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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

BGMをDTMで作る基本

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

BGMを作ろうとして、歌ものと同じ作り方で始めると、たいてい途中で手が止まります。サビをどうするか、メロディをどう盛り上げるか、と考えても、BGMにはサビも歌もありません。主役がいないのです。歌ものではメロディと歌声が主役で、ほかの音はそれを支えます。BGMでは、その主役の席が空いたままです。

空いた席を埋めようとしてメロディを強くすると、動画の声やゲームの画面と競ってしまいます。BGMは、主役を立てる代わりに「変化」で聞かせる音楽です。用途によって長さとループの形が決まり、それに合わせて最初の1本を作ります。ジャンルごとの作り方には広げず、歌のない曲をどう考えるか、その考え方だけを扱います。

先に決めること

先に決めるのは「何小節で1周するか」です。用途がそれを決めます。

  • 先に決めること:用途(動画・ゲーム・配信)を1つ決め、そこから1周の長さとループの要否を決める
  • 迷ったらこれ:8小節のコードだけのループ。メロディは入れず、音を1つ足す・抜くで変化を作る
  • 歌ものはメロディで聞かせ、BGMは変わり方で聞かせる
  • 最初の1本は、8小節を作り、継ぎ目を確かめ、用途の長さ分だけ繰り返して書き出す

歌ものとの違い:主役がいない

歌ものの作り方をそのまま使うと、BGMは前に出すぎます。

歌ものを作る時、制作の現場ではドラムとボーカルが聞こえる状態を先に作ります。主役がボーカルと決まっているので、ほかの音はその後ろに並べればよく、コードやパッドを気持ちよく上げすぎると主役が奥に下がる、という判断が成り立ちます。

BGMでは、この判断の軸がなくなります。ボーカルがいないので、「主役を前に、支えを後ろに」という並べ方ができません。ここで多くの人が、ボーカルの代わりにメロディを主役に据えます。ピアノやシンセで歌のようなメロディを作り、サビのように盛り上げる。すると、それはBGMではなく、歌のない歌ものになります。

歌のない歌ものは、単体で聞くと良くできています。ところが動画に乗せると、ナレーションとメロディが同じ場所で鳴って、どちらも聞き取れなくなります。ゲームに乗せると、同じ場面が10分続く間、同じサビが何度も来て疲れます。BGMの主役は、BGMの外にあります。映像、会話、遊んでいる人の手。BGMは、その外の主役を邪魔せずに、場の空気を変える役です。

だから、BGMを作る時の最初の判断はこうなります。主役の席は空けたままにする。空けた席を、メロディで埋めない。では何で聞かせるのか。それが「変化」です。

変化で聞かせる:BGMの主役は「変わり方」

同じ8小節でも、乗る音の数と下のコードの動きで、聞こえ方は変わり続けます。

主役がいない音楽で、聞き手を飽きさせないものは何か。答えは、音の「変わり方」です。BGMは、じっと聞かれていません。ながら聞きの耳に届くのは、メロディの上手さではなく、「さっきより音が増えた」「静かになった」「響きが変わった」という変化だけです。

変化の作り方は、大きく2つあります。1つは、音の数の増減です。8小節のループを2回流す時、2回目に楽器を1つ足す。次の2回で1つ抜く。この増減だけで、同じ8小節が4回流れても、平坦には聞こえません。BGMでは、増やすより減らす方向のほうが場に馴染みやすく、抜いた後の静かな8小節が、動画なら声の聞かせどころになります。

もう1つは、コードの側で変化を作る方法です。上で同じ音を鳴らし続けても、下のコードが変わると聞こえ方が変わります。反復と変化が同時に起きるので、耳に残るフックになりやすい。制作ではこれをペダルノートと呼びますが、名前より仕組みが大事です。上の音は動かさず、下だけ動かす。メロディを前に出さずに変化を作れるので、BGMにはとても向いています。

気をつけるのは、変化の大きさです。歌もののAメロからサビへの変化を、BGMでやると大きすぎます。ながら聞きの耳が「あ、変わった」と気づく最小の変化、楽器1つ、コード1つの単位で動かします。変化が大きいと、外の主役から注意を奪います。

用途で決まる長さとループ

動画は尺、ゲームは継ぎ目、配信は疲れなさ。作る前に用途を1つ決めます。

BGMの長さは、曲の都合ではなく、流す場所の都合で決まります。用途を決めないまま作ると、長さもループの形も決められず、「とりあえず3分」のような曲になって、どこにも使いにくくなります。作る前に、動画、ゲーム、配信のどれかを1つ決めます。

動画の場合、長さは映像の尺で決まります。30秒の動画に3分のBGMは要りません。尺に合わせて作るか、短いループを尺の分だけ並べて、最後をフェードで消します。動画のBGMは終わり方が決まっているので、ループの継ぎ目より「どこで終わるか」のほうが大事です。

ゲームの場合、同じ場面が何分続くか分かりません。だから、切れ目なく繰り返せるループが前提になります。長さは8小節から16小節ほどの短い1周で、ループの継ぎ目が聞こえないことがいちばんの条件です。継ぎ目が分かると、「また頭に戻った」と気づかれ、場面の時間が長く感じられます。

配信の場合、1時間、2時間と流れ続けます。条件は「疲れないこと」です。変化が多いと、話す人の声と競って疲れます。逆に変化がゼロだと、機械の音のように聞こえます。短いループを長く流す形で、変化は音の数の増減だけにとどめます。テンポは、話す速さを邪魔しない遅めから試します。

用途が決まると、長さとループの要否だけでなく、変化の量も決まります。動画は尺の中で1回だけ変化があればよく、ゲームは1周の中に小さな変化を2つ、配信は変化を最小にする。この3つを混ぜないことが、BGMを最後まで作りきるコツです。

用途別の長さとループの決め方

作る前に、自分の用途の行を1つ選びます。

用途1周の長さループ終わり方変化の量
動画映像の尺に合わせる尺が足りない時だけ繰り返す尺の終わりでフェード尺の中で1回
ゲーム8〜16小節切れ目なく繰り返す終わらない(場面が変わるまで)1周の中に小さく2つ
配信8小節前後長時間繰り返す配信の終わりで止める音の数の増減だけ

最初の1本の作り方

コードだけの8小節を作り、変化を1つ入れ、継ぎ目を確かめてから書き出します。

最初の1本は、コードだけの8小節から始めます。楽器は、伸ばした音が出せるピアノかパッド系の音を1つ。コードは、4つを2小節ずつ、または4小節を2回で8小節にします。ここでメロディは置きません。コードが8小節鳴っているだけで、BGMとしてはもう半分できています。

次に、リズムを足すかどうかを用途で決めます。ゲームや配信で動きが欲しいなら、キックとハイハットだけの軽いリズムを足します。動画で声の後ろに置くなら、リズムは無しか、ハイハットだけにします。ドラムが入ると曲の印象は大きく変わるので、足す前と後を必ず聞き比べます。

変化を1つ入れます。8小節を2周分並べて、2周目に楽器を1つ足すか、コードの上に伸ばした1音を置きます。1周目と2周目の違いが、ながら聞きで気づく程度にあれば成功です。2周目で大きく盛り上げたくなっても、ここでは我慢します。

何を足すか迷ったら、同じ用途のBGMを1本だけ聞きます。真似るためではなく、どんな楽器が使われていて、どこで音が増え、どこで休むかを見るためです。リファレンスは、楽器と密度を決める材料として使います。ジャンルを寄せる必要はありません。

ループの継ぎ目を確かめます。8小節目の最後で伸ばした音や響きが、1小節目の頭で急に切れると、継ぎ目が目立ちます。対処は2つです。8小節目の最後の音を少し短くして、響きが1小節目に食い込まないようにする。または、1小節目の頭に8小節目と同じ音を置いて、切れ目を隠す。ループを3周続けて聞いて、頭に戻る瞬間が分からなければ合格です。

最後に、用途の長さ分だけ繰り返して書き出します。動画なら尺の分、ゲームなら1周だけ、配信なら数周分。書き出した音源を、実際の用途に近い形で聞きます。動画なら仮の声を重ねて、配信なら自分が何か作業をしながら。BGM単体で良し悪しを決めないことが、歌ものとの一番の違いです。

今日やること

1つだけです。コードだけの8小節を作り、3周続けて聞きます。

用途を1つ決めて、パッドかピアノの音を1つ立ち上げ、コードを8小節置きます。リズムも、メロディも、変化も、今日は入れません。

8小節をループ再生にして、3周続けて聞きます。聞くのは1点だけ。頭に戻る瞬間が分かるか、分からないか。分かるなら、8小節目の最後の音を短くして、もう一度3周聞きます。

継ぎ目が分からなくなったら、その状態で保存します。明日、楽器を1つ足した2周目を作れば、最初の1本は形になります。BGMを1本書き出すまでの順番は、制作工程マップに1枚でまとめています。

よくある疑問

BGMにメロディは入れたほうがいいですか

入れるなら短い断片だけにします。主役の席が空いているBGMでは、メロディよりコードの変化と音の数の増減で聞かせます。歌のような長いメロディは、動画の声やゲームの画面と競ってしまいます。

BGMの長さはどう決めればいいですか

用途から決めます。動画は映像の尺、ゲームは切れ目なく繰り返せる8〜16小節の1周、配信は長時間流しても疲れない短いループです。用途を1つ決めてから作り始めます。

ループのつなぎ目で違和感が出ます

8小節目の最後で伸ばした音や響きが、1小節目の頭で急に切れているのが原因です。最後の音を少し短くするか、1小節目の頭に同じ音を置いて切れ目を隠します。3周続けて聞いて、頭に戻る瞬間が分からなければ合格です。

4小節のループでは短すぎますか

用途によります。配信のように後ろで流れ続けるなら4小節でも足ります。動画やゲームで同じ場面が長く続くなら、8小節にして2周目に楽器を1つ足す、といった小さな変化を入れます。

記事で聴いたパターンを、そのままDAWへ

UKガラージの2ステップ、テクノの絞ったキック、ハウスの裏拍オープンハット、ドラムンベースの2ステップ、トラップの3連ロール。記事で聴き比べたそのままのドラムMIDI5本を、90秒ワンコーラスの下地とコードループMIDIと一緒に無料でお送りしています。テンポも打点も記事の音源と同じなので、読み込んだ瞬間から自分の曲として触れます。

次に進む記事

コードだけの8小節がループできたら、その8小節に置くコードやリズムの作り方の記事へ進みます。

古賀稔宏のプロフィール写真

プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。

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