本文へスキップ
古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

サンプラーとは

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

サンプラーとは、録音した音を楽器に変える道具です。

手拍子、コップを叩いた音、自分の声。どんな音でも、いったんサンプラーに読み込めば、鍵盤で演奏できる楽器になります。

ヒップホップやポップスで聞こえる「声が刻まれて跳ねる」ような音は、ほとんどがこの道具から生まれています。

仕組みはとても単純なので、シンセとの違いから、身近な音で遊ぶ手順まで一気に説明します。

先に押さえること

サンプラーは、録音の再生ボタンを鍵盤の数だけ増やした楽器です。

  • 読み込んだ録音をサンプルと呼ぶ
  • シンセは合成、サンプラーは再生という違い
  • 短いワンショットを鍵盤に並べるのが基本形
  • 高い鍵盤ほど速く短く、低い鍵盤ほど遅く長く鳴る

録音が楽器になる仕組み

再生ボタンが鍵盤になった、と考えます。

サンプラーの仕組みは、ボイスメモの再生に似ています。録音した音があり、ボタンを押すと鳴る。

サンプラーはこの再生ボタンを、鍵盤やパッドの数だけ用意した道具です。読み込んだ録音のことをサンプルと呼びます。

ボイスメモと違うのは、押す場所によって鳴り方が変わることです。真ん中の鍵盤で元の高さ、右へ行くほど高く、左へ行くほど低く再生されます。

つまり1つの録音が、鍵盤の数だけの音程を持つ楽器に化けます

多くのDAWには、この機能がはじめから付属しています。

オーディオファイルをサンプラートラックや付属のサンプラー音源に放り込むだけで、準備は終わりです。特別な機材も追加の買い物もいりません。

「楽器が弾けないから素材で作りたい」という人にも、「録った声を加工して遊びたい」という人にも、入口はこの1つの操作です。

読み込んで、鍵盤を押す。まずこれだけ覚えてください。

シンセとの違いは合成か再生か

素材をどこから持ってくるかが分かれ目です。

サンプラーとよく比べられるのがシンセです。どちらも鍵盤で鳴らすソフトですが、音の出どころが正反対です。

シンセは電気的な波を発生させ、音をゼロから合成します。サンプラーは合成をせず、すでにある録音を再生します。

絵にたとえると、シンセは絵の具から描く油絵、サンプラーは写真を切り貼りするコラージュです。

油絵はどんな色も作れますが、描く技術がいります。コラージュは素材さえあれば、切って並べるだけで作品になります。

音の性格も分かれます。シンセの音はこの世にない音を作れる代わりに、生々しさは出しにくい。

サンプラーの音は録音そのものなので、空気感や生っぽさをそのまま持ち込めます。実際の制作では、土台をシンセ、味付けをサンプラー、のように混ぜて使うことが多いです。

ちなみに、リアルなピアノ音源やドラム音源も、中身は録音を再生する仕組みで動いています。つまりサンプラーの原理は、DTMの音源の半分を支える土台でもあります。

ここを理解すると、音源という言葉の風景が一段はっきりします。

ワンショットを鍵盤に並べる

基本形は、短い音の詰め合わせです。

サンプルには大きく2種類あります。1回だけ鳴る短い音がワンショット、数小節の演奏が繰り返せる形になったものがループです。

サンプラーの基本形は、ワンショットを鍵盤に並べることです。

たとえば、キックのワンショットをドの鍵盤に、スネアをレに、手拍子をミに割り当てます。すると鍵盤がドラムセットに変わり、指1本でリズムが叩けます。

1つの鍵盤に1つの音を割り当てるこのやり方は、機能としてはキーマップなどと呼ばれますが、名前より「鍵盤ごとに違う再生ボタンを置ける」という感覚のほうが大事です。

もう1つの使い方が、1つのサンプルを全鍵盤に広げる形です。「アー」という声を読み込めば、鍵盤全体がその声の音程違いになり、声でメロディが弾けます。

楽器の単音、ベルの音、金属を叩いた音。何を広げても、その音の楽器が生まれます。

どちらの形も、DAW付属のサンプラーで最初から選べます。

並べるか、広げるか。この2つの型を知っていれば、サンプラーの画面で迷うことはほとんどありません。

ループのほうは、サンプラーに読み込むより、トラックに直接貼って使うのが手軽です。ただしループは便利な分、貼るだけで曲が進んだ気になりやすいという落とし穴もあります。

ワンショットを自分の手で並べる経験を先にしておくと、ループを使う時も中身を聞き分けられるようになります。

ピッチと長さはつながっている

テープの早回しを思い浮かべてください。

サンプラーで鍵盤を弾くと、面白い現象に気づきます。高い鍵盤ほど音が短くなり、低い鍵盤ほど長く伸びるのです。これは故障ではなく、基本の仕組みそのものです。

サンプラーは録音を速く再生することで音を高くし、遅く再生することで低くします。テープやレコードの早回しと同じ原理です。

だから2オクターブ上の鍵盤を押すと、リスの声のように速くて甲高い音になり、2オクターブ下ではクジラの声のように引き伸ばされます。この「崩れ方」は欠点ではなく、サンプラーらしい音として昔から曲の中で愛用されてきました。

一方、最近のサンプラーには、長さを変えずに高さだけを変える機能もあります。ピッチシフトと呼ばれる処理で、声の音程を変えても喋る速さはそのまま、という自然な変化ができます。

逆に、高さを変えずにテンポや長さだけを伸び縮みさせる処理はタイムストレッチと呼ばれます。ループ素材を曲のテンポに合わせる時に使う、同じ技術の仲間です。

自然にしたい時はこちら、崩したい時は基本の方式、と使い分けます。

どちらが正解ということはありません。同じサンプルで両方を試し、曲に合うほうを耳で選ぶ。この聞き比べ自体が、サンプラーの一番いい練習になります。

声のサンプルで試すと違いが特に分かりやすいので、最初の実験素材には自分の声をおすすめします。

身近な音を楽器にする例

スマホの録音アプリがあれば、素材は家中にあります。

録る音サンプラーでの使い道コツ
手拍子スネアの代わりに2拍目と4拍目へ部屋の響きごと録ると厚みが出る
コップを叩く音音程を下げてベル系の音にガラスと陶器で音色が変わる
自分の声「アー」全鍵盤に広げてコーラス風の楽器にのばした声を1〜2秒だけ切り出す
ドアの閉まる音大きく下げて重い打撃音に低くするほど迫力が出る
ビニールをこする音ハイハット代わりの刻みに短く切って連打する

今日ためす遊び方

録って、読み込んで、4小節。それだけです。

今日やることは3歩です。スマホかマイクで手拍子を1回録音する。その音声ファイルをDAW付属のサンプラーに読み込む。鍵盤で鳴らして、2拍目と4拍目に置いた4小節を作る。

ここまでで、世界に1つしかない自作の打楽器が曲に入ったことになります。

完成度は気にしないでください。この段階の目的は、うまく作ることではなく、自分のパソコンから曲っぽい音が鳴る体験をできるだけ早く作ることです。

最初の入口では、この体験づくりを何より優先します。録った手拍子が鳴った瞬間の「動いた」という感覚が、次にDAWを開く理由になります。

1つ注意があります。他人の曲やCD音源を勝手に切り取って使うことには、権利の問題がついて回ります。

遊びの段階から、自分で録った音か、利用が許可された素材を使う癖をつけておくと、公開する段階で困りません。自分の録音なら、その心配は一切なしで自由に刻めます。

手拍子の楽器が1つできたら、次はそれをリズム、コード、メロディの流れの中に置いていく番です。曲全体のどこで何を作るかは、制作工程マップに1枚でまとめてあります。

よくある疑問

サンプラーとは何ですか

録音した音を読み込んで、鍵盤やパッドで演奏できる楽器に変える道具です。手拍子でも声でも、短い録音があれば何でも楽器になります。

サンプラーとシンセはどう違いますか

シンセは音をゼロから合成して作り、サンプラーは録音済みの音を再生して鳴らします。素材を自分で発生させるか、外から持ってくるかの違いです。

サンプラーは別途購入が必要ですか

多くのDAWにはサンプラー機能が付属しています。オーディオファイルをサンプラートラックや専用の音源に読み込めば、そのまま鍵盤で鳴らせます。

鍵盤で高い音を弾くと再生が速くなるのはなぜですか

サンプラーの基本の仕組みでは、録音を速く再生して音を高くするためです。テープの早回しと同じ原理で、高くなるほど短く、低くなるほど長く伸びます。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。

次に進む記事

自作の音が1つ鳴ったら、リズムと曲の流れを組み立てる記事へ。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。