイと呼び、別のエフェクトとして使い分けます。
どのトラックにもリバーブをかけていいですか
キックやベースなどの低音はドライのままが基本です。響きを足すと土台が濁ります。まずボーカルとスネアから始めると、効果と副作用の両方が分かりやすいです。
DAW付属のリバーブで足りますか
足ります。種類の選び方と量の判断ができないうちは、高価なリバーブに替えても結果は変わりません。付属のもので耳の基準を作るのが先です。
かけすぎかどうか自分で判断できません
一度オフにして比べます。オフの瞬間に少し寂しいと感じる量が目安です。さらに曲全体を再生して、ドラムとボーカルの輪郭が曇っていないかを確認します。
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リバーブと同じミックス工程で触る道具を、順に深められます。