レンダー・フリーズの基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
トラックが増えてきたら、再生がプツプツ途切れる。少し弾いただけで音が飛ぶ。書き出そうとすると止まる。曲が育ってきた頃に出てくる、パソコンが重くなるトラブルです。
ここで助けになるのが、レンダーとフリーズです。どちらも、重いトラックを一時的に音声へ変えて、パソコンの負担を軽くする機能です。仕組みと使いどころが分かれば、パソコンを買い替えなくても、重い曲を最後まで作り切れます。何が起きているのかから順に見ていきます。
先に見ること
レンダーとフリーズは、重いトラックを音声化してCPUを軽くする機能です。
- ソフト音源やエフェクトは、再生のたびにCPUで計算されている
- 音作りが固まったトラックから、順にフリーズする
- フリーズは元に戻せる。まだ触るトラックは残す
- 書き出しが止まる時も、重い所を音声化してから通す
なぜ重くなる。レンダーとフリーズとは
パソコンが毎回、音を計算していると考えます。
ソフト音源やエフェクトは、あらかじめ録音された音を再生しているわけではありません。再生ボタンを押すたびに、パソコンがその場で音を計算して作り出しています。
豪華なシンセや、たくさん重ねたエフェクトほど計算量が多く、パソコンの頭脳にあたるCPUに負担がかかります。トラックが増えるほど計算する量も増え、あるところで処理が追いつかなくなって、音が途切れます。
フリーズは、この計算を一度だけ済ませて、結果を音声として仮に保存しておく機能です。
凍らせている間、そのトラックの音源やエフェクトは計算をやめるので、CPUがぐっと軽くなります。名前のとおり、いったん固めて動かさない状態です。
大事なのは、フリーズは元に戻せることです。解除すれば、また音源やエフェクトをいじれます。
レンダー(書き出し)は、トラックの音を新しいオーディオファイルとして作り出す処理です。フリーズより一歩進んで、作業を確定させる場面で使います。
呼び方はDAWによって違いますが、どちらも「重い計算を、あらかじめ音声に変えて楽をする」という考え方は同じです。まずこの共通点をつかんでください。
重くなったサインを見る
感覚ではなく、メーターで確かめます。
「なんとなく重い」で対処すると、関係ない場所を触りがちです。DAWには、パソコンの負荷を示すメーターがあります。
Cubaseなら画面のパフォーマンスメーターで、再生中にどれくらい余裕があるかを目で確認できます。ここが再生のたびに天井近くまで跳ねているなら、CPUが足りていないサインです。
症状にも特徴があります。音がプツプツ途切れる、再生が数秒で止まる、操作の反応が遅れる、といったものです。
特に、特定の場面に来ると必ず途切れるなら、そこで鳴っているトラックの計算が重いと見当がつきます。逆に、無音の場所でも常に重いなら、常時鳴っているエフェクトやパッド系の音源が原因のことが多いです。
ここで、まず疑うのは自分の作り方ではなく、負荷の集中している場所です。跳ねる瞬間に何が鳴っているかを見れば、次にどのトラックをフリーズすればいいかが決まります。
フリーズの使い方
完成に近いトラックから、順に凍らせます。
フリーズは、どのトラックからかけるかで効き目が変わります。おすすめは、もう音作りが固まった重いトラックからです。
作り込んだドラム音源や、エフェクトを何枚も重ねたシンセなど、これ以上いじる予定のないものを先に凍らせると、作業を止めずに一番効くところの負荷を下げられます。
逆に、まだ音色やフレーズを迷っているトラックはフリーズしないでおきます。凍らせている間はそのトラックを編集できなくなるからです。
もし変えたくなったら、フリーズを解除すればいつでも元の状態に戻り、また音源をいじれます。この「戻せる」性質があるので、こまめに凍らせて、必要になったら解除する、という使い方が向いています。
制作の現場でも、アレンジが決まったパートから順に音声化して、手元を軽く保ちながら次の作業に集中する、という進め方をします。全部を最後まで生の音源のまま抱えると、パソコンも自分の頭も重くなります。
決まったものは固めて、迷っているものだけを残す。これがフリーズの基本的な考え方です。
書き出しが固まる時の切り分け
止まる原因の多くは、一瞬の高負荷です。
完成した曲を1つのファイルに書き出す時、途中で止まったり、できたファイルにプツッとノイズが入ったりすることがあります。これも多くは、書き出し中にCPUの負荷が一瞬跳ね上がって、処理が間に合わなかったのが原因です。
曲がいちばん盛り上がって、たくさんの音が同時に鳴る場所でつまずきやすい傾向があります。
切り分けは、負荷を下げる方向で順に試します。まず、重いトラックを先にフリーズしてから書き出します。すでに音声になっている分は計算しなくて済むので、書き出しが軽くなります。
次に、録音の時に下げていたバッファサイズ(パソコンの処理のため息継ぎのようなもの)を、書き出し時は大きめに戻します。書き出しでは反応の速さより安定が大事なので、余裕を持たせるほうが通りやすくなります。
それでも止まるなら、書き出し中は他のアプリを閉じて、パソコンの力をDAWに集中させます。
この順で試すと、「パソコンが壊れた」ではなく「一瞬だけ足りなかった」だと分かります。全部を音声化してから書き出せば、たいていの曲は無事に最後まで通ります。
別PCへ渡す時のオーディオ化
音源が無い環境でも鳴る形にしておきます。
フリーズやレンダーと同じ「音声化」の考え方は、曲を別のパソコンへ持っていく時にも役立ちます。
家では鳴っていた曲を、スタジオや共同制作の相手のパソコンで開くと、「音源がありません」と出て一部が鳴らないことがあります。ソフト音源のパートは、そのパソコンに同じ音源が入っていて初めて鳴るからです。
制作の現場では、別のパソコンに同じシンセやエフェクトが入っていない前提で、渡す前に大事なトラックをオーディオ化しておく、という段取りを取ります。音源のトラックをあらかじめ書き出してオーディオトラックにしておけば、相手の環境に音源が無くても、そのまま音が出ます。
元のMIDIトラックはミュートして残しておけば、後から手直しもできます。
重さ対策のフリーズと、持ち出しのためのオーディオ化。同じ発想が、別の場面で効いてくるわけです。
負荷が下がれば、制作は止まらず前へ進みます。ここから先の、曲をどの順番で組み立てていくかは、下の制作工程マップに1枚でまとめています。
場面別の使い分け表
やりたいことから、使う機能を選びます。
| やりたいこと | 使う機能 | ポイント |
|---|---|---|
| 再生の途切れを減らしたい | フリーズ | 完成に近い重いトラックから凍らせる |
| 後で音源をまた触るかもしれない | フリーズ | 解除すれば元に戻せるので気軽に使える |
| 書き出しが止まる | フリーズ+バッファ調整 | 重い所を音声化し、バッファを大きめに戻す |
| 別のパソコンへ渡す | レンダー(オーディオ化) | 音源が無い環境でも鳴る形にして持ち出す |
| 常に重い | フリーズ+見直し | 常時鳴るエフェクトや音源を先に凍らせる |
よくある疑問
レンダーとフリーズは何が違いますか
どちらも重いトラックを音声にしてCPUを軽くする点は同じです。フリーズは元に戻せる一時的な処理で、解除すればまた音源をいじれます。レンダー(書き出し)は新しいオーディオを作る処理で、より作業を確定させる場面で使います。
どのトラックからフリーズすればいいですか
音作りが固まった、重いソフト音源のトラックからです。まだ音色やフレーズをいじりたいトラックは、フリーズすると触れなくなるので残します。完成に近い順に凍らせると、作業を止めずに負荷を下げられます。
書き出しが途中で止まります
一瞬のCPUの高負荷でつまずくことが多いです。重いトラックを先にフリーズしてから書き出す、バッファサイズを大きめに戻す、書き出し中は他のアプリを閉じる、といった順で負荷を下げると通りやすくなります。
別のパソコンで開いたら音源が鳴りません
相手のパソコンにそのプラグイン音源が入っていないと鳴りません。渡す前に、そのトラックをオーディオ化(書き出してオーディオトラックにする)しておけば、音源が無い環境でもそのまま音が出ます。
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