ドラム打ち込みは口で歌うところから始める

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ドラムの打ち込みで手が止まるのは、リズム感がないからではありません。多くの場合、頭の中でリズムがまだはっきりしていないのに、いきなり画面のマス目を埋めようとしているからです。
先に声に出してみてください。ドン、タン、チ。この三つを口で言えたリズムは、もう体が覚えています。あとはそれを画面へ移すだけです。レッスンでも「歌えるものは打てる」と伝えています。声にできないリズムを、指先だけで正確に置くのは難しいのです。
先にやること
ドラムは、打ち込む前に口で歌えるかどうかを先に確かめます。
- キックはドン、スネアはタン、ハイハットはチ、と声に置き換える
- 「ドン・チ・タン・チ」を一定のテンポで口ずさめるか確かめる
- 口で言えた通りに、4小節だけマス目へ置く
- 言えない速さは、言える速さまでテンポを落としてから打つ
なぜ口で歌うと打てるのか
指ではなく、耳と声が先です。
ドラムの打ち込みが進まない人の多くは、リズムそのものが頭の中であいまいなまま、画面に向かっています。
どこにキックを置けばいいか分からないのは、置き方を知らないのではなく、鳴らしたいリズムがまだ決まっていないからです。
声に出すと、その状態がはっきりします。口で「ドン・タン」と言えるなら、あなたはもうそのリズムを知っています。
言えないなら、まだ体に入っていないということです。この見分けがつくだけでも、打ち込みは楽になります。
これは特別な才能の話ではありません。好きな曲に合わせて足でリズムを取れる人なら、誰でも口ドラムはできます。
レッスンで「歌えるものは打てる」と繰り返すのは、声が、頭の中のリズムを外に出す一番早い道具だからです。
三つの音を声に置き換える
まずはキック・スネア・ハイハットだけ。
ドラムセットにはたくさんの楽器がありますが、最初に覚える声は三つで足ります。
- 低く響くキックは「ドン」。
- 手を叩くようなスネアは「タン」または「パン」。
- 細かく刻むハイハットは「チ」や「チキ」です。
この三つを声に分けられると、ほとんどのポップスのリズムは組み立てられます。
逆に、いきなりタムやシンバルまで含めて考えると、声にも出せず、画面でも迷います。まずはドン、タン、チの三役だけに絞ってください。
大切なのは、音色を選ぶより先に、この役割を声で決めておくことです。
どの音源を使うかは後から変えられますが、リズムの骨格は、声にできていないと画面でも決まりません。
8ビートを口で言ってみる
歩くテンポで声に出します。
一番よく使う8ビートを、声にしてみましょう。「ドン・チ・タン・チ・ドン・ドン・タン・チ」。これを歩くくらいのテンポで、一定のリズムで口ずさみます。
速くする必要はありません。テンポが揺れないことだけを意識してください。
言えたら、それがそのまま楽譜です。ドンが鳴る場所にキック、タンの場所にスネア、チの場所にハイハットが入ります。
頭の中で「ここにキックを置くべきか」と悩む代わりに、声が置き場所を教えてくれます。
もし口ずさむ途中でつっかえるなら、そこがまだあいまいな場所です。
画面に向かう前に、その一小節だけを何度か声に出して、なめらかに言えるようにします。声で通せないものは、打ち込んでも不自然になります。
声をマス目に移す
言えた通りに、4小節だけ置きます。
声で通せたら、DAWのマス目に移します。ドラム用の画面では、縦に楽器(キック・スネア・ハイハット)、横に時間が並んでいます。
口で言った位置に、その楽器の点を置いていくだけです。まずは4小節だけにします。
置く順番も声のままで構いません。先にドンだけを全部置く、次にタン、最後にチ、と一役ずつ入れると迷いません。
三役が入ったら再生して、さっき口ずさんだリズムと同じに聞こえるかを確かめます。
強弱(ベロシティ)は、この段階ではそろっていて大丈夫です。
まずは正しい場所に音があること、声と同じリズムになっていることを優先します。表情づけは、骨格ができてからで間に合います。
難しいリズムも声で分解する
言える速さまで落として分けます。
複雑なリズムに出会ったら、まずテンポを落として口ずさみます。速いままでは声にできないリズムも、ゆっくりにすれば「ドド・タン」「ドン・タタ」のように分解できます。
声で分解できた形を打ち込み、あとから元の速さに戻します。
細かい刻みも同じです。16分の速いハイハットは「チキチキチキチキ」と声にしてみると、どこにアクセントがあるかが分かります。
全部を同じ強さにするのではなく、声で強く言った所だけ、後から少し強くします。
それでも声に出せないほど速く細かいリズムは、今の段階では無理に入れなくて構いません。
曲を止めているのは複雑さではなく、あいまいさです。言える範囲で組んだ土台のほうが、聞いていて気持ちよく進みます。
フィルも口から作る
場面の変わり目の一発も声で。
8小節の終わりなどに入れるフィル(おかず)も、作り方は同じです。「ドコドコ・タン」「タタタ・ドン」のように、入れたい一発をまず口で言います。
タムを転がす感じは「ドコドコ」、スネアの連打は「タタタ」と声にできます。
フィルは長く派手にするほど良いわけではありません。声にして気持ちよく収まる長さが、だいたいちょうどいい長さです。
口で言って詰まるようなら、それは入れすぎのサインだと考えてください。
声で作ったフィルを、次のセクションへの入り口に置きます。フィルが決まると、Aメロからサビへの流れに勢いがつきます。
ここでも、まず声で言えた形を画面に移す、という順番は変わりません。
よくある疑問
リズム感がなくても口ドラムはできますか
歩くくらいのテンポで、ドン、タンと声に出せれば十分です。速く正確に言える必要はありません。まず一定のテンポで口ずさむことから始めます。
口で言えないリズムはどうしますか
言える速さまでテンポを落とします。声に出せない速さのリズムは、打ち込んでも不自然になりやすいです。ゆっくり口ずさめてから元の速さに戻します。
楽器経験がなくても打ち込めますか
打ち込みは演奏とは別の作業です。声に出せたリズムを画面のマス目に置くだけなので、楽器が弾けなくても進められます。
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