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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

DTMが上達するには何をすればいいか

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

DTMがうまくなりたい時、多くの人は知識を増やそうとします。理論書を読み、解説動画を見て、新しいプラグインを試す。それ自体は悪くありませんが、上達に直接効く行動は別にあります。作った音を実際に書き出して、別の環境で聞き返して、一つ直すことです。

うまい人との差は、才能よりも、この「作って直す」を何回まわしたかにあります。上達は知識の量ではなく、最後まで完成させた曲の数に沿って進みます。

先に見ること

DTMの上達は、長時間の作業より「作って書き出して聞き返す」回数で進みます。

  • 作る、書き出す、聞き返す、一つ直す、を1周として数える
  • 完成させた曲の数が、そのまま実力になる
  • 好きな曲を4小節だけ真似て、音の役割を盗む
  • 練習に見えて上達しない行為を減らす

上達を作る4ステップのループ

書き出しをはさむと、粗が急に見えます。

上達の中心にあるのは、4つの動作のループです。作る、書き出す、聞き返す、一つだけ直す。

この一周を何回まわせるかで、伸び方が変わります。順番も大事で、聞き返しと修正が抜けると、作りっぱなしになって同じ弱点が残ります。

逆に言えば、この4つさえ回していれば、教材を大量に消化しなくても着実に前へ進みます。

レッスンでは、一周を始める前に、今日はどこまでで完成とするかの小さいゴールを先に決めることを勧めています。8小節なのか、90秒なのかが見えないまま細部を触ると、作業は増えても曲は進みにくいからです。

特に大事なのが、書き出しを必ずはさむことです。DAWの画面を見ながら聞くと、目が音を補ってしまい、粗が見えません。

WAVかMP3に書き出して、スマホのスピーカーやイヤホンなど別の環境で聞くと、ボーカルがオケに埋もれている、低音が重い、といった問題が急にはっきりします。

そこで気づいた点を、次の一周で一つだけ直します。二つも三つもまとめて直そうとすると、どの変更が効いたのか分からなくなり、判断力が育ちません。

一周につき一箇所。地味ですが、この積み重ねが耳と手を鍛えます。

「一つ直す」は、具体的にはこのくらいの粒度です。

  • ボーカルのフェーダーを少し上げる。
  • キックとぶつかっているベースの低い帯域を少し削る。
  • 同じスネアの音を2小節目だけ強くする。

どれも一箇所です。直す前に「どこがどう気になるか」を一言で言えないなら、まだ直す段階ではなく、もう一度聞き返す段階です。

気になる場所が言葉になって初めて、手を動かします。

完成した数が実力になる

磨き続ける1曲より、通した10曲が速い。

上達を測るいちばん確かな物差しは、最後まで完成させた曲の数です。作りかけを100個抱えている人より、下手でも10曲を書き出した人のほうが、確実に速く上達します。

工程を最後まで一周するたびに、コードを置く判断も、ドラムを組む手つきも、少しずつ速く正確になるからです。

だから、1曲を延々と磨き続けるより、完成の数を増やすことを優先します。今の曲が納得いかなくても、書き出して次へ行く。

次の曲では、前の曲で気づいた弱点を一つだけ課題として持ち込む。今回はメロディの動きに気をつける、次はドラムの抜き差しを試す、というように課題を一つずつずらしていくと、遠回りに見えていちばんの近道になります。

1曲ですべてを直そうとするより、10曲かけて10個の弱点を一つずつ潰すほうが、着実で気も楽です。

完成の数が増えると、副産物もあります。1曲あたりの重みが減るので、思い切った実験ができるようになります。

全財産を1曲に賭けているうちは慎重になりますが、11曲目なら「サビを半分に削ってみよう」と気軽に試せます。

気に入らずに手放した曲も、削除する必要はありません。そこで生まれたコードの流れや、たまたま良かった音色の組み合わせは、次の曲の材料になります。

書き出したファイルには、作った日付を頭に付けて残しておきます。半年後にまとめて聞き返すと、自分がどれだけ変わったかが一番はっきり見える資料になります。

上達の実感は、記憶ではなく、並べた音源が教えてくれます。

真似から学ぶ

全部でなく、一要素だけ4小節コピーします。

独力でゼロから思いつける引き出しには限りがあります。そこで、好きな曲を真似ます。

ただし全部をコピーする必要はありません。ドラムだけ、ベースだけ、コード進行だけ、と一つの要素に絞って、4小節だけ再現します。

範囲を狭めるほど、学びは濃くなります。

たとえば好きな曲のドラムを耳で拾って打ち込むと、キックとスネアがどの拍にあるか、ハイハットがどれくらい細かく刻まれているかが見えてきます。ベースだけ拾えば、コードのどの音を選び、どんなリズムで動いているかが分かります。

これは解説を10本読むより、体に残ります。耳で拾って手で置く、この往復そのものが練習になっているからです。

プロの曲は、真似る対象としてだけでなく、観察の資料としても使えます。イントロは何秒か、サビでどの楽器が増えるか、Aメロで何が抜けているか。

数えるように聞くと、自分の曲へ持ち帰れる発見が増えます。真似て、盗んで、自分の曲に混ぜる。上達している人は、たいていこれをやっています。

真似る曲は、いきなり凝った曲を選ばないほうがうまくいきます。音数が多い曲は、何が鳴っているのか聞き分けるだけで力尽きます。

楽器が少なく、構成が素直な曲のほうが、一つ一つの役割がはっきり見えて学びやすいです。真似て身についたパターンは、自分の引き出しになります。

引き出しが増えるほど、次にゼロから作る時も、手が止まりにくくなります。

練習にならない行為

手を動かした気になるだけの時間を減らします。

最後に、練習に見えて上達につながりにくい行為にも触れておきます。動画を見続けてDAWを開かない、作りかけを眺めて閉じるだけ、といった時間です。

手を動かしている気分にはなりますが、書き出しも、聞き返しも、修正も残りません。上達は、音源という結果が積み上がった時にだけ進みます。

この線引きを毎日のメニューに落とす具体的な方法は、DTMは毎日何を練習すればいいかで整理しています。この記事で足しておきたいのは、知識との付き合い方です。

理論書や解説動画が悪いわけではありません。問題は順番です。

使う予定のない知識を先に集めても、なかなか身につきません。今作っている曲でコードが単調だと感じた時に、はじめてコードの本を開く。

その日に困った一点だけを調べると、読んだ内容がすぐ自分の曲で試せて、記憶にも残ります。学びは、作業の前ではなく、作業でぶつかった後に足すほうが効きます。

もし30分触って何も書き出していない日が続いたら、やり方をループ側へ戻します。今日はドラムだけでいいので、作って、書き出して、一つ直す。

小さくても一周すれば、その日は前に進んでいます。それが上達の全体像の中でどこに当たるのかを1枚で確かめたい時は、下の制作工程マップを開いてください。

上達する練習としない練習

同じ時間でも、残るものが変わります。

場面上達しにくいやり方上達するやり方
仕上げる1曲を延々と磨き続ける書き出して、次の曲へ課題を一つ持ち込む
直す気になる所をまとめて全部直す一周につき一箇所だけ直して書き出す
道具を足すプラグインを買い替える同じ道具で完成の数を増やす
真似る曲を丸ごとコピーしようとするドラムだけなど一要素を4小節再現する

よくある疑問

毎日どれくらい練習すればいいですか

短くても構いません。20分でも、作って書き出すところまで進めば一周になります。時間の長さより、作って直すループを何回まわしたかが上達を決めます。

コピー練習は必要ですか

役立ちます。全部を真似る必要はなく、ドラムだけ、コードだけを4小節再現するだけで、音の役割や配置が分かります。

上達しているか分かりません

過去の書き出しと今の書き出しを並べて聞いてください。1か月前のドラムと今日のドラムを比べると、画面では気づけない変化が見えます。

知識を増やすのは無駄ですか

無駄ではありませんが、順番があります。今作っている曲で困った点を調べると、知識がすぐ使えます。使う予定のない知識を先に集めても、なかなか実力になりません。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。

次に進む記事

上達のループを回すために、具体的な作り方の記事へ進みます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。