DTMは本と動画どちらで学ぶべきか|初心者向けの使い分け

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
本で学ぶか、YouTubeの動画で学ぶか。DTMを独学で始める人がほぼ必ず迷う分かれ道ですが、実はどちらか一方を選ぶ問題ではありません。動画はDAWの操作を画面ごと真似できる教材で、本は知識を体系立てて並べた地図であり辞書です。得意分野が違うので、覚えたい内容ごとに使い分けます。
ただし、どちらを選んでも共通の条件が一つあります。見て終わり、読んで終わりにせず、その場で自分のDAWを開いて同じことを再現することです。ここが抜けると、知識だけ増えて曲は1曲も増えません。
先に見ること
DAWの操作は動画で真似て、理論と全体像は本で押さえます。
- 動画の強み=操作の手の動きと音をそのまま真似できる
- 本の強み=順番が固定されていて、後から辞書として引ける
- 動画だけの独学は、順番がなくつまみ食いになりやすい
- 操作系の本は、自分のDAWに対応しているかを最初に確認
- どちらで学んでも「見たらすぐDAWで再現」が上達の条件
動画と本は得意分野が違う
優劣ではなく、向いている内容が分かれています。
動画の一番の強みは、DAWの画面がそのまま映ることです。どのメニューを開き、どのボタンを押し、どこをドラッグするか。
操作は文章で読むより、動きを見て真似るほうが何倍も速く身につきます。しかも操作の結果として音がどう変わったかを、その場で耳で確認できます。
ドラムの打ち込みやエフェクトのかけ方のような「手の動きがある内容」は、動画の独壇場です。
一方で動画には、順番がありません。
1本1本はよく分かっても、再生が終われば次に何を学ぶべきかは誰も教えてくれません。数週間後に「あの説明どこで見たっけ」と探しても、10分の動画のどこで言っていたかを見つけるのはかなり面倒です。
本の強みは、まさにその裏返しです。本には目次があります。
基礎から応用へ、知識が体系として並んでいて、自分が今どこまで進んだかが目に見えます。索引や付箋で必要なページへ一瞬で戻れるので、辞書として引けます。
コードやスケールのような、前の知識の上に次を積む内容は本のほうが向いています。
本の弱点は、操作の説明が静止画と文章になることです。画面写真が自分のDAWと違うと、初心者はどこを押せばいいのか分からなくなります。音も鳴りません。
つまり、操作は動画、積み上げの知識は本。まずこの大枠を持っておくと、教材選びで迷う時間が減ります。
目的別の使い分け早見表
覚えたい内容から、先に開くものを決めます。
| 覚えたいこと | 先に開くもの | 理由 |
|---|---|---|
| DAWの基本操作 | 動画 | 画面の動きと結果の音をそのまま真似できる |
| 音楽理論・コード | 本 | 積み上げ式の内容は、順番が固定された体系で学ぶほうが崩れない |
| 操作の一点でつまずいた | 動画を症状名で検索 | 「DAW名+やりたいこと」で探すとピンポイントの解説が出やすい |
| 用語の意味の確認 | 本の索引 | 数秒で引ける。動画は該当箇所を探し直す時間がかかる |
| 1曲を作る全体の流れ | 順番のある教材を1つ | 本1冊や連載型など、通しで進めるものを背骨にする |
学ぶ目的から手段を決める
「どっちが良いか」ではなく「今日は何を覚えたいか」から選びます。
DAWの操作を覚えたい日は、動画から入ります。検索する時は「DTM 使い方」のような広い言葉ではなく、自分のDAW名とやりたいことをつなげます。
CubaseならCubase、別のDAWならそのDAW名で探すこと。違うDAWの解説動画は、画面もショートカットも違うので、初心者のうちは混乱のもとになります。
理論を学びたい日は、本から入ります。動画にも面白い理論解説はたくさんありますが、単発で見ると知識が断片のまま散らばります。
本なら「この章が分からないのは前の章が曖昧だからだ」と戻る場所が分かります。理解が浅い場所に戻れることが、体系で学ぶ最大の利点です。
曲作りの全体像をつかみたい時は、順番が決まっている教材を1つだけ選び、途中で乗り換えずに最後まで通します。
本を頭から進めるのでも、順番の決まった連載や講座でも構いません。大事なのは、順番を他人に決めてもらう期間を最初に作ることです。
トラブルが起きた時だけは例外で、本も動画も「調べもの」として使います。
音が出ない、書き出せないといった症状は、学習ではなく辞書引きです。解決したら深追いせず、制作へ戻ります。
YouTube独学の落とし穴
無料で情報は十分にあります。危ないのは情報不足ではなく順番です。
動画だけの独学で一番多いのが、つまみ食いです。ミックスのテクニック、シンセの音作り、プロの機材紹介。
おすすめに出てくる動画はどれも面白く、1本ずつは勉強になります。ただ、面白い順に見た動画を全部足しても、1曲を完成させる手順にはなりません。
気づくと知識は増えたのに、DAWのプロジェクトは4小節のまま止まっている。この状態は本当によく起きます。
原因は、動画には目次がないことです。
本なら著者が「この順で読めば分かる」と設計してくれていますが、YouTubeでは次に何を見るかを選ぶ責任が視聴者側にあります。何が基礎で何が応用かをまだ判断できない初心者ほど、この選択は難しくなります。
もう一つの罠が、見て満足することです。動画は手を動かさなくても内容が流れてきます。
テロップと完成した音源で「分かった」という感覚になりますが、それは作った人のDAWで鳴った音です。自分のDAWで同じ音を出せるかどうかは、実際にやってみるまで分かりません。
対策はシンプルです。見る動画を「今作っている曲に必要なもの」だけに絞ること。
ドラムを打ち込んでいる週はドラムの動画だけ、と決めるだけで、視聴が制作につながり始めます。
順番そのものに迷うなら、目次のある本を1冊背骨にして、操作の部分だけ動画で補う形が初心者にはいちばん安全です。
本の選び方
最初に確認するのは内容の濃さではなく、自分のDAWとの一致です。
操作を扱う本で最優先の条件は、自分のDAWに対応しているかです。
DAWごとに画面も用語もボタンの場所も違うので、別のDAWの入門書は、内容がどれだけ良くても初心者には翻訳作業が発生します。
書店で表紙のDAW名を確認し、中の画面写真が自分の画面と似ているかを見てから買います。
逆に、理論やコード進行、作曲の考え方を扱う本は、DAWを問いません。こちらは「読んで理解できる言葉で書かれているか」で選びます。
数ページ立ち読みして、知らない用語が説明なしに続くようなら、その本はまだ早いというサインです。
もう一点、DAWの解説本はソフトのバージョンと完全には一致しないことがあります。画面が少し違っても慌てる必要はありませんが、選べるなら発行が新しいものを優先すると迷いが減ります。
買った後の使い方も選び方の一部です。本は頭から全部読み切る教材である必要はありません。
今必要な章から読み、残りは辞書として棚に置く。1冊を「地図と辞書」として長く使うつもりで選ぶと、何冊も買い足さずに済みます。
どちらでも共通する進め方
教材の差より、見た後の5分の差が上達を決めます。
本でも動画でも、進め方の核は同じです。見たら、読んだら、すぐ自分のDAWで同じことを再現する。
レッスンでも、理論の説明を聞いて納得したところで終わりにせず、短いコードを鳴らして自分の耳で確かめるところまで進めてもらいます。
説明が分かることと、自分のDAWで音になることは、別の段階だからです。
やり方は難しくありません。動画なら、一時停止しながら同じ操作を自分の画面でなぞります。1本見たらDAWで1回。
本なら、1つの章を読んだら4小節だけ作って保存します。コードの章を読んだら4小節のコードを、ドラムの章なら4小節のドラムを。
短くて構わないので、読んだ内容が音になった状態を毎回残します。
時間の配分も、見る側に寄せすぎないことです。教材を見る時間が10割でDAWが0割なら、それは音楽の勉強ではなく鑑賞です。
見る3割、作る7割くらいのつもりでちょうどよくなります。1日5分でもDAWを開いて昨日の続きを聞き返すこと自体が、楽器の練習と同じように積み重なっていきます。
そして、本や動画で「何を」学ぶかに迷ったら、先に1曲を作る流れを見てください。
コード、ドラム、メロディ、アレンジと工程が見えていれば、今の自分に必要な章や動画はおのずと決まります。学ぶ順番の地図として、下の制作工程マップも使えます。
よくある疑問
本と動画はどちらか一つに絞るべきですか
絞る必要はありません。DAWの操作は動画で真似て、理論や全体像は本で押さえる役割分担が現実的です。得意分野が違うので、両方を目的で使い分けます。
動画をたくさん見ているのに曲が完成しません
見る動画がつまみ食いになっている可能性が高いです。今作っている曲に必要な動画だけに絞り、1本見たら同じ内容を自分のDAWで再現してから次へ進みます。
本を選ぶ時に最初に確認することは何ですか
操作を扱う本なら、自分のDAWに対応しているかを最初に確認します。画面写真が別のDAWだと初心者は迷いやすいです。理論やコードの本はDAWを問わず使えます。
無料の動画だけで独学できますか
情報量としては可能ですが、学ぶ順番を自分で設計する必要があります。順番に迷うなら、目次のある本を1冊決めて背骨にして、操作の部分だけ動画で補うと迷いにくくなります。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
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