90秒ワンコーラスを作る手順

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
90秒でワンコーラスを作ると聞くと、短くて簡単そうに感じます。ところが実際に手を動かすと、たいていイントロとAメロだけで時間が尽きて、サビにたどり着けません。原因は、90秒という長さを先に区切らないまま、思いついた場所から音を置いていくことにあります。器の大きさを決めずに注ぐと、Aメロが膨らみすぎて、主役が入る場所が残らないのです。
手順は逆にします。先に90秒という器を用意して、その中へイントロ、Aメロ、サビ、アウトロを配っていく。テレビアニメのオープニングとほぼ同じ長さなので、頭の中にある「あの尺」をそのまま物差しにできます。秒数の割り振りから、小節への置き換え、収めるための削り方まで、順番に見ていきます。
先に決めること
90秒ワンコーラスは、長さを先に区切ってから場面を配ると仕上がります。
- 90秒を、イントロ・Aメロ・サビ・アウトロへ秒数で配る
- テンポを決めると、秒数は小節数へ置き換えられる
- 収めるために、入れない場面を先に決める
- 90秒はゴールではなく、フルコーラスへ渡す通過点
90秒を目標にする理由
短いのに、曲の形が一通りそろう長さです。
初心者が最初に完成させる単位として、90秒は扱いやすい長さです。1曲まるごとの3分や4分は、途中で息が続かず、たいてい作りかけで止まります。
かといって8小節のループだけでは、入口も終わりもなく、曲として聞ける形になりません。その中間にあるのが、90秒のワンコーラスです。
物差しになるのが、テレビアニメのオープニングです。多くが90秒前後で、短いイントロがあり、歌が入り、サビで盛り上がり、次の場面へ渡す終わり方までが詰まっています。
頭の中にあの尺の記憶があるなら、それがそのまま完成イメージの目安になります。長さのイメージを言葉ではなく体で覚えているのは、初心者にとって大きな助けです。
90秒でワンコーラスまで組めると、曲を最後まで並べる感覚が一度手に入ります。入口の作り方、盛り上げ方、終わらせ方を、短い距離で全部通せます。
長い曲は、この90秒を伸ばしたものだと考えると、次の一歩が軽くなります。まず、この短い一周を完走することを目標にします。
90秒を秒で配る
どの場面に何秒使うかを、先に決めます。
器の大きさが決まったら、中身を配ります。90秒を、イントロ、Aメロ、サビ、アウトロの4つに秒数で割り振ります。
数字は目安で構いませんが、先にメモへ書き出すことが大事です。頭の中だけで進めると、Aメロを気持ちよく作っているうちに、90秒を使い切ってしまいます。
配り方の一例は、イントロに約16秒、Aメロに約32秒、サビに約32秒、アウトロに約8秒です。足すと90秒に近づきます。
ここで見てほしいのは、サビにいちばん長い時間を残していることです。ワンコーラスの主役はサビなので、そこへ着地するための時間を先に確保します。
逆に、イントロとアウトロは短くします。初心者ほど、かっこいい前奏を長く作り込みがちですが、90秒の中では16秒でも長いくらいです。
前置きが伸びると、肝心のサビへ入る前に尺が尽きます。まず主役に時間を配り、余りを前後へ回すと考えると、配分で迷いません。
秒数を小節に置き換える
テンポを決めると、秒は小節の数に変わります。
DAWで音を置くときは、秒よりも小節で数えるほうが作業しやすいです。秒数は、テンポを決めれば小節数へ置き換えられます。
4拍子の曲で、テンポが1分間に120のとき、1小節はちょうど2秒です。この1本の物差しがあれば、さきほどの秒配分をそのまま小節へ翻訳できます。
| 場面 | 目安の秒数 | BPM120での小節数(1小節2秒) |
|---|---|---|
| イントロ | 約16秒 | 8小節 |
| Aメロ | 約32秒 | 16小節 |
| サビ | 約32秒 | 16小節 |
| アウトロ | 約8秒 | 4小節 |
| 合計 | 約88秒 | 44小節 |
テンポを上げれば1小節は短くなり、同じ小節数でも尺は縮みます。BPMを150くらいまで上げると、疾走感のあるオープニングに近づきます。
まずBPM120で小節数を決めて、後からテンポを動かして90秒ちょうどへ寄せると、収まりを合わせやすくなります。数字を先に紙の上で決めてしまうと、DAWの中で迷いにくくなります。
収めるために削る
全部を入れようとすると、90秒には入りません。
90秒という器は、思っているより小さいです。イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏を全部入れようとすると、まず収まりません。
収めるコツは、足すことではなく、入れない場面を先に決めることです。何を捨てるかが決まると、残った場面に集中できます。
いちばん削りやすいのはBメロです。AメロからサビへつなぐBメロは、フルコーラスでは効きますが、90秒では省いてもワンコーラスとして成立します。
Aメロのあと、最後の2小節だけ少し持ち上げて、そのままサビへ飛び込む形にすれば、浮いた時間を主役へ回せます。
間奏も、90秒の段階では要りません。歌が一度休む間奏は、曲を長くするための場面なので、短くまとめたい今は外します。
削った場面は消えてなくなるわけではなく、あとでフルコーラスへ広げるときに戻せます。今は入れない場面を決めるだけで十分です。
音数も同じ考え方で削ります。90秒に多くの楽器を詰め込むと、どれも中途半端に聞こえます。ドラム、ベース、コード、主役のメロディ。この4つがそろっていれば、短い曲は成り立ちます。
飾りの音は、尺が決まってから足すほうが、判断が楽になります。
アウトロで着地させる
最後の数秒で、曲を止める形を作ります。
90秒に収める設計で、いちばん後回しにされがちなのが終わり方です。時間が来たからといって、サビの途中でぶつ切りにすると、聞いた人は宙ぶらりんな印象を受けます。
最後の8秒ほどを、着地のために取っておきます。ここを空けておくだけで、通して聞いたときのまとまりが変わります。
簡単なのは、サビの最後のコードを長く伸ばして止める形です。伸ばしている間にドラムを止め、音を減らしていくと、自然に曲が閉じます。
イントロで使った短いフレーズを、最後にもう一度だけ鳴らして終わるのも、頭と尻がそろってまとまりが出ます。
もう一つは、音をだんだん減らして消える終わり方です。全部の楽器を一度に止めず、上の音から順に抜いていくと、余韻が残ります。
どちらでも構いませんが、終わり方を1つ決めておくと、90秒の器の最後がふさがり、通して聞ける形になります。終わりが決まらないうちは、まだワンコーラスは完成していないと考えます。
90秒の先へ渡す
ここで満足せず、次の長さへつなぎます。
90秒のワンコーラスが最後まで並んだら、一度書き出します。スマホやイヤホンで、画面を見ずに通して聞いてください。入口が長すぎないか、サビが主役になっているか、終わり方が急でないか。
90秒なら、ひと通り聞くのに時間がかからないので、直す場所を見つけやすくなります。気になった1か所だけをメモして、また通します。
ここで覚えておきたいのは、90秒は完成の代わりではなく通過点だということです。入口、展開、盛り上がり、終わり方を小さく確認する場所であって、ゴールそのものではありません。
ここで止めてしまうと、短い曲ばかりが増えて、フルコーラスの経験が積み上がりません。90秒を、次へ渡すための踏み台として扱います。
次は、この90秒を土台にして長さを足します。削ったBメロを戻す、2番を足す、間奏を挟む。捨てた場面を戻していくと、自然にフルコーラスへ近づきます。
90秒で一度最後まで並べた経験があると、長い曲でも道に迷いにくくなります。まずは器を90秒に決めて、DAWを開いてください。音出しからフルコーラス完成までの流れは、下の制作工程マップで1枚にまとめています。
よくある疑問
なぜ90秒で作るのですか
テレビアニメのオープニングと同じくらいの長さで、入口から終わりまでの形が一通りそろう最小単位だからです。3分の曲は途中で息が続かず、8小節のループは曲になりません。その中間が90秒です。
90秒は何小節くらいですか
テンポで変わります。4拍子でテンポが1分間に120なら、1小節はちょうど2秒なので、44小節前後が目安です。イントロ8、Aメロ16、サビ16、アウトロ4のように小節で割り振ると収めやすくなります。
Bメロは入れないとだめですか
90秒に収めるなら省いて構いません。Aメロからそのままサビへつなぐワンコーラスでも、入口、盛り上がり、終わりはそろいます。Bメロや間奏は、あとでフルコーラスへ広げるときに戻せます。
90秒で完成にしてもいいですか
90秒は最終ゴールではなく、フルコーラスへ広げる前に入口、展開、盛り上がり、終わり方を確認する通過点です。まず書き出して、削った場面を戻しながら長さを足していきます。
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