クオンタイズの基本

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
弾いて録ったフレーズを聞き返すと、なんとなく足並みがそろっていない。ピアノロールを見ると、音のブロックが縦の線から少しずつ外れて並んでいます。この外れを一括で寄せる機能が、クオンタイズです。
ただ、この機能でいちばん難しいのは操作ではありません。どこまで寄せるかの判断です。目一杯かければ良くなるものではなく、かけないほうがいい場面もあります。仕組みと手順、強さの決め方、かけた後に機械っぽく感じた時の直す順番、そしてかけない判断までを扱います。
先に決めること
先に決めるのは「どこまで直すか」です。かけるかどうかではありません。
- クオンタイズは、選んだノートを一番近いグリッドの線へ動かす機能。高さも長さも変わらない
- 基準は、そのフレーズの一番細かい音符に合わせる。粗いとフレーズ自体が変わる
- 100%はズレを全部消す操作。演奏の前後関係も一緒に消えるので、弱めから試す
- かけても機械っぽい時に最初に見るのは、タイミングではなくベロシティ
クオンタイズとは何をする機能か
動かすのは位置だけ。高さも長さも強さも触りません。
ピアノロールには、拍を区切る縦の線が引かれています。これがグリッドです。マウスで置いたノートはこの線にぴったり乗りますが、鍵盤で弾いて録ったノートは、線の少し手前や少し後ろに散らばって並びます。
クオンタイズは、選んだノートを、それぞれに一番近い線まで移動させる機能です。20個のノートを選べば、20個が同時に寄ります。1つずつマウスでつまんで直す作業を、一度で終わらせるための道具です。
動かすのは横方向の位置だけです。音の高さは変わりません。音の長さも、長さをそろえる設定を別に使わない限りそのままです。ベロシティと呼ばれる音の強さも触りません。つまり、演奏の中身のうちタイミングという一面だけを書き換える機能です。
ここで押さえておきたいのは、ノートのズレには2種類あることです。1つは、指が滑った、拍を数え間違えた、という事故のズレ。もう1つは、少し早く飛び込む、少し遅れて置く、という意図のある揺れです。クオンタイズはこの2つを区別しません。かければ、どちらも同じように線へ寄ります。
だからこの機能の話は、かける・かけないの二択ではなく、量の話になります。次の見出しから、その量をどう決めるかに入ります。
かけ方の手順
実行する前に、基準と範囲と退路の3つを決めます。
1つ目は基準の細かさです。1/8を選べば8分音符の線、1/16なら16分音符の線が吸着先になります。合わせる相手は曲のテンポではなく、そのフレーズに含まれる一番細かい音符です。16分が混ざったフレーズに1/8でかけると、細かい音が本来とは違う線へ飛んで、フレーズが別物になります。フレーズが変わってしまった、という失敗のほとんどはここが原因です。
2つ目は範囲です。トラック全体を選ぶ必要はありません。聞いていて引っかかった1小節、あるいは引っかかった数個のノートだけを選んで実行できます。範囲が狭いほど、結果の良し悪しも判断しやすくなります。
3つ目は退路です。実行する前に、そのパートを複製しておくか、取り消しですぐ戻れる状態であることを確認します。クオンタイズは一度で決める操作ではなく、かけて、聞いて、戻して、設定を変えてまたかける、という往復で使う機能です。戻れるほど気軽に試せます。
ここまで決まったら実行します。Cubaseならキー1つで走るので、操作自体は一瞬です。実行したら、その4小節をループ再生して、ドラムなど他のパートと一緒に聞きます。単体で聞くと変化が小さく感じられますが、重ねると噛み合い方の違いがはっきり出ます。
聞いてみて硬すぎたら、取り消して強さを下げ、もう一度かけます。この往復が1分で回せる状態を作っておくのが、上手に使うための準備です。
強さを100%にしない理由
100%は、直すというより、元の情報を捨てる操作です。
多くのDAWには、強さやストレングスという%の設定があります。意味は「ズレを何割詰めるか」です。100%なら線にぴったり乗ります。50%なら、ズレが半分だけ残ります。拍より30ミリ秒遅れていた音は、50%をかけると15ミリ秒の遅れが残る、という計算です。
100%を初期設定にしない理由は3つあります。1つ目は、パート同士の前後関係が消えることです。人の演奏では、同時に鳴るはずの音がわずかにずれて出ます。このわずかな前後が、聞いたときの推進力になります。全部を線に乗せると、この差ごと無くなります。
2つ目は、元に戻せなくなることです。100%は、演奏に入っていた揺れの情報をゼロにする操作です。かけた後で「もう少し残したかった」と思っても、残す元が消えています。退路を作っておく話と同じ理由で、強さも低いほうから試すほうが安全です。
3つ目は、100%にしても解決しない問題があることです。打ち込みが硬く聞こえる原因は、タイミングではないことが多い。そのときに強さを上げても、硬さは増えるだけです。この話は次の見出しで扱います。
実務的には、弱めを2回かけるほうが扱いやすくなります。一度50%をかけてズレを半分にし、聞いてまだ気になるならもう一度かける。2回で75%まで詰まりますが、途中で止められるので、行きすぎに気づけます。
%の正解は曲ごとに違います。数字を覚えるより、かけて、聞いて、強すぎたら下げる。この往復で決めてください。
場面別・強さの出発点
最初の1回をどこから始めるかの目安です。ここから耳で動かします。
| 今そろえたいもの | 出発点 | そう決める理由 |
|---|---|---|
| マウスで置いた打ち込み | かけない | すでに線の上にある。硬いなら触るのは強弱のほう |
| 手弾きで録った低音のフレーズ | 90〜100% | 低い音は重なるとにごりやすく、出る瞬間がそろうほど輪郭が出る |
| 手弾きの和音の刻み | 80〜100% | 和音は粒がそろわないと、1回の打鍵が2回に聞こえる |
| 手弾きのメロディや上物 | 0〜50%、または気になる音だけ | 拍への入り方が表情そのもの。全部そろえると平らになる |
| ループ素材から切り出した演奏 | かけない | 素材のノリごと壊れる。使うと決めた時点で揺れも含めて選んでいる |
| 16分が混ざった速いフレーズ | 1/16基準で50〜80% | 基準が粗いと音が隣の線へ飛び、フレーズが変わる |
機械っぽくなった時に直す順番
最初に戻すのはタイミングではありません。強弱です。
かけた直後に「打ち込みっぽい」と感じたとき、多くの人は強さを下げてかけ直します。ところが、それで良くなることはあまりありません。原因が別のところにあるからです。
制作の現場での判断は明快です。機械っぽく聞こえる一番の原因は、ベロシティを一定にしていること。タイミングはジャストのままでよく、8分の音に強弱を付けるだけで人間味が出ます。逆に言えば、全部の音が同じ強さで鳴っている限り、タイミングをどれだけ崩しても硬さは取れません。
だから、直す順番はこうなります。1つ目にベロシティ。連続する8分の音を、強い・弱い・強い・弱いと交互に振るだけで、印象が変わります。2つ目に、それでもまだ硬いなら強さを下げてかけ直す。3つ目に、それでも合わないなら基準の細かさを疑う。
この順番にする理由は、失敗した時の見え方が違うからです。強弱を付けすぎても「元気な演奏」に聞こえるだけですが、タイミングを崩しすぎると「下手な演奏」に聞こえます。安全な側から試すということです。
もう1つ、クオンタイズとは無関係に機械的に聞こえる原因があります。同じ1〜2小節をそのまま最後まで貼り付けている場合です。この状態は、どれだけタイミングを整えても繰り返しに聞こえます。強さをいじる前に、同じ小節を貼り続けていないかを見てください。
硬さの正体がどれなのかは、4小節を鳴らしながら1つずつ試せば分かります。試す順番を決めておくと、ここで長時間止まらずに済みます。
かけない方がいい場面
そろっていることが目的ではありません。曲が良くなるかで決めます。
歌ものは、まずここに当たります。歌のタイミングは、拍ではなく言葉の出方で決まります。伴奏を全部100%で固めた上に歌を乗せると、歌だけが遅れて聞こえたり、前のめりに聞こえたりします。このとき直すのは歌ではなく、伴奏の硬さのほうであることが多いです。歌と一緒に鳴るパートは、少し緩めておくと歌が座ります。
グルーヴを残したい時も、かけない側です。跳ねたリズム、意図的に後ろへ置いた音、ループ素材から取り込んだ演奏。これらは、揺れごと使いたいから選んだ素材です。線にそろえた瞬間に、選んだ理由が消えます。
作りかけの段階も、急ぐ必要はありません。まだ4小節しかなく、そのフレーズを本採用するかも決まっていないなら、整える前に先へ進めます。捨てるかもしれないフレーズを磨くのは、時間の使い方としてもったいない。
判断の基準は1つです。そのズレが気になって先へ進めないなら、かける。気にならないなら、かけない。そろっている状態が目的ではなく、曲が前へ進むことが目的です。
整ったフレーズを、どこに置いて曲の形にしていくか。その先の工程は、無料の制作工程マップに1枚でまとめています。
今日やることは1つだけです。直近で録ったフレーズを4小節だけループさせて、クオンタイズをかける前とかけた後を1往復して聞き比べる。良くなったと感じなければ、取り消して、その日はかけずに進めます。
よくある疑問
クオンタイズはかけたほうがいいですか
タイミングが気になって先へ進めない時だけかけます。聞いて気にならないなら、かけないのが正解です。かける前に元のデータを複製するか、取り消しで戻れることを確認してから実行してください。
強さは何%にすればいいですか
数字を覚えるより、弱めからかけて聞き直すほうが早く決まります。土台になる低音まわりは高め、表情を残したいフレーズは50%前後から。弱い設定で2回かけるほうが、いきなり100%にするより戻しやすくなります。
クオンタイズしたのに機械っぽいままです
原因はタイミングではなく強弱のことが多いです。機械っぽさの一番の理由はベロシティが一定なことなので、タイミングはそろえたまま、8分の音に強弱を付けてみてください。同じ1〜2小節をそのまま貼り続けている場合も、同じ症状が出ます。
かけたらフレーズが変わってしまいました
基準のグリッドが粗すぎた可能性が高いです。16分音符が混ざったフレーズに1/8でかけると、細かい音が隣の線へ飛びます。取り消してから、フレーズの一番細かい音符に基準を合わせてかけ直します。
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