DTMで作業が続かない時の戻り方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DAWを買ったばかりの頃は毎日開いていたのに、いつの間にか一週間、二週間と触らない日が続いてしまう。DTMが続かないと感じる時、多くの人は自分の根気のなさを責めます。ですが、止まる場所には決まったパターンがあり、たいていは根気ではなく、続けるための段取りが抜けているだけです。
止まり方は大きく4つに分かれます。何をやればいいか分からない、工程が大きすぎて手が止まる、昨日の続きが分からない、伸びている気がしない。この記事は、その4つを見分けて、それぞれに合った戻し方を一つずつ用意するためのものです。今の自分がどれで止まっているかを決めるところから始めます。
止まる4つの原因
続かない時は、根気ではなく、止まっている原因に合わせて戻します。
- 何をやればいいか分からない → 今日の小さいゴールを一つ決める
- 工程が大きすぎて手が止まる → 一度にやることを一つに割る
- 昨日の続きが分からない → 保存とひと言メモで入口を残す
- 成長を感じない → 先週の自分と聞き比べ、完成の基準を下げる
続かないのは根気の問題ではない
止まる場所には型があり、原因ごとに手当てが違います。
DTMは、始めるのに強い意志が要る作業です。楽器なら手に取れば音が鳴りますが、DAWは開いてから、今日は何をどこまでやるかを毎回自分で決めなければ音が増えません。
この「決める」部分が重いために、疲れた日ほど開かなくなり、開かない日が続くと後ろめたさが積もって、さらに開きにくくなります。続かない状態の正体は、意志の弱さよりも、この決める手間が毎回リセットされることにあります。
だから、精神論で立て直そうとしてもうまくいきません。「明日から毎日やる」と決めても、翌日また同じ重さが待っているからです。
効くのは、決める手間そのものを減らす段取りです。今日やることを小さく固定しておく、昨日の入口を残しておく、伸びが見える形にしておく。段取りが変われば、同じ根気でも続く距離が伸びます。
手当てを選ぶために、まず自分がどこで止まっているかを一つに絞ります。曲作りは、目標を決める、音を置く、聞いて直す、保存する、という工程が繰り返し回っています。止まっているのがどの工程かで、効く手は変わります。
次の章から、4つの止まり方それぞれに戻し方を用意します。当てはまるものから読んで構いません。
何をやればいいか分からない時
先に「今日の終わり」を決めると、作業が一回分の大きさになります。
DAWを開いたのに、何から手を付ければいいか分からずタイムラインを眺めて終わる。これがいちばん多い止まり方です。原因は、やる気ではなく、今日のゴールが決まっていないことです。
ゴールがないと、どこまでやれば終わりなのか判断できず、少し触っては迷い、迷っては閉じる、を繰り返します。
制作では、作業を始める前に完成形の小さいゴールを決める、という考え方を軸にしています。8小節なのか、90秒なのか、フルコーラスなのか。
今日たどり着く地点が見えていないまま細部を触ると、操作は増えても曲は進みにくいからです。続かない人に必要なのは、この「地点」をうんと近くに置くことです。
具体的には、開く前に一つだけ決めます。「今日はサビの4小節だけコードを置く」「イントロを90秒のラフで通す」「ドラムのハイハットの刻みを差し替える」。どれも数分から十数分で終わり、終わった瞬間に達成の実感が残ります。
ゴールは小さいほど良く、迷ったら4小節を単位にします。4小節は、コードもドラムも一つのまとまりとして耳で確認できる、いちばん扱いやすい長さです。
決めたゴールは、開く前にスマホのメモか付箋に書いておくと効果が上がります。DAWを開いてから考えると、また決める重さが戻ってくるからです。
前の日の終わりに「明日は2番のドラムを作る」と書いておけば、翌日は迷う時間ゼロで手が動きます。
工程が大きすぎて手が止まる時
「1曲仕上げる」を、今できる一手まで割ります。
やることは決まっているのに手が動かない時は、そのやることが大きすぎることが多いです。「今日はサビを完成させる」と思った瞬間、コードもメロディもドラムもベースもミックスも同時に頭に浮かび、どれから触ればいいか分からなくなって固まります。
頭の中で工程が団子になっている状態です。
ほどき方は単純で、一度にやることを一つの工程だけに割ります。同じサビでも、「今日はコードだけ」「明日はその上にメロディ」「次はドラムのリズム」と分ければ、一手ずつは十分に軽くなります。
曲作りには自然な順番があり、土台になるコードやリズムを先に、その上に乗るメロディや飾りを後に置くと、前の工程が次の判断材料になって迷いが減ります。
一つに割る時のコツは、その手が終わったかどうかを自分で判定できる形にすることです。「良い感じにする」は終わりが決められませんが、「4小節にコードを4つ置く」は置いたら終わりだと分かります。
終わりが判定できる手だけを今日の作業にすると、達成が積み上がり、次の日も同じ割り方で入れます。
それでも固まる時は、手を動かす対象をさらに一つの音に絞ります。キック一つを打つ、ベースのルート音を一小節だけ置く。
曲全体ではなく、目の前の一音だけを相手にすると、止まっていた手がほどけて動き出します。
原因別・戻し方の早見表
今の自分に近い行を一つ選び、その手だけを試します。
| 止まっているサイン | 本当の原因 | 今日の戻し方 |
|---|---|---|
| 開いたが何から触るか決まらない | 今日のゴールがない | 4小節か90秒で、終わる地点を先に決める |
| やることは分かるが手が動かない | 一度の工程が大きすぎる | コードだけ、ドラムだけと一工程に割る |
| 数日ぶりで前回の状況を思い出せない | 入口が残っていない | 保存を開いて通しで聞き、ひと言メモを読む |
| 作っても前と同じに聞こえて飽きる | 伸びが見えていない | 先週の書き出しと聞き比べる |
| いつまでも完成せず疲れる | 完成の基準が高すぎる | 短い曲を通す方へ基準を下げる |
昨日の続きが分からない時
再開の重さは、閉じ方を変えるだけで大きく減ります。
数日ぶりにプロジェクトを開いて、「どこまでやったんだっけ」「次に何をするつもりだったんだっけ」と分からなくなり、思い出すだけで力尽きる。再開でつまずくこの型は、開く時ではなく、前回閉じる時に手を打つと防げます。
やることは2つだけです。
- まず、作業を切る時にきちんと保存して閉じます。
- 次に、閉じる直前に「次にやること」を一行だけ残します。
残す場所は、プロジェクトのファイル名の末尾でも、同じフォルダに置いたテキストでも、スマホのメモでも構いません。「次はサビのベースを直す」「Bメロのドラムが弱いので差し替える」。この一行があるかないかで、次に開いた時の入口の重さがまるで違います。
メモは丁寧である必要はありません。むしろ、未来の自分がその一行を読んで、迷わず一手目を打てるかどうかだけを基準にします。
「ミックス」とだけ書くと何をするか分かりませんが、「ボーカルの音量を少し上げる」なら開いてすぐ手が動きます。動詞まで書いておくのがコツです。
再開のハードルをさらに下げたい時は、開いた最初の作業を「通しで一度聞く」だけにします。前回の状態を耳で思い出すと、たいてい直したい場所が自然に一つ見つかり、そこから手が動き出します。
何日空いても、まず聞くところから戻れば、続きに入り直せます。
成長を感じない時
伸びは、他人ではなく過去の自分と比べると見えます。
作っても作っても上手くなった気がしない。この感覚が続くと、やっても無駄に思えて手が止まります。ただ、伸びを感じにくいのには理由があって、多くの人が比べる相手を間違えています。
プロの完成曲や、上手い人の投稿と今日の自分を比べれば、差は当然大きく、伸びは差の中に埋もれて見えません。
比べる相手は、先週や先月の自分です。同じくらいの長さの曲を、以前に書き出した音源と今日の音源で聞き比べます。ドラムの置き方、音の重ね方、隙間の作り方。二つを並べると、説明されなくても変わった点が耳で分かります。
良くなった点は伸びの証拠で、毎回そっくり同じになる点は、次に手を入れる余地のある自分の癖です。だから書き出した音源は消さず、日付を付けて残しておきます。過去の自分は、いちばん身近な比較対象になります。
それでも実感が薄い時は、完成の基準そのものを一度下げます。プロと同じ密度で仕上げようとすると、一曲がいつまでも終わらず、終わった経験が積み上がりません。
まずは短い曲を、粗くても最後まで通すことを完成と決めます。通した回数が増えるほど、入口から終わりまでの流れが身につき、次の曲の見通しが良くなります。上達は、長く一曲を磨く中よりも、短い曲を何本も通す中で見えやすいものです。
毎日をゼロにしない
続ける目的は、上手くなる前に、DTMを生活から消さないことです。
ここまでの4つの戻し方に共通するのは、DAWに触る回数を絶やさない、という一点です。DTMは、持っているだけで曲ができる道具ではなく、楽器と同じで、触る時間の積み重ねで手と耳が慣れていきます。
1日5分でも、開いて昨日の続きを聞くだけで、その積み重ねは途切れません。逆に、まとまった時間を待って何日も開かないと、慣れが少しずつ後戻りします。
忙しくてDAWの前に座れない週は、書き出した自分の曲をスマホに入れ、移動中に聞くだけでも構いません。自分の音との接点さえ切れなければ、再開はいつでも軽く済みます。
時間を固定するのも効きます。夜、歯を磨く前に5分だけ開く。朝、コーヒーの間に昨日の音を聞く。すでにある習慣の隣に置くと、意志の力に頼らずに続けられます。
大事なのは、空いた日数を取り返そうとしないことです。取り返そうとするほど今日の作業が大きくなり、また止まります。今日はゼロにしない、という一点だけ守れば、続かない状態からは抜けられます。
触る回数が戻ってきたら、次は1曲を最後まで作り切る流れを知る番です。音出しからフルコーラス完成までの道筋は、制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
DTMが続かないのは才能や向き不向きの問題ですか
多くは仕組みの問題です。今日やることが決まっていない、一度の工程が大きすぎる、昨日の続きが分からない、成長が見えない。この4つのどれが起きているかを見分けて、その一つだけを直すと戻りやすくなります。
何をやればいいか分からず手が止まります
作業を始める前に、今日の小さいゴールを一つ決めます。4小節だけ打ち込む、90秒のラフを通しで並べる、ドラムを一つ差し替える。終わる場所が見えると、その日の作業が一回分の大きさに収まります。
数日あいてしまって再開できません
空いた分を取り返そうとせず、前回のプロジェクトを開いて通しで一度聞くだけにします。閉じる時に残したひと言メモがあれば、次の一手がすぐ決まり、再開の重さが消えます。
上達している実感がなくて続きません
先週や先月に書き出した自分の曲と、今日の音を聞き比べます。完成の基準を一度下げて、短い曲を最後まで通す回数を増やすと、細部より先に全体の変化が耳で分かるようになります。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出しからフルコーラス完成までの6工程を1枚にまとめた無料マップです。楽器が弾けなくても、譜面が読めなくても、順番どおりに進めば1曲は作れます。登録するとPDFと、工程ごとのコツをメールでお届けします。
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