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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

時間がない人のDTM進め方|30分で曲を前に進める

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

仕事から帰って、夕食と風呂を済ませて、残った自由時間は30分。DTMを始めた社会人の多くが、この持ち時間を前に「今日はやっても意味がない」とDAWを閉じます。

けれど、曲が進まない本当の原因は時間の短さではありません。短い時間の使い道が、座る前に決まっていないことです。

ここで扱うのは根性論ではなく、段取りです。前回の終わりに次の一手をメモしておく。

テンプレートで開始の数分を消す。週末に賭けず平日に割り振る。

細切れの時間でも曲が前に進む仕組みを、順番に組み立てていきます。

先に見ること

時間がない人の曲作りは、作業より先に段取りで決まります。

  • 30分は「1工程だけ」進める単位と決める
  • セッションの最後に、次の一手を1行メモして終える
  • 自分用テンプレートで、開始までの手数を減らす
  • 週末まとめて3時間より、毎日30分のほうが曲は進む

まとまった時間は待たない

「週末に本気を出す」は、たいてい実現しません。

「今度の休みに5時間くらい取って、一気に進めよう」。社会人のDTMで一番よく立てられて、一番実現しない計画がこれです。

休日には家の用事が入り、平日の疲れが残り、いざ座れても何から手を付けるか思い出せない。空白の5時間を待つ作戦は、構造的に負けやすいのです。

そこで前提を入れ替えます。曲作りを「まとまった時間が必要な趣味」としてではなく、「30分で終わる作業の集まり」として設計し直す。

実際、1曲の中身をほどいてみると、コードを4小節置く、ドラムのパターンを1つ組む、メロディを1本乗せる、といった細かい作業の連続です。一つひとつは、平日の夜に収まる大きさまで割れます。

割った作業を毎回1つずつ消化していけば、曲は確実に前へ進みます。必要なのは長い時間ではなく、割り方と、次にどれをやるかが決まっている状態です。

ここから、その作り方を具体的にしていきます。

30分で曲を前に進める段取り

1回のセッションで進めるのは、1工程だけです。

30分の中身を、あらかじめ3つに割っておきます。最初の数分は、前回残したメモを読み、前回のデータを聞き返して、頭を曲に戻す時間。

真ん中の20分ほどが、今日の一手を実行する時間。残りの数分で保存して、次の一手をメモして席を立つ。

この型を毎回同じにします。

大事な決まりは一つだけです。1回のセッションでやるのは1工程だけ

コードを直しながらドラムも足して、ついでに音量も整えて、とやると、30分では全部が中途半端に終わり、「今日も進まなかった」という感触だけが残ります。逆に、ドラム1パターンだけと決めて終わらせると、小さくても「終わった」という事実が残ります。

この感触の差が、明日もDAWを開くかどうかを分けます。

進んだかどうかの判定も決めておきましょう。基準は作業量ではなく、曲が前回より1歩でも先へ行ったか。

プリセットを50個聞き比べても曲は1歩も進みませんが、4小節のコードが8小節になれば、それは確かな前進です。

前回の終わりに次の一手をメモする

数日後の自分あてに、伝言を残します。

細切れ制作で一番時間を奪うのは、作業そのものではなく「今日はどこをやるんだっけ」という思い出しです。数日空いてからプロジェクトを開くと、状況を把握するだけで持ち時間の半分が消えることも珍しくありません。

対策は単純で、セッションを終える時に、次の一手を1行だけ書き残すことです。「Bメロのコードを2種類試す」「サビ前の1小節にドラムの変化を入れる」のように、開いた瞬間に手が動く粒度で、動詞まで書きます。

「Bメロをなんとかする」では、次回また考える時間が要るので、メモとして機能しません。

書く場所はどこでも構いません。プロジェクト内のマーカー、トラック名の先頭、スマホのメモ帳。

条件は一つ、次に開いた時に必ず目に入ることです。

このメモの正体は、作業リストというより伝言です。今日の、曲のことを一番よく分かっている自分から、数日後にやっと30分を捻出した、何も覚えていない自分への伝言。

これがあるかないかで、細切れ時間の密度はまるで変わります。

開始のハードルを下げる

やる気より先に、始めるまでの手数を削ります。

時間がない人が削るべきなのは、作業時間ではなく「席に着いてから最初の音が鳴るまで」の手数です。DAWを起動して、新規プロジェクトを作り、音源を探して立ち上げて、音色を選んで。

ここで15分使えば、その日の制作はほぼ終わってしまいます。

レッスンでは、制作に入る前に、使いそうなドラム、ベース、鍵盤の音源を先に立ち上げておくと音色探しで止まりにくい、という考え方を勧めています。時間がない人は、これを一歩進めて自分用テンプレートにしておきましょう。

よく使う音源とトラック構成を並べたプロジェクトを一度だけ作って保存しておけば、次からは開いた数秒後に打ち込みを始められます。

もう一つの入口は、「昨日の続きを再生する」ことです。まっさらな画面から何かを生むのは、元気な日でも重い作業です。

すでに鳴っているものに1音足すのは、疲れた夜でもできます。だから、ゼロから始める日をなるべく作らず、常にどこかの続きがある状態を保つのがコツです。

週末まとめてより毎日少しが進む理由

同じ週3時間でも、割り方で結果が変わります。

週に使えるのが合計3時間だとして、土曜に3時間まとめるのと、毎日30分ずつに割るのとでは、後者のほうが曲は進みます。感覚論ではなく、理由が2つあります。

1つ目は、思い出しのコストです。前回から日が空くほど、頭を曲に戻す時間が長くなります。

週1回の人は毎回この税金を払いますが、毎日触る人はほぼ払いません。同じ3時間でも、実際に曲へ使える正味の時間が違うのです。

2つ目は、耳の状態です。一晩置いて聞き直すと、自分の曲を少しだけ他人の耳で聞けます。

毎日型は、この新鮮な判断のチャンスが週に7回ある計算です。一方、3時間ぶっ通しの後半は耳が慣れきって、良し悪しの判断そのものが鈍ります。

長く座ったのに後半の作業を翌日やり直す、というのはよくある話です。

レッスンでも、DTMはソフトを持っていれば自動的に曲ができるものではなく、楽器と同じように触る時間で慣れていくもので、1日5分でもDAWを開いて昨日の続きを聞くことは練習になる、と伝えています。毎日型は、曲の進みだけでなく上達の面でも有利です。

疲れて何もできない夜は、聞いてメモを1行残すだけでその日の分として十分です。

時間がない人ほど工程を分ける

今日はどの帽子をかぶるか、先に決めます。

時間に余裕がある人は、コードを触り、ドラムに移り、気になったらミックスへ、と同じ日に工程を行き来しても、最後には帳尻が合います。時間がない人が同じ動き方をすると、全部が少しずつ進んで、どれも終わらないまま週が終わります。

だから、工程を日で分けます。今日はコードの日、次はドラムの日、その次はメロディの日。

1回のセッションでは1種類の帽子だけをかぶる。切り替えの迷いが消えるぶん、短い時間でも1つの工程が確実に片付きます。

分けることには、もう一つ大きな利点があります。見積もりが立つことです。

残りの工程を数えれば、「この曲はあと6回の30分で書き出しまで行ける」と読める。ゴールまでの残り回数が見えている曲は、途中で投げ出しにくくなります。

逆に、あと何回かかるか分からない曲は、どれだけ気に入っていても足が遠のきます。

そのためには、そもそも曲作りにどんな工程があり、どの順番で並ぶのかという全体の地図が要ります。音出しからフルコーラス完成までの並びは、この下の制作工程マップに1枚でまとめてあります。

自分の残り回数を数える物差しとして使ってください。

持ち時間別のやること表

今日の持ち時間の行だけ見れば動けます。

今日の持ち時間向いている作業手を出さないこと
10分前回の書き出しを聞いて、直したい場所を1行メモDAWを開いての編集作業
30分メモしておいた一手を1つ(コード4小節、ドラム1パターンなど)2つ目の工程、音色の聞き比べ
60分1つの場面を仮の音色で最後まで組むミックスの細かい調整
週末の90分通しで聞いて粗を直し、書き出して来週の一手をメモ新しい曲をゼロから始めること

よくある疑問

平日は疲れてDAWを開く気力がありません

開かない日の作業をあらかじめ用意しておきます。スマホで前回書き出した音源を聞いて、気になった場所を1行メモする。これだけで次のセッションの一手が決まるので、立派に制作が進んだ日として数えられます。

30分では何も終わらない気がします

30分の目標を完成ではなく前進に置き換えてください。ドラム1パターン、コード4小節のように、工程を30分で終わる大きさまで割れば、毎回どれか1つは終わります。終わった実感が次の30分を連れてきます。

週末にまとめて作業するのは間違いですか

間違いではありませんが、週末しか触らないと毎回思い出しから始まり、立ち上がりに時間を取られます。平日に10分でも音源を聞いてメモしておくと、週末の最初の1時間の中身が変わります。

通勤時間はDTMに使えますか

使えます。書き出した自分の曲を聞いて直したい場所をメモすれば、次の一手が決まります。好きな曲のイントロの長さやサビの位置を数えるのも、机がなくてもできる制作の一部です。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。

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プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。