DTMで8小節ループから進まない時の抜け出し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
8小節のループが鳴っている。ドラムもコードも入っていて、繰り返して聞いても悪くない。ところが9小節目から先を作ろうとすると、出てくるのは今の8小節と同じものばかりで、どこまで伸ばしても1つのループが長くなっただけに聞こえます。8小節はできたのに、その先が同じ繰り返しになる。曲の長さで止まる人のほとんどが、ここにいます。
抜け方は、次の8小節をいきなり作ることではありません。次を作る前に、今の8小節に3つの小さな手を入れて、「同じではない8小節」を先に用意します。楽器を1つ抜く、1つ足す、コードの最後だけ変える。この3つと、AからBへ移る合図の作り方、32小節まで伸ばす順番を、順に見ていきます。コード進行そのものの作り方は別の記事に任せ、ここでは「できた8小節をどう増やすか」だけを扱います。
先に決めること
次の8小節を作る前に、今の8小節を「戻る場所」に決めます。
- 先に決めること:今の8小節をAと呼び、これ以上触らない。増やすのはAのコピーに手を入れた8小節
- 迷ったらこれ:コードの最後の1小節だけを、進行の中の別のコードにする。触る場所がいちばん少ない
- 楽器を1つ抜く、1つ足す、コードの最後だけ変える。3つは同時にやらず、1つずつ聞く
- AからBへ移る合図は、8小節目の最後の1〜2拍にドラムで作る
- 32小節は、A、A'、B、A''の順に置くと、新しく作る8小節はBだけで済む
なぜ「同じ繰り返し」に聞こえるのか
聞き手は8小節で形を覚えてしまい、9小節目に違いがないと「また同じ」と受け取ります。
8小節を2回続けて聞くと、聞き手は2回目の頭で「さっきと同じだ」と気づきます。人の耳は、4小節から8小節くらいの長さなら、1回で形を覚えてしまうからです。覚えたものがそのまま戻ってくると、進んでいる感じが消えます。曲が伸びていないのではなく、伸びた分に「違い」が入っていないのです。
ここで多くの人がやるのは、9小節目から新しいものを作ろうとすることです。新しいメロディ、新しいコード、新しいリズム。ところが、今の8小節と関係のないものを置くと、今度はつながりが切れて、別の曲が始まったように聞こえます。同じすぎても、違いすぎても、曲は進みません。
制作の現場では、1小節のドラムをそのまま繰り返すと機械的に聞こえるので、A、B、A、C、A、B、A、Dのように、戻る場所と変える場所を分けて8小節の流れにします。この考え方は、8小節のかたまりどうしにもそのまま使えます。今の8小節を「戻る場所」に決め、そこから少しだけ違う8小節を「変える場所」として作る。展開とは、新しいものを足すことではなく、戻る場所と変える場所を並べることです。同じでも違いすぎでもない、その中間を作る方法が、次の3つの手です。
先に決めておくことが1つあります。今の8小節には、これ以上手を入れないことです。ここを「A」と呼び、変えずに残します。次の8小節を作る作業は、Aを壊す作業ではなく、Aのコピーに手を入れる作業です。Aが残っていれば、何を変えてもいつでも戻れます。
次の8小節を作る前にやる3つ
楽器を1つ抜く、1つ足す、コードの最後だけ変える。順に試して、いちばん違いが出たものを採用します。
3つの手は、どれも今の8小節をコピーして、コピーのほうに施します。9小節目から16小節目までが、その置き場です。Aそのものには触りません。
1つ目は、楽器を1つ抜くことです。Aで鳴っている楽器のうち、1つをコピー側から消します。ハイハットを消す、ベースを消す、コードの上に乗っている飾りの音を消す。どれでも構いません。抜いた8小節は、Aより静かになります。ここで大事なのは、抜いた8小節を「物足りない」と感じないことです。物足りなさは、Aに戻った時の「戻ってきた感じ」に変わります。抜くと、次に来るAが大きく聞こえます。
2つ目は、楽器を1つ足すことです。Aにない音を、コピー側に1つ加えます。8分で刻むハイハット、1小節に1回だけ鳴るベルのような音、コードの上に乗せた長く伸ばす1音。足した8小節はAより厚くなり、前に進んだように聞こえます。足す音は1つに絞ります。2つ以上足すと、Aとの差が大きくなりすぎて、別の場面に飛んだように聞こえます。
3つ目は、コードの最後だけ変えることです。8小節のコードのうち、最後の1小節(または最後の2拍)だけを、別のコードに差し替えます。候補は、今の8小節の中で他の場所に使っているコードから選べば外れません。やることは「最後の1小節を、すでに使っている別のコードに置き換える」だけです。最後が変わると、次の8小節の頭へ向かう感じが変わります。Aと同じ頭に戻るのに、そこへ向かう道が違うので、聞き手は「進んだ」と受け取ります。
3つを同時にやらないでください。1つ試して、Aと続けて聞く。戻す。次を試す。この順で3回聞くと、自分の8小節にはどの手がいちばん効くかが耳で分かります。3つ全部を入れた8小節は、たいていAとつながらなくなります。
3つの手の比べ方
触る場所が少ない順に並べています。迷ったら上から試します。
| 手 | 触る場所 | Aと続けて聞いた時の変化 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| コードの最後だけ変える | 最後の1小節のコードだけ | 頭へ戻る道が変わり、進んだ感じが出る | 最初に試す手。他の楽器を触らずに済む |
| 楽器を1つ抜く | 1トラックのコピー側を消す | 静かになり、次に来るAが大きく聞こえる | Bの前に「ため」を作りたい時 |
| 楽器を1つ足す | 新しい1トラックを8小節だけ | 厚くなり、盛り上がった感じが出る | サビへ向かう2つ目の8小節 |
AからBへ移る合図の作り方
合図は、8小節目の最後の1〜2拍に置きます。担当はドラムです。
3つの手で「Aを少し変えた8小節」ができたら、次はまったく別の8小節、Bへ移る番です。ここで多くの人が、Bの中身を先に考えます。でも、Bがどんなに良くても、Aから何の合図もなく切り替わると、聞き手はBの頭を「また何か始まった」としか受け取れません。合図があるだけで、同じBが「待っていた場面」に聞こえます。
合図の置き場所は決まっています。Aの8小節目、その最後の1拍か2拍です。ここだけを変えます。7小節目までは触りません。
合図の担当はドラムです。制作では、コードや音色を変えるよりも、リズムが変わることで曲の印象が大きく変わる、という判断をよく使います。合図も同じで、ドラムを1拍分変えるだけで、切り替わりははっきり伝わります。
いちばん簡単な合図は、8小節目の最後の2拍にスネアを増やすことです。普段は2拍目と4拍目にだけ鳴っているスネアを、最後の2拍だけ8分で4回鳴らします。「タン、タン、タタタタ」の形です。これがフィルと呼ばれるもので、大げさなドラムソロは要りません。
反対の合図もあります。8小節目の最後の1拍で、ドラムを全部止めることです。何も鳴らない1拍を作ると、次のBの頭が飛び込んでくるように聞こえます。盛り上げたい時はスネアを増やす、驚かせたい時は止める。どちらも触るのは最後の1〜2拍だけです。
ドラム以外で合図を足したい時は、コードの最後の音を8小節目だけ長く伸ばすか、メロディの最後の音を1つ上げます。ただし、最初はドラムだけで十分です。合図を2つ重ねると、切り替わりが騒がしくなります。
32小節まで伸ばす順番
新しく作るのはBの8小節だけ。残りはAの変形で埋まります。
32小節は、8小節が4つ並んだ長さです。ここまで伸びると、1コーラスの骨組みとして通して聞けます。ただ、4つの8小節を全部別々に作ろうとすると、また手が止まります。順番を決めておけば、新しく作る8小節は1つだけで済みます。
並びは、A、A'、B、A''です。Aは今の8小節そのまま。A'は、3つの手のどれか1つを入れた8小節。Bは、コードもメロディも変えた別の8小節。最後のA''は、Aに楽器を1つ足した8小節です。
作る順番は、この並びの通りではありません。先にA'を作ります。A'ができた時点で、曲は16小節になり、同じ繰り返しではなくなっています。次にA''を作ります。Aのコピーに楽器を1つ足すだけなので、数分で終わります。この時点で、Bを除いた24小節が並んでいます。
Bは最後に作ります。前後がA'とA''で固まっているので、Bは「A'とA''の間に挟まる8小節」として作れます。空白の8小節を前にするより、前後が決まっているほうが、Bで何をすればいいかが見えます。Bでは、コードの並びを変え、メロディの高さをAより上か下にずらします。Bの中身の作り方は別の記事の領分なので深くは入りませんが、A'とA''ができていれば、Bに求めることは「Aと違えばいい」だけになります。
24小節目、つまりBの最後にも、合図を置きます。Bの8小節目の最後の2拍にスネアを増やせば、A''の頭が「戻ってきた」と伝わります。合図はAからBへ移る時だけでなく、BからAへ戻る時にも効きます。
レッスンでは、今日の作業を始める前に、完成形の小さいゴールを決めることをすすめています。8小節なのか、90秒なのか、フルコーラスなのかが見えないまま細部を触ると、作業は増えても曲は進みにくいからです。8小節から先で止まっている人のゴールは、32小節です。A、A'、B、A''の4つが並んだら、一度書き出して通して聞き、そこで初めて細部に戻ります。展開の骨組みが先、音色や細かい打ち込みは後です。
今日やること
1つだけです。コードの最後だけ変えた2つ目の8小節を作ります。
今の8小節をコピーして、9小節目から16小節目に置きます。コピー側の16小節目のコードを、8小節の中にある別のコードに差し替えます。触るのはこの1小節だけです。楽器の抜き差しも、合図も、今日はやりません。
できたら、1小節目から16小節目まで通して聞きます。9小節目の頭で「また同じだ」と感じるかどうか、そこだけを聞きます。感じなければ、A'は成功です。感じたら、差し替えるコードを別のものに変えて、もう一度聞きます。
16小節を通して聞けたら、その状態で保存して閉じます。A'が1つできていれば、明日は楽器を1つ足したA''を作れます。32小節までの道は、今日の1小節から始まります。8小節から1曲の形まで、どの順番で何を作るかは、制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
次の8小節は、今の8小節をコピーしてから変えていいですか
はい。コピーして、1か所だけ変えます。コピー側を全部作り替えると、別のループが2つ並んだだけになり、つながりが切れます。元の8小節には触らず、いつでも戻れる状態を残しておきます。
3つの手のうち、どれから試せばいいですか
コードの最後だけ変える手からです。触るのは最後の1小節だけで、他の楽器に手を入れずに済み、気に入らなければ1小節戻すだけで元に戻ります。次に楽器を1つ抜く、最後に1つ足す、の順で試します。
AからBへ移る合図は、必ず要りますか
要ります。8小節目の終わりに何もないと、聞き手はBの頭を「また何か始まった」としか受け取れません。最後の2拍にスネアを8分で4回鳴らすか、最後の1拍だけドラムを止める。どちらか1つで十分です。
32小節まで伸ばすには、新しいフレーズをいくつ作りますか
1つだけです。A、A'、B、A''の並びなら、新しく作るのはBの8小節だけで、A'とA''は元の8小節のコピーに手を入れたものです。Bは前後が決まってから最後に作ります。
コードの「床」を、先に用意しておく
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