DTM初心者はいつミックスを学ぶべきか|曲作りとの順番

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DTMを始めると、曲作りの解説と同じくらい「ミックス講座」の情報が目に入ってきます。EQ、コンプ、リバーブ。難しそうな用語が並ぶと、早めに勉強しておかないと置いていかれる気がします。
答えを先に書くと、ミックスを本格的に学ぶのは、曲が数曲完成してからで遅くありません。
むしろ曲が1曲もない段階で学び始めると、知識だけ増えて手が止まります。
なぜ先に学ぶと止まるのか、曲作りの途中ではどこまで触っていいのか、学び始めの合図は何か、学ぶならどの順番か。上から順に整理します。
先に見ること
ミックスの勉強は、曲が数曲完成してから始めて間に合います。
- 本格的に学ぶのは完成曲が2、3曲たまってから
- 曲作り中に触るのは音量バランスとパンだけ
- 合図は「自分の曲が市販曲と何か違う」と感じた時
- 学ぶ順番は音量→パン→EQ→コンプ→空間系
曲が数曲できてからで遅くない
ミックスは、完成した音を整える後工程です。
ミックスとは、打ち込みや録音が終わった複数のトラックの音量や音質を整えて、1つの聞きやすい音源にまとめる作業です。
使う道具は、フェーダー(音量のつまみ)、パン(左右の置き場所)、EQ(音の高い成分と低い成分を調整する道具)、コンプ(音量の凸凹をならす道具)、リバーブなどの空間系です。
定義からわかる通り、ミックスには「整える対象の音」が必要です。作りかけの4小節や、頭の中にしかない曲は整えられません。
商業の制作でも、作曲や編曲で音を全部そろえてから、仕上げとしてミックスに入ります。工程の順番として、ミックスは後ろにあります。
だから初心者が焦って先に学ぶ必要はありません。
目安として、ワンコーラスでもいいので最後まで書き出した曲が2、3曲たまってからで十分です。それまでの間に学んだことは、直す曲がないので使い道がなく、忘れていきます。
先にミックスを学ぶと止まる理由
知識が悪いのではなく、順番が合っていません。
1つ目の理由は、直す対象の曲がないことです。ミックスの上達は「この曲のボーカルが埋もれているから直す」という具体的な作業の積み重ねです。
曲がなければ問題も起きないので、直す練習ができません。作文を1本も書いていないのに、赤ペンの入れ方だけを習うようなものです。
2つ目の理由は、耳が育っていないことです。EQで高い成分を少し持ち上げると音がどう変わるか。コンプがかかった音とかかっていない音の差はどこか。
これは知識ではなく、自分の曲を書き出して聞き比べた回数で身につく感覚です。
聞き分けられない段階で操作方法だけ覚えても、良くなったのか悪くなったのか判断できず、つまみの前で固まります。
3つ目は、時間の問題です。ミックスの情報は量が多く、追いかけ始めると曲作りの時間が消えます。DTMを始めたばかりの時期に一番伸びるのは、曲を最後まで作り切る力のほうです。
レッスンでも、順番だけは最初に決めています。EQやコンプという道具に手を伸ばす前に、フェーダーで主役と支えを分ける。
処理の知識より、どの音を主役にするかという判断が先です。この判断は曲を作る中で自然に鍛えられるので、曲作りがそのままミックスの準備になります。
制作の段階とミックスの距離感
今の自分がどの行にいるかで、触る範囲を決めます。
| 段階 | 曲作りの状態 | ミックスはどこまで |
|---|---|---|
| 1曲目の途中 | 8小節〜ワンコーラスを組み立てている | フェーダーの音量バランスとパンだけ |
| 2、3曲完成 | 書き出した音源が手元にある | EQとコンプを1トラックずつ試し始める |
| 聞き比べ開始 | 市販曲と並べて違いを感じる | 空間系まで含めて本格的に学ぶ |
曲作り中は音量とパンだけでいい
2つだけなら、曲作りを止めずに整えられます。
ミックスを後回しにすると言っても、全トラックが同じ音量のままでは制作中の判断もしにくいです。曲作りの途中で触っていいのは、音量バランスとパンの2つだけと決めておきます。
音量バランスは、フェーダーだけで取ります。全部を大きくするのではなく、主役以外を少し下げるのがコツです。
歌ものなら、ドラムとボーカルがはっきり聞こえる状態を先に作ります。伴奏のコードやパッドは気持ちよく上げたくなりますが、上げすぎると主役が奥に引っ込みます。
パンは、音の左右の置き場所です。ボーカル、キック、ベースは真ん中に置き、ハイハットを少し右、ギターやピアノを左右に振り分けます。
真ん中に全員が集まっている状態をほどくだけで、音がかなり見通しよくなります。
逆に、EQとコンプはまだ触りません。判断基準がないまま触ると、変わったのかどうかもわからないまま時間だけが消えます。
プラグインを買い足すのも同じ理由で後回しです。フェーダーとパンは無料で、しかも効果が一番大きい道具です。
学び始める合図
合図は外からではなく、自分の耳から来ます。
ミックスを学び始めるタイミングには、わかりやすい合図があります。書き出した自分の曲を市販曲と並べて聞いた時に、「何かが違う」と感じ始めた時です。
この「何か違う」は、耳が育ってきた証拠です。ボーカルが埋もれて聞こえる、全体がこもっている、市販曲より音が小さく感じる。
違和感を自分の言葉で言えるようになっていれば、直したい問題が手元にあるということです。問題があれば、EQもコンプも「この問題を解決する道具」として学べるので、知識が実感とつながります。
逆に、市販曲と並べてもまだ違いがピンと来ないなら、学ぶのはもう少し先で大丈夫です。
その場合にやることは教材を増やすことではなく、曲数を増やすことです。作って書き出すたびに、聞こえる違いは細かくなっていきます。
聞き比べる時は、条件をそろえると違いが見えやすくなります。同じイヤホンかスピーカーで、自分の曲と好きな市販曲を交互に再生します。
音量の差が大きいと比較になりにくいので、聞こえの大きさが近くなるよう再生側で合わせてから聞きます。
ボーカルの距離感、低音の量、左右の広がり。気づいたことをメモしておくと、そのメモがそのまま、最初に学ぶテーマのリストになります。
学ぶ順番は音量→パン→EQ→コンプ→空間系
前の道具で解決できる問題を、後ろの道具で直さないためです。
学び始めると決めたら、道具を触る順番も決めます。おすすめは、音量、パン、EQ、コンプ、空間系の順です。
最初は音量です。フェーダーで主役と支えを分けることが、あらゆる処理の土台になります。
次にパンで左右の混雑をほどきます。ここまでは曲作り中にやってきたことの延長なので、すぐ入れます。
3番目がEQです。同じ音域を取り合っている楽器のかぶりを整理します。持ち上げるより、いらない成分を削る使い方から覚えると失敗が減ります。
4番目がコンプです。音量の凸凹をならす道具ですが、効果が耳で聞き取りにくいため、EQより後に回します。
最後が空間系です。リバーブやディレイで全体をなじませるのは、バランスが整った後の仕上げです。
この順番にする理由は1つです。前の道具で解決できる問題を、後ろの道具で無理やり直すと崩れるからです。
ボーカルが小さいだけなのにEQで持ち上げようとしたり、バランスが悪いのをリバーブでごまかしたりすると、直すほど濁ります。困った時ほど、フェーダーまで戻って確認します。
曲作りとミックスの位置関係が見えたら、あとは1曲を作る工程の全体を地図として持っておくと迷いません。音出しから完成までの流れは、下の制作工程マップにまとめています。
よくある疑問
曲作りとミックスの勉強を並行してもいいですか
音量バランスとパンだけなら曲作り中に触って構いません。EQやコンプの本格的な勉強は、書き出した曲が数曲たまってからのほうが身につきます。
ミックスを学ぶ前に何曲作ればいいですか
目安は2、3曲です。フルコーラスでなくワンコーラスでも構いませんが、最後まで書き出して音源の形にした曲であることが大切です。
曲作りの途中でやっていいミックス作業は何ですか
フェーダーで音量バランスを取ることと、パンで楽器を左右に置くことの2つだけです。EQ、コンプ、リバーブはまだ触らなくて大丈夫です。
ミックスは何から学び始めればいいですか
音量、パン、EQ、コンプ、空間系の順で学びます。フェーダーで主役を決めることが全ての土台になるので、道具の知識より先に音量から始めます。
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