DTMコピー練習のやり方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
好きな曲を聞いて「こういうのを作りたい」と思ったら、その曲を手本にして、同じものを自分のDAWで組み立ててみる。これがコピー練習です。
オリジナルを一から絞り出すより、すでにある良い形をなぞるほうが、初心者には手が動きやすい入口になります。
似た言葉に耳コピがありますが、こちらは曲の音の高さを一つずつ探して写す作業です。コピー練習はそこから一歩進んで、ドラムの叩き方、楽器の重ね方、音の作り方まで含めて、曲の作り方ごと真似ます。
全部を写す必要はなく、気に入った一部だけで十分です。どこを、どこまで真似るかを順に見ていきます。
先にやること
コピー練習は、好きな曲の作り方を、短い範囲で真似て再現します。
- 音の高さを採る耳コピとは分けて考える(こちらは作り方を真似る)
- サビだけ、8小節だけなど、気に入った一部を選ぶ
- ドラムのパターン、楽器の密度、音作りのどこを盗むかを決める
- 再現できたら原曲と並べて聞き、差を一つずつ埋める
耳コピとの違い
音の高さを採るのではなく、作り方をまるごと真似ます。
耳コピは、鳴っている音の高さを探し当ててDAWに写す作業です。この音はドかラか、というように、音程が中心になります。
コピー練習は、その音程だけでなく、ドラムがどう刻んでいるか、どの楽器がいつ入ってくるか、音がどれくらい歪んでいるか、といった「どう作られているか」を写します。同じ曲を手本にしても、見ている場所が違います。
ですから、音の高さを完璧に採れなくてもコピー練習は始められます。ドラムのパターンだけ、ベースの動きの雰囲気だけ、サビで音数が増える感じだけ、と部分を選んで真似ても、その曲の組み立て方は身につきます。
むしろ初心者のうちは、音程の正確さより、曲の骨組みをなぞるほうが得るものが多いです。
レッスンで伝えているのは、手本にする曲(リファレンス)は、真似るためだけでなく、どんな楽器を使うか、どこで密度が上がるか、どこで休むかを決める材料になる、という見方です。
コピー練習は、この材料を自分の手で組み直す作業でもあります。写すうちに、その曲がなぜ気持ちよく聞こえるのかが、少しずつ分かってきます。
どこを盗むか決める
全部を一度に真似ず、盗む対象を一つに絞ります。
一曲まるごとを写そうとすると、どこから手をつけるか分からなくなります。先に、その曲の何が気に入ったのかを一つ選びます。
跳ねるドラムのノリなのか、静かなAメロからサビで一気に開ける展開なのか、キラキラした上物の音色なのか。気に入った部分こそ、盗む価値のある場所です。
対象が決まったら、その要素だけに耳を寄せて聞きます。ドラムを盗むなら、キックとスネアがどの位置で鳴っているか、ハイハットが細かいか粗いかを聞きます。
レッスンでもよく話すのは、コードや音色より、リズムが変わるだけで曲の印象は大きく動く、ということです。ドラムのパターンを一つ写すだけでも、曲の表情の作り方が見えてきます。
アレンジを盗むなら、楽器の数の増減を追います。イントロは何が鳴っていて、Aメロで何が減り、サビで何が足されるか。
音作りを盗むなら、音が明るいか暗いか、左右に広がっているか真ん中に寄っているか、を耳で写します。
盗む対象を一つに絞ると、一回の練習で確かめることがはっきりします。
部分コピーで十分
完コピを目標にせず、8小節だけ再現します。
初心者がつまずくのは、たいてい一曲を頭から終わりまで完璧に写そうとした時です。イントロの細部にこだわって力尽き、肝心のサビにたどり着けません。
写すのは、気に入った8小節、あるいはサビの一区切りだけで十分です。短い範囲なら、原曲との違いも聞き取りやすくなります。
短く区切ると、今日の練習で何を再現できたかがはっきり残ります。今日はドラムの4小節、明日はその上にベースを重ねる、と積んでいけば、途中で止まっても翌日に続けられます。
全体を薄く写すより、一区切りを厚く写すほうが、あとで使える形になります。
完璧に一致しなくても構いません。原曲と並べて八割ほどそれっぽく聞こえたら、その曲の仕組みはつかめています。
細かい装飾や、まったく同じ音源をそろえることは、初心者の段階では目的ではありません。狙いは、良い形の作り方を手に入れることです。
写す曲は、今の自分より少しだけ上の曲を選ぶと、練習になりやすいです。同じくらい好きなジャンルで、テンポが極端に速くないものが扱いやすいです。
逆に、音数が多すぎる曲や、生楽器を何十本も重ねた曲は、初心者が写すには要素が多すぎて、どこを聞けばいいか迷います。まずは、鳴っているパートの数が少なく、リズムがはっきりした曲から始めてください。
盗む対象ごとに見る場所
何を真似るかで、聞く場所と写し方が変わります。
| 盗む対象 | 聞く場所 | 写し方 |
|---|---|---|
| ドラム | キックとスネアの位置、ハイハットの細かさ | まず4小節だけ同じ位置に置く |
| ベース | コードの最低音をどうなぞるか、跳ねるか伸ばすか | ルートの動きだけ先に写す |
| コード進行 | 明るい暗いの移り変わり、切り替わる小節 | 響きだけ合わせ、押さえ方は仮でよい |
| アレンジ(音数) | どの楽器がどこで増え、どこで抜けるか | 入る場所と抜ける場所を印していく |
| 音作り | 明るさ、歪み、左右の広がり | 付属のプリセットで近い質感を探す |
並べて聞いて差を埋める
再現したら原曲と交互に聞き、違いを一つずつ直します。
4小節を写せたら、原曲と自分の再現を交互に再生します。続けて聞くと、頭で考えなくても違いが耳に飛び込んできます。
自分のドラムのほうが軽い、サビの入りが物足りない、上物が真ん中に固まっている、というように、直す場所が具体的に見えてきます。
見つかった差は、一度に全部直そうとしないでください。音量なのか、音の位置なのか、リズムのタイミングなのか、原因を一つに決めて、そこだけ触ります。
複数を同時に変えると、どれが効いたのか分からなくなり、次に活かせません。一つ直しては、また原曲と並べて聞く。
この行き来が、耳を育てます。
交互に聞くときは、原曲と自分の再現の音量をだいたいそろえておきます。片方だけ大きいと、音量の差を作り方の差だと勘違いしてしまうからです。
同じくらいの大きさで並べると、リズムの位置や音の重なりといった、本当に写したい部分の違いだけが浮かび上がります。
差が埋まらない時は、写す範囲をさらに短くします。4小節が難しければ2小節、それでも難しければドラムだけ、と対象を減らします。
ここで写した内容は、書き出して日付を付けて残しておくと、あとで自分の曲の引き出しとして取り出せます。
手癖にして自分の曲へ
写した形を少し変えて、自分の素材にします。
コピー練習の目的は、原曲をそっくり再現することそのものではなく、その作り方を自分の手に残すことです。
同じ形を何度か写すうちに、キックとスネアの置き方や、サビで音を足すタイミングが、考えなくても手が動くようになります。これが手癖です。
手癖が増えるほど、ゼロから作るときの手が速くなります。
写した4小節や8小節は、そのまま自分の曲の出発点にできます。ドラムのパターンは借りて、コードだけ変える。
ベースの動きは残して、メロディを新しく乗せる。真似た形を土台にして一つずつ差し替えていくと、コピー練習がそのまま作曲に変わっていきます。
好きな曲を一曲まるごと写す必要はありません。気に入った8小節を選び、ドラムかコードだけでも再現してみてください。
そこから曲を組み立てていく流れは、制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
耳コピができなくてもコピー練習はできますか
できます。コピー練習は音の高さを一つずつ採る作業ではなく、ドラムの叩き方やアレンジの組み立てを真似る練習です。音程が完璧に採れなくても、リズムや音数の増減を写すだけで、その曲の作り方は身につきます。
どこから真似ればいいですか
気に入った部分を一つ選びます。跳ねるドラム、サビで開ける展開、上物の音色など、好きだと思った要素こそ盗む価値があります。対象を一つに絞ると、一回の練習で確かめることがはっきりします。
完璧にコピーできないと意味がないですか
いいえ。8小節だけ、ドラムだけでも十分です。原曲と並べて八割ほどそれっぽく聞こえれば、仕組みはつかめています。狙いは完全な再現ではなく、良い形の作り方を自分の曲へ持ち込むことです。
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