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古賀稔宏の作曲ノート作曲・編曲家のDTM制作ノート

DTMヘッドホンの選び方|作曲とミックスで見るポイント

古賀稔宏のプロフィール写真

作曲・編曲家 古賀 稔宏

「それいけ!アンパンマン」劇場版関連楽曲の作曲・編曲、Do As Infinity関連楽曲、アニメ楽曲、滝沢歌舞伎BGMなど、商業音楽の制作・演奏に携わる。

DTM用のヘッドホンを選ぶ時、最初に決めるのは音の好みではなく、使う場面です。歌やギターをマイクで録るのか、打ち込んだ曲の音量バランスを整えるのか。この2つの場面で、ヘッドホンに求める性質は大きく変わります。

答えを先に言うと、録音に使うなら音が外に漏れない密閉型、ミックスの確認に使うなら味付けの少ないモニターヘッドホンです。この2つの基準だけで、候補はかなり絞れます。型番の比較に入る前に、なぜそうなるのかを順番に見ていきます。

先に押さえること

録音は密閉型、ミックスの基準はモニターヘッドホン。1本目はこの両方を満たすものにします。

  • マイク録音では音漏れが命取り。録音に使うなら密閉型一択
  • ミックスの確認は、音の広がりが見えやすい開放型が有利
  • 1本で兼用するなら、密閉型のモニターヘッドホンから始める
  • 低音を強調したリスニング用は、制作の基準には向かない

密閉型と開放型は構造が違う

耳を覆うカップの背面が、閉じているか開いているかの違いです。

ヘッドホンには大きく分けて密閉型と開放型があります。違いは、耳を覆うカップ(ハウジング)の背面にあります。

密閉型は背面が閉じていて、音が外へ漏れにくく、周りの音も入りにくい構造です。開放型は背面がメッシュなどで開いていて、空気が抜けるようになっています。

この構造の差が、音の性格の差になります。

密閉型は音が耳とカップの間に閉じ込められるため、低音の量感を感じやすい一方、音がこもったように聞こえることがあります。開放型は音が抜けるぶん、広がりや奥行きが自然に聞こえやすく、長時間の作業でも圧迫感が少なめです。

どちらが上という話ではありません。遮音を取るか、自然な聞こえ方を取るか。

性格の違いなので、DTMでは作業の場面ごとに向き不向きが分かれます。次の2つの節で、録音とミックスに分けて見ていきます。

録音で密閉型が一択になる理由

ヘッドホンから漏れた音は、マイクに入って一生残ります。

歌やアコースティックギターをマイクで録る時、ヘッドホンにはクリック(メトロノーム)や伴奏が流れています。この音がヘッドホンの外へ漏れると、マイクが拾ってしまいます。

録音された歌の後ろで、シャカシャカとクリックが鳴っている。この混入は、後からほぼ消せません。

開放型は構造上、音が外へ漏れます。静かな部屋でマイクを立てると、漏れの量は想像以上です。

だから録音でモニターするヘッドホンは密閉型一択になります。ここは好みの入り込む余地がない、構造で決まる部分です。

録音用として見る時は、遮音以外に装着感も確認します。歌う時は口を大きく動かすので、締め付け(側圧)が強すぎるとずれたり痛くなったりします。

長めのテイクを重ねることを考えると、重さや蒸れにくさも録音の続けやすさに直結します。

ミックスで開放型が有利な理由

音の広がりと距離感が見えやすく、判断が安定します。

ミックスは、各パートの音量や左右の配置、奥行きを整える作業です。ここでは開放型が有利になります。

音がこもらず抜けていくため、楽器どうしの距離感や、リバーブのかかり具合が見えやすいからです。長時間聞き続けても耳への圧迫が少ない点も、細かい判断を繰り返すミックスに向いています。

密閉型でミックスができないわけではありません。ただ、密閉型は低音がカップの中にたまりやすく、実際より低音が多いと感じることがあります。

その感覚のままベースやキックを下げると、他の環境で聞いた時に低音の足りない曲になりがちです。密閉型で整える場合は、この癖を頭に入れておきます。

開放型の弱点は録音と逆で、音が漏れることと、周りの音が聞こえることです。家族が近くにいる部屋や夜間の作業では使いにくい場面があります。

自分の作業環境で開放型の音漏れが問題になるなら、密閉型で整えて他の環境で確認する運用でも十分やっていけます。

モニターヘッドホンとリスニング用の違い

音を楽しませる道具か、音をそのまま見せる道具かの違いです。

密閉と開放の軸とは別に、もう1つ大事な軸があります。モニター用かリスニング用かです。

リスニング用ヘッドホンは、音楽を心地よく聞かせるために作られています。低音を持ち上げる、高音を華やかにするなど、メーカーごとの味付けがあります。

普段の音楽鑑賞には、この味付けが魅力になります。

モニターヘッドホンは逆で、制作の確認用に味付けを減らし、入っている音をなるべくそのまま出す方向で作られています。地味に聞こえることもありますが、それが役割です。

曲のどこに問題があるかを見つけるための、いわば計測器に近い道具です。

味付けのある音を基準にミックスすると、何が起きるか。低音が持ち上がって聞こえるヘッドホンでは、実際よりベースが大きく感じられます。

それに合わせてベースを下げると、味付けのない環境で聞いた時に低音が痩せた曲になります。自分の調整なのか、ヘッドホンの味付けなのかが切り分けられなくなる。

これがリスニング用を制作の基準にしにくい理由です。

用途別の比較表

順位ではなく、自分の作業に合う入口を選ぶための表です。

種類得意なこと苦手なこと向く場面
密閉型モニター遮音。マイク録音時のモニター。夜間の作業低音の量感を多めに感じやすい録音をする人の1本目。兼用の1本目
開放型モニター広がりと奥行きの判断。長時間のミックス音漏れ。周囲の騒音に弱い録音しない環境でのミックス。2本目
リスニング用音楽を楽しく聞かせる味付け味付けが判断を狂わせる完成後の聞こえ方チェック用の1つ
スピーカー全体バランスの自然な判断部屋の響きの影響。音量を出せない環境環境が整ってからの併用

スピーカーとの使い分け

ヘッドホンは細部、スピーカーは全体。役割が違います。

ヘッドホンは音が耳の中で直接鳴るため、小さなノイズや音の粗を見つけるのが得意です。深夜でも作業でき、部屋の響きの影響も受けません。

一方で、左右の音が完全に分離して聞こえるため、音の広がりや全体のバランスは実際のスピーカー再生と印象が変わることがあります。

スピーカーは、部屋の空気を通して両耳で聞くぶん、音量バランスの判断が自然にできます。ただし部屋の形や壁の反射に影響され、集合住宅では十分な音量を出しにくいという制約もあります。

プロの現場でも、スピーカーとヘッドホンを行き来しながら確認するのが普通です。

始めたばかりの段階では、スピーカーがなくても困りません。ヘッドホンで作業し、書き出した音源をスマホのスピーカーやいつものイヤホンで聞き直す。

これだけで複数環境の確認になります。むしろ、聞く環境によって曲の印象がどれだけ変わるかを体感することが、ミックスの上達につながります。

最初の1本の決め方

録音の予定の有無で決めて、あとは装着感と作りを見ます。

その前に、作曲(打ち込み)の段階の話を片づけておきます。メロディやコードを打ち込んでいるだけの間は、手持ちのイヤホンで十分です。

基準になる1本が本当に必要になるのは、録音とミックスに進んでからです。だからここまでの判断も、この2つの場面を軸にしてきました。

手順はシンプルです。まず、歌やギターをマイクで録る予定が少しでもあるか。あるなら密閉型のモニターヘッドホンに決まりです。

開放型は録音に使えないので、1本目の候補から外れます。打ち込みしかしない人でも、後から録音を始める可能性や夜間の作業を考えると、1本目は密閉型が無難です。

開放型は、ミックスに本腰を入れたくなった時の2本目として考えれば十分です。

型番の細かい音質差より、続けられるかに関わる部分を見ます。

  • 長時間着けても痛くならないか。
  • イヤーパッドが消耗した時に交換できるか。
  • ケーブルが着脱式で断線時に差し替えられるか。
  • プラグの形が手持ちの機器に合うか。

モニターヘッドホンは何年も使う道具なので、この作りの部分が価格差以上に効いてきます。

そして、ここが一番大事なところです。レッスンでは、機材を増やすことより、制作が止まらない状態を先に作ることを勧めています。

ヘッドホンも同じで、何週間もレビューを読み比べて制作の手が止まるくらいなら、密閉型のモニターヘッドホンという条件で1本決めて、曲を進めるほうが先です。耳は使っているヘッドホンに慣れていくので、同じ1本で作り続けること自体が判断力の訓練になります。

ヘッドホン選びでよくある失敗

機材そのものより、基準の作り方でつまずくことが多いです。

いちばん多いのは、低音を強調したリスニング用ヘッドホンでミックスしてしまう失敗です。手元では低音がたっぷり聞こえるのでベースやキックを控えめにする。

ところが書き出してスマホで聞くと、低音がスカスカの薄い曲になっている。逆に、低音が控えめに鳴るヘッドホンで作ると、車やイヤホンで聞いた時に低音が暴れます。

基準となる1本に味付けが少ないことが、これほど効く場面はありません。

次に多いのが、聞き比べの音量を揃えない失敗です。人の耳は、少し大きい音を「良い音」と感じやすい性質があります。

店頭での試聴でも、ミックスの調整前後の確認でも、音量が違うまま比べると大きいほうが良く聞こえてしまい、判断になりません。

比べる時は音量を揃える。これはヘッドホン選びでもミックスでも共通の基本です。

大音量で長時間作業する失敗も挙げておきます。耳は疲れると高音から聞こえにくくなり、疲れた耳で整えたバランスは翌朝聞くと崩れています。

耳の健康の面でも、判断の面でも、控えめな音量でこまめに休憩を挟むほうが結果的に速く仕上がります。

最後は、良いヘッドホンを買ったことに安心して、他の環境で確認しなくなる失敗です。どんなヘッドホンも1つの窓にすぎません。

書き出してスマホで聞く習慣とセットになって、初めて基準として機能します。

ヘッドホンが決まったら、あとは曲を進める番です。音出しから完成までの流れは、下の制作工程マップにまとめてあります。

よくある疑問

イヤホンだけでDTMを始めても大丈夫ですか

打ち込みの入口としては問題ありません。手持ちのイヤホンで音を出し、曲作りを先に始めてください。歌やギターを録音する段階、ミックスを整える段階になったら、密閉型のモニターヘッドホンを検討します。

1本目は密閉型と開放型のどちらがいいですか

録音の予定が少しでもあるなら密閉型です。開放型は音が外に漏れるため、マイクを使う録音には使えません。密閉型はミックスの確認にも使えるので、1本で兼用するなら密閉型のモニターヘッドホンが無難です。

手持ちのリスニング用ヘッドホンで代用できますか

打ち込みや練習には使えます。ただしリスニング用は低音や高音に味付けがあるため、ミックスの基準にすると他の再生環境でバランスが崩れやすくなります。代用する場合は、書き出した音源をスマホなど別の環境でも聞いて確認してください。

スピーカーも買うべきですか

最初は必須ではありません。ヘッドホンで作業し、書き出した音源をスマホやイヤホンで聞き直せば、複数環境の確認はできます。部屋である程度の音量を出せる環境が整ってから検討すれば十分です。

無料配布|アンパンマン劇場版楽曲を手がけた作曲家の「制作工程マップ」

音出し、コード、ドラム、メロディ、アレンジ、フルコーラス完成までの流れを1枚にまとめた無料マップです。登録するとその場でご覧いただけます。

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プロフィール

古賀 稔宏

ギター、ウクレレ、DTM(Cubase)、作曲技法、音楽理論を指導。14歳でギターを始め、同時に作曲も始める。ポップ、ロック、クラシックの要素を含む楽曲を得意とする。

商業音楽の制作・演奏に携わりながら、初心者が止まりやすい場所を制作工程に沿って整理している。