バス・グループトラックの基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
曲を聞き返して「ドラム全体をあと少しだけ下げたい」と思ったとします。キック、スネア、ハイハット、シンバルと4本のフェーダーを同じ量ずつ下げる。
1本でもずれれば、せっかく作ったドラム内のバランスが崩れます。トラックが増えるほど、この綱渡りは難しくなります。
この面倒を一撃で消すのが、バス(グループトラック)です。複数のトラックの音をいったん1か所に合流させる、いわばまとめ役。
ドラム一式をバスに合流させれば、フェーダー1本でドラム全体を動かせます。ミックスが「トラックの数だけ大変」から「まとまりの数だけ考えればいい」に変わる、節目の道具です。
先に見ること
バスは音の合流地点。個別のバランスを保ったまま、全体を1本で動かせます。
- 複数トラックの音を1本にまとめる中継地点。呼び名はDAWで違う
- ドラム一式を1本のフェーダーで上げ下げできる
- まとめてコンプやEQをかけると、パートに一体感が出る
- 作る手順は3つ:グループを作る、名前を付ける、出力先を差し替える
バス・グループトラックとは
複数の音がいったん乗り合わせる、途中の停留所です。
DAWの中で、各トラックの音は普通、それぞれまっすぐマスター(最終出口)へ向かいます。バスとは、その途中に設けた合流地点です。
キック、スネア、ハイハットの音をいったんバスに集め、そこからひとつの音のかたまりとしてマスターへ送る。乗り物のバスと同じで、別々に歩いていた乗客を1台に乗せて運ぶイメージです。
呼び名はDAWによって違います。バス、グループチャンネル、グループトラック、サブミックスなどですが、指しているものはほぼ同じです。
Cubaseではグループチャンネルトラックという名前で作れます。名前の違いに惑わされず、「音の合流地点」と覚えれば、どのDAWの解説を読んでも迷いません。
大事なのは、バス自体は音を出さないことです。音源も波形も持たず、通ってきた音に対して音量やエフェクトの調整だけを行う。
楽器ではなく、通り道に立つ調整係です。だからいくつ作っても曲が重くなりにくく、消しても元のトラックは無事です。
安心して試せる仕組みだと知っておいてください。
ドラム一式をフェーダー1本で
中のバランスは崩さず、外側の音量だけを動かせます。
バスの便利さが一番はっきり出るのがドラムです。ドラムはキック、スネア、ハイハット、タム、シンバルと、1つの楽器なのにトラックは4〜8本になりがちです。
せっかくキックとスネアの関係を時間をかけて作っても、「ドラム全体を歌に対して少し下げたい」となった瞬間、全部のフェーダーを同率で動かす作業が待っています。
ドラム一式をバスにまとめてあれば、この作業はフェーダー1本です。しかも重要なのは、中のバランスが完全に保たれることです。
キックとスネアの関係、ハイハットの引っ込み具合はそのまま、ドラムというかたまりの音量だけが上下する。内側の仕事と外側の仕事が分離されるのです。
これはミックスの考え方そのものを楽にします。レッスンでは、EQやコンプを触る前にフェーダーで主役と支えを分ける、全部を大きくするのではなく主役以外を少し下げる、という順番を勧めていますが、トラックが20本あると「主役以外を下げる」だけで一苦労です。
ドラム、コーラス、上物とバスでまとまっていれば、主役と支えの調整は数本のフェーダーの会話で済みます。
まとめてコンプ・EQをかける
バラバラの打楽器が「ひとつのドラム」に聞こえてきます。
バスのもうひとつの主要な使い方が、合流した音へまとめてエフェクトをかけることです。代表はコンプレッサーです。
ドラムのバスに薄くコンプをかけると、キックが鳴った瞬間にスネアやシンバルも一緒にわずかに押さえられ、各打楽器が互いに反応し合うようになります。
この相互作用が、打ち込みのバラバラな音たちを「一人の人が叩いているドラムセット」らしいまとまりに近づけます。接着剤にたとえられる使い方です。
EQも同様です。ドラム全体が少しこもって聞こえるとき、8本のトラックへ1本ずつEQを挿して回るより、バスで一括して整える方が速く、設定の食い違いも起きません。
コーラスを重ねた声のグループに対して、まとめて低い成分を整理するような使い方も定番です。
ただし、かけたエフェクトは中の全トラックに影響します。効きが強すぎたとき、原因がバスなのか個別トラックなのか、初心者には切り分けが難しくなります。
最初は「音量の調整+薄いコンプ」程度にとどめて、1つずつ音の変化を確認しながら足していくのが安全です。
作り方の流れ
どのDAWでも、やることは実質3ステップです。
手順は拍子抜けするほど短いです。
- 第一に、グループ用のトラックを新規作成します。メニューの名前はDAWごとに違いますが、トラック追加の画面に「グループ」や「バス」という選択肢があります。
- 第二に、そのトラックに「Drums」のような名前を付けます。
- 第三に、まとめたい各トラックの出力先を、マスターからいま作ったグループへ差し替えます。ミキサー画面の各トラックに出力先を選ぶ欄があるので、そこを変更するだけです。
確認は耳と目の両方で行います。再生してドラムが今まで通り聞こえること、そしてグループのフェーダーを下げたときにドラム全体が一緒に小さくなることです。
もし一部の太鼓だけ音量が変わらないなら、そのトラックの出力先の差し替え漏れです。
ひとつだけ注意があります。出力先を差し替えた直後は、音が二重に届いていないか、逆にどこにも届かず消えていないかを必ず確認してください。
バスの仕組みで起きるトラブルのほとんどは、音の行き先がどこかで切れているか重なっているかの、ただの配線問題です。慌てて設定を増やす前に、各トラックの出力先を上から順に見直せば大抵見つかります。
最初に作るグループの例
曲の編成に合わせて、この程度の粒度から始めます。
| グループ名 | 入れるトラック | よくやる調整 |
|---|---|---|
| Drums | キック、スネア、ハイハット、シンバル類 | 全体音量、薄いコンプで一体感 |
| Vocals | メインボーカル、ハモリ、コーラス | 声のまとまりの音量、低域の整理 |
| Synth/上物 | パッド、アルペジオ、リード | サビ以外で少し下げて歌の場所を空ける |
| Guitars | 左右に振ったバッキング、リード | 全体音量、こもりの一括EQ |
増やしすぎないための考え方
まとめ方の単位は「アレンジ上の役割」に合わせます。
バスを覚えたての時期にやりがちなのが、細かく作りすぎることです。タム専用、ハイハット専用と分けていくと、グループの中にグループが増え、音がどこを通ってマスターへ行くのか自分でも追えなくなります。
合流地点は、少ないから役に立つのです。
目安は、アレンジを考えるときの言葉の単位でまとめることです。「ドラムをもう少し」「コーラスを奥に」「上物を引っ込めて歌を前に」。
自分が曲を聞きながら口にする単位が、そのままバスの単位になっていれば、思いついた修正がすぐフェーダーに翻訳できます。逆に、口にしない単位のグループは、たぶん要りません。
最初の曲では、ドラムのバス1本だけでも十分に価値があります。1本のフェーダーでドラム全体と歌の関係を調整できる体験をすると、ミックスが個別トラックとの格闘から、かたまり同士のバランス取りへ変わったことが実感できるはずです。
そのバランス取りが曲作りのどの段階に来るのかは、制作工程マップで全体の流れと一緒に確認できます。
よくある疑問
バスとグループトラックは別のものですか
役割はほぼ同じで、DAWによる呼び名の違いです。複数トラックの音を1本に合流させる中継地点のことを、バス、グループチャンネル、サブミックスなどと呼びます。
最初はどのパートをまとめればいいですか
ドラムがおすすめです。キック、スネア、ハイハットとトラック数が多く、1本のフェーダーで全体を動かせる恩恵が一番分かりやすいからです。
マスタートラックと何が違いますか
マスターは全トラックが最後に必ず通る出口です。バスは特定のグループの音だけが通る中間地点で、マスターの手前にあります。
バスにエフェクトを入れすぎるとどうなりますか
中の全トラックに一括でかかるため、音が変わった原因を切り分けにくくなります。最初は音量の調整と、薄いコンプ程度にとどめるのが安全です。
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