サンプラーとは

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
サンプラーとは、録った音や手元の素材を、鍵盤で鳴らせるようにする仕組みです。声、手拍子、机を叩いた音。短い録音を1つ読み込めば、その音がドの鍵盤でも、ソの鍵盤でも鳴る楽器になります。
言葉は知っていても、シンセのような音源と何が違うのか、ループ素材とどう使い分けるのか、鍵盤を上に弾くとなぜ音が短くなるのか。ここで手が止まる人が多い道具です。仕組み、音源との違い、最初の使い方の3歩、初心者が混乱する2つの点を、順に整理します。
先に押さえること
サンプラーは、録音の再生ボタンを鍵盤に置き換えた道具です。
- 読み込んだ録音を「サンプル」と呼び、鍵盤ごとに高さを変えて再生する
- シンセ音源は音を作る、サンプラーは録った音を鳴らす
- 最初の使い方は、1音を割り当てる、音程を付ける、短く切る、の3歩
- ループ素材は貼るもの、サンプルは鳴らすもの。高くすると短くなるのは仕様
録った音を鍵盤で鳴らす仕組み
中身は「録音」と「再生ボタン」だけです。
スマホのボイスメモを思い浮かべてください。録音があり、再生を押せば鳴ります。サンプラーは、この再生ボタンを鍵盤の1つ1つに割り当てた道具です。読み込んだ録音のことをサンプルと呼びます。
ボイスメモと違うのは、押す鍵盤によって再生の高さが変わることです。真ん中の鍵盤で録った通りの高さ、右の鍵盤ほど高く、左の鍵盤ほど低く鳴ります。つまり、1つのサンプルが、鍵盤の数だけの音程を持った楽器になります。
読み込めるのは、オーディオファイルなら何でもです。自分の声、手拍子、ダウンロードした素材、他のトラックから書き出した音。録った音であれば、楽器の音である必要はありません。
多くのDAWには、この機能を持ったサンプラーが付属しています。Cubaseにも、オーディオファイルをドラッグすると鍵盤で鳴らせるようになるサンプラートラックがあります。追加で買うものはありません。
画面を開くと、波形の表示、始点と終点、音程やエンベロープ(音の立ち上がりや消え方を決めるつまみ)が並んでいて、最初は情報が多く見えます。ただ、どれも「録音をどう再生するか」を決めるつまみです。中心にあるのは、録音と再生ボタン、それだけです。
シンセ音源との違い
音を「作る」のか、録った音を「鳴らす」のかで分かれます。
DAWで鍵盤を押して鳴らすものを、まとめて音源と呼びます。その中で、サンプラーとよく比べられるのがシンセです。どちらも鍵盤で鳴らしますが、音の出どころが違います。
シンセは、電気的な波を発生させて、音をゼロから作ります。録音は使いません。だから、この世に存在しない音でも作れます。サンプラーは、音を作りません。すでにある録音を再生するだけです。だから、録った音そのものの質感が、そのまま鍵盤で鳴ります。
ここで少しややこしいのが、「ピアノ音源」「ドラム音源」と呼ばれるものの多くが、中身はサンプラーと同じ仕組みだという点です。本物のピアノを1音ずつ録音して、鍵盤に割り当ててある。作った人が録音と割り当てを済ませてくれているので、使う側はサンプラーの画面を見ずに済んでいるだけです。
つまり、サンプラーを自分で触るということは、この「録音と割り当て」を自分でやることです。既製の音源にない音、自分で録った音、加工した音を楽器にしたい時に、サンプラーの出番になります。
使い分けの判断は単純です。欲しい音が世の中に存在する音、自分で録れる音なら、サンプラーです。存在しない音、つまみで形を変え続けたい音なら、シンセです。迷ったら、その音を録音できるかどうかで決めてください。
最初の使い方は3歩
1音を割り当てて鳴らす、音程を付ける、短く切る。ここまでを入口にします。
レッスンでDAWを教える時、最初から全機能を覚えるのではなく、音を出す、録音する、保存する、書き出す、という入口を先に固定して、そこが動いたら曲作りへ進む、という判断をしています。サンプラーも同じで、入口を3歩に固定します。
1歩目は、1つの音を鍵盤に割り当てて鳴らすことです。手拍子でも「アー」という声でも、1秒ほどの録音を1つ用意して、DAWのサンプラーに読み込みます。鍵盤を押して、その音が鳴れば終わりです。ここで他のつまみは触りません。
2歩目は、音程を付けることです。読み込んだ鍵盤の隣、その隣と押していくと、同じ音が高くなったり低くなったりします。声のサンプルなら、ド・ミ・ソと押せば、自分の声でコードが鳴ります。ここで「録った通りの高さで鳴る鍵盤」がどこかを確認しておきます。多くのサンプラーでは、ルートキーやベースノートという名前で設定できます。
3歩目は、短く切ることです。録音には、音が出る前の無音や、音が終わった後の部屋の響きが含まれています。サンプラーの始点を音の頭に、終点を音が消えるあたりに動かします。頭の無音を切ると、鍵盤を押した瞬間に鳴るようになり、リズムに乗せやすくなります。
この3歩が終わったら、4小節のドラムやコードの上でそのサンプルを鳴らしてみてください。自分の録った音が曲の中で鳴った時点で、サンプラーの入口は通過しています。エンベロープやフィルター、複数のサンプルの重ね方は、この後で必要になった時に1つずつ触れば足ります。
3歩の手順と、うまくいった合図
合図が出ていなければ、次の歩に進まず、その歩を見直します。
| 手順 | 触る場所 | うまくいった合図 | つまずいた時に見る所 |
|---|---|---|---|
| 1. 割り当てて鳴らす | オーディオファイルの読み込み | 鍵盤を押すと録った音が鳴る | サンプラーのトラックが選ばれているか、音量が下がっていないか |
| 2. 音程を付ける | ルートキー(元の高さの鍵盤) | 隣の鍵盤で高さが変わる | 元の高さの鍵盤がどこに設定されているか |
| 3. 短く切る | 始点と終点 | 押した瞬間に鳴り、余計な響きが残らない | 始点が音の頭より手前にないか |
混乱ポイント①:ループ素材との違い
ループは「貼る」素材、サンプルは「鳴らす」素材です。
サンプル素材集を開くと、1回鳴って終わる短い音と、数小節の演奏が繰り返せる形になったループ素材が混ざっています。この2つをどちらもサンプラーに入れようとして、混乱が起きます。
ループ素材は、テンポと演奏がすでに決まった完成済みの数小節です。曲のテンポに合わせて、トラックに直接貼って使います。サンプラーに読み込んで鍵盤を押すと、その数小節が頭から丸ごと再生され、別の鍵盤を押せば全体の高さと速さが変わります。ドラムのループを1つ上の鍵盤で鳴らすと、テンポまで速くなって曲からずれるのはこのためです。
サンプラーに向いているのは、1回鳴って終わる短い音です。キック1発、スネア1発、声の一言、ベルの一打。鳴らす音程とタイミングを自分で決めたいから、鍵盤に置きます。
使い分けは、「この素材の演奏をそのまま使いたいか、自分で並べ直したいか」で決めます。そのまま使うならトラックに貼る。並べ直すならサンプラーに入れる。ループ素材を刻んで並べ直す使い方もありますが、それはループを短い音に切り分けてから、サンプルとして扱うということです。
ループ素材そのものの使い方や、テンポの合わせ方はループ素材の使い方の記事で扱っています。ここでは、サンプラーに入れるのは短い音、と覚えておけば迷いません。
混乱ポイント②:ピッチと長さの関係
高くすると短くなるのは故障ではなく、再生速度で高さを変えているからです。
2歩目で音程を付けた時、たいていの人が「あれ」と思います。高い鍵盤を押すと音が短くなり、低い鍵盤を押すと長く間延びする。声のサンプルなら、高くすると早口に、低くすると眠そうな声になります。
これは、基本の方式のサンプラーが、再生の速さを変えることで音の高さを変えているからです。テープを早回しすると声が高く速くなるのと同じで、高さと長さは切り離せません。1オクターブ上なら再生速度は2倍、長さは半分です。
だから、元の高さから離れた鍵盤ほど、録った音の印象から遠ざかります。声の楽器を作るなら、元の高さの上下1オクターブくらいまでが、声らしさが残る範囲です。それより上下は、別の楽器として使うつもりで鳴らします。
この性質を避けたい時のために、多くのサンプラーには、長さを変えずに高さだけを変えるモードがあります。名前はソフトによって違いますが、ピッチシフトやタイムストレッチと呼ばれる処理です。声の高さを変えても話す速さは変えたくない、という時はこちらを選びます。
どちらが正しいということはありません。基本の方式は、崩れ方そのものが味になります。長さを保つ方式は、自然に聞こえる代わりに、離れた音程では音質が変わります。同じサンプルで両方を鳴らして、曲に合うほうを耳で選んでください。
もう1つ、混乱しやすいのがルートキーです。「元の高さで鳴る鍵盤」が意図と違う場所に設定されていると、ドを押したつもりが別の高さで鳴り、コードが濁ります。音程がおかしいと感じたら、サンプルそのものより先に、ルートキーの設定を見てください。
録った音が鍵盤で鳴り、音程が付き、短く切れたら、それはもう1つの楽器です。その楽器を、ドラム、コード、メロディのどこに置くか。曲全体の中での置き場所は、制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
サンプラーとシンセはどちらを先に覚えるべきですか
自分で録った音を鳴らしたいならサンプラー、つまみで音を作りたいならシンセです。どちらも鍵盤で鳴らす音源なので、先に覚えたほうが正解ということはありません。
ループ素材をサンプラーに入れてもいいですか
入りますが、鍵盤を変えると数小節まるごと速さと高さが変わり、曲からずれます。演奏をそのまま使うループ素材はトラックに貼り、サンプラーには1回鳴って終わる短い音を入れてください。
高い鍵盤を押すと音が短くなります
基本の方式のサンプラーは、再生の速さを変えて音の高さを変えるためです。長さを変えたくない時は、ピッチシフトやタイムストレッチと呼ばれる、長さを保つモードを選びます。
サンプラーは別に買う必要がありますか
多くのDAWに付属しています。オーディオファイルをサンプラートラックや付属のサンプラーに読み込めば、そのまま鍵盤で鳴らせます。まずは付属のもので3歩を試してください。
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