DTMで8小節ループから進まない時の抜け出し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
8小節のループはできた。何度再生してもそれなりに気持ちいい。なのに、そこから曲が1小節も伸びない。DTMを始めた人の多くが、この8小節ループの中でぐるぐる回り続けます。原因は腕やセンスではなく、ループの次に何を置けばいいのかが決まっていないことです。前へ進む方向が見えないまま同じ8小節を再生し続けても、時間だけが過ぎていきます。
抜け出す入口は、次の8小節をゼロから発明しないことです。今あるループをコピーして、そのどこか1か所を変える。変える場所を決めた瞬間に、2つ目の8小節が動き出します。回り続けるループを、前へ進む展開へ変えていく手を、原因の見分け方から順番に見ていきます。
先にやること
8小節ループは、次の8小節を発明せず、今の素材を変えて増やすと抜けられます。
- ループが回るのは、完璧に仕上げてから進もうとするから
- 次の8小節は、コピーして変える場所を1つだけ決める
- コード、リズム、音の抜き差しが、展開を作る引き出し
- 戻る場所と変える場所を作ると、ループが曲に育つ
8小節で回り続ける理由
悪いのは腕ではなく、進み方の設計です。
8小節のループから抜けられない時、多くの人は自分のセンスや技術が足りないせいだと考えます。でも、実際の原因はもっと単純で、止まり方には2つの型があります。
1つは、今の8小節を完璧に仕上げてから次へ進もうとする型。もう1つは、次にどんな展開を置けばいいのか、その作り方を知らない型です。
1つ目の型は、まじめな人ほどはまります。ドラムを差し替え、コードを1つ動かし、また頭から聞き直す。手はずっと動いているので、進んでいる気がします。
ところが、この8小節が満点になるまで先へ行かないと決めていると、満点は永遠に来ないので、いつまでも同じ場所にとどまります。
2つ目の型は、次の8小節をまったく新しいものとして発明しようとする型です。今のループと関係のない、別のかっこいいフレーズをひねり出そうとして、何も浮かばずに手が止まります。
展開は無から生み出すものではなく、今ある素材を変形させて作るものだと考えると、急に手が動き出します。
どちらの型にも共通するのは、今のループを完成品として扱っていることです。8小節を、仕上げる対象ではなく、次を生み出す種として見ると、抜け道が見えてきます。
まず、自分がどちらの型で止まっているかを確かめてください。
次の8小節はコピーから作る
種は、今のループの中にあります。
具体的な一手は、今の8小節をそのまま後ろへコピーすることです。これで曲は16小節になります。中身は同じ繰り返しですが、それで構いません。
まず長さを2倍にして、2つ目の8小節を変えていい場所として確保します。まっさらな8小節を前にするより、同じものが2つ並んでいるほうが、はるかに手を入れやすいのです。
コピーしたら、全部を変えようとせず、変える場所を1か所だけ決めます。ここで役に立つのが、戻る場所と変える場所を分ける考え方です。
1小節のパターンをただ繰り返すと機械的に聞こえますが、A、B、A、C、A、B、A、Dのように、戻る場所と変える場所を作ると、8小節が一続きの流れになります。同じ発想を、8小節のかたまりどうしにも当てはめます。
たとえば、1つ目の8小節をそのまま戻る場所にして、2つ目の8小節の後半だけを変える場所にします。前半は同じで聞き手を安心させ、後半で少し動かす。
これだけで、ただのループが「Aメロらしきもの」と「その次」に分かれ始めます。変える場所が先に決まっていれば、どこを触ればいいか迷いません。
大事なのは、変える場所を1つに絞ることです。2つ目の8小節を全部作り替えると、1つ目とのつながりが切れて、別々のループが2個並んだだけになります。
つながりを残したまま少しだけ動かすからこそ、曲が前へ進んで聞こえます。
変え方の引き出し
変える場所が決まったら、変え方を選びます。
変える場所を決めても、どう変えればいいか分からないと、また止まります。展開の作り方には、いくつかの決まった引き出しがあります。
難しい発想は要りません。今ある音のどれか1つを動かすだけです。
| 変える要素 | 具体的な手 | 起きること |
|---|---|---|
| コード | 最後の1小節のコードを別のものへ差し替える | 次へ進みたい感じが出る |
| リズム | 2つ目のドラムのパターンだけ変える | 場面が切り替わって聞こえる |
| 密度 | 楽器を1つ抜く、または1つ足す | 静かな所と盛り上がる所の差がつく |
| メロディ | 主役の最後の音だけ上げ下げする | 同じ形でも印象が変わる |
この中でも、リズムを変えると曲の印象は大きく動きます。コードや音色を変えるより、ドラムのパターンが変わるだけで、別の場面に入ったように聞こえることがあります。
逆に、8小節ずっと同じリズムのままだと、どれだけ音を足しても平坦に感じられます。まずリズムから1つ試すと、展開の手応えをつかみやすいです。
引き出しは、組み合わせず1つずつ試します。コードとリズムを同時に変えると、どちらが効いたのか分からなくなります。
1つ変えて聞く、戻す、別の引き出しを試す。この繰り返しで、自分の曲に合う変え方が手元に残っていきます。
手を止めない仕組み
迷っても戻れる状態を先に作ります。
抜け出せない人ほど、うまくいかないと最初から作り直します。作り直すと、また同じ8小節の入口に戻り、また同じ場所で止まります。
これを防ぐには、消すのではなく、コピーで増やす癖をつけます。2つ目、3つ目と複製を並べ、それぞれで別の変え方を試せば、気に入らなくても前の状態がそのまま残ります。
時間も区切ります。この8小節を触るのは15分まで、と決めて、その中で変える場所と変え方を1つ選びます。時間を区切ると、満点を目指して止まる手が動き出し、とりあえず前へ進む判断ができます。
時間が来たら、出来がどうであれ、次の8小節へ移ります。仕上げは後からいくらでもできます。
迷ったときのために、変え方を3つ用意しておくのも効きます。音を抜く案、ドラムを変える案、メロディの最後を変える案。3つ並べて聞き比べれば、頭で悩むより耳で選べます。
3つとも残しておけば、後からどれを採用するかを選び直せます。手を止めないとは、迷いをなくすことではなく、迷っても作業が前へ進む仕組みを持つことです。
ループを曲に育てる
8小節に役割を与えて、場面に変えます。
変える場所と変え方が分かってきたら、8小節のかたまりに役割を与えます。この8小節はAメロ、次の8小節はサビ、というふうにです。
役割が決まると、同じ長さでも中身の作り方が変わります。Aメロなら音を減らして落ち着かせ、サビなら音を増やして持ち上げる。役割が、変え方を選ぶときの基準になります。
8小節が2つ、3つと役割を持って並ぶと、ループはいつのまにか1コーラスの入口になっています。ここまで来たら、単体のループを磨き続けるのはやめて、通して聞いたときの流れで判断します。
1つの8小節だけを完璧にしても、前後とつながっていなければ曲にはなりません。展開とは、良い部分をつなげて流れにすることでもあります。
完成度が低くても、区切りごとに書き出して残します。同じ8小節ループの中で回っていた頃と違い、書き出すたびに曲が少しずつ長くなっていくのが分かります。その長さの伸びが、抜け出せているという何よりの手応えです。
まずは今のループをコピーして、2つ目の8小節で1か所だけ変えてみてください。ここから先の全体像は、下の制作工程マップで1枚にまとめています。
よくある疑問
8小節ループから抜けるには何をすればいいですか
今の8小節を完璧に仕上げてから進もうとせず、そのままコピーして2つ目の8小節で変える場所を1つ決めます。コードかリズムを1か所動かすだけで、次の展開の入口になります。
次の展開が思いつきません
ゼロから新しいフレーズを発明するのではなく、今の素材のどこを戻してどこを変えるかで考えます。同じメロディでも、コードやリズムを変えると別の場面に聞こえます。展開は変形から作れます。
何度も最初から作り直してしまいます
消さずにコピーで増やすと、迷っても前の状態に戻れます。触る時間を15分などに区切り、その中で変える場所と変え方を1つだけ選ぶと、作り直しの繰り返しから抜けられます。
ループはいつ曲になりますか
8小節のかたまりに役割を与え、戻る場所と変える場所を作って16小節、1コーラスへ育てた時です。単体のループを磨き続けるより、役割を決めて並べるほうが早く曲になります。
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