ベースはルート音から始める

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
ベースを作ろうとすると、かっこいい動きや細かいフレーズを思い浮かべて、いきなり手が止まってしまう人は多いです。でも最初の一歩は、もっと簡単で構いません。コードのルート音を、そのままなぞるだけです。
ルート音だけのベースは地味に見えますが、実は多くのプロの曲でも土台はこの形です。まずは「動かさない」ことを選ぶ。ここでは、ルート音とは何か、なぜなぞるだけで曲になるのか、どんな時に外れてよいのかを順に見ていきます。
先にやること
ベースの第一歩は、動かすことではなく、ルート音をそろえることです。
- ルート音とは、コードの名前になっている音のこと
- 各コードのルートをなぞるだけで、曲の土台は成立する
- 外れてよいのは、退屈な時と、次のコードへつなぎたい時だけ
- 物足りなさは、後から1音ずつ足せば解消できる
ルート音とは何か
コードの名前が、そのまま音の名前です。
ルート音とは、そのコードの名前になっている音のことです。むずかしく考える必要はありません。
CコードのルートはC、AmのルートはA、FのルートはF、GのルートはGです。コード名の頭のアルファベットが、そのままベースで鳴らす音になります。
コードは、複数の音が重なってできています。その中でいちばん下、コード全体を名づけている音がルートです。
ベースはこの音を担当することで、コードの土台をいちばん低い場所から支えます。
つまりベースのいちばん基本の仕事は、鳴っているコードのルートを、同じタイミングで下から鳴らすことです。まずはこの一対一の関係だけ覚えれば、ベースは始められます。
ここで音楽理論をたくさん覚える必要はありません。コード名の頭の文字を読めれば、ルート音は決まります。
難しく見えるベースの世界も、入口は「コードと同じ名前の音を下で鳴らす」という一文だけです。まずはその一文だけを持って、手を動かしてみてください。
なぞるだけで曲になる理由
土台がコードと合うから、単純でも成立します。
ルート音をなぞるだけで曲になるのは、ベースとコードが同じ土台を共有するからです。コードが鳴っている場所で、その一番下の音を低く重ねると、響きにぶれがなくなり、床がしっかりした状態になります。
この床がある上に、ドラムやメロディが乗ります。ベースが余計に動かないぶん、他の音が動く余地が生まれ、かえって曲全体が整理されて聞こえます。
動きの少なさは、手抜きではなく、土台としての強さです。
初心者ほど、最初から動くベースにあこがれて音を増やしがちです。ただ、動かすほどコード感はぼやけます。
まずはなぞる。曲っぽさが出るのを確かめてから、次を考えても遅くありません。
もう一つの利点は、直しやすさです。ルート音だけの形は、どこが合っていてどこがずれているかがすぐ分かります。
音が少ないぶん、間違いも見つけやすい。にぎやかなベースは作った本人でも判断が難しくなるので、土台の段階ほど単純にしておくと、後の作業が軽くなります。
最初の一歩としての置き方
コードが変わる頭に、ルートを1つ置きます。
置き方はとても単純です。コードが変わるたびに、その小節の頭へルート音を1つ置きます。1小節に1音でも、立派なベースラインになります。
この記事で決めるのは、ここまでで十分です。ドラムと合わせて刻みを増やしていく手順や、音域の決め方は、ベースラインの作り方で段階を追って整理しています。
ルートがコードと合っているか、低音が下でしっかり鳴っているか。その二つだけを聞いて、合っていれば先へ進めます。
合っているか、口で確かめる
ルートが合っていると、声が気持ちよく重なります。
ルート音がコードに合っているかどうかは、目より耳で分かります。コードを鳴らしながら、その一番下の音を「ブーン」と低い声で一緒に歌ってみてください。
レッスンでは、口ずさめるかどうかを判断の軸にしています。無理なく声が重なるなら、そのルートは合っています。
逆に、声が浮いてしまう、うなりが出て気持ち悪い、という時は、ルートがずれているサインです。
コード名をもう一度見て、頭のアルファベットと同じ音を置き直します。楽器が弾けなくても、この確認は声だけでできます。
ルート音が声と気持ちよく重なる状態を作れれば、ベースの土台は完成です。あとはドラムと合わせ、必要なら少しずつ動きを考えていく段階に入ります。
置く長さも、最初は考えすぎなくて大丈夫です。1小節をいっぱいに伸ばしても、頭で短く鳴らしても、どちらもルート音であることに変わりはありません。
伸ばすと落ち着き、短く切ると軽くなる。その違いを聞き比べながら、曲の雰囲気に合うほうを選べば十分です。動きを増やすのは、この長さの調整で物足りなくなってからで遅くありません。
ルートから外れてよい時
外すのは、理由がある2つの場面だけです。
ずっとルートだけでも曲になりますが、外れてよい場面もあります。判断の目安は二つです。
- 一つは、同じコードが長く続いて、さすがに退屈に感じる時。
- もう一つは、次のコードへ滑らかにつなぎたい時です。
退屈な時は、その小節の途中で1オクターブ上のルートを短く鳴らすと、音の高さは変わっても濁りません。
つなぎたい時は、小節の最後だけ、次のコードのルートへ向かう間の音を1つ入れます。どちらも、コードが変わる頭では必ずルートへ戻します。
頭さえルートに戻っていれば、途中で少し外れても土台は崩れません。逆に、頭からルートを外すと一気にコード感が弱くなります。
外すなら途中で、戻るのは頭で。この一線を守れば、安心して動かせます。
外し方に慣れないうちは、1曲の中で外す場所を1、2か所に絞るのがおすすめです。全部の小節で動かそうとすると、どこがルートでどこが外れているのか分からなくなります。
ここぞという場所だけ外すからこそ、その動きが目立ち、曲の見せ場になります。
ルート音か、動かすかの判断
迷ったら、ルートへ戻る方を選びます。
| 場面 | どうするか | 理由 |
|---|---|---|
| 作り始め | ルート音だけを置く | まず土台を成立させる |
| コードが変わる頭 | 必ずルートに戻す | コード感を保つ |
| 同じコードが長い | 途中で1オクターブ上を短く | 退屈を消しても濁らない |
| 次のコードへ | 最後に間の音を1つ | つなぎを滑らかにする |
よくある疑問
ルート音とは何ですか
コードの名前になっている音のことです。CコードならC、AmならA、GならGが、そのコードのルート音です。
ずっとルート音だけで曲になりますか
なります。低音がコードと合うので、単純な形でも曲として成立します。物足りなくなったら、その時に動かせば十分です。
ルート音から外れてもいいのはいつですか
同じコードが長く続いて退屈な時や、次のコードへ滑らかにつなぎたい時です。コードが変わる頭だけルートに戻せば、途中で外れても崩れません。
ルート音はどの高さで置けばいいですか
低くても濁らない範囲で、いちばん下の高さを選びます。こもって聞こえたら少しずつ上げて、音の輪郭が聞こえた高さで止めます。
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