本文へスキップ
古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

ピアノバラードの作り方|歌を支える伴奏をDTMで組む手順

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

ピアノと歌だけで胸に迫る、静かなバラード。憧れて作り始めると、多くの人が同じところでつまずきます。

テンポが遅いせいで間が持たない。サビに来ても盛り上がらない。ピアノを動かすほど歌が埋もれる。

音数が少ないジャンルほど、実は設計の差がはっきり出ます

鍵は、間を埋めないことと、音数の階段です。歌が主役の席に座り、ピアノは間を空けて支え、ストリングスとドラムは場面ごとに一段ずつ増える。

この記事は、テンポの決め方から編成の足し算、1コーラスを組む手順まで、バラード1曲を組み上げる順番でまとめます。

先に見ること

ピアノバラードは、間の設計と音数の階段で組みます。

  • BPM60〜80。遅さは埋めずに聞かせる
  • 編成はピアノ+ストリングス+最小限のドラム
  • 盛り上がりは音量ではなく音数と音域で作る
  • 歌の息継ぎと語尾が聞こえる状態を守る

歌が主役、ピアノは聞き役

全部の楽器が、歌の言葉を運ぶために置かれます。

バラードの構造を一言でいうと、歌が話し、ピアノが相づちを打つ関係です。

歌のフレーズが鳴っている間、伴奏は支えに徹する。歌が息継ぎで止まった隙間に、ピアノが短く応える。

この会話の形が崩れると、どれだけきれいな音色でも「歌と伴奏が別々に鳴っている」状態になります。

だから最初の判断基準は一つです。いま鳴らそうとしている音は、歌の言葉を運ぶ役に立っているか

イントロで凝ったフレーズを弾き続けたくなりますが、歌が入った瞬間からは、その手数が主役の席を奪い始めます。

歌のメロディ側で効くのは、入る位置の設計です。

制作のレッスンでは、メロディはどの拍から入るかで印象が変わるので、1拍目から入る、少し待って入る、手前から入るの三つを試す、という判断を軸にしています。

バラードは1拍が長いぶん、この入りの差が特に大きく聞こえます。

BPMと「間」の関係

遅いテンポは、隙間が広いテンポです。

テンポはBPM60〜80が目安で、迷ったら70前後から試します。

ミディアムな曲よりずっと遅いこの領域では、1拍の長さがそのまま音の隙間の広さになります。バラードで「間が持たない」と感じる正体は、この広い隙間です。

ここでやりがちなのが、不安になって隙間を音で埋めることです。ピアノを細かく動かし、パーカッションを足し、気づけばバラードの静けさが消えています。

隙間は埋めるものではなく、歌の語尾の余韻、ピアノのペダルの響き、ストリングスの持続音に持たせて聞かせるものです。

数字の決め方も歌から逆算します。仮の歌メロを口ずさみながらテンポを上下させ、言葉がゆったり乗り、息継ぎが苦しくない速さで止める。

60を下回ると拍を見失いやすく、80を超えると歩き出してバラードの重心が軽くなります。

ピアノは隙間を残して弾く

歌の間は支えに回り、切れ目で短く応えます。

ピアノの基本形は、左手が低い音域でルート(コードの土台になる音)をオクターブで押さえ、右手が真ん中の音域でコードを長く伸ばす形です。

歌が鳴っている間は、この白玉(長く伸ばす音)か、ゆっくりのアルペジオ(コードを1音ずつ順に鳴らす弾き方)で支えます。

動いていいのは、歌の切れ目です。フレーズの終わりで歌が止まった1〜2拍に、右手で短い応答フレーズを置く。

歌が戻ってきたらまた支えに戻る。この出入りができると、ピアノ1台でも会話のような立体感が出ます。

アルペジオを使う場面では、速さを欲張らないことです。8分音符でゆっくり上るくらいの動きで十分で、16分で埋めると急に忙しく聞こえます。

ペダルを踏んだ状態を想定して、音の終わりを次の音まで少し重ねると、途切れずになめらかにつながります。

ストリングスは長い音で包む

気づかないくらいの音量が、ちょうどいい入口です。

ストリングスの役割は、フレーズを弾くことではなく、長い音で曲全体を包むことです。

コードの音を白玉で伸ばすだけでよく、細かい動きは要りません。だからDAW付属の音色で十分に務まります。

置く音域は中高域です。低い音域に置くとピアノの左手と濁り、曲全体がこもります。

ピアノの右手より少し上に、2〜3音の薄い層を敷くイメージから始めてください。

音量は、鳴っていることに気づかないくらいが入口です。

ストリングスは少し上げるだけで豪華に聞こえるので、つい主役級の音量にしがちですが、そうなると歌の帯域を圧迫します。

ミュートした時に「あれ、寂しくなった」と感じる程度が、支え役として正しい大きさです。

ドラムは最小限でいい

8ビートで叩き続けない勇気が、バラードを作ります。

バラードのドラムは、リズムを刻む係というより、場面の重さを変える係です。

Aメロから8ビートで叩き続けると、遅いテンポと噛み合わず、間延びした普通のポップスになります。思い切って、サビまでドラムなしでも成立します

入れる場合の目安は、キックを1拍目と3拍目あたりに控えめに、スネアは強く張った音ではなく、リムを叩いたような軽い音で2拍目と4拍目に。ハイハットの細かい刻みは足さず、隙間はピアノとストリングスの余韻に任せます。

シンバルのような長く伸びる金物は、サビの頭など場面の変わり目に1発だけ。フィル(場面転換のおかず)も、Bメロからサビへ渡る1か所に絞ると、少ない音数のまま展開の合図が作れます。

サビへ向かう音数の階段

盛り上がりは、音量ではなく編成の変化で作ります。

サビが盛り上がらない曲を調べると、原因はほぼ共通で、Aメロの時点で全部の楽器が鳴っています。

最初から満員では、サビで足すものが残っていません。盛り上げたいなら、先に減らすのが順番です

基本の階段はこうです。Aメロは歌とピアノだけ。Bメロでベースと薄いストリングスが加わる。サビでドラムが入り、ストリングスが厚くなり、ピアノは右手をオクターブ上に重ねて音域を広げる。

楽器が一段ずつ増える構造そのものが、音量を触らなくても盛り上がりとして聞こえます

そして2番のあと、落ちサビでもう一度、歌とピアノだけへ戻します。

一度フル編成を聞いた耳には、冒頭と同じ2人きりの編成が、まったく違う静けさとして届きます。

この引き算の落差が、バラードで一番感情が動く瞬間になります。

場面ごとの編成早見表

どの場面で誰が鳴るかを、先に決めておきます。

場面鳴っている楽器ピアノの弾き方
Aメロ歌+ピアノ白玉中心。切れ目に短い応答
Bメロ+ベース、薄いストリングスゆっくりのアルペジオへ
サビ+ドラム、厚いストリングス右手をオクターブ重ねて広げる
落ちサビ歌+ピアノへ戻す白玉へ戻して静けさを作る

歌の場所を空けるミックス

きれいな音を足すほど、主役が奥へ下がります。

ミックスの判断も、主役から見ます。

制作のレッスンでは、歌ものはドラムとボーカルが聞こえる状態を先に作る、コードやパッドを気持ちよく上げすぎると主役が奥に下がる、という判断を軸にしています。

バラードでこの「気持ちよく上げすぎる」筆頭が、ピアノとストリングスです。

単体で聞くと美しいピアノほど、歌と同じ中域で場所を取り合います。

歌が入っている間だけピアノとストリングスを1〜2目盛り下げるくらいの感覚で、まず音量の上下だけで歌の輪郭が立つかを確かめてください。

もう一つの注意はリバーブ(残響)です。バラードは静かなので残響がよく聞こえ、つい深くかけたくなりますが、余韻が隙間を埋め尽くすと、せっかく設計した間が消えます。

語尾の余韻が次のフレーズの頭にかからない深さ、が目安です。

1コーラスを組む手順

今日そのまま打ち込める順番にしておきます。

  1. BPMを72に設定し、キーはCで、C→G→Am→Fを1小節ずつ2周、メモとして置く。
  2. ピアノを置く。左手はルートのオクターブ、右手はコードの白玉。歌の切れ目を想定した7〜8小節目にだけ、短い応答フレーズを足す。
  3. 仮の歌メロを鼻歌でスマホに録るか、リード音色で置く。歌とピアノだけで最後まで聞けるかを確認する。
  4. この8小節をAメロとして、続くBメロ8小節でベースのルート白玉と薄いストリングスを足す。
  5. サビ8小節でドラムを入れ、ストリングスを厚くし、ピアノの右手をオクターブ上に重ねる。
  6. 書き出してスマホで聞き、歌が終始いちばん手前に聞こえるかだけを確認し、次に直す一点をメモする。

ここまでで、バラード1コーラスの骨格は立っています。あとは2番と落ちサビへ同じ階段の考え方を広げるだけです。

いま自分が工程のどこにいるか迷ったら、制作工程マップで全体の位置を確かめながら進めてください。

よくある疑問

ピアノが弾けなくても作れますか

作れます。バラードのピアノは白玉とゆっくりのアルペジオが中心なので、マウス入力でも十分に形になります。速い演奏技術より、歌の隙間に音を置く設計のほうが効きます。

サビが盛り上がりません

音量ではなく音数と音域の階段を見直します。Aメロを歌とピアノだけまで減らし、Bメロ、サビと一段ずつ楽器を足すと、同じ音量でも盛り上がって聞こえます。

BPMはいくつにすればいいですか

60〜80が目安で、迷ったら70前後から。仮の歌メロを口ずさみ、言葉がゆったり乗って息継ぎが苦しくない速さへ前後させて決めます。

ストリングス音源を持っていません

DAW付属の音色で十分です。役割は長い音で包むことなので、奏法の再現力は必要ありません。気づかないくらいの音量から始めてください。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。

次に進む記事

バラードの階段が組めたら、伴奏の細部とリズムの記事へ進みます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。