Peak・RMS・LUFSの違い

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
書き出した自分の曲を、配信で聞いている曲の後に再生したら明らかに小さい。理由を調べ始めると、Peak、RMS、LUFSという3つの言葉が一度に出てきて手が止まります。
どれも「音の大きさ」の話なのに、なぜ物差しが3本もあるのか。ここが最初のつまずきです。
答えは、3つとも測っているものが違うからです。Peakは瞬間の最大値、RMSは平均的な迫力、LUFSは人の耳が感じるうるささ。
役割が分かれば、今の自分がどれを見ればいいかも決まります。先に言ってしまうと、初心者が毎日付き合う必要があるのはPeakだけです。
先に見ること
3つは別の物差しです。同じ音でも測り方で数字が変わります。
- Peak=一瞬の最大音量。0dBを超えると音が割れる
- RMS=ならした平均。曲の迫力やエネルギーの目安
- LUFS=耳の感じ方を織り込んだうるささ。配信サービスが使う
- 制作中はPeakを赤にしない。それだけ守れば先へ進める
物差しが3本ある理由
「大きさ」という言葉が、3つの別の性質を指しているからです。
走ることにたとえると分かりやすくなります。同じランナーでも、100m走の瞬間最高スピードと、マラソン全体の平均ペースと、沿道の人が受ける「速そう」という印象は、それぞれ別の数字です。
瞬間だけ速い人もいれば、地味なペースを最後まで刻む人もいます。
音もまったく同じです。一瞬だけドンと大きい音と、ずっと分厚く鳴り続ける音と、聞いた人が「うるさい」と感じる音は、別々の性質です。
だから測る道具も3つに分かれました。
- 瞬間の最高記録を測るのがPeak
- 平均ペースを測るのがRMS
- 人の体感に寄せたのがLUFS
3つを混ぜて考えると、「Peakは0dB近くまで振れているのに小さく聞こえる」のような現象が謎に見えます。
分けて考えれば謎ではありません。瞬間最高だけが高くて、平均と体感が低い曲だった、というだけの話です。
Peak:一瞬の最高記録
曲の中で一番大きかった瞬間の値です。割れの見張り役です。
Peak(ピーク)は、その名の通り山の頂上です。曲を再生している間で、波形が一番大きく振れた瞬間の値を指します。
スネアの一撃、歌の破裂音のような、ほんの一瞬の出来事もすべて拾います。
デジタルの音には0dBという絶対の天井があり、Peakがそこを超えると、超えた分の波形が削られて歪みます。これがクリップです。
つまりPeakの仕事は音の良し悪しの判定ではなく、天井にぶつかっていないかの見張りです。
DAWのトラックやマスターに付いている普通のメーターが主に見せているのはこの値なので、実は誰でも毎日Peakを見ています。
注意点はひとつ。Peakは瞬間の話しかしないことです。一瞬だけ大きい音があれば、残りの部分がどれだけ静かでもPeakは高く出ます。
だから「Peakが天井付近まで振れているのに、曲全体は小さく聞こえる」ことが普通に起きます。
曲の迫力を知りたいなら、次のRMSの出番です。
RMS:平均的な迫力
一定時間をならした値です。音のエネルギー量に対応します。
RMSは、短い時間の音をならして平均した値です。マラソンの平均ペースにあたります。
瞬間の突出は薄まり、その代わり「どれだけの厚みで鳴り続けているか」が数字になります。
同じPeakの曲が2つあっても、RMSが高い方は音の密度が濃く、迫力があって聞こえます。
静かなピアノ曲はPeakとRMSの差が大きく、歪んだギターが鳴りっぱなしのロックは差が小さい。この差の大きさは、そのままダイナミクス(音量の起伏)の量でもあります。
音圧という言葉が指しているのは、だいたいこのRMS側の性質です。瞬間ではなく、ならした音のエネルギーが高い状態を「音圧がある」と呼んでいます。
ただしRMSにも弱点があります。機械的な平均なので、人の耳がどう感じるかまでは考えてくれません。
低い音と高い音では、同じエネルギーでも聞こえる大きさの印象が違うからです。そこを補うために生まれたのがLUFSです。
LUFS:耳で感じるうるささ
人の聴覚のクセを織り込んだ、体感に一番近い物差しです。
LUFS(ラウドネス値)は、人の耳の感度に合わせて重み付けをした上で、曲全体の平均的なうるささを測る物差しです。
耳は音の高さによって感度が変わり、同じエネルギーでも中高域は大きく、低域は控えめに感じます。LUFSはこの耳のクセを計算に含めているので、数字と「聞いた感じ」がよく一致します。
3つの中では一番新しい物差しで、テレビ放送の音量差への苦情対策として整備され、その後、音楽の配信サービスに広まりました。
今では「曲のうるささ」を語る共通言語になっています。
ただし、測るタイミングには向き不向きがあります。LUFSは曲全体を通して測る値なので、制作の途中でちらちら見る類のものではありません。
ミックスがほぼ固まり、書き出す段階になってから、仕上がりの確認として測るのが実際の使い方です。
多くのDAWには測定できるメーターが付属していますし、無料のメータープラグインにも対応するものがあります。
3つの使い分け早見表
測っているもの、たとえ、見る場面で並べます。
| 物差し | 測っているもの | たとえるなら | 主に見る場面 |
|---|---|---|---|
| Peak | 一瞬の最大音量 | 100m走の最高スピード | 制作中・録音中。0dBを超えていないかの見張り |
| RMS | ならした平均のエネルギー | マラソンの平均ペース | 迫力や密度を他の曲と比べたい時 |
| LUFS | 耳の感じ方込みのうるささ | 沿道の人の体感 | 書き出し前後。配信での聞こえ方の確認 |
配信サービスがLUFSで揃える話
プレイリストの音量差をなくすため、再生側で調整されています。
音楽の配信サービスの多くは、曲ごとの音量差で聞き手が疲れないように、LUFSを基準にした自動の音量調整(ラウドネスノーマライゼーション)を行っています。
基準より大きい曲は下げられ、サービスや設定によっては小さい曲が持ち上げられることもあります。
これが意味するのは、力ずくで大きくした曲の「大きさの優位」は、再生の段階で打ち消されるということです。
かつては少しでも大きい音で聞かせようと、各曲が限界まで音を詰め込む競争がありました。今は詰め込んでも配信側で下げられるため、無理をした分の歪みや潰れた抑揚だけが手元に残ります。
では基準の数値をいくつにすればいいのか、と考えたくなりますが、基準はサービスごとに違い、将来変わる可能性もあります。
数字の暗記に価値はありません。覚えるべきは仕組みの方です。
うるささはそろえられてしまう。そろえられた後に残るのは、バランスと音色の質だけ。だから初心者が競うべき場所は音圧ではなく、その手前のミックスです。
初心者はクリップさせない事から
3つのうち、今日から守る仕事はひとつだけです。
ここまでの話を、実際の作業に落とします。RMSとLUFSは「知っておく」で十分です。
毎日の制作で手を動かして守るのは、Peakを0dBに当てないこと。これだけです。
理由は、失敗の取り返しやすさがまったく違うからです。小さすぎる音は後からいくらでも上げられます。配信で音量が揃えられるなら、なおさら小ささは罪になりません。
ところがクリップして削れた波形は、後からどんな処理をしても元に戻りません。
レッスンでも録音の場面では、赤く割れた音は後から戻しにくいから、大きく録ることより割れずに残すことを優先する、と最初に伝えています。再生も録音も原則は同じです。
具体的には、各トラックのPeakが天井に触れない余白を残し、マスターが赤くなったら全体を少しずつ下げる。この習慣だけで、書き出した曲がバリバリだったという事故はほぼ消えます。
うるささの最終調整は、曲が完成した後のマスタリングで、LUFSのメーターを見ながらやればいい。物差しの役割分担が決まると、迷う場面がひとつずつ減っていきます。
その先の、曲を完成まで運ぶ手順は制作工程マップに整理しています。
よくある疑問
PeakとRMSはどちらを見ればいいですか
制作中はPeakだけで十分です。0dBを超える赤い表示(クリップ)を出さないことが先で、迫力の比較にRMSやLUFSを使うのは曲が形になってからで間に合います。
LUFSの目標値はいくつにすればいいですか
配信サービスごとに基準が違い、変更されることもあるため、特定の数値を暗記する必要はありません。まず割れていないミックスを作り、数値合わせは最後のマスタリング段階で考えます。
音圧を上げれば良い曲に聞こえますか
一時的に大きく聞こえても、配信サービス側でLUFS基準の音量調整が入れば差は消えます。詰め込みすぎで生まれた歪みだけが残るので、音圧より先にバランスを整えます。
LUFSは無料で測れますか
多くのDAWに付属のメーターで確認でき、無料のメータープラグインにも対応するものがあります。まずは手元のDAWのメーター表示を切り替えられないか探してみてください。
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数字の物差しを押さえたら、次は耳でバランスを作る工程に進みます。