ピアノ伴奏の作り方|DTM初心者がコードを曲にする方法

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
コードは覚えた。ピアノロールに置いてみた。なのに、鳴るのは「ジャーン」という和音の塊だけで、曲の伴奏には聞こえない。
ここで止まる人はとても多く、足りないのは知識ではなく、コードを伴奏パターンに変換する技術です。
この技術は3段階に分解できます。白玉で置く、リズムで刻む、アルペジオに崩す。
同じコード進行でも、この3つの形を使い分けるだけで、静かな場面も走る場面も作れるようになります。
左手と右手の分担、歌の邪魔をしない音域、ピアノらしく聞かせるベロシティまで、順番に見ていきます。
先に見ること
ピアノ伴奏は、3段階のパターン変換で作ります。
- 左手はルート1音、右手はコードに分担する
- 白玉→リズム刻み→アルペジオの順に崩す
- 右手は真ん中のドの周辺、歌とぶつけない
- ベロシティの山谷が打ち込みをピアノにする
左手と右手の分担から始める
和音の塊を、二人の役割に分けます。
「ジャーン」にしか聞こえない原因の第一は、コードの構成音を全部ひとかたまりで置いていることです。実際のピアニストは、左手と右手でまったく違う仕事をしています。
打ち込みでも、この分担を再現するところが伴奏づくりの出発点です。
左手の仕事は土台です。低い音域で、ルート(Cコードならドの音)を1音だけ、または1オクターブ違いの2音で押さえます。
ベースの代わりに曲の底を支える役目なので、和音は弾きません。
右手の仕事は響きです。真ん中の音域で、コードの構成音3〜4音を鳴らします。CならドミソやミソドのようにまとめてOKです。
左手が底、右手が色。ピアノロール上でこの2階建てに分けて置くだけで、同じコードが急に伴奏らしく鳴り始めます。
第1段階: 白玉で置く
地味に見えて、いちばん使う形です。
白玉とは、小節の頭でコードを押さえて、そのまま小節いっぱい伸ばす形のことです。楽譜の全音符が白い玉に見えることからこう呼ばれます。
左手のルートも右手のコードも、小節頭に置いて伸ばすだけ。1分で打てます。
単純すぎると感じるかもしれませんが、白玉は省略形ではなく、れっきとした伴奏の完成形の一つです。
バラードのAメロや、歌をいちばん手前で聞かせたい場面では、プロの譜面でも白玉が選ばれます。動かない伴奏は、歌の動きをくっきり見せるからです。
そしてもう一つ、白玉はコード進行の試聴機として優秀です。
リズムの情報がないぶん、響きのつながりだけを確かめられます。進行を差し替えて聞き比べる作業は、白玉の状態でやるのがいちばん速く済みます。
第2段階: リズムで刻む
同じコードを打ち直すと、曲が歩き出します。
白玉のままでは曲が前に進まない、と感じたら第2段階です。
右手のコードを、4分音符なら「ジャン、ジャン、ジャン、ジャン」と1拍ごとに、8分音符ならその倍の細かさで打ち直します。音は同じでも、鳴らし直すたびに拍が刻まれ、曲が歩き出します。
コツは、両手を一緒に刻まないことです。左手のルートは小節頭で伸ばしたまま、右手だけを刻む。これが基本形です。
両手とも刻むと音の壁のようになり、歌の入る隙間がなくなります。左手を動かすのは、サビなどここぞの場面だけで十分です。
刻みの細かさは場面の温度になります。4分は落ち着いた歩き、8分は小走り。
1曲の中でAメロは4分、サビは8分と切り替えるだけで、コード進行を1ミリも変えずに展開が作れます。
第3段階: アルペジオに崩す
和音をばらして、時間の上に並べます。
アルペジオは、コードの構成音を同時ではなく1音ずつ順番に鳴らす弾き方です。Cコードなら、ド→ソ→ミ→ソと8分音符で並べて、これを繰り返す。
和音がきらきらした流れに変わり、静かなのに止まって聞こえない伴奏になります。
打ち込みの手順は簡単で、右手のコードを一度置いてから、音を1個ずつ横にずらして階段状に並べ直すだけです。
順番は低い音から上がる形が基本で、ド→ミ→ソ→上のドのように上がって、また戻る。左手のルートは白玉のまま残します。
アルペジオで大事なのは、音の切れ目です。1音ずつが短くブツブツ切れると、オルゴールのように硬くなります。
各音の長さを次の音に少し重なるまで伸ばすか、サステインペダルの操作情報(CC64)を入れて余韻をつなぐと、ペダルを踏んだ本物のピアノの鳴り方に近づきます。
3段階の使い分け早見表
迷ったら、場面の静けさで選びます。
| パターン | 鳴らし方 | 合う場面 | 打ち込みのコツ |
|---|---|---|---|
| 白玉 | 小節頭で押さえて伸ばす | 静かなAメロ、進行の確認 | 左手ルートと右手コードの2階建て |
| リズム刻み | 4分や8分で打ち直す | 曲を前に進めたい場面、サビ | 右手だけ刻み、左手は伸ばす |
| アルペジオ | 1音ずつ順番に鳴らす | 静かなのに動きが欲しい場面 | 音を重ねるかペダルで余韻をつなぐ |
歌の邪魔をしない音域
高さの置き場所で、こもりと濁りが決まります。
パターンが正しくても、置く高さを間違えると伴奏は歌を邪魔します。狙われやすい事故は2つで、どちらも音域の問題です。
1つ目は、右手が歌とかぶること。
歌のメロディの多くは、鍵盤の真ん中のド(C3やC4と表示されます)の周辺から上で動きます。右手のコードも同じ高さに置くと、歌と同じ場所で鳴り合って、全体がこもります。
右手は真ん中のドのすぐ下あたりを中心にすると、歌の真下で支える位置に収まります。
2つ目は、左手の濁りです。低い音域では、音同士の間隔が狭い和音は濁って聞こえます。
低いところで鳴らしてよいのはルート1音かオクターブまで、と決めておくと安全です。
逆に左手が高すぎると土台の重みが消えるので、真ん中のドから1〜2オクターブ下が置き場所の目安になります。
ベロシティでピアノらしくする
機械っぽさの正体は、強さが全部同じことです。
ここまで作った伴奏がまだ機械的に聞こえるなら、原因はほぼベロシティ(1音ごとの打鍵の強さ)です。人間の演奏は、すべての音を同じ強さでは弾きません。
打ち込みの初期値のまま全音同じ強さになっていると、耳はすぐ「機械だ」と気づきます。
直し方には型があります。
まず拍の山谷です。1拍目を強く、2拍目以降を1〜2割弱く。刻みなら「強・弱・中・弱」のように山を作ります。
次に和音の中の差です。同時に鳴る音でも、いちばん上の音を少し強く、下の音を弱くすると、和音の輪郭が上に出て、指で弾いた響きに近づきます。
仕上げに、和音の発音タイミングをほんの少し(数ミリ秒〜十数ミリ秒)ばらします。人間の指は完全に同時には落ちないからです。
ベロシティの山谷とこの微妙なずれ、2つを入れるだけで、同じノートの並びが見違えるほどピアノらしく鳴ります。
C→Am→Dm→Gで試す手順
4つのコードで、3段階を全部試せます。
練習の題材は凝る必要がありません。制作のレッスンでは、最初の1曲はC、Am、Dm、Gを4小節に並べるだけでよい、理論を全部覚えるより、まず鳴らして曲っぽい土台を作る、という判断を軸にしています。
この4つはCキーの白鍵だけで押さえられるので、進行に迷わず、パターンの練習に集中できます。
- BPMを90に設定し、C→Am→Dm→Gを1小節ずつ、2周分(8小節)並べる。
- 左手はルートのオクターブ、右手はコード3音の白玉で置き、響きのつながりを確認する。
- 右手だけを4分の刻みに差し替えて、同じ8小節を聞き比べる。
- 今度はアルペジオ(低い音から上がる8分)に差し替えて、3つの形の違いを耳で覚える。
- いちばん気に入った形に、ベロシティの山谷と発音の微妙なずれを入れる。
- 書き出して、鼻歌を乗せてみる。歌がこもるなら右手の音域を下げて調整する。
3つの形が手に入れば、伴奏づくりはコードを覚えるたびに強くなっていきます。
次はこの伴奏を1曲のどこに、どんな順番で置くかです。全体の流れは制作工程マップで確かめながら進めてください。
よくある疑問
ピアノが弾けなくても大丈夫ですか
大丈夫です。3段階はすべてマウス入力を前提にした打ち込みの技術です。手の速さではなく、分担・音域・ベロシティという設計で差がつきます。
どのパターンから覚えればいいですか
白玉からです。響きを確かめ、物足りなくなったら刻みへ、静かな動きが欲しくなったらアルペジオへ。この順に崩すと迷いません。
伴奏の音が濁って聞こえます
低い音域で3音以上の和音を鳴らしていないかを確認します。左手はルート1音かオクターブだけにして、和音は右手で真ん中の音域に置いてください。
コード進行は何を使えばいいですか
C→Am→Dm→Gで十分です。白鍵だけで押さえられるので、伴奏パターンの練習に集中できます。
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