YouTubeでDTMを学ぶ時の注意|見て終わらない使い方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DTMの独学で、YouTubeを使わない手はありません。DAWの画面がそのまま映り、操作した結果どんな音になるかまで聞けて、しかも無料。ひと昔前なら教室でしか見られなかった手元の動きが、今は検索一つで見られます。
それでも「動画は毎日見ているのに、曲が1曲もできていない」という状態は簡単に起きます。原因はYouTube側ではなく、使い方にあります。強みと落とし穴を切り分けて、見終わった後に何をするかまで決めておく。それがこのページで扱う中身です。
先に見ること
動画は見た直後に、自分のDAWで再現して初めて教材になります。
- 強みは操作を目と耳で真似できること、そして無料なこと
- 弱みは順番がないこと。つまみ食いと見て満足が起きやすい
- 1本見たら、同じことを自分のDAWで4小節だけ再現する
- 古い動画は画面が違う。投稿日とDAW名を確かめて選ぶ
- 学ぶ順番の設計は本が得意。役割分担で併用する
YouTubeが独学の主力になれる理由
操作の学習に限れば、これ以上の教材は多くありません。
強みの一つ目は、操作が動きで見られることです。
文章で「右クリックしてクオンタイズを選ぶ」と読むのと、カーソルがメニューをたどる動きを見るのとでは、身につく速さがまるで違います。どこを押すか迷う余地がないからです。
二つ目は、結果の音がすぐ聞けることです。つまみを回す前と後で音がどう変わったか、打ち込んだドラムがどんなノリで鳴るか。
DTMは音の勉強なので、説明と音がセットで届くことの価値はとても大きいです。しかも一時停止と巻き戻しが自由なので、自分のペースで何度でも同じ場面を確かめられます。
三つ目は、無料で量が膨大なことです。メジャーなDAWの基本操作から、かなりニッチな機能まで、たいてい誰かが解説しています。お金の理由でDTMの入口が閉ざされることは、もうほぼありません。
ここまでが強みです。問題は、この便利さがそのまま落とし穴の入口にもなっていることです。
4つの落とし穴
情報が足りなくて失敗する人より、流されて失敗する人が多いです。
一つ目は、順番がないことです。動画は1本ずつ独立していて、全体のカリキュラムを誰も設計してくれません。
何が基礎で何が応用かをまだ判断できない段階では、基礎が抜けたまま応用の動画に手を出してしまい、分かったような分からないような時間が続きます。
二つ目は、つまみ食いです。おすすめ欄が出してくるのは「あなたが見たくなるもの」であって、「今のあなたに必要なもの」ではありません。
ミックスの小技、シンセの音作り、プロの機材紹介。面白い動画を渡り歩くうちに、知識は断片のまま増え、曲は進まないままになります。
三つ目は、見て満足です。動画は手を動かさなくても、テロップと完成した音で「分かった」という感覚をくれます。
ただしそれは投稿者のDAWで鳴った音です。自分の環境で同じ音が出せるかどうかは、やってみるまで分かりません。
四つ目は、古い情報です。数年前の動画では、DAWの画面もメニューの名前も今と違うことがあります。「動画にあるボタンが自分の画面にない」で止まるのは初心者の定番のつまずきです。
投稿日を見る癖と、自分のDAW名で探し直す癖をつけてください。
落とし穴と対策の早見表
起きること別に、打ち手を1つずつ決めておきます。
| 落とし穴 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 順番がない | 基礎が抜けたまま応用に手を出す | 今作っている曲の工程に合う動画だけを選ぶ |
| つまみ食い | 知識は増えるのに曲が増えない | 今週はドラムだけ、のようにテーマを1つに絞る |
| 見て満足 | 分かった感覚だけが残り、手が動かない | 1本見たら自分のDAWで4小節再現してから次へ |
| 古い情報 | 画面が違って操作が見つからない | 投稿日を確認し、DAW名+やりたいことで探し直す |
見終わった直後の5分で差がつく
動画を閉じたら、その場でDAWを開きます。
使い方の核は一つだけです。動画を見終わったら、その場で自分のDAWを開き、今見た操作を真似して再現する。
丸ごとでなくて構いません。4小節ぶんだけで十分です。
一時停止しながら同じ手順をなぞり、音が鳴ったら保存して終わり。ここまでやって、1本の動画が初めて教材になります。
レッスンでは、今日の作業を始める前に完成形の小さいゴールを決める、8小節なのか90秒なのかが見えないまま細部を触ると、作業は増えても曲は進みにくい、という判断を軸にしています。
動画選びも同じ構図です。先に「今日はドラムを4小節」とゴールを決めてから、それに必要な動画を探す。この順番なら、視聴がそのまま制作の材料になります。
ゴールより先にYouTubeを開くと順番が逆になり、何を見るかの主導権をおすすめ欄に渡すことになります。
探す時の言葉にもコツがあります。「DTM 上達」のような広い言葉ではなく、自分のDAW名と今日やりたいことをつなげて検索します。
別のDAWの動画は画面もショートカットも違うため、慣れないうちは同じDAWの動画に絞ったほうが再現までの距離が短くなります。
チュートリアル漬けから抜けるサイン
見ることが目的になっていないか、時々点検します。
チュートリアル漬けとは、動画を見ること自体が目的になり、作る時間がなくなっている状態です。本人には勉強している実感があるので、自覚しにくいのが厄介なところです。
次のどれかに心当たりがあれば、点検のタイミングです。
- 再生履歴は増えているのに、DAWの保存フォルダに新しいプロジェクトが増えていない。
- 同じ入門テーマを、別の投稿者の解説で何本も見比べている。
- 「もっと良いやり方があるはずだ」と検索し直すことが作業の中心になっている。
- 動画で覚えたはずの機能を、自分の曲ではまだ一度も使っていない。
抜け方は思い切りが必要です。新しい動画を1週間だけ断ち、手元にある知識だけで曲を進めてみてください。
すると足りないものが「ハイハットを細かく刻むにはどうする?」のような具体的な質問の形で現れます。
そうなってから、その質問で1本だけ探す。質問が先、動画が後。この順番が守れているうちは、漬けには戻りません。
本との併用で順番を補う
YouTubeの弱点は、YouTubeの中では解決できません。
ここまで見てきたとおり、YouTubeの弱点は情報の質ではなく、順番のなさに集中しています。
そして順番は、本がいちばん得意とするところです。目次があり、基礎から応用への道が最初から敷かれていて、どこまで進んだかが目に見えます。
現実的な組み合わせは、順番を本に任せて、操作の場面だけ動画で補う形です。
本で「次はドラムの章」と決まったら、実際の打ち込み画面はYouTubeで同じDAWの動画を探して真似する。順番の背骨と、動きの教材。互いの弱点を消し合う関係になります。
そもそも本と動画のどちらを主教材にするか、それぞれの得意分野をどう見極めるかは、本と動画どちらで学ぶべきかで扱っています。こちらのページは、YouTubeを使うと決めた後の実際の回し方です。
最後に一つだけ。動画を見る目的は、動画に詳しくなることではなく、自分の曲を進めることです。
自分が今どの工程にいるかが見えていれば、見るべき動画は自然に絞れます。工程の全体像は、制作工程マップで確かめてください。
よくある疑問
どんな言葉で検索すればいいですか
自分のDAW名とやりたいことをつなげます。「Cubase コード入力」のような形です。「DTM 初心者」のような広い言葉は、機材紹介やレビューが混ざって目的の操作にたどり着きにくくなります。
動画と自分のDAWの画面が違います
別のDAWか、古いバージョンの動画の可能性があります。投稿日を確認し、自分のDAW名で新しめの動画を探し直してください。メニューの名前が少し違うだけなら、近い名前を自分の画面で探すと見つかることも多いです。
英語の動画しか見つからない時はどうすればいいですか
操作系の内容なら、言葉が分からなくてもカーソルの動きを追うだけで真似できます。字幕の自動翻訳も補助になります。理論の解説など言葉が主役の内容は、日本語の教材で置き換えたほうが確実です。
たくさん見るのと1本を再現するのはどちらがいいですか
1本を再現するほうです。見ただけの10本は数日で忘れますが、自分のDAWで再現した4小節は手順ごと残ります。視聴の量より、音になった回数を数えてください。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
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