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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

クリック・メトロノームの基本

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作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

カチ、カチ、と一定の間隔で鳴り続ける音。DTMでは、DAWが鳴らすメトロノームの音をクリックと呼びます。

歌やギターを録る時、鍵盤を弾いて打ち込む時、この音に合わせて演奏する場面が必ず出てきます。

なぜわざわざ機械の音に縛られる必要があるのか。合わせようとすると演奏がガタガタになるのはなぜか。ずっと鳴らしておくものなのか。

クリックに合わせる意味から、苦手な人の練習の入り方、録音の時だけ鳴らす使い方まで、順に整理します。

先に見ること

クリックに合わせるのは、未来の自分の編集を楽にするためです。

  • クリックはDAW内蔵のメトロノーム。曲のテンポに自動で追従する
  • 合わせて録ると演奏と小節線が一致し、コピーもクオンタイズも効く
  • 苦手なら、テンポを落として手拍子から。楽器はその後
  • 鳴らすのは録音中だけ。聞き返す時は消して曲の音で判断する

クリックとは:DAWが鳴らすメトロノーム

テンポを決めれば、あとはDAWが刻んでくれます。

クリックは、DAWに内蔵されたメトロノームです。

楽器練習で使う単体のメトロノームと役割は同じですが、決定的に便利な点がひとつあります。プロジェクトに設定したテンポへ自動で追従することです。

テンポはBPMという数字で決めます。BPMは1分間に鳴る拍の数で、BPM120なら1分間に120回、0.5秒ごとにカチと鳴ります。

プロジェクトのBPMを変えれば、クリックの速さも一緒に変わり、テンポを測り直したり打ち直したりする手間はありません。

もうひとつの特徴が、小節の頭のアクセントです。4拍子なら「カッ、チ、チ、チ」のように、1拍目だけ高い音で鳴ります。

これのおかげで、いま小節のどこにいるのかを耳だけで把握できます。演奏しながら画面を見なくて済むのは、思っている以上に大きな助けです。

アクセントの位置は拍子の設定に連動します。3拍子の曲なのに4拍子のままだと、アクセントが曲とズレて「合わせているのに気持ち悪い」状態になります。

鳴らす前に、テンポと拍子の2つを曲に合わせておいてください。

つまりクリックは、単に速さを示す音ではなく、「DAWが考えている拍と小節の位置」を耳に伝える通訳です。この見方が、次の「なぜ合わせるのか」につながります。

なぜ合わせるのか:後の編集が全部楽になる

合っていない録音は、DAWの編集機能の外側に落ちます。

DAWの内部では、コピーも、クオンタイズも、ドラムの打ち込みも、すべて小節と拍のグリッドを基準に動いています。クリックはそのグリッドを音にしたものです。

だからクリックに合わせて録った演奏は、画面上の小節線と演奏の区切りが一致します。

一致していると何ができるか。気に入った4小節を選んでコピーすれば、次の4小節にぴったりはまります。

タイミングのヨレはクオンタイズで拍にそろえられます。あとからドラムやベースを打ち込んで重ねても、演奏とちゃんと噛み合います。

テンポを後から変えることさえできます。

逆にクリックなしで自由に録った演奏は、小節線と無関係な位置に記録されます。演奏として悪いわけではありません。

ただ、コピーしてもはまらず、クオンタイズは音楽を壊し、打ち込みを重ねればズレていく。DAWの編集機能がほぼ全部使えない録音になります。

ひとりで多重録音をするDTMでは、クリックは全パート共通の指揮者でもあります。今日録るギターと、来週打ち込むドラムが噛み合うのは、両方が同じグリッドを基準にしているからです。

合わせる相手は機械の音ではなく、未来の自分の作業だと考えると、付き合う理由がはっきりします。

クリックが苦手な人の練習の入り方

楽器を置いて、手拍子から。テンポも一度下げます。

クリックと合わせようとすると演奏がぎこちなくなる。これはほとんどの人が通る道で、原因の多くは、いきなり本番のテンポで楽器を弾きながら合わせようとすることです。

課題を分解して、段階を下げるところから入ります。

最初の段階は、楽器を持たずにクリックへ手拍子を合わせることです。テンポは録りたい曲より思い切り遅く、BPM70くらいまで落とします。

自分の手拍子とクリックが完全に重なると、クリックの音が自分の音に隠れて聞こえなくなる瞬間があります。それが「合っている」の感覚です。

手拍子なら音程も指使いも考えずに、タイミングだけへ集中できます。

次の段階で楽器を持ちます。ただし弾くのは1音だけ。

拍の頭で単音を鳴らすことをくり返し、慣れてきたら2音、4音とフレーズを増やします。この時も4小節だけ録音して聞き返すと、自分がどちらへズレる癖があるのかが分かります。

走るのか、もたるのか。癖が分かるだけで合わせやすさは変わります。

それでも「合わせているのに遅れて聞こえる」場合は、腕のせいではないことがあります。パソコンの音の遅延、いわゆるレイテンシーです。

制作では、録音の時は音の反応の速さを優先し、ミックスの時は安定性を優先する、と場面で設定を分けて判断します。合わせられない原因が練習不足なのか機材側なのかを、まず切り分けてください。

そして、この感覚は知識ではなく慣れです。DAWも楽器と同じで、触る時間に比例して体になじんでいきます。

週末にまとめて1時間より、1日5分の手拍子を毎日のほうが確実に前へ進みます。

録音時だけ鳴らす使い方

録る時は基準として、聞く時は消して判断します。

クリックは、プロジェクトを開いている間ずっと鳴らしておくものではありません。基本の型は、録音している間だけオン、聞き返す時はオフです。

理由は判断の質です。聞き返す時にクリックが鳴っていると、耳がクリックを基準に補正してしまい、演奏そのもののノリや粗が分かりにくくなります。

録れたテイクを採用するか録り直すかは、曲の音だけで聞いて決める。この切り替えを癖にすると、仕上がりの判断が安定します。

多くのDAWには、再生時と録音時でクリックを別々にオン・オフできる設定があり、一度設定すれば手動で切り替える必要がなくなります。Cubaseでの具体的な設定手順はCubaseのメトロノーム設定にまとめています。

また、いつでもクリックが必要なわけでもありません。マウスでドラムから打ち込む作り方なら、ノートは最初からグリッドにそろっているので、鳴っているドラム自体がクリックの代わりになります。

クリックが本当に必要なのは、まだ何も鳴っていない場所へ最初の演奏を録る時です。

場面ごとの目安を次の表にまとめます。録れたテイクをどう曲へ育てるかは、下の制作工程マップが続きになります。

場面別の使い方の目安

鳴らすかどうかは、場面で決めれば迷いません。

場面クリック理由
何もない状態へ最初の演奏を録るオンテンポの基準がクリックしかない
打ち込み済みのドラムに重ねて録る好みでオフドラム自体が拍の基準になる
マウスでの打ち込みだけほぼ不要ノートが最初からグリッドにそろう
テイクの聞き返し・ミックスオフノリや粗は曲の音だけで判断する

よくある疑問

クリックなしで自由に録音してはだめですか

録音自体はできます。ただし演奏が小節の区切りと合わなくなるため、コピーやクオンタイズなどDAWの編集機能がほぼ使えなくなります。あとで編集する前提の録音ならクリックありが基本です。

クリックとどうしても合いません

まずテンポを大きく落とし、楽器を持たずに手拍子で合わせるところから始めます。合わせているつもりで遅れて聞こえる時は、腕ではなく機材の遅延(レイテンシー)が原因のこともあります。

マウスの打ち込みだけでもクリックは必要ですか

打ち込んだノートは最初からグリッドにそろっているので、クリックはほぼ不要です。ただし曲のテンポ(BPM)を決める作業は打ち込みでも必要です。

クリックの音が耳障りで集中できません

多くのDAWでクリックの音量と音色は変更できます。音を柔らかいものに変え、演奏がぎりぎり聞き取れる音量まで下げると疲れにくくなります。

できた伴奏に歌を重ねる時もクリックは要りますか

ドラム入りの伴奏ならそれ自体が拍の基準になるので、クリックなしで録れます。ドラムのない静かな伴奏でテンポ感が頼りない時だけ、薄く混ぜると安定します。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

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次に進む記事

クリックに合わせて録れたら、曲作りの本編へ進みます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。