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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

音がこもる時の直し方

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

一つひとつの音はきれいなのに、全部を鳴らすとモワッと重い。市販の曲と並べて聞くと、自分の曲だけ毛布を1枚かぶせたように聞こえる。

DTMを始めたばかりの時期に、ほぼ全員が通る症状です。

こもりの原因はたいてい4つに絞れます。低中域の重なり、リバーブの足しすぎ、音数の多さ、そしてモニター環境。

起きやすい順に並べてあるので、上から一つずつ試せば、原因が分からないまま全トラックをいじり回す遠回りを避けられます。

先に見ること

こもりは、疑う順番を決めてから直します。

  • 主犯として最有力なのは低中域の重なり
  • リバーブと音数は「足しすぎ」でこもりを作る
  • EQは足すより、重なった帯域を削る道具として使う
  • 直ったかは、小さい音量とスマホで確かめる

「こもる」を言葉にする

音量不足とは別の症状だと確認します。

こもっている音とは、音量は足りているのに輪郭がぼやけている状態です。

歌詞もメロディも分かるけれど、ガラス1枚越しに聞いているようで、抜けやきらめきがない。

音が小さい、迫力がない、という悩みとは別物なので、フェーダーを上げても直りません。

もう一歩だけ症状を分けます。全部の音がまとめてこもるのか、特定の楽器だけこもるのか。

特定の楽器だけなら、その音色選びや録り方の問題です。全体がこもるなら、音同士の重なり方の問題で、これがこの記事の本題です。

ここで言う低中域とは、ベースの上、人の声の下あたりの帯域のことです。楽器のふくよかさや温かみを作る成分ですが、ほとんどの楽器がここに成分を持っています。

つまり何も対策しなければ、トラックを重ねるほど自然に渋滞していく場所です。

原因は4つ、疑う順番

起きやすさと効き目の大きさで並べています。

こもりの原因は無数にあるように見えて、初心者の曲で実際に起きているのはほぼこの4つです。順位は、起きる頻度と、直した時に音が変わる度合いで付けています。

順位原因こう聞こえたら主な対処
1低中域の重なり全体が重く濁る。楽器が増える場面ほど悪化する主役以外の楽器の低い成分をEQで削る
2リバーブの足しすぎ音の後ろに常にモヤがかかっている一度すべて切って基準を作り直す
3音数の多さ楽器を足すたびに1音1音が聞こえなくなった同じ音域の楽器を間引く
4モニター環境聞く場所や機器を変えると印象が大きく変わる複数の環境で聞き比べて切り分ける

大事なのは、いきなりEQのプリセットを試さないことです。

原因が音数にあるのにEQで削り続けても、痩せた音が渋滞したままになるだけです。上から順に、原因を確かめてから手を動かします。

手順1 低中域の渋滞をほどく

犯人の見つけ方から始めます。

重なりを見つける方法は、レッスンで使われている聞き方をそのまま使えます。ドラム、ベース、ギターや鍵盤、上物、ボーカルと、低い音域から高い音域へ順番に重ねて聞いていくやり方です。

キックとベースだけならすっきりしていたのに、コードを足した瞬間にモワッとしたなら、犯人はそのコード楽器です。

犯人が分かったら、その楽器の低い成分をEQで削ります。ピアノやギターの伴奏は、下の成分を思い切って削っても、全体で鳴らせばほとんど痩せて聞こえません。

逆にソロで聞きながら削ると、寂しく感じて手が止まります。判断は必ず全部の音を鳴らしながら行ってください。

EQの前に、打ち込みで直せる場合もあります。

コードの一番下の音がベースと同じ高さで鳴っていたら、そこはベースに任せて、コードは1オクターブ上に移動する。左手でルートを重ねて弾く癖をやめるだけで、削るEQ自体が不要になることもよくあります。

手順2 リバーブを一度全部切る

響きの重なりも、立派なこもりの原因です。

リバーブは残響、つまりホールや部屋の響きを人工的に足す道具です。

足した瞬間は必ず気持ちよく聞こえるので、トラックごとに足していきがちですが、響き同士が重なると、曲全体に薄い霧がかかったような濁りになります。

確かめ方は単純です。すべてのトラックのリバーブを一時的にオフにして再生します。

急に音が近くなり、輪郭が戻ったと感じたら、こもりの正体は響きでした。EQをどれだけ触っても直らなかった理由もこれで説明がつきます。

戻す時は、主役のトラックから薄く足し直します。

全部に元の量を戻したら意味がないので、伴奏の響きは歌より控えめに。響きの減らし方の細かい手順は、リバーブのかけすぎ専用の記事でさらに深掘りしています。

手順3 音数を数える

同じ場所で鳴っている楽器を間引きます。

帯域と響きを整理してもまだ重いなら、そもそも鳴っている音が多すぎないかを数えます。

パッドが白玉で和音を伸ばし、ギターも同じ和音を刻み、ピアノも同じ和音を弾いている。役割が同じ楽器が3つあれば、聞こえ方は豪華になるどころか、互いを塗りつぶし合います。

消すのが怖ければ、削除ではなくミュートで試してください。

8小節だけ、楽器を1つ黙らせた版と元の版を聞き比べます。黙らせた方がすっきりして、しかも足りない感じがしないなら、その楽器はその場面では不要だったということです。

これはミックスの問題というより、アレンジの問題です。ただ、こもりの直し方としては、EQで10回粘るより音数を1つ減らす方が早く効くことが珍しくありません。

手順4 モニター環境を疑う

曲ではなく、聞いている側の問題もあります。

ここまでやってもこもって聞こえる場合、曲は正常で、聞いている環境がこもらせている可能性が残ります。

机の上の小さなスピーカー、壁の反射、低音が強めに出るリスニング用ヘッドホン。環境の癖は、毎日聞いていると自分では気づけません。

切り分け方は、同じ書き出し音源をスマホ、イヤホン、パソコンのスピーカーなど、複数の環境で聞くことです。どこで聞いてもこもるなら曲側、特定の環境だけでこもるなら環境側です。

もう一つ確実なのが、ふだん聞いている市販の曲を、制作と同じ環境で流してみることです。

プロの曲までこもって聞こえるなら、原因は環境で確定です。その環境の癖を頭に入れたうえで作業するだけでも、判断の精度は上がります。

直ったかの確認

良くなった気がする、で終わらせない方法です。

いちばん簡単な確認は、再生音量をぐっと下げることです。

こもりが取れた曲は、小さい音量でも楽器が分離して聞こえ、主役がちゃんと前にいます。小さくした途端に団子になるなら、まだ低中域に渋滞が残っています。

次に、修正前と修正後を同じ音量で聞き比べます。処理した直後の音は、それだけで良く聞こえてしまう錯覚があるからです。

別名保存しておいた修正前のプロジェクトや書き出しと並べると、本当に前進したかが分かります。

最後に、書き出してDAWの外で聞きます。作業中の耳は数十分で慣れてしまうので、スマホに送って翌日聞くくらいの距離を取ると、残っている濁りに気づけます。

こもらせない作り方

直す回数そのものを減らします。

こもりは、ミックスで直すより、作りながら防ぐ方がずっと楽です。

楽器を足す時に、低い音域から順に聞き直して、いま足した音が下の帯域を塞いでいないかをその場で確かめる。この一手間で、ミックス段階の渋滞はかなり減ります。

直せた時は、何が原因でどこを削ったかを一文だけメモしておきます。ピアノの左手が犯人だった、リバーブの戻しすぎだった。

自分の曲のこもり方には癖があるので、2曲目からは最初に疑う場所が定まってきます。

音の濁りを取る作業は、それ自体が目的ではなく、曲を完成へ進めるための整備です。この整理が曲作り全体のどの段階に来るのかは、制作工程マップに1枚でまとめています。

よくある疑問

EQはどこを削ればこもりが取れますか

数値を暗記するより、低い楽器から順に重ねて聞き、濁り始める場所を探します。多くの場合、複数の楽器の低中域が同じ場所に重なっているのが原因なので、主役でない楽器の側を削ります。

マスターにEQを1つ挿して一気に直せますか

全体をまとめて削ると、必要な音の土台まで一緒に痩せます。原因になっているトラックを特定して、そのトラック側で削るほうが自然に仕上がります。

高音を足して明るくしてもいいですか

足す前に、低中域の重なりとリバーブを疑ってください。原因を残したまま高い成分を足すと、こもりと耳への刺さりが同居した音になります。

ヘッドホンでは普通なのにスピーカーだとこもります

聞いている環境の影響が疑われます。スマホやイヤホンなど複数の環境で同じ音源を聞き比べ、どこで聞いてもこもるなら曲側、特定の環境だけなら環境側の問題と切り分けます。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。

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古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。

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