ドラムが弱い時の直し方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
一つずつの音は鳴っているのに、市販の曲と並べるとドラムだけ薄い。音量を上げてもうるさくなるだけで、迫力にはつながらない。打ち込みを始めたばかりの時期に、ほぼ全員が通る壁です。
迫力が出ない原因は、ベロシティの平坦さ、キックとベースの衝突、バスでまとめていないこと、音源選び、の4つに分かれます。お金のかからない順に並べてあるので、上から順に直してみてください。
先に見ること
ドラムの迫力不足は、打ち込み→低音→バス→音源の順に直します。
- 「弱い」の中身を、軽い・濁る・バラバラの3つに分ける
- 全ノートが同じベロシティになっていないかを最初に見る
- キックとベースが低音の同じ場所を取り合っていないか
- 音源の買い替えを考えるのは一番最後
「弱い」を3つに分ける
軽いのか、濁るのか、バラバラなのか。
ドラムが弱いという感想は、聞き直すとだいたい3種類に分かれます。
- 1音ずつが軽い。
- 低音がモワッと濁って押し出しがない。
- 音は出ているのに一体感がなく、バラバラに聞こえる。
どれに近いかで、直す場所が変わります。
確かめ方は簡単です。ドラムのトラックだけをソロにして8小節聞き、その後にベースを足して聞き、最後に全部の楽器を入れて聞きます。
どの段階で弱くなったかが、そのまま原因の場所です。
ドラム単体ですでに軽いなら、打ち込みか音源の問題です。ベースを足した瞬間に濁るなら、キックとベースの衝突。
全部入れてから埋もれるなら、他の楽器とのバランスやまとめ方の問題です。
この切り分けをせずに音源の買い替えから入ると、原因が打ち込みにあった場合、新しい音源でもまた同じ薄いドラムができあがります。
迫力が出ない4つの原因
直すのが安い順に並べています。
1つ目はベロシティの平坦さです。全部のノートを同じ強さで置くと、機械が等間隔に鳴らしただけの音になります。
人が叩くドラムは1音ごとに強さが違い、その差がノリを作ります。差がないドラムは、音量をいくら上げても平坦なまま大きくなるだけです。
2つ目はキックとベースの衝突です。どちらも100Hz以下の低音を受け持つので、同じ場所を同時に取り合うと互いを打ち消し、モワッとした団子になります。
キック単体では良い音でも、ベースと重なった瞬間に芯が消えるのはこのためです。
3つ目はバスでまとめていないことです。バスとは、複数のトラックを1本にまとめる通り道のことです。
キック、スネア、ハイハットが別々のトラックのまま最終出力へ行くと、1人のドラマーの演奏ではなく、別々の部屋で鳴った音の寄せ集めのように聞こえます。
4つ目が音源選びです。DAW付属のドラムやデモ用のキットは、軽く上品にまとまった音が多く、ロックやダンス系で欲しい押し出しには向かないことがあります。
ただし、ここを疑うのは最後です。打ち込みが平坦なままでは、どんな音源に替えても結果は変わりません。
どこから直すか
無料でできて効果が大きい順に進めます。
最初はベロシティです。キックとスネアの本打ちは強く、ハイハットの刻みは2〜3割弱く、が目安です。
レッスンでは、ドン、タン、ツツツと口で歌える形から打ち込むことを勧めています。口で歌うと、ドンとタンは自然に強く、刻みは軽くなります。
その強弱をそのまま数値に移すだけで、平坦さは抜けます。
次にキックとベースです。先に、曲の一番下を支えるのはどちらかを決めます。
キックが主役ならベース側の低い成分をEQで少し削り、ベースが主役なら逆にします。両方を同時に立てようとするのが、一番濁る選択です。
3番目にドラムバスを作ります。ドラムの全トラックの出力を1本のグループにまとめ、フェーダー1本で全体を動かせるようにします。
そのバスにコンプレッサーを薄くかけると、各音の音量差がならされ、ひとかたまりの演奏に近づきます。
ここまでやってまだ軽いなら、最後に音源を見直します。専用のドラム音源は、強く叩いた時の音の変化まで細かく収録されているので、仕込んだベロシティがそのまま迫力に変わります。
この順番を守れば、買い替えが本当に必要かどうかも自分で判断できます。
症状から引く逆引き表
自分の症状に近い行から直します。
| 症状 | 主な原因 | 最初の一手 |
|---|---|---|
| 音は大きいのにノリが出ない | ベロシティが平坦 | 本打ちを強く、刻みを弱くする |
| ベースを足すと低音が濁る | キックとベースの衝突 | 下を支える方を決めて片方の低域を削る |
| 一体感がなくバラバラ | バスでまとめていない | ドラムバスを作りコンプを薄くかける |
| 何を直しても音自体が軽い | 音源の限界 | 専用ドラム音源への差し替えを検討 |
直った後の確認
目標の曲と交互に聞いて距離を測ります。
直したら、目標にしている市販の曲と自分の曲を、同じくらいの音量で交互に聞きます。完全に並ぶ必要はありません。
直す前より差が縮まったかどうかを確かめます。
次に、ドラムとベースだけで8小節聞きます。低音の土台がこの状態で気持ちよく鳴っていれば、上に何を乗せても崩れにくくなります。
音量を絞った状態でも確認します。迫力は大音量だとごまかせてしまうので、小さい音でもキックの位置とスネアの位置がはっきり分かるかを見ます。
最後に、直す前のバージョンを別名で残しておき、聞き比べます。何を変えたら何が良くなったのかが分かれば、それは次の曲で使える自分の知識になります。
再発を防ぐ
次の曲を、迫力がある状態から始めます。
ドラムバスと、キック、スネア、ハイハットのトラック一式をテンプレートとして保存します。次の曲では、まとまった状態から打ち込みを始められます。
音源のどのキットが当たりだったかもメモしておきます。曲のジャンルとキット名を1行書くだけで、次回の音色選びが数分で終わります。
打ち込みの癖も変えます。ノートを並べてから強弱を付けるのではなく、口で歌ってリズムの強弱を確かめてから置く。
この順番にすると、平坦なドラムがそもそも生まれません。
ドラムの迫力づくりは、曲全体から見れば土台の工程です。いまどの工程を作っているのか見失いそうになったら、制作工程マップで現在地を確かめてください。
よくある疑問
コンプやEQのプラグインを買えば直りますか
先に打ち込みを直してください。ベロシティが平坦なままでは、どんな道具を足しても機械的なドラムのままです。無料でできる範囲で土台を作ってから、道具を考えます。
キックとベースはどちらを削ればよいですか
曲の主役次第です。四つ打ちのダンス系ならキックを残してベースの低域を削る、ベースラインが歌うロックやポップスならキックの下を整理する、という決め方が目安になります。
ドラム音源は何を買えばよいですか
打ち込みとバスまで整えても軽い場合に、Superior Drummer 3のような専用ドラム音源を検討してください。買い替えの前に、今の音源の別キットを試すのも忘れずに。
バスにかけるコンプの設定が分かりません
最初は、音量の変化がわずかに分かる程度の浅いかかり方で十分です。深くかけるほど迫力が出るわけではなく、潰れて逆に小さく聞こえることもあります。
無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」
音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。
次に進む記事
ドラムの土台ができたら、機材まわりの確認と1曲を組み立てる流れへ進んでください。