曲名とファイル名の付け方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
1曲を数日かけて作ると、フォルダの中に似た名前のファイルが並びます。「kyoku」「kyoku2」「kyoku_new」「kyoku_本当に最新」。
どれが最新なのか分からなくなり、恐る恐る開いて確かめる。ひどいときは、古い版を最新だと思い込んで上書きし、半日分の作業が消えます。DTMを始めた人がよく踏む地雷です。
この事故は、才能ともセンスとも関係ありません。作り始める前に名前の付け方を1つ決めておくだけで、ほとんど防げます。
フォルダの分け方、プロジェクトのファイル名、バージョンの残し方、仮タイトル、書き出しの名前。この5つを順番に決めていきます。最初の数十秒が、後の自分を助けます。
先に押さえること
曲ごとにフォルダを分け、ファイル名に日付とバージョンを入れておけば、迷子も上書き事故も防げます。
- 曲ごとに専用フォルダを作り、その中で完結させる
- ファイル名は「曲名+日付+バージョン番号」で統一する
- 上書きせず、区切りごとに番号を1つ増やして別名で保存する
- 書き出したWAVやMP3にも、同じ名前の規則を使う
名前で迷子になる理由
名前は嘘をつきませんが、中身は変わります。
名前で迷子になる原因は、たいてい2つです。1つは、思いついたその場の言葉で保存してしまうこと。「new」「test」「さっきの」のような名前は、付けた瞬間は分かっても、3日後には何のことか分かりません。
もう1つは、上書き保存を繰り返して、途中の版が1つも残らないことです。
特にこわいのが、「最新」「完成」「本当の完成」というファイル名です。付けた時点では最新でも、翌日さらに手を入れれば、その「最新」は古い版に変わります。
名前は書き換えない限りそのままなのに、中身だけ進んでいく。この食い違いが、どれが本当に新しいのか分からなくなる原因であり、上書き事故の入口です。
対策はシンプルです。後から並べ替えるだけで新しい順が分かる名前にしておく。
気分ではなく、日付と番号という動かない基準で名前を付けます。そうすれば、どれが最新かを頭で覚えておく必要がなくなり、迷いも消えます。
曲ごとにフォルダを分ける
名前の話の前に、まず置き場所を分けます。
ファイル名を整える前に、置き場所を決めます。おすすめは、曲ごとに専用のフォルダを1つ作り、その曲に関するものを全部そこへ入れることです。
レッスンでも、プロジェクトファイルだけを保存しても録音した音声素材まで一緒に残るとは限らないので、曲ごとのフォルダにまとめる、という管理をすすめています。
フォルダを分けておくと、ファイル名の悩みが半分に減ります。別の曲と名前がかぶっても、フォルダが違えば中で混ざりません。
持ち運びやバックアップも、フォルダごとコピーするだけで済みます。まず入れ物を分ける。名前のルールは、その入れ物の中で効いてきます。
新しい曲を始めるときは、DAWを開く前にフォルダを1つ作る癖をつけます。この一手間があるだけで、録音した素材があちこちに散らばる事故が起きにくくなります。
フォルダ名にも、後で触れる曲名と日付のルールをそのまま使えます。
ファイル名は「曲名+日付+バージョン」
名前を見ただけで、いつの何番目かが分かる形にします。
フォルダの中に置くプロジェクトファイルには、決まった形の名前を付けます。おすすめは「曲名+日付+バージョン番号」です。
たとえば曲名が natsu なら、「natsu_0704_v1」のようにします。日付は月日の4桁、バージョンは v1、v2 と数字で増やしていきます。区切りはアンダーバーにすると読みやすくなります。
曲名の部分は、半角の英数字にしておくと安全です。日本語や記号は、別のパソコンやクラウドへ移したときに文字化けしたり、読み込めなかったりすることがあります。
長い曲名をそのまま使う必要はありません。その曲だと分かる短い英字を1つ決めておけば十分です。
この形にしておくと、フォルダの中でファイル名を並べ替えるだけで、自動的に新しい順に並びます。どれが最新かを探す時間がゼロになります。
名前を見ただけで、いつの、何番目の版かが分かる。これが迷子を防ぐ土台になります。
上書きせずバージョンを残す
戻れる保険があると、大胆に試せます。
バージョンを残すというのは、大事な場面で上書き保存をしない、ということです。
大きく手を入れる前には、上書きではなく別名で保存し、番号を1つ増やします。「natsu_0704_v1」を土台に翌日作業するなら、「natsu_0705_v2」として保存してから触り始めます。
こうしておく一番の利点は、いつでも前の版に戻れることです。思い切ってアレンジを変えて失敗しても、1つ前のバージョンを開けばやり直せます。
戻れる保険があると、大胆な実験がしやすくなり、結果として曲は良くなります。挑戦して失敗しても、失うのはその日の一手だけです。
プロジェクトファイル自体は、録音した音の素材に比べればとても小さいので、バージョンが10個あっても容量はほとんど気になりません。
節約のために上書きするより、番号を増やして残すほうが、失うものが少ない選択です。迷ったら残す、と決めておくと迷いません。
仮タイトルの付け方
曲名が決まる前でも、名前付けは止めません。
曲名がまだ決まっていなくても、保存はやってきます。そこで仮タイトルを使います。
仮タイトルは、後で自分がその曲を思い出せる手がかりであれば十分です。作った日付、テンポ、雰囲気、参考にした曲の印象など、何か1つ引っかかりを名前に入れておきます。
「kyoku1」のような通し番号だけの仮タイトルは、曲が増えると区別がつかなくなります。「bright_130」「ballad_night」のように、雰囲気やテンポを一言足すと、フォルダを見ただけで中身が想像できます。
正式な曲名が決まったら、フォルダごと名前を付け替えれば、それまでの作業はそのまま引き継げます。
仮タイトルの段階でも、日付とバージョンのルールは同じように使います。仮の名前でも、上書きせずに番号を増やしていく。
この習慣が付いていれば、曲名が決まる前の試作でも、作業の履歴がきちんと守られます。
書き出しファイルの名前ルール
聞く人の手元でも、どれが最新か分かるように。
最後は、書き出したWAVやMP3のファイル名です。ここを適当にすると、スマホの中に「mixdown」「mixdown(1)」が並び、どれが最新のミックスか分からなくなります。
書き出しにも、プロジェクトと同じ「曲名+日付+バージョン」の規則をそのまま使います。
プロジェクトが「natsu_0705_v2」なら、書き出しも「natsu_0705_v2.wav」にします。名前をそろえておくと、後で「このミックスはどのプロジェクトから出したものか」がひと目で分かります。
人に聞かせて修正を頼まれたときも、名前をたどって元のプロジェクトをすぐ開けます。
聞き比べのために複数の版を書き出すときも、番号が入っていれば順番どおりに並びます。「どっちが後の音だっけ」と悩む時間がなくなり、どこを直すかという耳の判断だけに集中できます。
名前をそろえる手間は、後で何倍にもなって返ってきます。
名前の付け方 早見表
迷ったら、この形をそのまま使ってください。
| 対象 | 名前の例 | ルール |
|---|---|---|
| 曲フォルダ | 2026_0704_natsu | 曲ごとに1つ、半角英数字で |
| プロジェクト | natsu_0704_v1.cpr | 曲名+日付+バージョン番号 |
| 大きく直した版 | natsu_0705_v2.cpr | 上書きせず番号を1つ増やす |
| 仮タイトル | ballad_night_0704 | 雰囲気やテンポを一言足す |
| 書き出し音源 | natsu_0705_v2.wav | プロジェクトと同じ名前にそろえる |
よくある疑問
ファイル名に日本語を使ってもいいですか
避けたほうが安全です。日本語や記号を含むファイル名は、別のパソコンやクラウドへ移したときに文字化けしたり読み込めなかったりすることがあります。曲名の部分は短くていいので半角の英数字にしておくと、どの環境でも安心です。
バージョンはどこまで残せばいいですか
大きく手を入れる区切りごとに1つ残せば十分です。プロジェクトファイルは録音した音の素材に比べてとても軽いので、バージョンが10個あっても容量はほとんど気になりません。節約のために消すより、番号を増やして残すほうが失うものが少ないです。
曲名がまだ決まっていないときはどうしますか
仮タイトルでかまいません。作った日付に、雰囲気やテンポを一言足すと、後から思い出せます。ballad_night_0704のような形です。正式な曲名が決まったら、フォルダごと名前を付け替えれば済みます。
上書き保存はしてはいけませんか
作業中の小さな保存は上書きでかまいません。問題になるのは、方向転換や大きな変更の前です。そこでは上書きせず、別名でバージョン番号を1つ増やして保存します。失敗しても前の版に戻れる状態を作っておくためです。
書き出したファイルの名前はどう付けますか
プロジェクトと同じ、曲名+日付+バージョンの規則を使います。プロジェクトがnatsu_0705_v2なら、書き出しもnatsu_0705_v2.wavにします。名前をそろえておくと、そのミックスがどのプロジェクトから出たものかがひと目で分かります。
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