耳コピ初心者の始め方

作曲・編曲家 古賀 稔宏
「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。
耳コピとは、曲を聞いて鳴っている音を探し当て、その高さをDAWに写していく作業です。楽譜がなくても、耳だけを頼りに音の高さを見つけていくので、多くの人が「絶対音感がないと無理」だと感じて手前で止まります。
実際には、絶対音感は要りません。耳コピは、音を一つずつ探して確かめる地道な作業で、初心者でも入口はあります。どの音から採るか、聞き取れない時にどうするか、どこまで採れば十分か。この順番で整理していきます。
先にやること
耳コピは、低い音から一つずつ、必要な分だけ採ります。
- メロディより先に、ベースの一番低い音(ルート)を探す
- 速くて聞き取れない時は、再生速度を半分に落とす
- 1曲丸ごとではなく、ワンフレーズずつ区切って採る
- 完コピを目標にせず、作曲に使える分だけ採れば十分
耳コピは必須ではない
全曲を採る技術ではなく、材料を採る作業として見ます。
まず前提を一つ外しておきます。作曲を始めるのに、耳コピができる必要はありません。
レッスンでも、耳コピは全曲を完璧に採るための試験ではなく、作曲に必要な分だけ採ればいい、と伝えています。好きな曲のベースの動きだけ、サビのメロディだけ、というように、欲しい部分を取り出せれば十分です。
耳コピを「全部を一音残らず写す作業」だと考えると、最初の一曲で挫折します。プロの編曲でも、参考にする曲から全部を写すことはまずありません。
ここのベースはこう動いている、この一小節のリズムが気持ちいい、という単位で聞き取り、自分の曲に持ち込みます。初心者が最初に身につけるのは、この「一部だけ採る」感覚です。
耳コピで大切なのは、正確さより、鳴っている音に狙いをつけられることです。歌える形にできる音は、探し当てられます。
レッスンで繰り返し伝えているのは、歌えるものは打てる、という判断軸です。口ずさめるフレーズには、すでに音の上下や長さのイメージが入っています。
あとはその高さを鍵盤やピアノロールの上で探すだけです。
ベース→コード→メロの順で採る
採る順番を変えるだけで、難しさが大きく下がります。
初心者がいきなりメロディから採ろうとすると、たいてい行き詰まります。メロディは音が速く動き、装飾も多いので、耳が追いつきません。
おすすめは逆で、一番低いベースの音から採ります。ベースは動きがゆっくりで、音の輪郭もはっきりしているため、初心者でも一番拾いやすい場所です。
ベースが担当しているのは、多くの場合コードの一番下の音(ルート)です。そのため、ベースを採るとその小節でどんなコードが鳴っているかの見当がつきます。
ドから始まればCの仲間、ラから始まればAmの仲間、と当たりをつけられます。ベースを先に採ると、次のコード探しがぐっと楽になります。
次に、そのベースの上でどんな和音が鳴っているかを聞きます。コードは、ベースの音を土台にして、明るいか暗いか、濁っているかで見当をつけます。
ここまで採れると、伴奏の骨組みができます。メロディを採るのはその後です。
土台とコードが分かっていれば、メロディが使っている音の候補も絞れるため、闇雲に鍵盤を叩く回数が減ります。低い音から上へ積んでいくと、耳が迷いにくくなります。
速度を落として一音ずつ確かめる
速いから採れないだけのことは、速度で解決します。
採れない原因の多くは、耳が悪いからではなく、単に速いからです。原曲のテンポでは一瞬で通り過ぎる音も、速度を落とせば一音ずつ間隔が開いて聞き分けられます。
DAWや耳コピ用のアプリには、音程を変えずにテンポだけ落とす機能があります。まず半分くらいの速さにして、狙った小節を繰り返し再生します。
探し方は、当てて確かめるだけです。鳴っている音に近そうな鍵盤を一つ弾き、原曲と同時に聞いて、高いか低いかを判断します。
高ければ下げ、低ければ上げる。合っていれば、二つの音が溶け合って一つに聞こえます。
この「重なって一つに聞こえる」瞬間が、正解の合図です。耳が正解を教えてくれるので、理屈で考える必要はありません。
一度に長く採ろうとせず、ワンフレーズずつ区切ります。二小節、あるいは一息で歌えるひとまとまりを一区切りにして、そこだけを何度も聞きます。
区切りごとに採れたらDAWに置き、次のフレーズへ進みます。短く区切るほど、どこまで採れたかが分かり、途中で止まっても再開しやすくなります。
聞き取れない時に見る場所
つまずいた症状ごとに、先に試すことを決めておきます。
| つまずき | 先に試すこと | 理由 |
|---|---|---|
| 音が速くて追えない | 再生速度を半分に落とす | 音の間隔が開き、一音ずつ聞き分けられる |
| どこから採ればいいか分からない | ベースの一番低い音から採る | 動きがゆっくりで輪郭がはっきりしている |
| いろいろな音が重なって混ざる | 片耳のイヤホンで低音側に集中する | 狙った音域だけに耳を寄せられる |
| 合っているか自信がない | 候補の音を原曲と同時に鳴らす | 正しいと二つが溶け合って一つに聞こえる |
| 長くて途中で力尽きる | ワンフレーズだけに区切る | 採れた範囲が残り、翌日に続けられる |
完コピを狙わない
目的は再現ではなく、使える音を手に入れることです。
耳コピに慣れないうちは、原曲と一音一音そっくりに合わせたくなります。ですが、細かい装飾やニュアンスまで完全に採ろうとすると、時間がいくらあっても足りません。
初心者のうちは、骨組みが採れたら十分です。
- ベースの動き
- コードの流れ
- メロディの大まかな上下
この三つが採れていれば、その曲の仕組みはつかめています。
細かい音を追う代わりに、採った骨組みを声に出して確かめてください。ベースを口で歌えるか、メロディを鼻歌でなぞれるか。
歌える形になっていれば、その音はもうあなたのものです。逆に、採ったはずなのに歌えないなら、まだ音が身体に入っていない合図です。
装飾を足すのは、骨組みを歌えるようになってからで間に合います。
完コピにこだわらないと、耳コピの負担は一気に軽くなります。全部を正確になぞる作業ではなく、気に入った部分だけを持ち帰る作業だと考えれば、一曲の中から使える素材がいくつも見つかります。
採った音は、原曲のためではなく、次に作る自分の曲のために使います。
採った音を作曲へ回す
採って終わりにせず、自分の曲の材料にします。
ワンフレーズ採れたら、それをそのまま自分のプロジェクトへ移します。同じベースの動きに別のメロディを乗せる、コードの流れだけ借りてリズムを変える、といった使い方ができます。
原曲をなぞる練習が、この時点で作曲の一歩に変わります。採った素材は、日付を付けて残しておくと、後で引き出しとして使えます。
採った音が短くても構いません。1小節でも、ベースのルートだけでも、そこから8小節へ広げられます。
前半は採った通りに、後半は一音だけ変える。そうやって、採った素材を土台にして自分の展開を足していくと、耳コピと作曲がひと続きになります。
耳コピは、単体で完璧に仕上げるものではなく、曲を作る流れの中の一工程です。まずは好きな曲からベースかメロディを一小節だけ採り、それを自分の曲へ置いてみてください。
音出しからフルコーラス完成までの流れは、制作工程マップに1枚でまとめています。
よくある疑問
耳コピができないと作曲はできませんか
できます。耳コピは必須ではありません。レッスンでも、作曲に必要な分だけ採れば十分だと伝えています。歌える一部やベースのルート音だけでも、曲を作る材料になります。
どの音から採ればいいですか
低いベースのルート音からです。低音は動きが少なく輪郭がはっきりしているため、初心者でも一番拾いやすく、曲の土台とコードの見当がつきます。
速くて聞き取れない時はどうしますか
再生速度を落とします。半分ほどに落とすと一音ずつの間隔が開いて拾いやすくなります。音程が変わらないテンポ変更機能を使い、ゆっくりにしてから探します。
完コピできないと意味がないですか
いいえ。ワンフレーズ、1小節だけでも十分です。全部を正確に採るより、使える一部を採って自分の曲へ持ち込むほうが、作曲には役立ちます。
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