ドラムフィルの作り方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
曲を聞いていると、8小節の終わりや場面の変わり目で、ドラムが「ドコドコ、ドン」と少し派手に動く瞬間があります。あれがフィル、いわゆるおかずです。普段のパターンから一瞬だけ崩して、次のセクションへの合図を作る役割を持っています。
フィルがないと、同じパターンが延々と続いて、どこで場面が変わったのか分かりにくくなります。とはいえ、やみくもに入れると今度は落ち着きません。どこに、どんな形で、どれくらい入れるか。この三つを、シンプルな型から順に見ていきます。
先にやること
フィルは、パターンの切れ目に、短い動きを一つだけ足します。
- フィルは8小節やフレーズの切れ目に入れる(毎小節は入れない)
- 最初はタム回しかスネア連打の、シンプルな型から
- 入れすぎると落ち着かないので、基本のパターンを主役にする
- ベタ打ちにせず、強弱とタイミングでニュアンスを付ける
フィルとは何か
普段のパターンを一瞬崩して、次への合図を作ります。
フィルは、8ビートなどの基本パターンの合間に入れる短い変化です。ずっと同じリズムが続くと、聞いている人はどこが区切りか分からなくなります。
そこで、区切りの直前だけドラムの動きを変えて、ここで場面が変わる、と耳に知らせます。歌でいえば、次のフレーズの前に息を吸う一瞬にあたります。
レッスンで伝えているのは、1小節のパターンをそのまま繰り返すと機械的に聞こえやすいので、A・B・A・Cのように、戻る場所と変える場所を作る、という考え方です。フィルは、この変える場所に置く合図です。
どこを変えるかが決まれば、フィルを入れる場所は自然に決まります。
ですから、フィルは技術の見せ場ではなく、曲の交通整理です。上手に速く叩くことより、次のセクションへ気持ちよく橋を架けることが目的です。
この目的を先に押さえておくと、あとで入れすぎに迷った時の判断のよりどころになります。
どこに入れるか
まずは8小節の最後の1小節に一つだけ置きます。
入れる場所の基本は、フレーズの切れ目です。ポップスの多くは、4小節や8小節でひとまとまりになっています。
その最後の小節、特に後半の2拍あたりにフィルを置くと、次のまとまりへ自然につながります。最初は、8小節ごとに一つだけ、と決めて試すのがおすすめです。
特に効くのは、Aメロからサビへ、というように場面が大きく変わる直前です。ここに少し長めのフィルを置くと、サビの入りに勢いがつきます。
逆に、同じAメロがもう一度繰り返されるだけの切れ目なら、ごく短いフィルか、入れないままでも構いません。場面の変わり方の大きさに、フィルの大きさを合わせます。
慣れないうちは、フィルの場所を先に決めてしまうと迷いません。曲を通して聞き、ここで場面が変わると感じた小節に印をつけ、そこだけにフィルを入れます。
あちこちの小節に入れたくなっても、まずは切れ目だけに絞ってください。
もう一つの目印は、歌のフレーズの終わりです。ボーカルが一区切りついて、次の言葉が始まる直前は、フィルを置きやすい場所です。
歌と歌のすき間にドラムのおかずが入ると、掛け合いのように聞こえて、曲が単調になりにくくなります。歌ものを作っているなら、まず歌の切れ目を探すのが近道です。
シンプルな型から作る
タム回しとスネア連打、二つの型を覚えます。
最初に覚えると使い回せるのが、タム回しです。スネアから、高いタム、低いタムへと順に下りていく動きで、「タン、トン、ドン」のように鳴ります。
8小節の最後の1小節で、後半だけこの下降を入れると、それだけでフィルになります。どのタムを使うかは、あとから音源で変えられます。
もう一つが、スネアの連打です。最後の1拍か2拍を「タタタタ」と細かく刻み、次の小節の頭で全体に戻ります。
タム回しより簡単で、テンポの速い曲にも合います。この二つの型を覚えるだけで、たいていの場面のフィルはまかなえます。
どちらの型も、まず口で言ってみると置く位置が分かります。「タン・トン・ドン」「タタタ・ジャン」と声に出せた通りに、ドラムのマス目へ移します。
声に出せないほど速く細かい形は、今の段階では無理に入れなくて構いません。言える範囲の型のほうが、聞いていて自然につながります。
二つの型に慣れたら、組み合わせも作れます。前半をスネアの連打、最後の一発をタムやシンバルにする、というように、二つをつなぐだけで少し長いフィルになります。
ただし、長くすればするほど良いわけではありません。声に出して気持ちよく収まる長さが、たいていちょうどいい長さです。
詰まって言えないなら、それは長すぎる合図です。
場面別のフィルの型
変わり目の大きさに合わせて、型と長さを選びます。
| 場面 | 向いた型 | 長さの目安 |
|---|---|---|
| Aメロ内の小さな区切り | スネアを2つ足す程度 | 1〜2拍 |
| 8小節のまとまりの終わり | タム回しかスネア連打 | 半小節(後半2拍) |
| Aメロからサビへの入り | 長めのタム回し | 1小節 |
| サビの終わりや間奏の前 | タム回し+シンバルで締め | 1小節 |
| 流れを一度止めたい所 | 一瞬の無音から一発 | 1拍+間 |
入れすぎない
フィルが目立つほど、基本のパターンが弱くなります。
フィルを覚えると、あちこちに入れたくなります。ですが、毎小節おかずが入ると、どれが本題のリズムか分からなくなり、曲全体が落ち着きません。
フィルは、普段のパターンとの差で効きます。差を作るには、普段が地味であること、つまりフィルのない小節が続いていることが前提です。
目安として、8小節に一つ、多くても4小節に一つに抑えると、フィルが合図として働きます。口ずさんでみて、詰まったり忙しく感じたりするなら、それは入れすぎのサインです。
一度たくさん入れてしまったら、まず半分に減らして聞き直すと、かえって締まって聞こえます。
レッスンでもよく話すのは、コードや音色より、リズムが変わるだけで曲の印象は大きく動く、ということです。フィルはそのリズムを一瞬変える強い道具なので、少ないほど一発の効き目が上がります。
迷ったら、入れる側ではなく、減らす側で調整してください。
入れる数だけでなく、入れる強さも控えめから始めます。最初から派手なタム回しやシンバルの連打を並べると、そこだけ浮いてしまい、あとで戻しにくくなります。
まずは小さなフィルで場面のつなぎを作り、物足りなければ少しずつ足していくほうが、全体のバランスを保てます。
ベタ打ちにしない
音の強さとタイミングで、フィルに表情を付けます。
フィルをマス目に置いただけだと、全部の音が同じ強さで並び、機械が叩いたように平坦に聞こえます。これがベタ打ちです。
実際のドラマーは、フィルの中でも強く叩く音と軽く触れる音を混ぜています。これをDAWで作るのが、ベロシティ、つまり一打ごとの強さの調整です。
やり方は単純です。タム回しなら、最後の一発を一番強くし、そこへ向かって途中を少しずつ強めます。
スネア連打なら、頭を強く、間を軽くします。全部を最大の強さにせず、山を一つ作るイメージです。
強さに差がつくだけで、同じ音符の並びが、ぐっと人が叩いた感じに近づきます。
タイミングも少し崩せます。フィルの音を、グリッドのちょうどの位置から数ミリだけ前後にずらすと、硬さが取れます。
ただし崩しすぎるとリズムがよれるので、まずはベロシティで表情を付け、タイミングは仕上げに少しだけ触る、という順番が安全です。
フィルが一つ決まると、曲の場面のつなぎ目がはっきりして、通して聞いた時の流れが良くなります。ドラムから始めて1曲を組み立てていく道筋は、制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
フィルは毎回入れないとだめですか
いいえ。毎小節入れると落ち着かなくなります。まずは8小節に一つ、場面が変わる切れ目だけに入れてください。フィルは普段のパターンとの差で効くので、入れない小節が続くほど一発が生きます。
どんなフィルから覚えればいいですか
タム回しとスネア連打の二つで十分です。8小節の最後の1小節、その後半だけに短く入れるところから始めます。口で「タン・トン・ドン」と言えた通りにドラムのマス目へ置くと迷いません。
打ち込んだフィルが機械っぽくなります
ベロシティ(一打ごとの強さ)に差をつけてください。全部を同じ強さにせず、山を一つ作るように、最後の一発を強く、途中を弱くします。タイミングをわずかにずらすと、さらに硬さが取れます。
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