モニタリングとは

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DTMの説明を読んでいると、モニタリングという言葉が当たり前のように出てきます。難しそうに聞こえますが、中身は単純で、作業中の音をどう聞くか、ということです。何で聞くか、どのくらいの音量で聞くか、録音中は何を返して聞くか。この聞き方の設計をまとめてモニタリングと呼びます。
聞き方なんて好みの問題に思えますが、実は曲の仕上がりを直接左右します。同じ曲でも、聞く環境が変わると別の曲のように聞こえるからです。ヘッドホンとスピーカーの役割の違いから、録音中に音が遅れて返る問題の対策、耳を守る音量の決め方まで、順番に整理します。
先に見ること
モニタリングは「作業中の音の聞き方」。機材より先に決めます。
- 細部の確認はヘッドホン、全体のバランスはスピーカー
- 録音中の音の遅れは、ダイレクトモニタリングで消せる
- 音量は会話できる程度に固定。大音量は判断力を奪う
- 良い機材を転々とするより、同じ環境に耳を慣らす
モニタリングは聞き方の設計
楽しむための聞き方と、確かめるための聞き方は別物です。
DTMでのモニタリングは、録音中や編集中に、今鳴っている音を確認しながら聞くことを指します。音楽を楽しむリスニングとは目的が違います。
リスニングが料理を味わう食事だとすれば、モニタリングは調理中の味見です。おいしいかどうかではなく、塩が足りているか、火が通っているかを確かめる聞き方です。
だから、モニタリングでは聞こえ方の正直さが大事になります。
たとえば低音を持ち上げて気持ちよく鳴らすイヤホンは、食事には良くても味見には向きません。実際より低音が多く聞こえるので、「ベースはもう十分」と判断して仕上げた曲が、他の環境で聞くとスカスカに鳴る、ということが起きます。
とはいえ、高い機材をそろえる話ではありません。
手持ちのヘッドホンでも、何をどの場面で、どの音量で聞くかという設計を決めるだけで、判断の精度は目に見えて変わります。機材の買い替えは、その後で考えれば十分です。
ヘッドホンとスピーカーの使い分け
虫めがねと引きの視点。両方に役割があります。
ヘッドホンの得意分野は、細部の確認です。耳のすぐそばで鳴るので、小さなノイズ、演奏のミス、音の切れ目まではっきり聞こえます。
部屋の響きの影響も受けないため、昼でも夜でも同じ条件で聞けます。録音したテイクのチェックや打ち込みの修正は、ヘッドホンの仕事です。
スピーカーの得意分野は、全体のバランスです。音が空気を通って届くぶん、人が実際に曲を聞く状態に近く、各楽器の音量の釣り合いや曲全体の雰囲気をつかみやすくなります。
ヘッドホンだけで整えたつもりの曲をスピーカーで鳴らすと、ボーカルだけ飛び出していたり、低音がふくらみすぎていたり、と気づくことが多いはずです。
虫めがねで細部を見るのがヘッドホン、一歩引いて全体を見るのがスピーカー、という関係です。
理想は両方を行き来することですが、スピーカーを鳴らせない住環境ならヘッドホン中心で構いません。
その場合は、仕上げにスマホの小さなスピーカーで聞き返す工程を足すだけでも、ヘッドホンの死角をかなり補えます。
ダイレクトモニタリングと録音時の遅れ
歌いにくさの正体は、パソコンを一周する時間です。
録音の場面では、聞き方にもう1つの問題が加わります。音の遅れです。
マイクやギターの音は、パソコンの中を一周してからヘッドホンへ戻ってくるため、ほんのわずかに遅れて聞こえます。この待ち時間をレイテンシーと呼びます。
歌った声が一瞬遅れて自分の耳に返ってくると、気持ち悪くてリズムが取れません。
この対策として多くのオーディオインターフェースに付いているのが、ダイレクトモニタリングです。入力された音をパソコンへ送ると同時に、その場でヘッドホンへも直接返す仕組みで、遅れは事実上なくなります。
DIRECT MONITORと書かれたつまみやスイッチで、直接の音とパソコン経由の音の混ぜ具合を調整できる機種が多いです。
使う時の注意は1つだけ。DAW側のトラックのモニター機能も同時にオンになっていると、直接返る音とパソコン経由の遅れた音が二重に聞こえます。
ダイレクトモニタリングを使う時は、DAW側のモニターボタンをオフにしてください。
レッスンでは、この遅れへの向き合い方を場面で分けています。
録音時は反応の速さを優先し、ミックス時は安定性を優先する、という基準です。録る時はダイレクトモニタリングやバッファサイズの縮小で遅れを消し、ミックスでは多少の遅れより音が途切れない設定を取る。
同じ設定で全部を解決しようとしないことが、迷わないコツです。
音量を上げすぎない
大きな音は、良い音のふりをします。
モニタリングの音量は、思っているより小さくていいです。理由は、大きな音はそれだけで良い音に聞こえるからです。
音量を上げた瞬間、低音も高音も豊かに感じられ、平凡なフレーズまで格好よく聞こえます。
その状態で「完成した」と思った曲は、普通の音量で聞き返すと物足りない、ということになりがちです。
耳の疲れの問題もあります。大音量で1時間も作業すると耳の感度が落ち、特に高い音の判断が鈍ります。
鈍った耳は足りなさを埋めようとして、高音をどんどん足したくなる悪循環に入ります。
こうなった日の判断は当てになりません。休憩しても、その日のうちには戻りきらないからです。
目安は、隣の人と普通に会話ができる程度の音量です。そして一度決めたら、その音量をなるべく固定します。
日によって音量がばらつくと、昨日の判断と今日の判断がかみ合わなくなります。つまみの位置に印を付けておくくらいで、ちょうどいいです。
同じ環境で聞き続ける
耳は基準を持たない代わりに、慣れには敏感です。
モニタリング環境は、機材の良し悪しより「いつも同じ」であることが効きます。人間の耳は絶対的なものさしを持っていない代わりに、慣れた環境との差にはとても敏感だからです。
同じヘッドホン、同じ音量で聞き続けていると、「この環境でこう聞こえるなら、外ではこう鳴る」という換算表が自分の中に育っていきます。
逆に、今日はイヤホン、明日はテレビ、と聞く環境が毎回変わると、この換算表がいつまでも育ちません。高価な機材を転々とするより、普通の機材に耳を慣らし続けるほうが、判断は確実に速く正確になります。
耳を慣らす方法も単純です。よく知っている市販の曲を、自分のモニタリング環境で繰り返し聞くこと。
聞き込んだ曲がこの環境でどう鳴るかが分かっていれば、それが自分の曲を判断する時のものさしになります。
聞き方が安定すると、録音でもミックスでも迷いが減り、制作全体の足取りが軽くなります。整えた耳でどの工程から手を付けるかは、制作工程マップを目安にしてください。
場面別の聞き方早見表
作業ごとに、何で聞いて何に気を付けるかをまとめます。
| 場面 | 使うもの | 気を付けること |
|---|---|---|
| 作曲・打ち込み | ヘッドホンでもスピーカーでも | 音量をいつもの位置に固定する |
| 歌やギターの録音 | 密閉型ヘッドホン | 音漏れと、二重に聞こえる設定の重複 |
| ミックス | ヘッドホンとスピーカーを行き来 | 大音量で判断しない |
| 仕上げの確認 | スマホやイヤホンなど別環境 | いつもの環境との聞こえ方の差を見る |
よくある疑問
モニターヘッドホンを買わないとだめですか
手持ちのヘッドホンで始めて構いません。買い替える時に、低音や高音を持ち上げる味付けの少ないモニター用を選べば十分です。機材より先に、音量を固定して同じ環境で聞き続けるほうが効きます。
ダイレクトモニタリングにしたら声が二重に聞こえます
オーディオインターフェースから直接返る音と、パソコンを経由して遅れて返る音の両方が鳴っています。DAW側のトラックのモニターボタンをオフにすれば、直接の音だけになります。
スピーカーを置けない部屋ではどうすればいいですか
ヘッドホン中心で問題ありません。仕上げの確認だけ、スマホのスピーカーやイヤホンなど別の環境で聞き返す工程を足すと、ヘッドホンだけでは気づけない音量バランスの偏りを拾えます。
作業の音量はどれくらいが適切ですか
隣の人と普通に会話できる程度が目安です。大きな音はそれだけで良い音に聞こえるうえ、耳が疲れて判断が鈍ります。一度決めた音量をなるべく変えないことも大切です。
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