レイテンシーとは

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
鍵盤を押してから音が鳴るまでに、ワンテンポの間がある。歌うと、自分の声がヘッドホンから少し遅れて返ってくる。この「操作と音の時間差」を指す言葉がレイテンシーです。英語のlatency(潜伏、待ち時間)が由来で、DTMでは音の遅れそのものを指して使われます。
レイテンシーは故障ではありませんし、パソコンが安物だから起きるわけでもありません。デジタルで音を扱う仕組みそのものに組み込まれた待ち時間です。正体とどこで発生しているかが分かると、「どこまで縮められるのか」「そもそも気にしなくていい場面はどこか」を自分で判断できるようになります。
先に見ること
レイテンシーは「操作してから音が出るまでの遅れ」です。
- 正体はパソコンが処理をまとめて行うための待ち時間
- 録音とリアルタイム演奏では気になり、再生中心の作業では問題にならない
- ゼロにはできない。縮めることはできる
- 調整の中心になるつまみはバッファサイズ
遅れの正体は「まとめ待ち」
音は一粒ずつではなく、束で処理されています。
パソコンは、マイクや鍵盤から入ってきた音をその瞬間ごとに処理しているわけではありません。音のデータをいったん小さな待合室にため、ある程度そろったところでまとめて計算し、まとめて送り出します。
一回分の量はほんの一瞬ですが、「たまるのを待つ、処理する、送り出す」という工程が入口側と出口側の両方にあるため、合計するとはっきり感じられる遅れになります。
身近な例ならエレベーターです。人が来るたびに一人ずつ運ぶより、何人かそろってから動くほうが建物全体としては効率的です。
ただし乗る側から見れば、そろうまでの待ち時間が必ず発生します。パソコンの音の処理もこれと同じで、効率と安定のためにまとめる設計になっており、その待ちが耳には遅れとして届きます。
ここから大事な結論が二つ出ます。一つ、レイテンシーは性能不足のエラーではなく、安定して音を鳴らすための仕組みの副作用だということ。
二つ、仕組み上ゼロにはできないということ。目指すのは「演奏の邪魔にならない長さまで縮めること」であって、完全に消すことではありません。
どこで発生しているか
通り道の4か所に、それぞれ小さな待ち時間があります。
マイクに入った声がヘッドホンから返ってくるまでを追いかけると、遅れの発生地点は大きく4つに分かれます。まず入口で、声やギターの電気信号をデジタルデータへ変換する時間。
次に、変換されたデータが処理待ちの列に並ぶ時間。ここが先ほどの待合室で、大きさはバッファサイズという設定で決まります。
三つ目がDAWの中での計算、つまり音源やエフェクトの処理です。特定のプラグインが大きな遅れを足すこともあり、これはプラグイン遅延と呼ばれて別枠で扱われます。
最後に出口で、デジタルデータをスピーカー用の信号へ戻す変換と、送り出し前の待ちがあります。
| 発生場所 | 何の時間か | 自分で縮められるか |
|---|---|---|
| 入口の変換 | 声や楽器の信号をデジタルへ変換 | ほぼ固定。機材の性能で決まる |
| 処理待ちの列(入口と出口) | データをためてまとめて処理する待ち | バッファサイズで調整できる。ここが本命 |
| DAW内の計算 | 音源とエフェクトの処理 | 重いプラグインを外せば減らせる |
| 出口の変換 | デジタルをスピーカー用の信号へ戻す | ほぼ固定。機材の性能で決まる |
表の通り、自分の手で動かせる場所は真ん中の2つです。設定で調整できるのが処理待ちの列、プロジェクトの中身で調整できるのがDAW内の計算。
遅れが気になった時に見るべき場所は、実はこの2か所しかありません。
気になる場面と、ならない場面
問題になるのは制作時間の半分だけです。
レイテンシーが問題になるのは、「音を出す動作」と「返ってくる音」を体の中で突き合わせる場面だけです。具体的には二つ。
歌やギターを録音しながら自分の音をヘッドホンで聞いている時と、MIDIキーボードでソフト音源をリアルタイムに演奏している時です。遅れが大きくなるほど、押した感覚と聞こえる音がずれて、リズムが取れなくなります。
逆に、打ち込んだデータを再生して聞く、ミックスでフェーダーやEQを動かす、完成した曲を書き出す。こうした作業では、再生ボタンを押してから音が出るまでにわずかな間があっても、作業の質には何も影響しません。
DAWは録音済みデータの位置を正確に把握しているので、再生中にトラック同士がずれて鳴ることもありません。
レッスンで判断の軸にしているのは、録音時は反応の速さを優先し、ミックス時は安定性を優先する、という分け方です。同じ設定で全部を解決しようとしないこと。
この軸を持つと、「常に遅れを最小にしなければ」という思い込みから解放されます。気にするべき場面は制作時間の半分しかなく、残り半分ではむしろ遅れを許してパソコンを楽にさせたほうが得なのです。
数値の読み方と耳での判断
単位はミリ秒。ただし最後は耳で決めます。
自分の環境の遅れは、DAWのオーディオ設定でおおよそ確認できます。多くのDAWは「入力レイテンシー」「出力レイテンシー」という項目をミリ秒(ms、1000分の1秒)で表示しています。
演奏した音が返ってくるまでの体感は、入力と出力を合計した往復の値で考えます。
どのくらいから気になるかは人と楽器によって差がありますが、一般には往復が数十ミリ秒に近づくと、もたつきとして感じる人が増えると言われます。歌やドラム系の打ち込みのように発音のタイミングにシビアな演奏ほど、小さな遅れでも引っかかります。
だから数値は目安にとどめて、最終判断は耳と体で行ってください。やり方は簡単で、ソフト音源を立ち上げて鍵盤を数回叩き、違和感がないかを確かめるだけです。
数値上は同じでも、速い曲を弾くと急に気になり出すこともあります。「この設定なら気持ちよく演奏できる」という自分の基準を一度つかんでおくと、以後の設定変更で迷わなくなります。
縮めたくなったらバッファサイズへ
遅れを動かす一番大きなつまみの話です。
ここまでで、レイテンシーの正体が処理のまとめ待ちであること、調整できる場所が限られていることが分かりました。では実際に縮めたい時、最初に触るのはどこか。
答えは待合室の大きさ、つまりバッファサイズです。まとめる量そのものを決める設定なので、遅れへの効き方が一番大きく、しかもDAWの設定画面から数値を選ぶだけで変えられます。
ただし小さくすれば万事解決、とはいきません。まとめる量を減らすとパソコンの負担が増え、音がプチプチ途切れる別のトラブルが顔を出します。
速さと安定のどちらを取るかという駆け引きがあり、その考え方はバッファサイズとはの記事で仕組みから解説しています。
そして、今まさに音が遅れて録音にならず困っているなら、原因の切り分けから対処までを手順としてまとめたレイテンシーの直し方へ進んでください。用語の意味が分かった今なら、手順の一つひとつが何をしているのかも見えるはずです。
遅れの正体さえつかめば、レイテンシーは怖いトラブルではなく、作業に合わせて調整するただの設定になります。環境が整ったら、あとは曲を作る工程に時間を使いましょう。
よくある疑問
レイテンシーとは何ですか
鍵盤を押したり歌ったりしてから、その音が耳に届くまでの時間差のことです。パソコンが音の処理をまとめて行うための待ち時間が主な正体です。
レイテンシーはゼロにできますか
デジタルで音を処理する以上、完全なゼロにはできません。演奏の邪魔にならない長さまで縮めることが現実的なゴールです。
どんな時に問題になりますか
歌や楽器を録音しながら自分の音を聞く時と、MIDIキーボードでソフト音源をリアルタイムに演奏する時です。打ち込みの再生やミックスでは、ほとんど問題になりません。
レイテンシーはどうすれば縮められますか
一番大きく効くのはバッファサイズを小さくすることです。DAWのオーディオ設定から変更できます。重いプラグインを外すことも効果があります。
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