リバーブをかけすぎた時の直し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
かけた夜は壮大で気持ちよかったのに、翌朝聞いたらお風呂場で歌っているようだった。リバーブのかけすぎは、DTM初心者が一度は必ずやる失敗です。恥ずかしいことではなく、耳の仕組み上そうなるようにできています。
直す時のコツは、いきなり全部外さないことです。センド量、プリディレイ、ローカット、残響の長さ。効き目の大きい順に4段階で減らしていくと、せっかく作った空気感を残したまま、輪郭だけを取り戻せます。
先に見ること
かけすぎは、サインの種類で直す場所が決まります。
- サインは「遠い」「風呂場」「輪郭が消える」の3つ
- 減らす順番は、センド量→プリディレイ→ローカット→長さ
- ちょうどいい量は「切ると少し寂しい」程度
- 量を決める時はソロではなく、曲全体で聞く
かけすぎのサイン3つ
どのサインかで、後の手順の重点が変わります。
1つ目のサインは、遠さです。歌や主役の楽器が、ステージの奥へ下がったように聞こえる。
リバーブには音を奥へ配置する効果があるので、量が過ぎると主役が観客席から遠ざかります。
2つ目は、いわゆる風呂場です。音と音の切れ目がなく、全体がモワモワと鳴り続けている。
特に低い成分を含んだ残響がたまると、曲全体が濁って聞こえます。
3つ目は、輪郭の消失です。歌詞の子音やドラムのアタックが響きに飲まれて、何を言っているか、どんなリズムかが曖昧になる。
3つのうちどれが一番近いかを先に決めておくと、この後の手順のどこに時間をかけるべきかが分かります。
なぜ誰でもかけすぎるのか
腕の問題ではなく、決め方の問題です。
リバーブは、足した瞬間に必ず豪華に聞こえるエフェクトです。素の音との比較で「良くなった」と感じるので、少しずつ足す手が止まりません。
しかも耳は響きに数分で慣れてしまい、慣れた分だけさらに足したくなります。
もう一つの罠が、ソロで量を決めることです。ボーカルだけを聞きながらちょうどよく合わせた響きは、オケと混ぜると必ず過剰になります。他の楽器の響きと合算されるからです。
トラックごとにソロで丁寧に合わせた人ほど、全体では霧だらけになります。
つまり、かけすぎたのはセンスがないからではありません。比較の錯覚と耳の慣れという仕組みに、決め方が負けただけです。決め方を変えれば、同じ耳のままで直せます。
まず基準を作り直す
減らす前に、ゼロ地点を確認します。
最初にやることは、調整ではなくリセットです。すべてのトラックのリバーブを一時的にオフにして、乾いた状態の曲を聞きます。
ここが、多い少ないを測るためのゼロ地点になります。
乾いた状態で確かめるのは、レッスンで軸にされている判断です。歌ものはドラムとボーカルの聞こえ方を先に決める。
この2つが乾いた状態で気持ちよく立っているなら、曲の骨格は響きに頼らなくても成立しています。逆にここで物足りない場合、足りないのは残響ではなくバランスそのものです。
リセットした状態は必ず別名で保存しておきます。かけすぎ版と乾いた版の両方が残っていれば、どこまで戻しても失うものがなく、安心して試せます。
減らす順番の全体像
効き目が大きく、失うものが少ない順です。
ここからリバーブを薄く戻しながら、4つのつまみで整えます。順番には理由があります。上のものほど大きく効き、かつ空気感を壊しにくいからです。
| 順番 | 操作 | 何が変わるか | 特に効くサイン |
|---|---|---|---|
| 1 | センド量を絞る | 響きの量そのものが減る | 3つのサインすべて |
| 2 | プリディレイを長くする | 音の頭と残響が分離して輪郭が戻る | 遠い、輪郭が消える |
| 3 | リバーブのローカット | 響きの低い成分が消えて濁りが取れる | 風呂場のような濁り |
| 4 | 残響時間を短くする | 響きの尻尾が次の音とかぶらなくなる | 音の切れ目がない |
用語を一つだけ整理します。センドとは、各トラックからリバーブ専用トラックへ音を送る仕組みで、送る量がそのまま響きの量になります。
トラックに直接挿しているなら、プラグインのMixやWetというつまみが同じ役割です。
手順1 センド量を絞る
最初にして最大の一手です。
やり方は、下げるのではなく、一度ゼロにしてから上げ直すのがおすすめです。かけすぎた状態から少し下げるだけだと、慣れた耳が「物足りない」と抵抗して、結局ほとんど減らせません。
ゼロから少しずつ上げていき、響きが「鳴っている」とはっきり分かる手前で止めます。目安は、オンオフを切り替えた時に、切ると少し寂しいと感じる程度です。
響きそのものが聞こえる状態は、もう多すぎます。
この作業は必ず曲全体を再生しながら行います。ソロで決めた量は混ぜると過剰になる、という罠をここで思い出してください。
歌なら、歌詞の聞き取りやすさが変わらない範囲が上限です。
手順2 プリディレイとローカット
量を保ったまま、質を整えるつまみです。
プリディレイは、元の音が鳴ってから残響が立ち上がるまでの時間です。ここを少し長くすると、言葉の頭やドラムのアタックが響きにかぶられなくなり、量を減らさなくても輪郭が戻ります。
広さの印象は残したいのに歌詞が埋もれる、という時の特効薬です。
ローカットは、リバーブの中の低い成分を削る設定です。低い残響は広がりにはあまり貢献せず、濁りとしてたまっていくだけのことが多いので、思い切って削って構いません。
風呂場のようなモワモワは、これだけでかなり晴れます。
2つとも、リバーブプラグインの中に項目があるのが普通です。見当たらない場合は、リバーブ専用トラックにEQを挿して低い成分を削れば、ローカットと同じ効果になります。
手順3 残響を短くする
それでも濁るなら、尻尾を切ります。
ここまでの調整で足りなければ、残響時間そのものを短くします。長い響きは、次の音が鳴ってもまだ伸び続けて、音符と音符の間を埋めてしまいます。
テンポが速く、音数が多い曲ほど、短めの設定が合います。
プリセットで選び直すのも近道です。ホールや教会のような長い空間のプリセットを、部屋やプレートなど短めの空間に差し替えるだけで、時間をかけずに解決することがあります。
短くしても物足りなさが出る場合は、リバーブの代わりにディレイを検討します。やまびこのように音を遅らせて返す道具で、残響のように伸び続けないため、輪郭を保ったまま空間を演出できます。
直ったかの確認と予防
耳の慣れを前提にした確認方法です。
確認の基本は、同じ音量でのオンオフ比較です。調整後の状態とリバーブを切った状態を切り替えて、切った時に少し寂しい程度に収まっているか。
そして小さい音量で再生して、主役の輪郭が立っているかを見ます。
できれば一晩置いてください。かけすぎは作業中の慣れた耳が作るので、翌日の新しい耳で聞くのがいちばん確実な検査です。
書き出してスマホで聞けば、制作環境の癖も外せます。
予防としては、リバーブをセンド方式で1〜2個に集約しておくのがおすすめです。全トラックの響きを1か所で見渡せるので、足しすぎに気づきやすく、直す時も1か所で済みます。
空間づくりが曲作りのどの段階に来るのかは、制作工程マップで全体の流れごと確認できます。
よくある疑問
リバーブを全部切ったら乾きすぎて不安です
全部切るのは基準を作り直すための一時的な状態なので、不安で問題ありません。乾いた状態で主役が立っているのを確認してから、主役→伴奏の順に薄く戻していきます。
センドとインサートはどちらでかけるべきですか
初心者にはセンドをおすすめします。1つの響きを複数トラックで共有でき、量の調整も1か所で済むので、かけすぎに気づいた時に直しやすい構成になります。
プリセットのまま使ってはだめですか
出発点としては十分です。ただし響きの量だけは曲ごとに必ず調整してください。プリセットは単体で聞いて気持ちいい量になっていることが多く、曲に混ぜると過剰になりがちです。
サビだけリバーブを増やすのはありですか
ありです。Aメロは近く乾いた声で、サビで響きを広げる、のように場面で量を変えると、かけすぎずに広がりの対比を作れます。
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