パッド伴奏の基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
コードもドラムも入れたのに、曲がどこかスカスカに聞こえる。かといってピアノやギターを重ねると、今度は音がぶつかって濁る。
この隙間を埋めるための音がパッドです。シンセの長く伸びる音で、楽器と楽器のあいだの空間をうっすら満たします。
パッドは主役になりません。うまく入っている時ほど、聞いている人はその存在に気づきません。だからこそ置き方に型があります。
コードを白玉で敷く、音域と音量を控えめにする、動きはゆっくり少しだけ。順番に見ていきます。
先に見ること
パッドは、空間を埋める持続音の伴奏です。
- 長く伸びる音で、楽器のあいだの隙間を面で満たす
- コードの構成音を白玉で敷くだけが基本形
- 音域は真ん中、音量は「消すと寂しい」程度に置く
- 動きはフィルターや音量をゆっくり変えて付ける
- 主役が奥に下がって聞こえたら入れすぎのサイン
パッドの役割は空間を埋めること
名前の通り、曲の隙間に詰めるクッションです。
パッドは、シンセサイザーの音色の一種で、鍵盤を押さえているあいだ長く伸び続ける音を指します。
名前は英語のpad(詰め物、クッション)から来ていて、その名の通り、曲の隙間に詰めるクッションの役割をします。
- ドラム
- ベース
- コード楽器
- メロディ
この4つが揃っても、音と音のあいだには意外なほど空白が残ります。
ヘッドホンでよく聞くと、どの楽器も鳴っていない高さや瞬間がぽっかり空いていて、それが「スカスカ」「デモっぽい」という印象の正体になっていることが多いのです。
パッドはこの空白を埋めます。鳴っているコードと同じ構成音を、輪郭のないやわらかい音でうっすら鳴らし続ける。
それだけで、別々に鳴っていた楽器が同じ部屋の中で鳴っているようにまとまります。
逆に言えば、パッドの仕事はまとめることであって、目立つことではありません。
ピアノ伴奏との役割の違い
ピアノは線、パッドは面と覚えます。
同じコードを鳴らす伴奏でも、ピアノとパッドは仕事がはっきり分かれます。
ピアノは音の立ち上がりが速く、鳴った瞬間に「今、拍が来た」と分かります。つまりリズムを刻める伴奏です。
一方パッドは立ち上がりがゆるやかで、いつ鳴り始めたのか分からないほどです。拍は刻めませんが、そのぶん時間の流れを途切れなく支えられます。
役割で言い換えると、ピアノは線、パッドは面です。ピアノの刻みやアルペジオが曲を前へ歩かせ、パッドがその後ろで背景の色を塗る。
両方入れる場合も、この分担を守っている限り音はぶつかりにくくなります。どちらも面をやろうとした時、あるいはパッドが前に出ようとした時に、濁りが生まれます。
ピアノ側の作り方、つまり白玉から刻み、アルペジオへ崩していく手順はピアノ伴奏の作り方で扱っています。このページは、その後ろに敷く面の作り方です。
白玉で敷く基本形
小節頭に置いて、伸ばしっぱなしで完成です。
パッドの打ち込みは、拍子抜けするほど簡単です。コードの構成音を小節の頭に置き、コードが変わるまで伸ばしっぱなしにする。
全音符が楽譜で白い玉に見えることから白玉と呼ばれるこの形が、パッドの基本にして、ほぼ完成形です。
細かく刻む必要はありません。むしろ刻んではいけません。
パッドの音色は鳴り始めるまでに時間がかかるので、短い音符で打ち直すと発音が間に合わず、もたついた変な音になります。長く置くことを前提に設計された音色だと考えてください。
音数は3音程度に絞ります。構成音を全部、複数のオクターブに重ねると、それだけで音の壁になってしまいます。
ルート・3度・5度で1セット、あるいはルートを省いて上の2〜3音だけでも十分です。いちばん下の音はベースが受け持ってくれるからです。
コードが変わる時は、全部の音を切って押さえ直すより、共通する音は伸ばしたまま、変わる音だけを動かします。
つなぎ目が目立たなくなり、面がなめらかに続いて聞こえます。
音域と音量の置き方
主役の場所を空けることが、置き方のすべてです。
パッドで事故が起きやすいのは低音です。低い音域で持続音が鳴り続けると、ベースやキックと同じ場所を埋め続けて、曲全体がモワッと重くなります。
パッドは鍵盤の真ん中あたりの音域を中心に置き、低い音はベースに譲ってください。
逆に高すぎる音域に広げすぎると、シンバルやボーカルの子音とこすれてシャリシャリした耳障りさが出ます。
音量の目安は「ミュートすると寂しいのに、鳴っているあいだは気づかない」くらいです。
感覚がつかめない時は、フェーダーを一度ゼロまで下げ、再生しながら少しずつ上げていき、空気が変わったと感じた場所で手を止めます。この上げ方なら入れすぎになりにくくなります。
レッスンでは、歌ものはドラムとボーカルが聞こえる状態を先に作る、コードやパッドを気持ちよく上げすぎると主役が奥に下がりやすい、という判断を軸にしています。
パッドは鳴らしている本人にとって気持ちのいい音なので、作業中はつい上げたくなります。自分の気持ちよさではなく、主役の聞こえ方を基準に決めてください。
動きの付け方
気づかれない速さの変化が、ちょうどいい変化です。
白玉のパッドは便利な反面、曲の頭から終わりまで同じだと、風景が止まって聞こえてきます。そこで、音そのものは変えずに、ゆっくりした変化を1つだけ足します。
定番はフィルターです。多くのシンセにはカットオフというつまみがあり、閉じると音がこもり、開くと明るく抜けてきます。
Aメロでは閉じ気味にしておき、サビに向かって8小節かけてゆっくり開く。音量を変えていないのに、曲がだんだん開けていくような高揚感が作れます。
つまみの動きはオートメーション(操作の動きをDAWに記録して再生させる機能)で書けば、手で動かし続ける必要はありません。
音量そのものをゆっくり膨らませる方法もあります。サビの2小節前から少しずつ上げて、サビの頭で元に戻す。
ほかに、サビだけ同じパッドを1オクターブ上に薄く重ねる手もあります。共通するのは、どの変化も数小節単位でゆっくり起きることです。
聞き手に「今、何かが動いた」と気づかれない速さが、パッドにとってちょうどいい速さです。
入れすぎのサインと対処
足すのが簡単な音ほど、引く合図を決めておきます。
パッドは1トラック足すだけで曲がリッチに聞こえるため、入れすぎに気づきにくい音です。
次のサインが出たら、足すのをやめて引く番です。
| サイン | 起きていること | 対処 |
|---|---|---|
| ボーカルやメロディが奥に引っ込んだ | パッドが主役と同じ高さを埋めている | 音量を下げるか、音域を主役から離す |
| 全体がこもって重い | 低い音域で持続音が鳴り続けている | 低い構成音を削り、真ん中の音域へ上げる |
| ミュートしても曲がほぼ変わらない | ほかの楽器で空間がすでに埋まっている | そのパッドは削除してよい |
| 音を足すほど濁っていく | 白玉系の音が何重にも重なっている | 面を担当する音を1つに決めて他を切る |
確かめ方はミュートの聞き比べがいちばん確実です。
パッドを切った状態と入れた状態を数小節ずつ聞いて、入れた時に主役がむしろ聞きやすくなっているか。空間を埋めることが目的の音なので、主役を犠牲にしてまで鳴らす理由はありません。
面が敷けるようになると、同じコード進行でも曲の景色を変えられるようになります。
次はこの音を1曲のどの工程で入れるかです。全体の流れは制作工程マップで確かめながら進めてください。
よくある疑問
パッドはどの音源を使えばいいですか
DAW付属のシンセにあるPadカテゴリのプリセットで十分です。名前にPadやWarm、Softと付いた音色をいくつか鳴らして、立ち上がりがゆるやかで長く伸びるものを1つ選んでください。
パッドとストリングスは何が違いますか
ストリングスは弦楽器の音色の名前で、パッドは空間を埋める役割の名前です。ストリングスの音色を白玉で薄く敷けば、それはパッドの役割を果たします。役割で考えると迷いません。
パッドが目立ちすぎてしまいます
音量を下げる前に、低い構成音を削って音数を3音程度に絞り、音域を主役から離します。そのうえでフェーダーをゼロから少しずつ上げ、空気が変わったと感じた場所で止めてください。
パッドはどの曲にも入れるべきですか
いいえ。ギターの刻みなどで空間がすでに埋まっている曲では不要です。ミュートして寂しくなるなら入れる、変わらないなら削る、という聞き比べで判断します。
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