クリックに合わない時の確認手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
メトロノームのクリックに合わせて録ったのに、あとで聞くと演奏が少し前や後ろにずれている。この「合わない」には、実は種類があります。
演奏そのものか、聞こえ方の遅れか、録音後のずれか。三つを分けて考えると、原因も直し方もはっきりします。
大事なのは、自分の演奏が下手だからと決めつけないことです。設定のせいで、うまく弾いても録音がずれて残ることがあります。
まずは、目の前のずれがどれにあたるのかを見分けるところから始めます。
先に見ること
クリックに合わない原因は、大きく三つに分かれます。
- 演奏そのものがクリックからずれている
- モニタリングの遅れで、合わせて弾いてもずれて録れる
- 録音後にトラックの位置がまとめてずれている
- 波形の頭とクリックを見比べて、どれかを判定する
三つの原因に分ける
「合わない」の中身を、まず切り分けます。
一つ目は、演奏そのものがクリックに乗れていない場合です。人の演奏は多少前後するものですが、テンポが速すぎると特に外しやすく、走ったりもたついたりします。
この場合、ずれ方は一定ではなく、音ごとにばらつきます。
二つ目は、モニタリングの遅れです。録音中、自分の音がレイテンシー(音の遅れ)で少し遅れて返ってくると、人はその遅れた音に合わせて弾こうとします。
すると実際の録音は、耳で感じているより前に走って記録されます。丁寧に合わせているつもりの人ほど、きれいに前へずれるのが特徴です。
腕の問題ではなく、聞こえ方の問題です。
三つ目は、録音後の位置ずれです。録音時に生じた遅れをDAWが補正しきれないと、録れた波形が実際の演奏より一律に後ろへずれて置かれることがあります。
演奏は合っていたのに、トラックに並んだ結果だけがずれている状態です。原因が違えば直し方も違うので、まずこの三つのどれかを見極めます。
覚え方はシンプルです。速いテンポで音がばらつくのが一つ目、丁寧に弾く人ほど前へ走るのが二つ目、演奏は合っていたのに並びだけ後ろへ落ちるのが三つ目。
この対応を頭に入れておくと、次に説明する波形の見方だけで、どれにあたるかをすぐ言い当てられます。
| 原因 | 波形の見え方 | 主な直し方 |
|---|---|---|
| 演奏のずれ | 音ごとにばらばらにずれる | テンポを落として録り直す |
| モニタリングの遅れ | 一律にそろって前へ走る | バッファサイズを下げる・ダイレクトモニタリング |
| 録音後の位置ずれ | 一律にそろって後ろへずれる | トラックをクリックの頭へ動かす |
レイテンシー由来かを見分ける
波形を見れば、腕のせいか設定のせいか分かります。
見分ける鍵は、録れた波形の並び方です。録音したトラックを拡大し、音の頭(アタック)とクリックのグリッド線を見比べてください。
1拍目のキックやピックの当たる瞬間など、はっきりした音の立ち上がりを目印にすると見やすくなります。
ここで、すべての音が同じ方向へ、同じだけ揃ってずれているなら、それは設定によるずれです。一定量きれいにずれる並びは、人間の演奏では作れません。
機械的な均一さは、レイテンシーや録音の遅れが原因だというサインです。反対に、ある音は前、ある音は後ろ、とずれ方がばらばらなら、それは演奏のタイミングの問題です。
この一手間で、「自分が下手だから」と「設定のせいだから」を切り分けられます。
均一なずれなら次のモニタリングの調整へ、ばらばらなら演奏を録り直す方向へ。進む道が決まります。
もう一つ見ておきたいのが、ずれの向きです。全部が前へ出ているのか、後ろへ落ちているのか。
前へ走っているなら、遅れて返る音を追いかけて弾いてしまったモニタリングの遅れが疑わしく、後ろへ揃っているなら、録れた位置そのものがずれている可能性が高い。
向きが分かると、次にどちらの直し方へ進めばよいかも同時に決まります。耳だけで悩むより、波形を数秒眺めるほうがずっと早く答えにたどり着けます。
モニタリングの遅れを直す
返りが遅いと、合わせて弾いてもずれます。
均一なずれ、つまりモニタリングの遅れが原因だと分かったら、録音の返りを速くします。基本は、DAWのオーディオ設定にあるバッファサイズを下げることです。
バッファサイズは、パソコンが音の処理をまとめて行う量の設定で、これが大きいほど返りが遅くなります。実技のレッスンでは、512サンプルで遅いと感じたらまず256を試す、という流れを取っています。
ただし下げすぎると音がプチプチ途切れるので、途切れない範囲で一番小さい値を探る塩梅が大切です。
設定を下げても返りの遅れが残るなら、オーディオインターフェイスのダイレクトモニタリングを使います。マイクやギターの音を、パソコンを通さず機材の中で直接ヘッドホンへ返す機能で、遅れをほぼ感じません。
返りが速くなれば、クリックに素直に合わせて弾けるようになります。返りを直す手順をまとめて確認したい場合は、レイテンシーの直し方もあわせてどうぞ。
ダイレクトモニタリングを使う時は、DAW側の入力モニター(トラックのスピーカー型のボタン)をオフにしてください。機材からの生の返りとパソコンからの遅れた返りが二重に聞こえると、かえって合わせにくくなります。
返す音は一本にしぼるのがコツです。返りが軽くなったら、いきなり本番を録らず、まず短く試し録りをして、クリックにぴたりと乗るかを波形で確かめると安心です。
録音位置を手直しする
一律のずれは、まとめて動かせば直ります。
すでに録れてしまった、均一に後ろへずれた録音は、録り直さなくても直せます。ずれているトラックやリージョンを選び、クリックの頭(グリッド)に合わせて前へ動かすだけです。
ずれ量が一定なので、目印の音がグリッドにぴったり乗る位置に置き直せば、全体がそろいます。
毎回ずれるなら、DAWの設定を見ておくと次から楽になります。多くのDAWには、録音の遅れを自動で埋める設定(録音のずれ補正やレコードシフトと呼ばれる項目)があり、自分の環境の遅れ量を入れておくと、以後は録った時点でそろいます。
手直ししたあとは、4小節だけ再生して、クリックやドラムと重ねてタイミングを確かめてください。
ずれ方がばらばらだった場合は、位置を動かしても直りません。その時は演奏の問題なので、テンポを一度落として録り、慣れたら元のテンポに戻すか、外した部分だけを録り直します。
クリックにぴったり合った土台ができたら、あとは安心して曲を重ねていけます。
よくある疑問
クリックに合わないのは演奏が下手だからですか
とは限りません。モニタリングの遅れが原因だと、うまく合わせて弾いてもずれて録れることがあります。まず波形でずれ方を確かめます。
全部の音が同じだけずれています
設定によるずれです。バッファサイズを下げて返りを速くするか、録れたトラックをまとめてクリックの頭へ動かして合わせます。
テンポが速いと合わせにくいです
まずテンポを落として録り、あとで元のテンポに戻す方法があります。演奏のずれとモニタリングの遅れは別なので切り分けます。
録音した後でもずれは直せますか
直せます。一律にずれた録音なら、そのトラックを選んでクリックの頭に合わせて動かせばそろいます。
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クリックに乗った録音が録れたら、返りの遅れそのものや周辺の録音トラブルも整理しておきましょう。