メーターの見方|音が出ているか確認する

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
DAWの画面で上下に動く、あの縦の光の棒。何を測っているのか説明できないまま、なんとなく眺めている人は少なくありません。赤く光っても放置していると、書き出した曲がバリバリに割れていた、ということが実際に起きます。
メーターの読み方は難しくありません。押さえるのは3つだけです。どこの音量を測っているのか。赤い点灯は何のサインか。動いているのに音が出ない時、次にどこを見るか。この3つが分かると、音のトラブルの切り分けも、音量の整理も速くなります。
先に見ること
メーターは「その場所を通っている音の大きさ」の表示です。
- トラックのメーターは楽器1つ分、マスターは合計の出口
- 赤点灯は0dB超えの合図。フェーダーを下げる
- 動くのに聞こえない時は、外側の経路を疑う
- バランスの最終判断は目でなく耳でする
メーターは何を測っているか
設定した値ではなく、実際に通った結果を表示しています。
メーターが表示しているのは、その場所を今まさに通過している音の大きさです。単位はdB(デシベル)で、DAWのメーターは0を一番上の天井として、そこからの余裕をマイナスの数字で示します。
-12より-6の方が大きく、0に近いほど天井ぎりぎりです。音が止まればメーターは下へ沈みます。
混同しやすいのがフェーダーとの違いです。フェーダーは「この音をどれだけ上げ下げするか」という設定のつまみで、メーターは「その結果、実際にどれだけの音が通ったか」の表示です。
フェーダーを上げていなくても、音源側の音が大きければメーターは大きく振れます。設定と結果は別物、と覚えると混乱しません。
もう1つ大事なのは、メーターは音が通り道のどこまで届いているかを教えてくれる、ということです。
音が出ないトラブルの時、メーターは「ここまでは来ている」という証拠になります。だからメーターの位置を知っておくと、トラブルの切り分けが一気に楽になります。
トラックとマスターの違い
1人ずつの音量と、全員合計の音量です。
DAWにはメーターが2種類あります。トラックごとのメーターと、マスターのメーターです。
トラックのメーターは、その楽器1つ分の音量だけを表示します。ドラムのトラックならドラムだけ、ピアノのトラックならピアノだけです。
マスターのメーターは、全トラックを合計して、スピーカーやヘッドホンへ出る直前の音量を表示します。バンドにたとえると、トラックはメンバー1人ずつの声の大きさ、マスターは全員が同時に出した時の会場全体の音です。
ここで起きやすい勘違いがあります。各トラックがどれも余裕のある音量なのに、マスターだけが赤く光るケースです。
音は足し算なので、1人ずつは小さくても、10トラック重なれば合計は大きくなります。トラックが増えるほど、マスターの余裕は削られていきます。
どちらを見るかは工程で決めます。音色を作ったり打ち込んだりしている間は、触っているトラックのメーターを見ます。
曲全体を聞き返す時と書き出しの前は、マスターのメーターを見ます。全部を同時に監視する必要はありません。
赤く光った時に起きていること
0dBの天井に頭をぶつけた合図です。
メーターの一番上が赤く点灯した状態をクリップと呼びます。音量が天井の0dBを超えた、という合図です。
デジタルの音は0dBより上を記録できないので、超えた分は波形の頭が平らに削られます。削られた音は、バリッ、ジリッという歪みとして聞こえます。
対処は単純で、赤くなった場所の音量を下げることです。トラックのメーターが赤いなら、そのトラックのフェーダーを下げます。
マスターが赤い場合は、マスターのフェーダーだけで解決させず、各トラックを少しずつ下げる方が、曲のバランスを保ったまま余裕を作れます。多くのDAWでは赤い表示がそのまま残る仕組みなので、下げた後は表示をクリックしてリセットし、もう一度再生して確認します。
再生中のクリップはフェーダーで直せますが、録音のクリップは別です。歌やギターを割れた状態で録音すると、そのファイル自体が歪んでいて、後からどれだけ下げても元へ戻せません。
制作の現場では、録音は大きく録ることより割れずに残すことを優先します。録音前に一番大きく歌う部分や強く弾く部分を試し、入力のメーターが赤に触れないレベルへ合わせておきます。
メーターの状態と次の一手
表示から原因の場所を逆引きします。
| メーターの状態 | 起きていること | 次の一手 |
|---|---|---|
| まったく動かない | 音がそこまで届いていない | 音源の読み込み、ミュート、トラック設定を見る |
| 動くのに聞こえない | DAWから耳までの経路が切れている | 出力先設定とヘッドホンの挿し先を見る |
| 時々赤く光る | 0dBを超えた(クリップ) | そのトラックのフェーダーを下げる |
| 常に0付近に張り付く | 全体が大きすぎる | 各トラックを下げて余白を作る |
| わずかにしか振れない | 音量が小さいだけで故障ではない | フェーダーとモニター側の音量を整理する |
メーターが動くのに音が出ない時
問題はDAWの中ではなく、そこから耳までの間にあります。
再生するとメーターは元気に振れているのに、ヘッドホンからは何も聞こえない。初心者がパニックになりやすい状況ですが、実はこれは良い知らせです。
メーターが振れている以上、DAWの中までは音が確実に来ています。探す範囲を半分に絞れたことになります。
音のトラブルは中と外を分けて見る。これはレッスンでも最初に伝える切り分けです。メーターが動くなら中は無事なので、外側だけを順番に見ます。
- 最初はDAWの出力先設定です。音の出口がどの機器に向いているかの設定で、オーディオインターフェースをつないだ直後や、ヘッドホンを差し替えた後にずれやすい場所です。
- 次に、ヘッドホンやスピーカーがどこに挿さっているか。パソコン本体に挿しているのに、DAWの出口はインターフェースに向いている、という食い違いは定番です。
- 最後に、機器側の音量つまみとパソコンのOS側の音量を見ます。
逆に、メーターがまったく振れていないなら、外側をいくら探しても見つかりません。
音源が読み込まれているか、トラックがミュートになっていないか、という中側を見ます。メーターを先に見る習慣があるだけで、闇雲に設定画面を開き続ける時間がなくなります。
目で見る音量と耳で聞くバランス
メーターが揃っていても、聞こえ方は揃いません。
メーターに慣れてくると、今度は数字でバランスを取りたくなります。全トラックのメーターを同じ高さに揃えれば、きれいなバランスになりそうな気がします。
これはうまくいきません。
人の耳は、音の高さによって感じる大きさが変わります。低いベースと高いハイハットでは、メーター上で同じ値でも、聞こえる大きさの印象は別物です。
音色によっても、細く鋭い音は小さくても目立ち、太く柔らかい音は大きくても奥に感じます。メーターは物理的な量を測るだけで、耳にどう届くかまでは測ってくれません。
そこで役割を分けます。目のメーターに任せるのは事故の防止です。鳴っているか、割れていないか、極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか。
耳に任せるのはバランスの判断です。主役のメロディや歌が前に聞こえるか、土台のリズムが埋もれていないか。これは再生して聞くしかありません。
順番としては、まずメーターで割れていない状態を確保し、その上でフェーダーを耳で動かします。
数字が不揃いでも、聞いて気持ち良ければそれが正解です。メーターは審判ではなく、見張り役だと考えてください。
0dBに近づけすぎない理由
天井までの余白は、後の工程のための貯金です。
メーターが大きく振れていると、なんとなく良い音になった気がします。それで各トラックを0dBぎりぎりまで上げたくなりますが、これは後で自分の首を絞めます。
理由は3つあります。
- 1つ目は、曲が育つと合計が増えるからです。今は4トラックでも、ハモリやシンセを足せばマスターの音量は上がります。最初からぎりぎりだと、楽器を足すたびにクリップと戦うことになります。
- 2つ目は、エフェクトで音量が変わるからです。EQで特定の帯域を持ち上げるだけでも、ピークは上がります。
- 3つ目は、小さく作ってもデメリットがほぼないからです。全体の音量が控えめでも音質は落ちませんし、聞く時はモニターのつまみを上げれば済みます。
この天井までの余白はヘッドルームと呼ばれます。
最終的な音圧を上げる作業は、曲が完成した後のマスタリングという工程で行えるので、制作中に慌てて詰める必要はありません。制作中のメーターは、天井に触れない余白を守る。それだけで、書き出したら割れていた、という事故はほぼ防げます。
メーターで音の通り道と音量の余白を確認できるようになると、音が出ない、割れている、といった足止めが減り、曲作りそのものに時間を使えるようになります。音出しから1曲の完成までの流れは、制作工程マップに整理しています。
よくある疑問
メーターはどのくらいの位置を保てばいいですか
決まった正解はありませんが、制作中はピークが0dBに触れない余白を残します。小さめに作っても音質は落ちないので、割れない状態を優先します。
赤く光ったら必ず音は割れていますか
一瞬なら聞いて分からないこともあります。ただし0dBを超えた部分は削られており、後から元へ戻せません。赤が付いたらフェーダーを下げるのが安全です。
メーターは動くのに音が出ません
DAWの中までは音が届いています。DAWの出力先設定、ヘッドホンやスピーカーの挿し先、機器側の音量つまみの順に、外側の経路を確認します。
トラックとマスターのどちらを見ればいいですか
音作りの最中は触っているトラック、書き出しの前はマスターを見ます。マスターが赤い時は、マスターだけでなく各トラックを少しずつ下げます。
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