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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

DTMボーカル録音の始め方|初心者が家で歌を録る手順

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

初めての歌録りでマイクの前に立つと、どこから手をつければいいのか分からなくなります。でも、やることを並べてみると5つしかありません。

接続する、入力レベルを合わせる、モニターを整える、オケを流して録る、テイクを選ぶ。この順番です。

一度この流れを通してしまえば、2回目からは迷いません。マイクをオーディオインターフェースにつなぐところから、録り直すかどうかを決めるところまで、家で歌を録音する手順を順に追っていきます。

先に見ること

録音は「接続→レベル→モニター→本番→選ぶ」の5段階で進めます。

  • 入力ゲインは5割目安。赤く振り切った音は後から直せない
  • モニターはヘッドホン。声が遅れるならバッファサイズを下げる
  • まず通しで2〜3テイク。それから部分ごとに重ねる
  • 録り直すのは音割れとリズムのズレ。細かい音程は後で直せる

録音までの接続を確認する

声がDAWに届く道を、歌う前に1本つなげておきます。

家で歌を録る接続は1本道です。マイクをXLRケーブルでオーディオインターフェースへつなぎ、オーディオインターフェースをUSBでパソコンへつなぐ。DAW側の設定でそのオーディオインターフェースを選べば、声の通り道は完成です。

コンデンサーマイクを使う場合は、オーディオインターフェースの+48Vと書かれたファンタム電源のスイッチも入れます。

次にDAWでオーディオトラックを1本作り、入力にマイクを挿したチャンネルを指定します。Cubaseなら、トラックの録音可ボタンという赤い丸を点灯させると、マイクに声を出した時にメーターが振れるようになります。

「録音したのに波形が出ない」という相談の多くは、このボタンの点け忘れか、録るトラックを選んでいないことが原因です。

歌う位置もここで決めます。マイクと口の距離はこぶし1〜2個ぶん。ポップガードがあれば間に挟みます。

足元に立ち位置の目印を置いておくと、後でテイクを重ねた時に音量や音色の差が出にくくなり、編集がぐっと楽になります。

入力レベルはクリップさせない

大きく録ることより、割らずに録ることを優先します。

入力レベルは、オーディオインターフェースのゲインつまみで合わせます。基準は、曲の中でいちばん張る声を出しても、入力メーターが赤く振り切らない位置です。

赤く点灯した状態はクリップと呼ばれ、クリップして歪んだ声は、後からどんな処理をしても元に戻せません。

レッスンではこの調整を「オーディオファイルは逆で、小は大を兼ねる」と説明しています。小さめに録った声は後から音量を持ち上げられますが、割れた声は捨てるしかない。

だから入力ゲインはメーターの5割くらいを目安に、控えめに合わせます。5割で振れていれば、波形が多少細く見えても後から問題なく持ち上げられます。

避けたいのは、極端に小さすぎる録音です。後から大きく持ち上げると、声と一緒にノイズまで持ち上がってしまいます。

合わせ方は単純です。オケを止めたまま、サビのいちばん強いフレーズをワンフレーズ歌って、メーターの頂点を見る。赤に触れたらゲインを少し下げる。

これを2〜3回くり返せば、その曲の安全なレベルが決まります。本番前の30秒でできる作業ですが、この30秒を飛ばすと、いちばん良い熱唱テイクが音割れで使えない、という悔しい事故が起きます。

モニタリングを整える

オケと自分の声が気持ちよく聞こえる状態を作ります。

録音中はヘッドホンを使います。スピーカーでオケを流しながら歌うと、オケの音がマイクに回り込んで声と一緒に録れてしまい、後からボーカルだけを大きくしたり整えたりできなくなるからです。

音が外に漏れにくい密閉型のヘッドホンだと、さらに安心です。

ヘッドホンには、オケと自分の声の両方を返します。ここで自分の声がわずかに遅れて聞こえることがあります。レイテンシーという、パソコン側の処理の待ち時間が原因です。

実技のレッスンでも、バッファサイズという設定が512で遅いと感じたら256へ下げて調整する、という流れを取っています。下げるほど反応は速くなりますが、パソコンの負荷が上がって音が途切れることもあるので、止まらない範囲を探ります。

オーディオインターフェースにダイレクトモニタリングのつまみやボタンがあれば、そちらを使う手もあります。マイクの音をパソコンを経由させずに直接ヘッドホンへ返す機能で、遅れの問題そのものがなくなります。

オケと声のバランスも歌いやすさを左右します。オケが大きすぎると、負けまいとして声を張り上げてしまい、ピッチも取りにくくなります。

自分の声がオケの少し上に聞こえるくらいから調整を始めてください。

オケを流して録る

最初から部分ごとに刻まず、まず通しで録ります。

準備ができたら、歌い出しの数小節前から再生位置を置いて、録音ボタンを押します。直前から始めるより、少し手前から流したほうが、息を整えてリズムに乗ってから入れます。

歌った声は、オーディオトラックに波形として残っていきます。

最初のテイクは、途中で間違えても止めずに最後まで歌い切ってください。通しのテイクには、部分録りでは出ない流れと勢いが残ります。

まず通しで2〜3テイク録って全体の出来をつかみ、それから気になる部分だけを直す。遠回りに見えて、この順番がいちばん速く仕上がります。

録りながら簡単なメモを取るのもおすすめです。「Aメロ2行目が突っ込んだ」「サビの頭は3テイク目が良い」。この程度の走り書きがあるだけで、後でテイクを選ぶ時間が半分になります。

テイクの重ね方

1本の完璧を狙わず、良い部分をつなぎます。

通しテイクがそろったら、フレーズ単位で聞き比べます。多くのDAWには、同じ場所に録った複数のテイクをレーンとして重ねて表示し、フレーズごとに採用する部分を選べる機能があります。コンピングと呼ばれる作業です。

1本の完璧なテイクを待つより、3本から良い所を集めるほうが現実的で、仕上がりも安定します。

部分的に録り直す時は、直したいフレーズの2〜3小節前から歌い始めます。フレーズの頭からいきなり録ると、声の勢いや音色が前後とつながらず、切り替わりが目立ってしまうからです。

前から助走をつけて歌い、必要な部分だけ差し替える。つなぎ目は息継ぎの位置で切ると自然に聞こえます。

ハモリや、同じメロディを2回録って重ねるダブルを足すのは、主メロのテイクを確定させた後にします。土台がまだ揺れているうちに上を重ねると、主メロを差し替えた瞬間に全部やり直しになります。

録り直すか、先へ進むか

何度でも録れるからこそ、やめ時の基準を持ちます。

起きたこと判断理由
メーターが赤くなった(クリップ)その場で録り直す歪んだ音は後から直せない
リズムが大きくズレたそのフレーズを録り直す大幅なタイミング修正は不自然になりやすい
音程が少し甘い先へ進んでよいピッチ修正で後から整えられる範囲
息継ぎやリップノイズが入った先へ進んでよい編集でカットや音量調整ができる
感情が乗っていない気がする2〜3本録って比べる疲れてからの録り直しは大体悪くなる

基準を持たずに録り直しを続けると、喉が疲れて後のテイクほど悪くなっていきます。歌の録音は、2時間ねばるより30分を数日に分けるほうが良い結果になりやすい作業です。

今日のベストが録れたら保存して、翌日に聞き直してから判断してください。時間を置いた耳は、録った直後の耳より正直です。

納得できる歌が録れたら、次はその声をオケの中に収めるミックス、そして曲としての仕上げへ進みます。録音は工程の入口です。この先の流れは制作工程マップで全体を見渡せます。

よくある疑問

マイクがなくてもボーカル録音の練習はできますか

できます。USBマイクやヘッドセットでも、トラックを作り、レベルを合わせ、オケを聞きながら録るという流れは同じです。まず手順に慣れておけば、音質は後から機材で上げられます。

自分の声が遅れて聞こえて歌いにくいです

レイテンシーというパソコン側の待ち時間が原因です。DAWのバッファサイズを512から256へ下げて試してください。オーディオインターフェースにダイレクトモニタリング機能があれば、それを使うと遅れはほぼなくなります。

何テイク録ればいいですか

通しで2〜3テイクが目安です。それ以上続けると喉と集中力が落ちて、良くなるより悪くなることが多いです。足りない部分は日を分けて録り足します。

音程のミスは後から直せますか

少し甘い程度ならピッチ修正で整えられます。ただし、クリップして歪んだ音と大きくズレたリズムは修正が難しいので、この2つだけはその場で録り直してください。

ヘッドホンは必須ですか

録音中は必須です。スピーカーでオケを流すと、その音がマイクに回り込んで声と一緒に録れてしまい、後からボーカルだけを処理できなくなります。

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プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。