Aメロの作り方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
Aメロは、曲の入口です。聞き手がまだその曲を知らない最初の十数秒で、どんな世界の歌なのかを静かに差し出す場所です。ここでいきなり全力を出してしまうと、あとに続くBメロやサビが行き場を失います。
入口でやりすぎないことが、そのあとを引き立てます。落ち着いた音域から始め、言葉を詰め込みすぎず、コードもリズムも控えめに置く。Aメロの音域・言葉・コード・リズムを一つずつ決めながら、地味すぎて不安になった時の直し方まで、順番に見ていきます。
先に見ること
Aメロは「まだ全部見せない入口」。控えめさが、あとのサビを開かせます。
- 話し声に近い低めの音域で始め、最高音はサビへ温存する
- 言葉は詰め込まず、歌い出しの語感で世界観を伝える
- コードは1小節に1つ、伴奏は薄めにして主張を抑える
- 地味に聞こえても足さない。まずサビとの落差を確保する
Aメロが担う「入口」の仕事
Aメロは盛り上げる場所ではなく、招き入れる場所です。
Aメロの仕事は、曲の世界を説明することです。物語でいえば最初のページにあたります。
聞き手はまだ曲に慣れていないので、ここで大きく揺さぶる必要はありません。
歌詞に情景や状況の描写が置かれやすいのも、Aメロが「これはこういう曲です」と伝える区間だからです。
入口である以上、いちばん大事なのは、あとに続く場所のために力を残しておくことです。
Aメロで音域も音数も伴奏も出し切ってしまうと、サビで上げる余地が消えます。Aメロは、盛り上げるための「まだ全部見せない」時間だと考えると、作る手が軽くなります。
だから最初に決めるのは、細かい音ではなく態度です。
ここは静かに始める場所だ、と決めてしまう。落ち着いた入口を先に用意しておくと、そのあとのメロディがどこへ向かえばいいかも自然に見えてきます。
始める音域と、残しておく余白
Aメロは低め。最高音はサビまでしまっておきます。
Aメロで最初に決めたいのは、歌い出しの高さです。
目安は、自分がふつうに話す声に近い低めの音域です。楽に声が出る高さで始めると、聞き手も肩の力を抜いて聞けます。
高い音は気持ちよく作れますが、入口で使い切るとサビでの伸びしろがなくなります。
ここで意識したいのが「落差の余白」です。曲でいちばん高い音は、サビのために取っておきます。
Aメロの最高音と、サビの最高音のあいだに差があるほど、サビに入った瞬間の開ける感じが強くなります。
Aメロ単体を良くすることより、Aメロとサビの高さの差を作ることが目的です。
低く始めると、メロディの動きも自然と穏やかになります。
跳ねるように上下させず、隣り合う音を中心に、少しずつ動かす。派手さより、聞き取りやすさを優先する場所です。
歌い出しの言葉数と語感
詰め込むより、最初のひと言の響きを大事にします。
Aメロで意外と印象を左右するのが、言葉の詰め方です。
初心者ほど、伝えたいことが多くて一小節に言葉を詰め込みがちです。ですが入口で言葉が多すぎると、早口の説明のようになり、聞き手が置いていかれます。
まずは音数を減らし、ひと息で歌える量に収めます。
次に、歌い出しの最初のひと言の響きを聞いてみてください。
母音が開いた言葉なのか、子音が立った言葉なのか。同じ意味でも、語感が違えば曲の入口の表情は変わります。
Aメロは歌詞の内容だけでなく、最初の音の手触りで世界観を伝える場所でもあります。
言葉とメロディが合わないと感じたら、言葉の抑揚と音の上下を近づけます。
上がる言葉には上がる音を、下がる言葉には下がる音を当てると、無理なく歌える入口になります。
コードとリズムは控えめに置く
伴奏を薄くするほど、あとで足せる余地が残ります。
Aメロのコードは、主張しすぎないほうが役割に合います。おしゃれで複雑な響きより、C、Am、F、Gのような素直な進行で十分です。
目安は1小節に1つ。コードを速く動かすと落ち着かなくなり、入口の穏やかさが崩れます。
ゆったり構えるほど、メロディの居場所が広がります。
伴奏そのものも薄めにします。ドラム、ベース、そしてコードを鳴らす楽器が一つ。
これくらいから始めると、あとの場所で楽器を足していく余白が残ります。
入口で全部鳴らしてしまうのが、初心者がいちばんつまずくところです。
リズムも詰め込みません。細かく刻むより、間を残します。
ドラムはキック、スネア、ハイハットの基本だけで置き、休符を怖がらない。
静かな入口があるからこそ、あとで音が増えた時に「盛り上がった」と感じられます。
Aメロの設計早見表
迷ったら、この列の「Aメロの狙い」に一つずつ戻ります。
| 決める要素 | Aメロの狙い | やりすぎのサイン |
|---|---|---|
| 音域 | 話し声に近い低め。最高音は残す | 入口からサビと同じ高さまで上がっている |
| 言葉数 | ひと息で歌える量に絞る | 早口の説明のように聞こえる |
| 歌い出しの語感 | 最初のひと言の響きで世界観を出す | 意味だけで選び、響きが曲に合っていない |
| コード | 1小節に1つ。素直な進行 | 複雑なコードで落ち着かない |
| リズムと伴奏 | 間を残し、楽器は少なめ | 入口から全部鳴っていて足す余地がない |
地味すぎる・サビと似てしまう時
足す前に、入り方と落差を見直します。
Aメロが地味に感じて不安になっても、すぐ音を足さないでください。入口の地味さは、多くの場合そのままで正解です。
ただ、単調で退屈だと感じるなら、変える価値があるのは音量より「入り方」です。
レッスンで使っている判断メモに、メロディはどの拍から言葉や音が入るかで印象が変わる、というものがあります。
1拍目から素直に入るのか、少し待って入るのか、小節の手前から食い気味に入るのか。この歌い出しの位置を二、三通り試すだけで、同じ音でもAメロの表情は動きます。
もう一つ多いのが、Aメロとサビが同じ雰囲気に聞こえる悩みです。
この記事の視点で見直すなら、先に疑いたいのはAメロの中の反復です。4小節の形を作り、同じ形をもう一度置いて8小節にする。この「二度目の繰り返し」があると、聞き手はAメロを落ち着いた区間として覚えます。
逆に、8小節ずっと新しい動きを出し続けるAメロは、それ自体がサビのように振る舞ってしまいます。Aメロの中では繰り返し、新しい展開はサビで初めて出す。この配分に戻すだけで、二つの区間は別の場所として聞こえてきます。
音域や伴奏の落差まで含めた三つの区間の作り分けは、Aメロ・Bメロ・サビの違いで詳しく整理しています。
直す時は、一度に一か所だけ変えて聞き比べます。歌い出しの位置、最高音、伴奏の量。
まとめて変えると、どれが効いたのか分からなくなります。
Aメロの入口が決まったら、次はそこからサビへ気持ちを持ち上げるBメロの作り方へ進みます。1曲全体の並べ方は、制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
Aメロから作り始めてもいいですか
構いません。サビから先に作る人も多いですが、Aメロから始めても大丈夫です。その場合は、あとでサビへ上げる余白を残すために、音域を低めに置いておくのがコツです。
Aメロが地味に聞こえて不安です
入口の地味さは弱点ではなく役割です。ここを控えめにしておくほど、サビに入った時の開けた感じが強くなります。それでも物足りない時は、音を足すより、言葉の語感やリズムの間を見直します。
Aメロとサビが同じ雰囲気になってしまいます
Aメロの中で新しい動きを出し続けていないかを先に確かめます。Aメロは4小節の形を繰り返す落ち着いた区間に戻し、最高音と伴奏の厚みはサビのために取っておくと、二つの区間の役割が分かれます。
Aメロは何小節で作ればいいですか
4小節か8小節が作りやすい長さです。まず4小節だけ作って歌えるか確かめ、うまくいったら同じ形をもう一度置いて8小節に広げます。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
次に進む記事
今の工程に近い記事へ進みます。