クオンタイズの基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
鍵盤で弾いて録ったフレーズが、聞き返すとなんだかヨレている。原因の正体は、1つ1つの音のタイミングが拍から少しずつズレていることです。
これを一括で直すのがクオンタイズ。選んだノートを、拍のマス目であるグリッドに吸着させてそろえる機能です。
便利な機能ですが、全部に目一杯かければ良くなるわけではありません。
かける前後で音がどう変わるのか、強さ(%)をどう決めるのか、なぜかけすぎると機械っぽくなるのか、ドラムとメロディで扱いをどう変えるのか。使う量の判断まで含めて説明します。
先に見ること
クオンタイズは「ズレを直す量」を選べます。100%だけが正解ではありません。
- ズレたノートを、選んだ基準のグリッドへ吸着させる機能
- 基準は曲の一番細かいリズムに合わせる(16分があるなら1/16)
- 強さ100%は完全にそろえる、50〜80%はズレを半分に縮める
- ドラムの土台は強め、メロディは弱めか部分的に、が使い分けの軸
クオンタイズとは:グリッドへの吸着
1音ずつ手で直す代わりに、一括で拍へ寄せます。
クオンタイズは、選んだMIDIノートのタイミングを、一番近いグリッドの線まで自動で移動させる機能です。グリッドとは、ピアノロールに引かれた拍のマス目のこと。
手弾きで録音したノートは、拍のわずかに前や後に散らばって記録されますが、クオンタイズを実行すると、それぞれが最寄りの線に吸い付きます。
操作そのものは簡単です。ピアノロールで直したいノートを選び、クオンタイズを実行するだけ。
CubaseならQキーひとつで、選んだノートが一斉に吸着します。難しいのは操作ではなく、どこまで直すかの判断のほうです。
実行する時に決めるのが基準の細かさです。1/8を選べば8分音符の間隔の線へ、1/16なら16分音符の線へ吸着します。
ここで大事なのは、フレーズに含まれる一番細かい音符に基準を合わせることです。16分音符が混ざったフレーズに1/8でかけると、細かい音が本来と違う線へ移動して、フレーズ自体が変わってしまいます。
もうひとつ、かける前の習慣として、元のデータに戻れる状態を作っておきます。パートを複製しておくか、直後なら取り消しで戻れることを確認しておく。
クオンタイズは何度もやり直して比べる機能なので、退路があるほど気軽に試せます。
かける前とかけた後で何が変わるか
単体のヨレより、他のパートとの噛み合いが変わります。
かける前の演奏には、拍より早く出る「走り」と、遅れて出る「もたり」が混ざっています。1音ごとのズレは数十ミリ秒程度でも、ドラムと重ねると太鼓と鍵盤が微妙に別の場所を叩くことになり、全体がにごって聞こえます。
これが「ヨレて聞こえる」の正体です。
かけた後は、まず他のパートとの噛み合いが変わります。打ち込みのドラムはグリッドにそろっているので、鍵盤も同じグリッドにそろえば、キックと左手のベース音が同じ瞬間に鳴るようになります。
単体で聞いた時の変化は小さくても、重ねた時の締まり方がまるで違います。
編集のしやすさも変わります。ノートが小節や拍の線と一致するので、1小節単位のコピーや貼り付けが正確に決まり、繰り返しの多い曲をすばやく組めるようになります。
効果を確かめる時は、4小節だけをループ再生して、取り消しと再実行でかける前後を行き来するのが分かりやすい方法です。ドラムと一緒に鳴らした状態で比べると、違いがはっきり聞き取れます。
強さ(%)の考え方
ズレを何割縮めるか、という数字です。
多くのDAWのクオンタイズには、強さやストレングスと呼ばれる%の設定があります。意味は単純で、ズレをグリッドまで何割縮めるかです。
100%ならグリッドにぴったり移動します。50%なら、ズレの半分だけグリッドへ近づきます。
たとえば拍より30ミリ秒遅れていた音は、100%で遅れゼロ、50%なら15ミリ秒の遅れが残ります。
つまり100%は「矯正」、それ未満は「補正」です。演奏の形は残したまま、ズレの角だけ取る、という中間の直し方ができるわけです。
目安としては、打ち込み直後の修正やビシッとそろえたい土台には100%、生演奏らしさを残したいフレーズには50〜80%あたりから試します。
一度弱くかけて、まだ気になるならもう一度かける、という段階的な使い方もできます。弱い設定を2回かけるほうが、いきなり100%より仕上がりを調整しやすいです。
%の正解は曲によって違うので、数字を暗記するより「かけて聞いて、強すぎたら下げる」の往復で決めてください。
かけすぎると機械っぽくなる理由
消えるのはズレだけではなく、演奏の呼吸です。
人間の演奏には、意図的なタメや突っ込みと、無意識の細かい揺れが必ず含まれています。この揺れは単なる誤差ではなく、聞き手が「人が弾いている」と感じる手がかりです。
全パートに100%のクオンタイズをかけると、この手がかりごと消えて、すべての音が定規で引いたように同じ瞬間に鳴ります。これが機械っぽさの正体です。
とくに危ないのは、覚えたてで気持ちよくなって、録ったそばから全部にかけてしまうことです。1回ごとの操作は正しくても、曲全体から呼吸が抜けていきます。
ジャンルにもよりますが、ピアノの弾き語りやバラードで全パートが完全にそろっていると、かえって不自然に聞こえます。
タイミングをそろえた上で、音の強さまで全部同じだと、機械っぽさはさらに強まります。ベロシティと呼ばれる音の強弱に変化が残っているか、という別の要素もあわせて見てください。
逆に、あえてカチッとそろえた質感を狙うジャンルもあります。ダンスミュージックの打ち込みは100%でそろっていることが様式の一部です。
つまり「かけすぎ」とは%の数字ではなく、曲が欲しい質感からの行きすぎを指します。判断の道具は常に耳です。
ドラムとメロディでの使い分け
土台は硬く、歌うパートは柔らかく。役割で決めます。
使い分けの軸は、そのパートがリズムの土台か、歌う側かです。制作の判断メモとしていつも置いているのは、コードや音色よりリズムが変わることで曲の印象が大きく変わる、ということです。
ドラムを適当に置くと曲全体が平坦に聞こえやすい。だからこそ土台のリズムは、まずきちんとそろっている状態を作ります。
具体的には、キックとスネアは強め、100%でそろえて構いません。ベースもキックと同じ瞬間に鳴ってほしいので強めです。
土台がそろっているほど、上に乗るパートの揺れが「ノリ」として聞こえる余裕が生まれます。
一方、メロディは歌うパートです。拍の少し前に飛び込む音や、少し遅れて入る音が、そのまま表情になります。
全体に強くかけるより、明らかに気になるズレのノートだけを選んで個別にかけるか、50%前後の弱い補正にとどめます。
ハイハットや伴奏はその中間です。完全にそろえると打ち込み臭が出やすいので、少し弱めから試します。
迷ったら、下の表の目安から始めて、耳で微調整してください。
タイミングが整った8小節は、そのまま曲を組み立てる次の工程の土台になります。全体の流れは下の制作工程マップにまとめています。
パート別の目安表
最初の設定に迷った時の出発点です。
| パート | 強さの目安 | 理由 |
|---|---|---|
| キック・スネア | 100% | リズムの土台。そろっているほど曲が安定する |
| ベース | 90〜100% | キックと同じ瞬間に鳴らして低音をまとめる |
| ハイハット・伴奏 | 60〜80% | 完全にそろえると打ち込み臭が出やすい |
| メロディ | 0〜50%か個別に | タメと突っ込みが表情。気になる音だけ直す |
よくある疑問
クオンタイズはいつかければいいですか
録音や打ち込みを聞き返して、タイミングが気になった時にかけます。かける前に元のデータを複製しておくか、取り消しで戻れる状態にしてから実行すると安心です。
100%でかけたら不自然になりました
強さを50〜80%に下げてかけ直すか、全体ではなく気になるノートだけを選んでかけます。全ノートを完全にそろえる必要はありません。
クオンタイズしたらフレーズが変わってしまいました
基準のグリッドより細かい音符が、隣の線へ動いてしまった可能性が高いです。16分音符を含むフレーズなら基準を1/16にしてかけ直します。
生演奏の揺れは全部直すべきですか
全部は直しません。演奏の細かい揺れはノリとして曲の魅力になるので、明らかに気になるズレだけを直し、残りは残す判断が基本です。
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