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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

クリック・メトロノームの基本

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

DAWでクリックを鳴らすと、カチ、カチ、と一定の間隔で音が続きます。これに合わせて弾いてください、と言われて、合わせようとした瞬間に演奏がぎこちなくなる。ずれているのは分かるのに、どちらにずれているのか分からない。クリックは、DTMを始めた人が最初に「自分はリズム感がないのかも」と思わされる道具です。

リズム感の問題であることは、ほとんどありません。合わせられない原因は、テンポが速いか、拍の頭が聞こえていないか、の2つにほぼ絞れます。クリックに合わせる意味を先に確かめてから、この2つの原因の見分け方と対処、クリック無しで作ってよい場合の判断、DAWのグリッドとの関係を順に整理します。Cubaseでの設定手順はCubaseのメトロノーム設定にまとめているので、ここでは触れません。

先に決めること

先に決めるのは「この録音を、後で切り貼りするか」です。

  • 先に決めること:後でコピーや打ち込みを重ねる録音ならクリックあり。一発で使い切る録音なら無しでよい
  • 迷ったらこれ:テンポを本番より思い切り落とし、楽器を持たずに手拍子でクリックの音を消す
  • 合わせられない原因は、テンポが速いか、拍の頭が聞こえないかの2つ。順に確かめる
  • クリックは、DAWの時間のマス目(グリッド)を音にしたもの。合わせると演奏がマス目に乗る

クリックに合わせる意味:時間のマス目に乗せる

DAWは小節と拍のマス目で時間を数えています。クリックはそのマス目の音です。

クリックは、DAWに入っているメトロノームです。楽器の練習で使うメトロノームと同じく、決めたテンポで一定に鳴ります。違いは、DAWのクリックが「プロジェクトの時間」そのものを鳴らしていることです。

DAWの画面には、縦線が等間隔に並んでいます。小節線と拍の線です。DAWは、この線で区切られたマス目で時間を数えています。ドラムを打ち込む時、ノートはこのマス目に置かれます。コピーする時、貼り付け先はマス目の頭です。このマス目のことをグリッドと呼びます。クリックは、グリッドの拍の線が来るたびに鳴る音です。つまり、クリックに合わせて弾くということは、自分の演奏をDAWのマス目に乗せることです。

乗っていると何が起きるか。録った演奏の4小節目の頭が、画面の4小節目の線と一致します。だから、気に入った4小節を選んでコピーすれば、次の4小節にそのまま入ります。あとから打ち込んだドラムも、同じマス目にいるので噛み合います。

乗っていないと、演奏は良くても、画面の線とは無関係な場所に記録されます。コピーしても頭がずれ、ドラムを重ねると少しずつ離れていきます。演奏が悪いのではなく、DAWの編集の道具が使えない録音になる、ということです。合わせる意味はここにあります。演奏を良くするためではなく、録った後の作業をDAWに手伝ってもらうためです。

打ち込みの場合は少し違います。マウスで置いたノートは最初からマス目の上にあるので、クリックに合わせる必要はありません。ただし、鍵盤を弾いてリアルタイムに打ち込む時は、録音と同じで、クリックに合わせないとマス目に乗りません。

合わせられない原因は2つ

テンポが速いか、拍の頭が聞こえないか。この順に確かめます。

合わせられない時、「リズム感」を疑う前に、2つの原因を順に確かめます。順番が大事です。1つ目を直さずに2つ目を直しても、合いません。

1つ目は、テンポが速いことです。作りたい曲のテンポで、いきなり合わせようとしている。演奏する手の動きと、クリックを聞く耳と、次の音を考える頭を、同時に速く回すことになります。合わせられないのは、その3つのどれかが間に合っていないだけです。対処は、テンポを落とすことです。少しではなく、思い切り。曲のテンポの3分の2くらいまで落として、楽器を持たずに、手拍子だけでクリックに合わせます。手拍子がクリックとぴったり重なると、クリックの音が自分の手拍子に隠れて聞こえなくなる瞬間があります。それが「合った」の感覚です。この感覚を、遅いテンポで先に体に入れます。

2つ目は、拍の頭が聞こえないことです。テンポを落としても合わないなら、こちらです。クリックが聞こえていない、というより、「今どの拍にいるか」が分からない状態です。原因はいくつかあります。楽器の音でクリックが埋もれている。1拍目のアクセント(多くのDAWでは小節の頭だけ高い音で鳴ります)が小さくて区別できない。拍子の設定が曲と違っていて、アクセントが違う場所で鳴っている。

対処は、拍の頭を「聞く」から「言う」に変えることです。制作の現場では、ドラムを名前や譜面から入るより、ドン、タン、ツツツのように口で言えるリズムから入るほうが止まりにくい、と判断します。クリックも同じで、1拍目を「ドン」、残りを「ツ、ツ、ツ」と口で言いながら手拍子をします。口が拍の頭を数えてくれるので、耳がクリックを聞き逃しても位置を失いません。あわせて、クリックの音量を上げ、1拍目のアクセントがはっきり区別できる音色に変えておきます。

2つとも試しても合わない時、原因は演奏側ではないことがあります。合わせているつもりなのに、録った音だけが遅れて聞こえる。これは、パソコンが音を返すまでの遅れ、レイテンシーです。レッスンでは、歌録りで返しが遅れて歌えない時、バッファサイズを512から256へ下げて塩梅を探ります。実際の調整でも、512では合わせられず、256でわずかに遅れるが歌える、という結果になりました。下げすぎるとパソコンが止まることがあるので、止まらない範囲で探します。録音の時は反応の速さを優先し、ミックスの時は安定を優先する。同じ設定で全部を解決しようとしない、という考え方です。

症状別の見分け方と対処

自分の症状の行を見つけて、対処を1つだけ試します。

症状原因対処
合わせようとすると演奏が崩れるテンポが速いテンポを3分の2に落とし、手拍子だけで合わせる
どの拍にいるか分からなくなる拍の頭が聞こえない1拍目を口で「ドン」と言う。アクセントの音量と音色を変える
合っているのに録った音だけ遅れるレイテンシーバッファサイズを512から256へ。止まらない範囲で探る
途中から少しずつずれていく走る癖、もたる癖4小節だけ録って聞き返し、どちらへずれるかを知る
3拍子の曲なのに気持ち悪い拍子の設定が違う拍子を曲に合わせてからクリックを鳴らす

クリック無しで作る判断

判断の軸は1つ。後で切り貼りするかどうかです。

クリックは、いつも鳴らすものではありません。無しで作ってよい場合があり、その判断は「後で切り貼りするか」の1点で決まります。

無しでよいのは、一発で録って、そのまま使う時です。弾き語りを頭から最後まで通して録り、そのテイクを編集せずに使う。テンポが少し揺れても、揺れごと曲にする。この場合、マス目に乗せる理由がありません。むしろ、クリックに縛られて演奏が固くなる損のほうが大きい。

もう1つ、無しでよいのは、すでにドラムが打ち込んであって、その上に重ねて録る時です。打ち込んだドラムはマス目に乗っているので、ドラムに合わせて弾けば、演奏もマス目に乗ります。ドラムが拍の頭を鳴らしてくれるので、クリックは二重になるだけです。ドラムのない静かな伴奏に重ねる時だけ、クリックを薄く混ぜます。

クリックが要るのは、まだ何も鳴っていない場所へ最初の演奏を録る時と、録った後にコピー、クオンタイズ、打ち込みの重ねを予定している時です。DTMでは、ほとんどの曲がこちらに入ります。今日録るギターの上に来週ドラムを打ち込むなら、今日のギターはクリックに合わせておく必要があります。

迷ったら、クリックありで録ります。ありで録ったものは、後で無しのように扱えます。無しで録ったものを、後からマス目に乗せるのは大仕事です。片方向にしか戻れない、と覚えておくと判断が早くなります。

グリッドとの関係

クリックに合わせた演奏は、マス目の道具が全部使えます。

クリックとグリッドの関係を、もう少しだけ具体的にします。グリッドに乗った演奏に使える道具は、大きく3つです。

1つ目はコピーです。マス目の頭と演奏の頭が一致しているので、1小節でも4小節でも、選んで貼れば次の小節にそのまま入ります。8小節を作って16小節に増やす作業が、数秒で済みます。

2つ目はクオンタイズです。演奏のタイミングのよれを、いちばん近い拍や8分の線に寄せる機能です。クリックに合わせて録った演奏なら、少しのよれをそろえるだけで済みます。合わせずに録った演奏にかけると、音が全部違う線に飛ばされて、演奏が壊れます。クオンタイズは、マス目に「ほぼ乗っている」演奏にしか効きません。

3つ目はテンポの変更です。グリッドに乗った演奏は、後からプロジェクトのテンポを変えても、マス目ごと伸び縮みしてついてきます。乗っていない演奏は置き去りになります。

そして、グリッドは打ち込みの土台でもあります。あとからドラムやベースを打ち込む時、ノートはマス目に置かれます。クリックに合わせて録った演奏となら噛み合い、合わせていない演奏とは、小節を追うごとに離れていきます。クリックに合わせるのは、この打ち込みとの噛み合わせを先に確保しておくことでもあります。

打ち込みだけで作る人にも、1つだけ残る作業があります。テンポを決めることです。ノートはマス目に乗っていますが、マス目の速さはテンポで決まります。鍵盤を弾かない人も、曲のテンポだけは最初に決めてから打ち込みを始めます。

今日やること

1つだけです。テンポを落として、手拍子を4小節だけ録ります。

DAWでテンポを、作りたい曲より思い切り遅く設定します。クリックを鳴らして、楽器は持たず、マイクに向かって手拍子を4小節だけ録音します。マイクがなければ、鍵盤の1音を拍の頭で叩いて録ります。

録れたら、画面の波形を見ます。手拍子の波形の頭が、拍の縦線に乗っているか、線の右にずれているか、左にずれているか。それだけを見ます。右に同じ幅でずれているなら、腕ではなくレイテンシーの可能性が高い。ばらばらなら、テンポをもう1段落とします。

4小節が線に乗ったら、今日はそこで終わりです。合った感覚が1回あれば、明日はテンポを少し上げて同じことができます。クリックに乗った4小節から、曲をどの順番で組んでいくかは、制作工程マップに1枚でまとめています。

よくある疑問

クリックに合わせられないのは、リズム感がないからですか

ほとんどの場合、テンポが速いか、拍の頭が聞こえていないかのどちらかです。テンポを3分の2まで落として手拍子だけで合わせ、1拍目を口で「ドン」と言いながら数えると、合う人が多いです。

合わせているつもりなのに、録った音だけ遅れています

パソコンが音を返すまでの遅れ、レイテンシーが原因です。バッファサイズを512から256へ下げて、パソコンが止まらない範囲で塩梅を探します。録音の時は反応の速さを、ミックスの時は安定を優先します。

クリック無しで録ってもいいですか

後でコピーや打ち込みの重ねをしない、一発で使い切る録音なら構いません。あとから編集や打ち込みを重ねるならクリックありで録ります。ありで録ったものは無しのように扱えますが、逆はできません。

マウスで打ち込むだけなら、クリックは要りませんか

要りません。置いたノートは最初からグリッドに乗っています。ただし、マス目の速さを決めるテンポだけは、打ち込みを始める前に決めておきます。

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次に進む記事

手拍子が拍の線に乗ったら、そのマス目の上に何をどの順番で置くか、曲作りの本編の記事へ進みます。

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プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。