レイテンシーの直し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
歌おうとすると自分の声が遅れて返ってくる。鍵盤を押しても音がワンテンポ遅い。今この状態で録音が止まっている人のために、直すことだけに絞って手順を並べました。効きが大きくて手間の少ない順に4つ。上から試して、直った時点でやめて構いません。
先に一つだけ前提を共有します。レイテンシー(音の遅れ)はデジタル処理に必ず付いてくる待ち時間なので、完全なゼロにはなりません。ゴールは「演奏していて気にならない状態」です。仕組みから知りたい場合はレイテンシーとはを先にどうぞ。ここでは手を動かします。
先に見ること
効果の大きい順に4つの手を試します。
- 手順1: バッファサイズを一段下げる(512なら256へ)
- 手順2: ASIOドライバーが選ばれているか確認する(Windows)
- 手順3: マスターの重いプラグインをオフにする
- 手順4: ダイレクトモニタリングに切り替える
直す前の症状確認
2分の確認で、無駄な設定変更を省けます。
手を動かす前に、遅れ方だけ観察してください。見るポイントは「いつでも、どのトラックでも、同じくらい遅れるか」です。
ソフト音源を新規トラックに立ち上げて鍵盤を叩き、マイクがあるなら声も試します。どちらも同じように遅れるなら、環境全体のレイテンシーが大きい状態で、この記事の手順がそのまま効きます。
一方、普段は平気なのに特定のプロジェクトを開いた時だけ遅い、あるいは特定のエフェクトを挿した途端に遅くなる場合は、犯人は環境設定ではなくプラグインです。その切り分けと対処はプラグイン遅延の確認手順で扱っています。
また、演奏中は平気なのに録音した波形だけが後ろにずれて置かれる症状は、モニタリングの遅れとは別の問題なのでクリックに合わない時の確認手順へ。
| 手順 | やること | 特に効く状況 |
|---|---|---|
| 1 | バッファサイズを一段下げる | 全員がまず試す。512で遅いなら256へ |
| 2 | ASIOドライバーを選び直す | Windowsで汎用ドライバーのまま使っている |
| 3 | マスターの重いプラグインをオフ | バッファを下げても遅れが残る |
| 4 | ダイレクトモニタリング | 設定では詰め切れない時の最終手段 |
手順1: バッファサイズを下げる
一番効きます。まずここから。
バッファサイズは、パソコンが音の処理をまとめて行う量の設定で、遅れの長さに一番直結します。
DAWのオーディオ設定(Cubaseならスタジオ設定のオーディオシステムから、インターフェイスのコントロールパネル)を開き、今の数値を一段小さくしてください。実技のレッスンでは、512サンプルで遅いと感じたらまず256を試す、という流れを取っています。
下げたら必ず動作確認をします。ソフト音源を弾いて返りが軽くなったか、そして再生したときに音がプチプチ途切れないか。
途切れが出たら下げすぎのサインなので、一段戻します。小さくするほどパソコンの負荷が上がるため、速さと安定のちょうどいい塩梅を自分の環境で探すのがこの手順の本体です。
ここで直れば終了です。ただし覚えておいてほしいのは、下げた設定は録音のための一時的な体制だということ。録音が済んでミックスに入ったら数値を大きめに戻すと、トラックが増えても途切れずに再生できます。
手順2: ASIOドライバーを確認する
Windowsの人は音の通り道を見直します。
バッファサイズを下げても思ったほど速くならない。その場合、音がパソコンの中でどの道を通っているかを疑います。
Windowsでは、音楽制作向けに設計されたASIOという方式のドライバーを使うかどうかで、同じバッファサイズでも遅れの実力値が大きく変わります。OS標準の汎用的な経路は、音楽制作にとっては遠回りなのです。
確認場所はDAWのオーディオ設定にあるドライバー選択欄です。オーディオインターフェイスを持っているなら、メーカーが配布している専用のASIOドライバーをインストールし、その名前を選びます。
インターフェイスを挿しただけでは専用ドライバーは入りません。メーカーサイトからのダウンロードとインストール、その後のDAW再起動までがワンセットです。
インターフェイスを持っていない場合、内蔵サウンドのままでは遅れを詰め切れないことが多いです。歌やギターをこれから本格的に録るつもりなら、オーディオインターフェイスの導入がレイテンシー対策としても録音品質としても近道になります。
手順3: 重いプラグインを外す
設定が正しくても、中身が重ければ遅れます。
手順1と2は環境の話でした。それでも遅い時は、プロジェクトの中身が遅れを足しています。
エフェクトの中には、処理の性質上、音を少し先まで読んでから加工するタイプがあり、挿してあるだけで一定の遅れを全体に上乗せします。代表格はマスタートラックに挿すマスタリング系、たとえばリミッターやマキシマイザーです。
試し方は単純で、マスタートラックのプラグインをいったん全部オフにして、もう一度演奏してみることです。軽くなったなら犯人はそこにいます。
録音の間だけオフにして、ミックスの段階で戻せば、音作りを失うこともありません。
どのプラグインがどれだけ遅れを作るのか、DAWが遅れをどう補正しているのかまで知りたい場合は、プラグイン遅延の確認手順で仕組みごと解説しています。ここでは「マスターを空にして録る」とだけ覚えれば十分です。
手順4: ダイレクトモニタリング
パソコンを通さなければ、遅れようがありません。
最後の手は発想の転換です。ここまでの手順はパソコンの中の遅れを縮める話でしたが、ダイレクトモニタリングは、マイクやギターの音をパソコンへ送る前にオーディオインターフェイスの中で直接ヘッドホンへ返す機能です。
デジタル処理の行列に並ばないので、原理的に遅れをほぼ感じません。多くのインターフェイスに搭載されていて、DIRECTと書かれたボタンや、入力音と再生音のバランスを決めるMIXつまみがその入口です。
使う時のコツは二つあります。
- 一つ、DAW側のモニタリング(トラックのスピーカー型ボタン)をオフにすること。両方生かすと、生の音と遅れた音が二重に聞こえてしまいます。
- 二つ、返ってくるのはエフェクトのかかっていない生の音だと理解しておくこと。リバーブのかかった声を聞きながら歌いたい人には物足りませんが、録音されるデータには何の影響もありません。
ここまでの4手で、録音を止めるレベルのレイテンシーはほぼ片付きます。直ったら短いフレーズを一本録って、気持ちよく演奏できるかを確かめてください。環境の心配が消えたら、時間は曲作りに使えます。
よくある疑問
最初に何を試せばいいですか
バッファサイズを一段下げることです。512サンプルで遅いなら、まず256を試します。DAWのオーディオ設定から変更できます。
バッファサイズを下げたら音が途切れるようになりました
下げすぎのサインなので一段戻します。録音の間だけ重いプラグインをオフにして負荷を減らすと、小さい値でも安定しやすくなります。
ASIOドライバーはどこで確認できますか
DAWのオーディオ設定にあるドライバー選択欄です。Windowsでオーディオインターフェイスを使うなら、メーカー配布のASIOドライバーが選ばれているかを見ます。
全部試しても遅れが残ります
オーディオインターフェイスのダイレクトモニタリングを使います。パソコンを通さず機材内で音を返すため、原理的に遅れがほぼありません。
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返りの遅れが解消したら、録音まわりの残りのつまずきも同じ要領で片付けておきましょう。