Cubaseのオーディオトラックとは

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
Cubaseのオーディオトラックは、録音した音や音声ファイルを置くためのトラックです。マイクで録った歌、オーディオインターフェイスにつないだギター、ダウンロードしたループ素材。こうした「すでに音になっているもの」の置き場所がここです。中身は波形というギザギザの絵で表示されます。
Cubaseを始めたばかりの人がつまずくのは、トラックを作る場面で「Audio」「Instrument」「MIDI」と選択肢が並ぶところです。歌を録りたいのにどれを選べばいいか分からない。ここでは、オーディオトラックの作り方から、インストゥルメントトラックとの見分け方、モノラルとステレオの選び方までを一つずつ確認します。
先に見ること
オーディオトラックは「音になっているもの」の置き場所です。
- 録音した音と音声ファイルを置く。打ち込みには使わない
- 作る時は「トラックを追加」からAudioを選ぶ
- 使い方は録音とファイル読み込みの2つ
- マイク1本ならモノラル、完成素材ならステレオ
オーディオトラックに置くもの
「音そのもの」を置くのがオーディオトラックです。
オーディオトラックに置けるのは、すでに音として存在しているものだけです。
具体的には2種類あります。1つはマイクやオーディオインターフェイス経由でこれから録音する音、もう1つはWAVやMP3としてパソコンに保存されている音声ファイルです。
置いた音は波形で表示されます。波形は音の大きさの変化を絵にしたもので、声が入っている場所は山が高く、無音の場所は平らな線になります。
歌のどこで息を吸ったか、ギターのどこでミスしたかが、聞かなくても目で見当を付けられるのが波形の便利なところです。
逆に、オーディオトラックに置けないものもはっきりしています。MIDIキーボードで打ち込む演奏情報です。
ソフト音源のピアノを鳴らしたくてオーディオトラックを作ってしまい、音が出ずに止まる。Cubaseの入門レッスンで繰り返し見かける場面です。
打ち込みたい時は、次の章で触れるインストゥルメントトラックを選びます。
作り方の手順
追加のダイアログで決めるのは3つだけです。
作り方はシンプルです。トラックが並んでいる一覧の何もない場所を右クリックして「トラックを追加」を選ぶか、プロジェクトメニューから同じ項目をたどります。
トラックの種類を選ぶ画面が出るので、Audioを選んでください。
このダイアログで決めるのは実質3つです。
- 1つ目は構成、つまりモノラルかステレオか。
- 2つ目はオーディオ入力で、オーディオインターフェイスのどの穴から音を受け取るかを指定します。マイクを1番の入力に挿しているなら、ここで1番を選びます。
- 3つ目は本数です。コーラスを何本も録る予定なら、まとめて作れます。
追加できたら、名前を先に付けておきましょう。
Cubaseは録音した音声ファイルにトラック名を元にした名前を付けるため、「Audio 01」のまま録ると、後でファイルの山から目当てのテイクを探すのに苦労します。「リードボーカル」と名付けてから録れば、ファイル名にもそれが残ります。
録音の前にもう1つだけ。トラックの録音可能ボタン(丸いボタン)が点いているかを確認してください。ここが消えていると、録音ボタンを押してもこのトラックには何も録られません。
インストゥルメントトラックとの違い
扱っている中身がまったく別物です。
Cubaseで最初に混同しやすいのが、オーディオトラックとインストゥルメントトラックです。
並べて比べると、扱う中身が根本から違います。オーディオトラックの中身は音そのもの。
インストゥルメントトラックの中身は「どの鍵盤を、いつ、どの強さで押したか」というMIDIの演奏情報で、再生するたびにソフト音源がその情報を読んで音を出します。
| 比べる点 | オーディオトラック | インストゥルメントトラック |
|---|---|---|
| 中身 | 音そのもの(波形) | MIDIの演奏情報(ノート) |
| 向いている用途 | 歌、ギター、素材の読み込み | ピアノやドラムの打ち込み |
| 録音後の音程修正 | 専用の編集が必要 | ノートを動かすだけ |
| 音色の変更 | 録り直しが基本 | 音源を差し替えれば済む |
録音した後の自由度も違います。
打ち込みなら、音の高さもタイミングも後からいくらでも動かせますし、ピアノの音色をエレピに差し替えることもできます。
オーディオはそうはいきません。録った演奏がそのまま残るので、直したければ基本は録り直しです。
だからこそ使い分けの基準は簡単です。
自分の声や生楽器など、スピーカーの外にある音を取り込むならオーディオトラック。Cubaseの中の音源に演奏させるならインストゥルメントトラック。
迷ったら「音はどこで生まれるか」を考えると答えが出ます。
録音と読み込み、2つの使い方
録るだけの場所ではありません。
1つ目の使い方は録音です。オーディオインターフェイスにマイクやギターをつなぎ、入力を選んだトラックで録音ボタンを押す。
歌もの制作の中心になる使い方で、録るたびに新しい波形がトラックの上に増えていきます。
録音の際は、モニタリングボタン(スピーカーのアイコン)の状態も見てください。
点けると入力中の音がそのまま聞こえ、消すと録音済みの音が聞こえます。「録れているのに自分の声が聞こえない」「再生しても録った歌が鳴らない」という相談の多くは、このボタンの点け消しだけで解決します。
2つ目の使い方はファイルの読み込みです。
- ドラムのループ素材
- 配布されたカラオケ音源
- スマホで録った鼻歌のメモ
こうした音声ファイルは、エクスプローラーやFinderからプロジェクトの画面へ直接ドラッグして置けます。ドロップした位置に波形が現れ、そのまま再生できます。
読み込みの時にCubaseが「作業ディレクトリにファイルをコピーしますか」と尋ねてきたら、コピーを選んでおくのが安全です。元のファイルをデスクトップから消してしまっても、プロジェクトの中に音が残ります。
モノラルとステレオの選び方
迷いやすいのは最初の構成選びです。
オーディオトラックを作る時に必ず聞かれるのが、モノラルかステレオかという構成の選択です。判断の基準は、音の入口が1つか2つかです。
マイク1本で録る歌やアコースティックギター、シールド1本で直接つなぐエレキギターやベース。これらは入口が1つなので、モノラルを選びます。
ステレオで録っても音は入りますが、同じ内容が左右に2つ入るだけでファイルの容量が倍になり、良いことがありません。
一方、LとRの2つの出力を持つ電子ピアノやシンセサイザーを録る場合、あるいは完成済みの2ミックス素材やループ素材を置く場合は、ステレオを選びます。左右の広がりそのものが音の一部だからです。
間違えて作ってしまっても、慌てる必要はありません。トラックを作り直して録り直すか、素材なら正しい構成のトラックに置き直せば済みます。
「歌を録ったら左からしか聞こえない」という時は、ステレオトラックにモノラルの入力を割り当てていないか、この構成を疑ってください。
録音ファイルはどこへ行くか
保存の仕組みを知らないと、音源を失うことがあります。
オーディオトラックに録音した音は、プロジェクトファイルの中に入るわけではありません。プロジェクトフォルダの中にあるAudioというフォルダへ、1テイクずつ音声ファイルとして保存されます。
プロジェクトファイル(cprファイル)が持っているのは「どのファイルをどこで鳴らすか」という配置情報だけです。
この仕組みを知らないまま、cprファイルだけをUSBメモリにコピーして別のパソコンで開くと、波形が消えて「ファイルが見つかりません」と表示されます。レッスンでも、録った歌を失いかけた例は一度や二度ではありません。
制作の現場では、曲ごとに専用フォルダを作り、その中へプロジェクトも録音素材もまとめて保存する、という管理を判断の基準にしています。
プロジェクトを新規作成する時に曲名のフォルダを指定しておけば、Audioフォルダも自動でその中にできます。バックアップも曲のフォルダごとコピーすれば漏れません。
録音が増えてきたら、使わなかったテイクの整理も兼ねて、フォルダの中を一度のぞいてみてください。
オーディオトラックの正体が「Audioフォルダのファイルを並べる棚」だと分かると、Cubaseの保存まわりで迷うことがなくなります。
よくある疑問
オーディオトラックとは何ですか
録音した音や、パソコンにある音声ファイルを置くためのトラックです。歌やギターの録音、ループ素材の読み込みに使い、中身は波形で表示されます。
インストゥルメントトラックと何が違いますか
オーディオトラックは音そのものを扱い、インストゥルメントトラックはMIDIの演奏情報をソフト音源で鳴らします。ピアノやドラムの打ち込みはインストゥルメントトラックを使います。
モノラルとステレオはどちらを選べばいいですか
マイク1本で録る歌や、ギターをシールド1本でつなぐ録音はモノラルが基本です。左右2つの出力を持つキーボードや、完成済みの2ミックス素材はステレオを選びます。
録音した音はどこに保存されますか
プロジェクトフォルダの中のAudioフォルダに音声ファイルとして保存されます。プロジェクトファイル単体をコピーしても音は付いてこないため、曲ごとにフォルダごと管理します。
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